聖剣使いは忌避される   作:名無しのタラコ

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 音信不通なタラコが帰ってきました。
 


第7話

 目的地に着いた俺達は、尊い一名の犠牲者を出した。

 その名はエリス・ヴァネッサ。見た目とは裏腹に揺れる物に弱いらしく、文字の薄れた看板に寄りかかっている。

 

 『ビスワ湖へようこそ!』

 

 

 「おえっぷ……」

 

 「だ、大丈夫か?」

 青い顔をしたエリスの背中をさするショウは、いつでも逃げれるぞと腰を限界まで引きおっかなびっくりな様子でさすっていた。

 

 

◇◇

 家族旅行で行くような宿だ。俺はそう思った。

 レンガ造りの壁には蔦が、所々色が剥げた部分もある。汚い、とまでは言わないが、どちらかと言うとまぁまぁの分類に入るのではないのだろうか。

 

 「旅費は任せてくれ、生徒会の経費から落としてきたからな」

 

 「……それ、胸を張って言うような事ではないような……」

 ふらふらのエリスの意見は黙殺された。

 ロビーを通り、クレアから鍵を受け取った。

 

 「私達は一階、君達は二階だ。荷物を置いたらここに集合だ、いいな?」

 鍵をくるくると人差し指で回す。ギシギシと鳴る階段を上り、荷物を部屋に置いた。

 

 「にしても、なんつーか、会長も自由だよなぁ」

 

 「藪から棒だな」

 ジャージに着替えたハンスが、体を解す。

 

 「いんや、貴族オーラが凄まじかったんでな。お前ももうちょっと会長みたいに余裕を持った方がいいぜ」

 皮肉かよ。確かに、と思う部分もあるが、余裕を持つための最大の障害が多数ある。

 

 「俺は黒髪だ。それは死ぬまで変わらない。死ぬまでどーせ余裕なんて持てねえよ、きっと」

 盛大に溜め息をつかれた。別に間違ったような事は言ってはいないはずだが。

 クレアやエリスとつるむようになってから、これと言った物はなかったが、訓練期間がすぎれば、また、いつも(・・・)の日常に戻るのだろう。

 

 「ま、余裕がありすぎるのもいかんが、無さすぎるのもいけねえってことだ。少し位肩の力抜けよ」

 やけに上から目線のハンスに拳骨をお見舞いし、クレア達の待つロビーへと向かった。

 

 

 

◇◇

 

 「今回の合宿の目的だが……まあ、なんだ、兎に角野良精霊をショウと契約させる。最悪火鼠でも構わんだろう」

 学園指定のジャージに着替えたクレアが、眉を下げる。そこにすかさずショウが突っかかる。

 

 「なぁ、クレア……会長。流石に火鼠は嫌なんだが……」

 クレアの機嫌を伺うように尋ねる。クレアは、呆れた溜め息を吐いた。

 「ならば自分で己に合った精霊を見つけることだな。私達は手当たり次第に捕まえて、手当たり次第に契約させる。そもそも君はそこまで贅沢を言えるのか?」

 言葉に詰まる。図星だ。

 やれやれと肩を落とすクレアに、同情の視線を送るハンス、眉間に皺を寄せ、親の敵でも見るような目で腕を組むエリス。酔いは覚めたのか顔色は血の気がいい。

 

 「ならば速く探しましょう」

 と、エリス。

 

 「んま、コイツのおもりは任せといてくださいよ、クレア会長」

 ショウの肩に腕を回す。ニッコリと笑うハンスから視線を反らすショウ。

 

 「よし、私とエリスは東を、君達は西を頼む。幸いここは舗装されている。迷うことはないだろう」

 くれぐれも迷うなよ?と釘を刺す。むっとしたように眉を潜めるショウに一つウィンクを送ると、エリスの手を引いて湖の方へと消えていった。

 

 「んじゃ行くか」

 

 「…………ああ」

 すっかり不貞腐れたショウの肩をどつき、ニコニコとした笑みを振り撒きながら湖とは反対方向に進んでいった。

 

 

 

◇◇

 クレアの言っていた通り、森はある程度人の手がついていた。申し分程度だが。

 集る虫を手で払いのけ、ハンスが声を上げる。

 

 「お、早速一匹いたじゃねえか」

 木にへばりつく一匹の火蜥蜴を指差す。気分はまるで虫取をする子供だ。

 

 「……契約できるのか?コイツ」

 大きさは手のひらにすっぽりと収まる程度だ。生まれたてとまではいかないが、生まれてまだ日が経ってない。

 手の中でじたばたと暴れる火蜥蜴と契約をするため、ゆっくりと精霊力を流し込む。グラウンドで見た光と同じぐらいの眩しさだ。

 バチン!と光がはぜ、蜥蜴が手の中からしゅるりと逃げ出しあっという間に手の届かない木の枝の果てに消えてしまった。

 コイツもダメか。何度も味わった小さな悲しみは、もう慣れてしまった。

 




 

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