連日に及ぶ訓練(と言う名の合法的なサボり)をこなしてはや三日。 一向に精霊は召喚されず、野良精霊ですら俺を避ける始末だ。
「四十回中四十回とも、か」
驚愕に目を開き、そうクレア・ハーベストは呟いた。
「希に見る
エリスの皮肉を受け流し、ショウ・イブキはグラウンドに腰を降ろす。
雲一つない澄みきった青空に、鳥が横切る。
金曜日の今日、明日は休みだ。久しぶりにゆっくりできそうだ。なんて考えていると、クレアが名案だ、と言わんばかりに声を上げる。
「よし、明日明後日を使って合宿だ!」
大声を上げたクレアに驚いたエリスが変な声を上げるも、俺は、またか、と言わんばかりに溜め息を吐いた。
この、クレア・ハーベストという少女は、兎に角落ち着きがない。あっちだこっちだ、まるで野うさぎのようにぴょんぴょんそこらじゅうに動き回る。
「が、合宿!? 黒髪と?」
死んでもゴメンだ、と目が訴えるも、クレアは鼻歌を歌いながら何処かへとスキップしていった後だった。多分申請でも出しに行くんだろうなぁ、と思いながら立ち上がる。
「んじゃ、俺も準備してくるわ。寝坊しても起こさないからな」
服についた砂を払う。
「き、貴様を部屋に入れるなど、言語両断だ! 第一……ああ、もう!」
頭をかきむしる。この世の終わりだと言わんばかりの表情で、両肩に哀愁を背負い、とぼとぼと歩き出した。
思わず笑いが込み上げてくる。エリス・ヴァネッサは、そこまで過激な差別はしない。それでだろうか、俺は、エリスをおちょくるのが毎日の楽しみになりつつあった。
クレアの本当の狙いはこれだったのだろうか。ま、感謝してるんだけどな。
自然と顔が綻ぶ。軽い足取りで、俺は寮に戻った。
◇◇
翌日、晴天に恵まれたイルシャナ魔法学園の校門に、青年が二人、人を待っていた。
片方はハンス・ロード、もう片方はショウ・イブキだ。
「かーっ、羨ましいねぇ、あの美人二人と秘密の訓練なんてよぉ……!」
まるで、親の敵でも見るかのような視線を浴びる。
「うっせえ変態。どうせビンタ貰うのがオチなんじゃねえの?」
連日からナンパなりなんなりをやらかしてるコイツのことだ。どうせやらかすだろう。
そんなことを思っていると、遠くから声をかけられた。
「遅れてすまない、エリスがどうもゴネてな」
「さりげなく私のせいにしないでください!」
会長が寝坊したくせに! という悲鳴を無視するかのように話を進める。
「うむ、やはり来てくれたか。土日を使った短い合宿だが、存分に楽しんでくれると幸いだ。さ、行こうか」
ハンスをチラリと見て、ずんずんと進んで行くクレアを引き留める。
「ちょっとまってくれ、どこに行くんだ?」
くるりと振り向くと、そこにはキラキラと輝く瞳を称えたクレアがいた。これはまともな所には行かないな、と思う反面、楽しいところなのだろうか、という思いも出てきた。
「近場の湖があるだろう、そこに行くんだ」
「近場といってもあそこは距離があるのでは?」
エリスの意見も最もだ。何を分かりきった質問を、と言ったふうに首をふり、胸を張る。
「私の竜に乗ればあっという間だ、振り落とされるなよ?」
ぱちりとウインクをしたクレアに、俺は少しの、いいやかなりの不安を感じざる終えなかった。
まみむめもまみむめもまみむめも!