春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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この素晴らしい世界で豪遊を!

 

 ――死んだ。どうしようもなく、言い訳のしようもないほど明確に。間違いなく。

 我ながら日本人としては今時珍しい死に方だったと思う。

 いや、世界的に見ればそうでもないのかもしれないが、日本在住の高校生としては珍しいだろう。これが否定されれば日本は物騒な修羅の国になってしまうので、そうであって欲しい所だ。

 死因は恐らく、爆死。爆発によって発生した熱で死んだのか、それとも爆発の衝撃で吹き飛んで死んだのか、はたまた弾けた爆弾に当たって死んだのか、詳細までは死んだ本人ゆえに分からないが、原因が爆弾による物である事は確かだろう。

 そう、爆弾。日本で暮らしていれば何かの拍子で耳にする事はあるかもしれないが、お目にかかる事などそうそうない危険物。それによって命を終えたであろう俺は、つまるところテロという奴に遭遇したのだ。我ながら不運な男である。今となっては爆弾を所有していた男がどんな目的で事件を起こしたのかは解かり兼ねるが、まあ既に死した身で深く考えることもあるまい。

 などと思考しているのがあまりに不思議で、伏せていた目を上げて正面を向く。

 見渡す限り暗い闇の中、眼前に何メートルか挟んで椅子が鎮座している。そういう自分も四つ足の椅子に座っており、肌触りや質感から木製だろうが比べると随分みすぼらしい。いや違う、あちらがシンプルながらも豪勢なデザインとなっていて、位の高い者が座るのだろうと推察できる。改めて自分を見下ろしてみると、着ている服は死の直前と同じTシャツにジーパン。

 頭を左右に振ってみると地平線どころか椅子の後ろ位までしか見渡せず、しかし暗闇には星屑が如き神秘的な光が漂っている。有り体に言って、すごく死後の世界っぽかった。もっと言うと、ラノベ界隈でよく見るような転生の間っぽくもあった。その予想はすぐに裏付けられることとなる。

 

「君嶋大地さん、ようこそ死後の世界へ」

 

 コツコツという靴音と共に響く美しい声色に振り返る。そこにいたのは感嘆のため息を漏らしたくなるほど美しい一人の――一柱(ひとはしら)の少女であった。

 

「あなたはつい先ほど、不幸にも命を落とされました」

 

 真水のように透き通った、それでいて鮮やかな色彩を持った青の瞳。二次元に多大な興味を示す身としては、蒼、と称したくなるそれと、同色ながらもまた違った表情を見せる長い神。違った髪。いや、間違ったけど的を外してはいないのだろう。在り来りな表現だが、難なく納得出来てしまうほどに、彼女は神々しい存在だった。

 

「短い人生でしたが、あなたは死んだのです」

 

 纏う衣装は海の青さを宿した服に、天女の如き薄紅の羽衣。年の頃はそう変わらないように見えるが、女神(暫定)としては不思議ではない。若く清らで美しい乙女。それが古今東西で普遍的な女神のイメージというものだろう。

 清らか過ぎて気後れしそうだが、ぶっちゃけ見た目はかなりの好みである。

 

「……女神様、でいいんでしょうか?」

「はい。日本において、若くして死んだ方を導く女神。名をアクアと言います」

 

 アクアマリン、アクアブルーなどという言葉からもイメージできる通り、アクアとは水を意味するラテン語である。

 という感じの注釈がすぐさま思い浮かぶあたり、本当に黒歴史の業は深い。中二病は不治の病だぜ。

 そして隠れ中二病である俺は、この状況から後の展開を確信し始めた。そう、これは世に言う神様転生。異世界にGO! ということだろう。となれば転生特典というのを考えるべきだな。うむ。

 

「あなたには二つの選択肢があります。Re:(ゼロ)から新たな人生をはじめるか、天国に行って何不自由ない暮らしを送るか」

 

 まあ普通の二択だわな。でも女神様、それって裏があったりするんでしょう?

 

「でもひとつ忠告しておきたい事があります。天国というのは皆さんが思っているほど極楽な場所じゃありません。娯楽もなければ肉体も持たず、一日ずっと日向ぼっこでもして過ごすしかないようなところなのです」

 

 思った以上に嫌だな天国ゥ!? 退屈って生き物からすれば何よりの敵じゃん!! やることないなら地獄の方がマシな拷問に等しいだろそれ!?

 

「えっと、どっちも勘弁して欲しいんですが……」

 

 来い! 第三の選択肢来い!

 

「では、君嶋大地さん。異世界、というものに興味がお有りですか?」

 

 来た! 第三の選択肢来たァッ!!

 

「詳しく聞かせて下さい!」

 

 詳しく聞かせて貰った。

 行き先は剣と魔法の世界的なアレで、魔王とかモンスターも存在しており、人類滅亡待ったなしって状況だったらしい。誰もそんな危機的状況なところへ転生とかしたくないので、当然ながら人が減っていく一方になっていたのだという。

 そこで! 待ってましたよ神様転生! バイタリティ溢れる若者を転生というかトリップさせて、減った数を補おうぜ! でもただ送るだけじゃすぐに死んじゃうから、なにか一つだけ持っていけるようにしようぜ! ってなことになったらしい。俺大歓喜である。

 俺にしか使えない最強の魔剣、ひと振りで数多の敵をなぎ払う最強の聖剣、炎ですら燃やしてしまう黒炎魔法に、死をも覆す治癒魔法、更には人類には扱えない究極呪文! どれもこれも胸躍る中二スメルがプンプンするぜヒャッハハハハハハハハハハハハハハハハーァ!!

 

「――――はぁっ」

 

 なんだろう。一度有頂天になったからか、急激に冷めた。いや、醒めたのか。うん、そうだよな。最強の力とか持ってた所で、俺に魔王退治とか無理だよな。コソコソとゴブリン退治とかで小金を稼ぐのが関の山で、ボスキャラとバトルとか自信ないや。

 もっと目先の事を考えつつも遠くの事を見越した特典をだな…………ハッ!

 

「アクア様、自分で考えたモノも持っていけるんですよね?」

「はい、可能です。しかし、複数の特性を持つモノや、肉体を大きく改変するようなモノは許可できません」

 

 まあ当然と言えば当然か。ならば第一志望は断念して、事前の第二志望で行くしかない。

 チート・オブ・チートには成れなかったが、この特典を駆使して再現するくらいは可能かもしれないしな。

 

「どうやら、持っていくものが決まったようですね」

「はい、アクア様」

 

 そう、そうだよ。小金を稼ぐのが関の山。ならば、小金を大金にしてしまえばいい。とあるガンマンはこう言った。金は力だ、神よりよっぽど役に立つ、と。女神を前にとんだ不敬だが、そもそも神は崇め奉るモノであり、人間が使うものではない。ジャンルがそもそも違うのだから、金の方が役に立つのは当然のことだ。

 故に、俺が選ぶ特典は。

 

「Aランクの黄金律スキルを持っていきます!」

 

 AUOよ、俺に金ピカを分けてくれぇ!

 

「さあ勇者よ! 願わくば数多の勇者候補たちの中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。さすれば神々からの贈り物として、どんな願いでも叶えて差し上げましょう!」

 

 こうして俺、君嶋大地による――この素晴らしい世界の漫遊記が始まったのである。

 

 




女神ムーブしているアクア。
書いてて違和感しか沸かないあたり、宴会芸の神様は流石だった。


>そもそも神は崇め奉るモノであり、人間が使うものではない。
自分で書いておきながらなんですが、原作カズマさんへの些細な皮肉にも取れますね。いや、書いてからそう取れなくもないなと思っただけなんですけど。


このすば9巻を読んで唐突に思い付いた主人公。
金に困る事がないカズマというイメージで、グータラしつつ異世界を謳歌していく物語。何時もの如く予定は未定。


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