春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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ふぅ……(溜め息)な御方

「……そうですか。 喚ばれて、しまいましたか……ふぅ……」

 

 そういって大きな溜め息を吐いたその英霊は、顔だけでなく体全体で極大の憂いを体現してした。人類史に名を残した英霊というには余りにも物憂げな表情のサーヴァントだが、その恰好を見るに当然なのかもしれないと藤丸立香は納得する。

 剣を佩びず、槍を掲げず、弓を背負わない。そもそも身に纏う装束からして明らかに戦う者のそれではない。

 推察するに恐らくは、武ではなく言論で争い偉業を成し遂げた偉人に違いないだろう。

 論より証拠。というとだいぶ違うが、あれこれ考えるより聞いた方が早い。恐怖も困惑も横に置き、人類最後のマスターは語りかける。

 

「はじめまして、藤丸立香と言います。あなたは……キャスターさんですか?」

 

 人間関係の構築はまず、挨拶と自己紹介から始まる。

 相手が従者(サーヴァント)であったとしても。いや、英霊(サーヴァント)だからこそ基本を疎かにしてはいけない。少女の真面目な性根は、これまで培ってきた経験はそれを理解していた。

 

「ええ、私はキャスターのクラスで現界しました」

 

 返って来た相槌に人知れず胸をなでおろす。

 三騎士ではないとあたりを付けてはいたが、残る選択肢は四つもある。それなりに思考を巡らせたといえど、間違っていなくてホッとした。

 

 彼女の考えはこうだ。

 まず暗殺者(アサシン)ですかと初対面で問いかける蛮勇は彼女にはなかったのでそれは除外するにしても、残りは三つ。

 狂気を感じなかったし普通に喋っていたから狂戦士(バーサーカー)は除外するにしても、などと考えるような隙は彼女に限ってある筈がない。何故ならば藤丸立香という少女は人類で最後に残ったただ一人のマスターであると同時に、他に類を見ないほど多くの英霊を従える空前絶後のマスターである。

 狂化してなお会話が成立するバーサーカーなど、彼女の周囲には幾人もの前例がある。

 しかし、それを踏まえてもやはり問いかけという行動に際して、バーサーカーという選択肢を選ぶのは不適切だというのは事実だ。仮に目の前のサーヴァントがバーサーカーだったのだとしても、自分から問うのは避けるべきだと判断する。

 

 ならば残るは騎乗兵(ライダー)魔術師(キャスター)の二択。

 これに関しては特に迷わなかった。

 こればかりは勘という他にない。だが侮ってはいけない。それは最も多数、多種多様な英霊たちを従えるマスターの、経験則からくる直感である。立香はライダーというサーヴァントに当てはまる英霊かどうかを、直感的に嗅ぎ分ける特殊なスキルを身に着けていた。

 或いは王か、或いは将か、或いは旅人、或いは化生。従えるもの、率いるもの、自由なもの、暴虐なもの。乗り物に乗るとは即ち、他の存在を己の下に位置づけるということである。ライダーというクラスに宛がわれるに足る存在感、カリスマ、気風、気性。そういったものをこのサーヴァントからは感じ取れなかったのだ。

 故に、藤丸立香は召喚された英霊をキャスターではないかと推理したのである。

 

「召喚された時点で、おおよその事情は把握しています。人類最後のマスターよ。ですが、よいですか。私は召喚されるつもりはありませんでした。召喚されるのが嫌でした。その理由は、貴女ならば良くご理解いただけることでしょう」

「えっと、それって……」

 

 そう前置きをして、()はようやくその名を告げた。

 

「サーヴァント・キャスター。召喚されてしまったからには貴女の命令に従いましょう。我が真名は安珍、一人の未熟な僧に御座います」

 

 剣を佩びず、槍を掲げず、弓を背負わない。

 そもそも身に纏う装束からして明らかに戦う者のそれではない。

 頭を丸め袈裟を纏う美男子――キャスターのクラスで召喚された僧侶は、カルデアを灼熱地獄に変えてしまう真名をここに宣言した。

 

 

 

 

 

【クラス】キャスター

【真名】安珍

【マスター】ぐだ子

【性別】男性

【属性】秩序・善

【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具EX

 

【クラス別能力】

陣地作成:B

「魔術師」のクラス特性。魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。

安珍は仏僧として、神社仏閣を自らに利するよう祈願する。

 

道具作成:B

「魔術師」のクラス特性。魔力を帯びた器具を作成可能。

安珍は仏具に念を込めて、神仏の加護を受けることが可能。

 

 

【保有スキル】

高速読経:C

経典の詠唱を高速化するスキル。

安珍は読経に特化し、供養や祈祷などの効力を発揮する。

 

仕切り直し:E+

戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。

また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。

清姫から幾度も逃げ続けた逸話から。

 

 

【宝具】

『道成寺鐘大叫喚金剛圏(どうじょうじかね だいきょうかん こんごうけん)』

ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人

清姫に焼かれて溶けた道成寺の梵鐘が実体を失って体表に癒着している。

対竜属性以外のBランク以下の物理攻撃と魔術の威力を大幅に減衰させる。

それは肌を守る鎧としての機能を持つが、その本質は真逆。

全身を隈なく包み込む守護は彼を追い求める清姫の情念の現れであり、同時に清姫の燃え滾る情念そのもの。

故に安珍が嘘を吐けば全身を業火で焼き蒸され、終いには生前と同じく鐘の中で焼死するという、どちらかと言えば安珍ではなく清姫の宝具。

名の由来は八大地獄のひとつ、大叫喚。虚偽の罪を犯した罪人の落ちる場所である。

かの地獄ではこの世で最も恐るべき炎で身を焼かれるという。転身火生三昧?

そして金剛圏とは孫悟空を戒める頭の金冠、緊箍児の別名だそうな。やはり鎧ではなく拘束具か。

 

『熊野神十二所権現社(くまののかみ じゅうにしゃ けんげんそう)』

ランク:EX 種別:対人・対死霊宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:100人

熊野権現の化身ともされる安珍の神性顕現。

熊野本宮大社の主祭神として祀られる家都御子神、阿弥陀如来を本地とする神仏。

その威光を借り受け、衆生救済のための願力をもたらす僧の祈り。

効果範囲がどれだけ広かろうと対人宝具であり、神性が高かったり生粋の魔であったりすると影響力に欠ける。

逆に、魔性に反転していようと人であるなら救済の念が届き、苦悩を色濃くするサーヴァントならば救済の光に照らされ、

その魂は安らかに還ることだろう。

強靭な意志力で昇天を耐えようとも動きが鈍るのは間違いない。死霊特攻。

熊野坐神(くまのにますかみ)に願い奉る、御身の本願を以て衆生を苦難より解き放ち給え。オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン――熊野神十二所権現社(くまののかみじゅうにしゃけんげんそう)第三殿(だいさんでん)家津美御子大神(けつみみこのおおかみ)!」

 

 

 

 

 




昨夜、寝る間際に思いついてしまった設定。
安珍様がカルデアに降臨なさったら、きよひーはどういう反応をするのでしょうか。やはり本物に飛びつくのか、マスターと両方を本物と見なすのか、それとも――自分に振り返らなかった彼を安珍様(旦那様)と見なすことはないのだろうか。
彼女の胸中はまるで計り知れません。
私に清姫を描写するのは無理だなと諦めました。


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