聖剣使いは忌避される   作:名無しのタラコ

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ニブルヘイムちゃんはもう少し待ってて下さい。この作品と設定は少し似るように作ります。(これが副産物っていう)
 副産物だとしても、ニブルヘイムの方で指摘された事を頭に入れ、頑張っていきます。


絶望の中の一筋の希望
第1話


 鈍い音が路地裏に響く。地面にうずくまる少年と、それを囲んで蹴る少年達が、薄暗い月明かりに照らされる。

 歯を食い縛り、必死に耐える少年の姿が滑稽だったのか、暴行を加えていた少年達はケタケタと笑い出す。

 

 「黒髪が、なんでいるんだよ、死ねよ!」「クソ黒髪がよぉ!」「敗戦ヤロウは死んどけよ!」

 そう叫んだ少年の蹴りが急所に入ったのか、強く咳き込み、血の混じった胃液を吐き出す。

 

 「お、おい、コイツ血ぃ吐いたぞ」

これ以上は危ない、と判断した少年が踵を返すと、つられて他の少年達も後を追う。

 「今日はここら辺にしといてやるよ。クソ黒髪」

 

 

 

 「うぅ、覚えてろ……クソ野郎共ぉ!」

 精一杯、黒い瞳に憎しみの炎を燃やし、睨み付けるも、楽しそうに雑談しながら遠ざかってゆく少年達には、毛ほどの恐怖にすらならないだろう。

 完全に少年達の姿が消えてから、黒髪の少年は壁に手を付き、よろよろと立ち上がる。傷まみれになった体に鞭を打ち、荒い息を吐き出しながら月明かりに照らされた道を歩く。

 いつも通りの日常だ。少年はそう思う。絶えず暴行を加えられ、罵られ、まるでゴミでも見るような目で見られる。変わらない毎日は、奴隷のように辛く、厳しい物だ。

 

 黒髪ーーガルド帝国の者のみが得られる、嗜好の特権、とまでつい一昔までは思われていた。

 だが、剣を手足のように使い、魔法を息をするように振るう暴君でも、不死身ではなかった。死因は毒殺。たったその二文字で終戦を終えた世界は、呆気ないほど簡単に戦争を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 ーーただし、ガルド帝国で生まれた、黒髪の人間に対する圧倒的差別を残してーー

 

 

 

 

 

◇◇

 

 ここ、グロンガルズ王国は、広大な自然と、豊かな資源を有し、かの大戦でも圧倒的な力をガルド帝国に対して見せつけた。

 終戦の記念とし、数多の国と共に魔法学園都市イルシャナを設立した。他国からの学生も去ることながら、地元ーーグロンガルズからの入学者も少なくはない。それ故、高い競争率と狭き門を携え、ここに入学できれば、将来の心配はない、とも言われる程の高度なカリキュラムと、魔法学を身につけるのだ。

 春の香りがまだ残る頃、一人の少年が、大きな木の根に腰を降ろし、革表紙の厚い本を読んでいた。

 

 「クソッ、まだ痛え……手加減位しろっつーの」

 真っ赤に腫れた頬を摩りながら、そう呟く。ボサボサになった短い黒髪。そして、黒い瞳。正真正銘、ガルド帝国で生まれたのだと分かる。

 昨日の傷がまだ痛い、そんな事を思いながら、空に向かって枝葉を伸ばす木から立ち上がる。

 

 「そろそろ、来る頃か……?」

 そう呟いた所で、丁度よく目当ての人物が此方に走りながら手を振っている。

 所々跳ねた青い髪。黄金色の瞳には涙を浮かべ、息も絶え絶えの様子だ。

 

 「おぉーい! 今まで何処で油売ってたんだよ、探すの大変なんだぜ」

 ぜえぜえと荒い息を吐き出しながら、汗で濡れた髪をかきあげ、詰め寄る。

 すらりとした顔立ちに黄金色の瞳が似合う。万人受けする見た目だが、俺のような差別の対象となる者と付き合うため、あまり好かれてはいない。

 

 「俺が何処で何をしようが俺の勝手だろ、ハンス・ロード君?」

 チャラチャラとした性格の、たった一人の友人に、冷たく言い放つ。友人ことハンス・ロードは、やれやれと言わんばかりに首を振る。

 

 「んなこと言ったってよぉ、オマエが来なきゃ、俺が怒られるんだよ、ショウ・イブキ君?」

 絶対的であった見方である母から貰ったその名は、いまや自分自信がもっとも嫌うものとなってしまった。

 嫌悪感が顔に出ていたのだろうか、ハンスは苦笑し、俺の腕をぐい、と引っ張る。

 

 「行こうぜ、俺までペナルティ貰う羽目になっちまうからな」

 

 「オマエだけで行けばいいだろ、俺なんかに構ってねーでよ。そしたら、オマエだって……」

 

 「はーいストップ! 確かに、だ、オマエに構ってなきゃ今頃は、可愛いフィアンセといちゃこら出来てたかもしれねえ。でもな、おんなじ人同士で、戦争も終わったのにまだ争ってるなんて、おかしいじゃねえか」

 だからだよ、とハンスは続ける。

 

 「小さな一歩が、やがては大きな一歩に繋がる、誰かがそう言ってたじゃねーか、な?」

 子供を叱る親のような慈愛に満ちた瞳が、俺を写す。顔を背けると、ハンスはニコニコと笑いながら

 

 「んじゃま、行くか。鬼ばーさんこと学園長に見つかってもまずいし」

 そのままずるずると引きずられながら、こうして俺の一日は、変わらずスタートするのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇

 

 カッカッと音を立てながら、黒板に文字が生まれてゆく。教壇に立ち、黒板に一心不乱に教師が文字を書き連ねる中、俺は一人ウトウトしていた。昨日は痛みでまともに眠れなかったし、なにより学園、しいては授業が大嫌いな俺にとっては、地獄でしかない。そして、後ろの連中の陰口が加わればなおのことだ。

 

 「あーあ、なんでアイツが来てるんだか」「本当、死ねばいいのにね」「馬鹿なりに頑張ってるんじゃない? でも学年最下位だよね」「馬鹿なんだから仕方ないでしょ。あんなのに金使うなら他の人入れればいいのにね」「ゴミに使うお金なんかないもんね」

 クスクスと笑われながら、それに耐えつつ筆入れに手を入れる。

 

 「痛……っ!」

 慌てて手を引っ込めると、長い針が半ばまで食い込んでいた。

 抜けば抜けばで血が出てしまう。ズキズキとする痛みに顔をしかめる。 

 毎日の、地獄のような授業は着々と消化されていくのであった。

 

 

 

 

 

 ストレスにしかならない授業が終わり、生徒達はぞろぞろと帰路に付く。かくいう俺は、年季の入った扉の前で、ノックをする直前だったりする。

 生徒会長ーー学園中でも名の知れたイツは、全生徒から絶大な支持を得ているそうだ。

 ノックを二回すると、中からくぐもった声でどうぞ、と聞こえた。ドアノブを捻り、中へと入る。

 

 「ようこそ、ショウ・イブキ君。此処に来るのは何回目か、数えてみたまえ」 

 広い部屋には、年季の入った本棚にクローゼットが。代々の生徒会長達が使ってきたであろう机に肘を付き、いたずらっ娘のように微笑む少女こそ、絶大な支持を得ている現生徒会長である。クリーム色の髪を腰まで伸ばし、青い瞳がキラキラと光っている。容姿端麗文武両道、完璧超人の二科生ーー

 

 「クレア・ハーベスト、私の名前ぐらいは分かるだろう?」

 心を見透かしたような回答に一瞬怯みながらも

 

 「ああ、知ってる。十中八九反省文だろ? さっさとよこしてくれ」

 と言うと、やれやれと言わんばかりに溜め息を吐かれる。

 

 「そういうときは、君も名を名乗るなりなんなりすべき、と私は思うわけだがね」

 

 「俺の名前は知ってるんだろ? なら名乗る必要はない。それだけだ」

 

 「噂通り、陰気で喧嘩腰な子だね、君は。ま、いいよ、反省文だが、追加で五枚、計十枚書いて貰うよ。ああ、そうだ、このまま授業態度が悪ければ、夏休みは全て補習となるそうだ、気を付けたまえよ、ショウ君」

 手渡された紙の束を引ったくるようにし、そそくさとドアを目指す。クレア・ハーベストは止める気は無いのか、無言だ。その方がこちらとしても都合がいいのは確かだ。

 木製のドアを閉めたとき、偶然見えたら表情は、ひどく、沈んだ顔をしていた。




 割りと重すぎた主人公でしたかね。アドバイスなりなんなりまってます。

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