春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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作者は神咒神威神楽をプレイした事はないのですが、神座廻りの動画を見て歴代の碑文を真似てみました。ただ練炭をそのままじゃ芸がないので、オリジナルをイメージしてみたのが良かったのか悪かったのか。
どこぞの屑が求道型の覇道神なら、逆に覇道型の求道神があってもいいじゃないと。そしてルサルカが流出してもいいじゃないと。この神格はルサルカです、アンナちゃんではありません。練炭もロートスでも夜刀でもなく藤井蓮です。ありえないIF設定を妄想しながら暇つぶしに書いたものなので拙いですが……

サブタイはこの男神の流出名です。特に思い浮かばなかったので、リアル怒りの日を流用しました。


Dies irae――Also sprach Zarathustra

 

 

 

 

何処かの世界、何処かの宇宙、何処かの時空でのこと。

 

幾つかの階層に分かれた廟堂(びょうどう)の四つ目。海底を思わせる(あお)に染まった地下四階の一角に、誰の目にも触れない隠し通路が伸びている。

 

過去四つの理を見てきた男は、知る者がいない筈のそれを見つけ出す。

 

明かりのない暗闇を進むと、そこには少し開けた空間があった。薄明るい小部屋だ。

 

右側の壁には男の像。

進んできた大広間に祀られていた像に、造形が似ているように思える。

 

左側には少女の像。

幼い容貌をしながらも、どこか女の色香を感じさせる。

 

双方の台座には、言葉少なに文字が刻まれている。

其者、超越者(かみ)であり(かみ)成らぬ者なり。

 

神を祀るこの廟堂に神座以外の者が祀られているというのも謎だが、一つの空間に二つの像があるというのもおかしい。

 

座に着いていない神格だから、ひと部屋に像一体という法則も関係ないのだろうか。

 

正面に目を向けると、石碑が立っている。

描かれているのは、二匹の蛇が無貌の影に絡み互いを噛んでいる画。

 

その台座には、こう刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

「其者、神によって産み落とされた神なり。

 

当時、座に在った神に祝福され、悪鬼の(まじな)いと只人(ただびと)の祈りによって生を受ける。

 

神に全てを定められた傀儡(かいらい)と呼ぶべき存在だった彼は、しかしてその喜劇の末に筋書きを外れ、己だけの刹那を見出す。番となる女は獣の爪牙。彼と同じく当時の神座によって見出され、祝福を受けた事で呪われた、妖艶ながらも哀れな女。

 

愛する者には先立たれ、天上の星には手が届かず、前を往く者には追いつけない。

 

彼が前身となった男から受け継いだのは、美しき日常が永遠に続けばいいという祈り。彼女が運命を呪いながら抱いたのは、永遠に追いつけないならば足を引いて止めてやろうという願い。

 

だが彼は彼女が死に瀕した際に、神の代替として有るまじき暴挙に出る。己の魂に根付いた渇望を否定し、時の巻き戻しを願ったのだ。

 

失ったものは還らない。二度と手に入らない宝石だからこそ美しく、故に取り返しが付くのならそれに価値などないのだと、その定義を覆してまで彼女の生きる未来を望んだ。価値など要らない、彼女と共に生きられるなら、俺は俺でなくてもいい。

 

生まれたのは狂気の邪神。こんな死に方はしたくない、ならば永遠に生きればいい。この世の総て破壊する、ならば最初に自害しろと、遍く祈りを鏡に写し、全ての誓いを淘汰する。

 

果てに達した彼を見て、女の嘆きは神域に至る。

 

それより先に進まないで、私を置いて遠くに行くなんて許さない。止まれ、止まれ、時も世界も何もかも、愛しい刹那と永遠に。

 

共に他者を巻き込む覇道なれど、その対象は両者のみ。彼と彼女は二人で一つ、共にいたいという共通の願いが、他に類を見ない前代未聞の神を生む。神域の祈りは互いの間で完結し、外に洩れない求道の理となる。

 

それは互いの尾を咬む蛟が如く、互いが互いを縛り付け合い貪り合うが、離れてしまえば世界に牙を剥く邪悪の大蛇。

 

時よ止まれ。否、巻き戻れ。我らの逢瀬を阻む者など、手を下すまでもなく自害せよ。

 

これぞ闇路(やみじ)の理、永遠の法、狂愛の神が背負った真実の全てである」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

碑文を一読し、再び像を注視してから、男は来た道を戻る。

 

元の藍い足場を踏み締めて振り返ると、通路は跡形もなくなっていた。壁に手を触れても違和感は見つからず、押してみてもビクともしない。

 

暫し瞠目し、そういうものかと踏ん切りを付ける。

 

首に巻く白い布を揺らしながら、男は次の階段を降りて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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