春秋の恥さらしネタ帳 作:春秋
片づけてたら読まずに仕舞っていたこのすば10巻を発見したので読みました。これだ! このカズマさんみたいな主人公が書きたかったんだ! と思い至り引っ張り出してきました。
黄金律。評価規格外たるEXを除き最高値のAランクを誇るそれは、
人体の黄金比ではなく、人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。所有者は一生金に困ることはなく、大富豪として生活していけるという素晴らしい金ぴかぶりである。
そのスキルというか体質というか、運命力? 的なものを持って異世界に来た俺は、早くも大金を手に入れようとしていた。
この世界に降り立った俺は、まず町を観光して周った。
草原を切り拓いて作られた事が窺える青々とした景観と、それに良く馴染んでいる石造りの建造物。自然の多い町並み、ではなく、自然の中の町並みからは文明の進み具合が見て取れる。
石畳の交通路を歩む人々の格好も奇抜だ。色とりどりの装飾品を身に着け、外套を羽織る女性がいる。手には身の丈ほどもある杖を持ち、頂点には
「――異世界来たあッ!!」
っと叫んで周囲から注目を集めてしまっても気にならないくらいには興奮していた。だってそうだろう。あんな如何にも魔女ですって格好をしている人が当然のように町を歩いている、その事実がどうしようもなく胸を掻き立てて仕方ない。良い意味でも、そして悪い意味でも。
悲しいことだが、これは興奮と共に拭い難い羞恥心をも掻き立ててしまう。おのれ黒歴史め……。
そんなこんなで町を練り歩き、物珍しさからキョロキョロとお上りさん丸出しで見て回っていたのだが、流石の俺も興奮が治まってくるとなんとも落ち着かない。
考えてみれば俺は死んだときと同じTシャツにジーパンという何とも言えない格好だ。
これが学生服だったりすれば武ちゃんとか一刀さん的にどこかの組織に属しているっぽい雰囲気も出ていたのだろうが、俺の場合は着古した私服である。上は生地が若干とはいえたるんで来てるし、下とか色褪せて明らかにボロッちい。いや、それが味なんだけどね。
だがまあ、異世界の街並みにミスマッチなのは疑いようがないわな。
そして何だか小腹も空いてきた。身体が爆発四散して腹の中身も吹っ飛んじゃったからね。あはは。……やめよう、このブラックジョークは自分へのダメージもデカいや。
肌に伝わる感触からポケットに財布と携帯が入っているのは分かっていた。広場らしきところで適当に腰を落ち着けて財布を開けて中身を確認。
まず目につくのは硬貨数枚に紙幣数枚、金額としては五千円弱。異世界トリップの定番として美術品で売りに出すという手もあるにはあるが、この世界には俺以外にも多くの転生者がいるようだし、もしかしたら希少性はあまり高くないかもしれない。保留。
他にはレシートが数枚。ポイントカードやクーポン券なども少々。流石にこれは金にならないだろう。却下。
最後に出てきたのは銀色に輝く四角い包装。ドーナツ状の起伏が見て取れるそれは――――なんというか、大人のゴムだった。ああ、そういえば入れてたなぁ。
え、高校生がなに持ってんだって? いや、交流のあった女友達の家に遊びに行くとなってつい……結局なにもなかったけどな!
これも数があるならまだしも、ひとつふたつじゃ売り物にはならないだろう。となると残るは中身ではなく外身。
出てきたものを直接ポケットに突っ込み、服で汚れを拭き取って軽く磨く。ついでにチェーンだって一応は金物だし、足しになるかもしれないのでこっちも磨く。
次はっと。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですけど……」
通行人に話を聞いてやってきた所は、何を隠そう質屋であった。
質に入れる物は財布本体。安物のビニール製とはいえ見てくれは悪くない。この町を見れば文明レベルはお察しだろうし、服か食い物か宿か。どれか一つくらいは賄えるだろうと高を括った。
のだが、俺はどうも舐めていたらしい。
神由来のチートスキル。
英雄王の持つ黄金律という代物を。
「こっ、これはッ!」
「アンタどこでこんなもんを――」
「そうかいそうかい、なかなか苦労したんだなぁ」
「よし、お前さんとの出会いの記念にこれでどうだ!」
「なに、まだ吊り上げようってのか。へっ、たくましいじゃねえか」
「よっしゃ! これ以上はもう出せねえぞ!」
「ありがとうございっしたー!!」
何だったんだろう、今のは。
あれよあれよという間に手には十三万エリス。
話を聞くに一エリスが一円っぽい物価だったので、占めて十三万円が手の中に。
安物の長財布を質に入れただけでこの大金とか、黄金律頭おかしいだろ。もしあれが普通に高価なものだったら、一体俺は何十何百万を手に入れていたのやら。
考えると震えが止まらない。
こんな、こんなことって――。
「黄金律さいっこォ――ッッ!!!」
とりあえず装備を整え、荷物入れのカバンを買い、道中買い食いをしつつ宿を取り、やって来たのは何を隠そう、冒険者ギルドという奴である。
腰には剣。軽装だが皮の鎧も付け、上から質素なマントを羽織り、見た目だけならTHE冒険者という感じだ。剣は初心者ということで小振りな護身用だが、見た目以上の重みを感じる。
これが命を奪う凶器の重みというものか……などと中二な考えが浮かぶが、実際問題、俺には少し重たい。たとえ相手がモンスターでも、俺に命を奪う行為が出来るのか。出来たとして、続けられるのか。冒険者という職業への期待に反面、不安も募っている。
まあそれでも興味深々だからいっちゃうんですけどね。
若さってのは躊躇わないことだからね。多少の無謀も仕方ないね。
覚悟を決めて扉を開けると――――そこは酒場だった。
うん、言っちゃ悪いけど、ギルドっていうより飲み屋です。お前ら昼間っから飲みすぎぃ! でも、それでこそ冒険者って感じでなんか感動。なんとなく気圧されて固まっていた俺に、ジョッキを運んでいた女性が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませー! お仕事案内なら奥のカウンターに、お食事なら空いてるお席にどーぞー!」
「あ、ども」
うん、見事に居酒屋の店員だ。
いや、お仕事案内とか言ってるからギルド職員なんだろうけどさ。
魔法使いっぽいお姉さんやら戦士っぽい男やらを横目にしながら、案内に従って奥のカウンターへ進んでいく。お約束ともいえる受付のお姉さんが顔を出すそこは、これまた見事に宝くじ売り場そのものだった。
なんだかなあ。所々で妙に現代日本を彷彿とさせる景色が混じっていたりするせいで、現実感がこびりついて離れない。いや現実なんですけどね。
「どうも」
「こんにちは、ご用件をお伺いします」
転生によるチート翻訳のおかげだろう。金髪美女が流暢に日本語を話している――ように聞こえる――のは、なんだか背筋がむずむずする。
「冒険者の登録がしたいんですけど」
「かしこまりました。まず初めに登録手数料をいただきますが、そちらの用意はおありですか?」
ファッ!? 金取んの!?
はじめは面食らったが、これが資格試験とかそういう話だと考えれば当然の帰結だった。
そして黄金律持ちの俺に資格は、もとい死角はない。やはり金銭チートこそが最強、金は大いなる力だったのだ。お金様万歳!
「えっと、いくらになりますか?」
「お一人さま千エリスです」
手数料千円の資格と考えれば破格の値段である。
もち払うに決まってます。
「これでお願いします」
「――はい、確認致しました。それではまず、簡単な説明から入らせていただきます」
よろしくお願いします。
これが創作ならば半分くらいは読み飛ばし聞き流すところだが、俺にとってはこれからの人生を左右するかもしれない第一歩である。テンプレから外れた落とし穴があったりすれば比喩でなく死んでしまうかもしれないので、ここはしっかりと聞いておこう。
はーいここテストに出ますよー、って奴だ。
「冒険者とは人に害を与えるモンスターを討伐し、町を守ることを生業とする方のことです。中には討伐だけでなく、住民の困りごとの解決や特定物の捜索なども含まれ、それらを請け負う何でも屋と考えれば分かりやすいかもしれませんね」
ふむ、まあ基本だな。
討伐クエストに採集クエスト、お使いクエストはRPGの基本だ。
そして受付嬢が取り出したのは手のひらサイズのカード。運転免許証を彷彿とさせるそれは、想像通りギルドカードとかそういう類のものらしかった。
「この世のあらゆるものは体の内に魂を秘めています。どのような存在も生き物を殺し、或いは食し、生命活動を終えさせることで、その存在の魂の記憶の一部を吸収して生きているのです。俗に経験値、と呼ばれるものですね。それらは通常、目で見ることはできません。しかし、このカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値を表示してくれます」
THEステータスカードだな。
便利なもんだ。
「冒険者が得た経験値に応じてレベル、というのも表示され、これが強さの目安となります。討伐記録も自動的に記録されていき、レベルアップの際は新スキルを覚えるためのポイントなど、様々な恩恵が与えられますので、是非ともレベル上げを励んでください」
へえ、スキルはポイント制なのか。
スキルツリーとかある系か、それともレベルアップで勝手に増えていく系か。まさにRPG世界そのままだな。
「それではこちらに身長、体重、年齢、身体的特徴などの記入をお願いします」
え、身長とか体重って測るの?
うーん、この世界の文明レベルとか技術レベルとかよくわからんな。いや、魔法とかあるっぽいし仕方がないのかもしれんが。
「ありがとうございます。では、こちらのカードに触れてください。あなたのステータスが判明しますので、それを基準になりたい職業を選んでいただきます。経験を積むことにより職業の専用スキルを習得できるようになりますので、その辺りも考慮してくださいね」
ほう、専用スキルとな。
これはクラスチェンジとか上級職とかがある奴と見た。いきなり上級職とかもいいはいいけど、異世界生活的には一般的な職業から段階を踏んで堪能するのも憧れるなあ。
とかなんとか考えながら、待ち望んだステータス測定に入る。
「キミシマダイチさんですね。えっと……筋力、生命力はそこそこ。知力は高めで、魔力と器用度は普通。敏捷性は控え目ですが幸運は悪くないですね。これだとソードマンあたりが妥当でしょうか。あと就ける職業となると、基本職の冒険者くらいですからねー」
レベルを上げてもう少しステータスを伸ばせば、選択の幅も広がると思いますよー。などというお姉さんの言葉を受け、大人しく剣士の職に就くことになった。
こうして俺の、異世界生活が始まったのである。
ああ、もっと自堕落な生活してる主人公が書きたい。
地盤を築いてアクア様が降臨したときに貢いで女神のアホっぷりを笑い飛ばしてでもたまにアクア様を崇めつつ時にかっこいいところもあるそんな主人公を描写したい。