麦わらの一味の一人「一夏」   作:un

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十九話 闇と水

 

 リング上に光さえも遮るような闇が広がっていた。楯無は、霧に触れないように上空に飛び、拘束が消え自由に動く一夏を警戒する。

 

「...闇? 面白い事言うわね?」

 

ポーカフェイスの笑みを見せ、さっきまで一夏を拘束していた水のナノマシンが消失した事を元に、あの霧が何かの推測を立てる。あの霧も自分のIS同様ナノマシンによる物なのか? もしくは、電子機器の働きを阻害する特殊兵器か? 予想がつかず、彼女は自身のISの水の力を使い突如、楯無が六人に増えた。

 

 

「じゃ、その闇の力を見せてもらおうかしら!!」

 

 アクア・ナノマシンにより作りだされた、自分の姿を模した五体の人形がランスを構え接近する。一夏は特に驚きもせず、襲いかかる彼女達見つつ床に手を向ける。

 

「ブラック・ホール!!」

 

 突如、足元にあった霧が動き出し一夏に近づいていた五人の楯無が吸い込まれて行く。人形達が必死に抵抗し霧から逃れようとあがくが、数秒もしないうちに全て吸い込まれてしまう。

 

「なっ!?」

 

「すげぇな…黒ひげのやつこんなの使ってやがったのかよ...」

 

 闇の力に驚きで声をあげる楯無を無視し、一夏はかつての冒険でいた最凶の敵の姿を思い出し、改めてこの闇がどれだけ強大なのか認識する。

 

「...何なのだ、あのISは?」

 

 リングの傍に待機していたラウラが声を震わせ未知なる力に体を震わせる。そして、隣にいた紅い機体。箒がリングに接近する。

 

 

「一夏!! なんなのだ、そのISは!? 貴様は一体、なんなのだ!!」

 

 恐怖を振り払うかのように声を張り上げ刀を向け睨む箒は話を続ける。

 

「貴様がいなくなって、秋人がどれだけ心配していたか、貴様にはわかるか!? 戻ってこい!!」

 

「...箒。俺はやることがあるんだ、だからまだ戻るつもりはない」

 

「!! この!!」  

 

「!! だめ!! 箒ちゃん!!」

 

 ついに抑えがきかず、楯無の忠告を無視し刀を振り上げ接近する箒。そして、うかつに近づく彼女に、手を向け

 

「黒渦!!」

 

 突然、強力な力を受け体勢を崩した箒が一夏の方にまるで吸い込まれているかのように近づき黒騎士が紅椿に触れた瞬間、箒の前に画面が現れ紅椿のエネルギーがどんどん減少していた。

 

「何!?」

 

急いで機体を動かし、エネルギーの残量が一桁になった所で一夏が手を離し、紅椿が飛び上がる。次いで援護に入っていたラウラにも手を向け、また同じように引き込まれ掴まれてしまう。

 

ラウラはゼロ距離になり、機体のAIC、停止結界を発動し黒騎士を捕獲しようとするが、予想外の事が起きる。

 

「!! 馬鹿な!? AICが、発動しないだと!?」

 

驚愕の声をあげた時、箒と同じようにラウラの機体にも異変が起こり、機体のエネルギーがどんどん減少していく。

 

「すまんな」

 

一夏はラウラに一言あやまり、センサーが警告を鳴らしロックオンされていることに気づいた一夏は、ラウラを解放し後ろから迫る弾丸を躱す。

楯無が二人の無事を確認し、先ほどのラウラの発言と二人のISからエネルギーが消失している事に気づき一夏を見た。

  

「これが、闇の力って事?」

 

「そうだ、闇ってのは引力で全てを引き込む力だ。そして俺が触れたISは...」

 

「引力...?」

 

話しながら、楯無に手を向け黒い霧が動き出す。

 

「触れられた瞬間、能力は一切無効になる!!」

 

 黒渦

 

二人を掴んだ時と同様、楯無にも引力に引かれ一夏に吸い込まれて行く。何とか体勢を保ち、アクア・ナノマシンを一点に集中させ一本の槍を形成する。

 

「くっ!! ミストルテインの槍!!」

 

機体の防御を捨てた技が放たれ、全てを引き込む力のせいで回避する事ができず、黒騎士の胴体に命中し刺さる。能力の発動をやめ、一夏は水の槍に触れた。

 

「ぐぁ!! 畜生!! 水の槍か!!」

  

刺さった槍を引力で吸い込む事で消し、その隙に楯無は一夏と距離を取り頭を回転させる。黒騎士の危険な能力を放置する訳にはいかず、どうにかここで捕獲するしかないと判断し水の操作を行う。そして一夏の辺りの温度が異常に上昇しいくつもの爆発が起きるーーー

 

 

 

 一方で、学園に侵入した機体と交戦するセシリア・シャル。

 

ビット攻撃を得意とする敵に苦戦していると、学園の側で大きな爆発が起こり、二人の意識がそっちに向いた瞬間、侵入者は逃走する。

セシリアが悔しそうに唇を噛み締め、逃げていく機体を睨み、二人は爆発のあった場所にいくのだったーー

 

 

 

そして、避難シェルター前で生徒の避難を手伝う簪も爆発に気づき立ち止まる。教員から中に入るように声をかけられるが、簪は無視しISを機動させ爆発のあった所を探す。

嫌な胸騒ぎをし、いくつかの集まった気配を感じ近づくと、リング上に膝をつく姉と、顔隠すバイザーが壊れ素顔をさらした一夏を見るのだったーー

 

 

 

リング上で二人は息を切らし、互いに見つめ合う。機体もそれぞれ多くの傷がつき、それがどれだけ激戦だったのかを表していた。

 

「はぁ、はぁ...」

 

「これで、分かったろ? 闇の力ってやつが」

 

一夏もこれ以上の戦闘は機体を壊しかねないと思い、早く離脱したかったが、目の前にいる彼女がそれをさせてくれない。そして、この学園の長は立ち上がり真っ直ぐに一夏を見る。

 

「舐めないで欲しいわね、私は更識楯無でこの学園の長よ!!」

 

「まだやるのかよ、くっ!!」

 

 今だ戦意を失わない楯無は、画面を切り替え何かを操作する。すると海からいくつものパイプが出現し、大量の水が発射された。

 水の中に含まれている膨大のナノマシンが、彼女の意思の通りに動き発射された水がやがて一つに集まり、巨大な雫と化した。

 

「これが私の最大の攻撃...」

 

楯無が考え出した自らのISの最大攻撃。その名は水帝。 

 

 太陽の光に当たり、輝く巨大な雫を右手に持ち一夏も闇の霧を大量に出し、機体のあちこちから危険信号が鳴り始める。 

 

「上等だ、水か闇か...」

 

「勝つのはどちらか一人...」

 

 箒や簪、そして遅れてきたシャル達がこれまで見た事のない戦いに声も出ず見ていると二人の最後の攻撃が始まった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 水と闇がぶつかる。

 

 一瞬、時が止まったかのように静まった瞬間

 

 とてつもない衝撃と爆発が起こり、海が激しく揺れ津波が起こる。

 

 二機のISの戦い。

 

 後に、ISの歴史にも語られるこの戦いは

 

 世界に混乱を引き起こすのだったーー

     

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 


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