春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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※オリ主 転生 原作知識あり Dies iraeネタ 等の要素があります。

最近は主人公の改変が多かったので、今回は完全なるオリ主です。
Dies熱が冷めないのでネタとして突っ込んでますが、これはクロスになるのか?

世界観としては運命・空の境界・月姫のごちゃまぜ。
士郎はUBWルートで、時計塔出立後に凛と帰国中。
冬木をFateの聖地巡礼的な意味で観光に来た主人公と出会い、なんだかんだ(思いつかなかった)で対峙して本編に至るという感じで。



Fate/after light

   運命の残照

 

 

衛宮士郎(ツルギ)遠野志貴(ナイフ)両儀式(かたな)――Tipe-moon(このせかい)での力の象徴は、何と言っても刃物だからな」

 

当然、自分も剣を選んだと。

その一角を担う主人公(おとこ)を前に、久堂真希(くどうまさき)は微笑する。

 

「と言っても俺は素人だ、剣の振り方なんて知らないし、多少振れたところでお前にはとても敵わない。だが……」

 

しかし、彼が持つのは剣であり剣に非ず。

 

あらゆる刀剣を総べる錬鉄の魔術使いは、誰よりもその()の異質さを理解した。

否、理解出来ない事を理解した。

 

その異質さを、特異さを。

燃え滾る情念の深さを、世界中の誰よりも。

 

或いは、所有者にして製作者たる真希以上に。

 

「そうだ、コレは剣じゃない。剣を象った焦熱世界だ」

 

それは名も無き灼熱の世界。

 

名など要らず、故に()はない。

だから真希は、名を騙る。

 

爾天神之命以(ここにあまつかみのみこともちて、)布斗麻邇爾ト相而詔之(ふとまににうらへてのりたまひつらく)

 Man sollte nach den Gesetzen der Götter leben.」

 

それは世界(ツルギ)()ではなく。

それは心象(まじゅつ)の名でもなく。

 

前世(いつか)記憶(どこか)画面(ユメ)に見た、とある少女の異界創造。

 

「さぁ、行くぞ剣製――世界(けん)の準備は万全か?」

 

ニヤニヤ嗤う。

 

空々(カラカラ)哂う。

 

いつかの少年が発した言葉に(なぞら)えて。

愉しくもないのに悦んで。

 

かつて人間だった彼は――既に名も亡き■■(ナニカ)は。

人間になろうと必死だった士郎(きかい)を指して、いっそ盛大に嘲笑った。

 

 

 

 

 

 

Briah(創造)――」

 

   地獄を見た。

 

そこは焼土だった。

焼け(ただ)れた大地に、熱を撒き散らし暴れ狂う炎。

 

   地獄を見た。

 

男が倒れている。女が倒れている。

少女の顔は見るも無惨に爛れ落ち、少年の細い四肢は黒く固まっている。

 

   地獄を見た。

 

煌々と揺らめく大火に、空を染め上げる黒煙。

鼻を突く異臭に、響き渡る悲鳴。

 

   衛宮士郎は、自分/真希(そのおとこ)原風景(じごく)を見た。

 

Muspellzheimr Lævateinn(焦熱世界・激痛の剣)

 

俺は覚えのある……

あまりに見覚えのある光景に立ち竦む。

 

この地獄を、衛宮士郎は良く知っている。

 

「この生は――久堂真希という男は偽物だ」

 

呆然としていた所に、彼は平坦な口調で語りかけてきた。

 

「この記号(なまえ)も偽物だ」

 

そして語るのは、己の出生。

それはあまりに奇怪な内容で。

 

「生まれてからの二十数年間(・・・・・)、俺はこんな名前で呼ばれた事など一度たりともありはしなかった」

 

俺と同じ二十代前半(・・・・・)の男が言うには、首を傾げざるを得ない発言。

 

「俺の両親は純粋な日本人だ。髪は黒くて瞳はこげ茶、小柄で運動神経も良くなかった」

 

ドイツ人クォーターだと語った長身の彼は、黄金の髪を手でかき上げる。

 

「どうして俺は生きている? あの火災の翌日に、確かに死んだはずなのに……」

 

小柄な男が病室で、自刃する光景を幻視した。

 

「そんな偽物だらけな男の世界なんだから、名前だけが本当なんてそれこそ嘘だ」

 

 

 

 

 

 

「だから、お前は世界を歪めた。無理矢理に剣として形を歪め、存在を認めない様に名前を奪った」

 

先に借り物の名前を流用してしまえば、それに引き摺られて性質は変わる。

真希は名付けの機会を剥奪し、別の形に押し込んだ。

 

認めない。

認めない。

そんな在り方こそを認めない!

 

何故なら、この身は――

 

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)

 

四肢にまで伸びる魔術回路にムチを打つ。

これより生ずるは、業火を(ちから)へ変える錬鉄の世界。

 

Steel is my body,and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子)

 

昔より多少は成長した今となっても、自力での発動には全力を注がねばならない。

 

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

その無茶をやらかしてでも、この男は打ち倒す。

 

Unaware of loss.(ただ一度の敗走もなく、)

 

たとえ認められずとも。

 

Nor aware of gain.(ただ一度の勝利もなし)

 

たとえ更生されられずとも。

 

Withstood pain to create weapons,(担い手はここに独り。)

 

この男だけは絶対に。

 

waiting for one's arrival.(剣の丘で鉄を鍛つ)

 

その在り方だけは絶対に。

 

I have no regrets.This is the only path.(ならば、我が生涯に意味は不要ず)

 

衛宮士郎には許容できない。

 

My whole life was "unlimited blade works"(この体は、無限の剣で出来ていた)

 

 

 

 

 

錬鉄の固有結界。

とある男の生き様であり、これから辿る終わりなき旅路。

 

「固有結界、無限の剣製(unlimited blade works)か……」

 

どこまでも続く果て無き荒野に、無限の刀剣が突き刺さっている。

 

その様はまるで墓標の如く。

途轍(とてつ)もなく荘厳で限りなく力強いにも関わらず、どこか儚さを匂わせる。

 

産まれて始めて、それも生で見る他者の心象が主人公のそれとは。

見飽きていたはずの荒野(それ)が、嫌に新鮮で心を揺さぶる。

 

「これが俺の世界、俺の本質――俺の理想は借り物だ」

 

そう語る衛宮士郎の顔には迷いがない。

そんなものは過去に――

 

「目指す目標も、追い求める夢も、これらと同じ偽物だ」

 

否。弓兵(みらい)に置いて来たのだから。

 

「でも、だからこそ……歩んできた路は、これから進む路は。この想いは本物だって信じてる!」

 

それが、衛宮士郎(エミヤシロウ)のたどり着いた答えなのだから。

 

「俺はお前を認めない。自分自身を否定する奴には、俺は絶対に負けられない――ッ!」

 

ああ、カッコイイな正義の味方(しゅじんこう)

俺もそう生きられたらどんなに良かっただろう。

 

今更羨みも妬みもしないが、その熱意がどこか眩しいよ。

 

俺は壊れる事が出来なかった。

いっそ壊れてしまっていれば、継ぎ接ぎだらけの別物だろうと、人として生きて行けただろう。

 

だが、俺は壊れなかった。

 

壊れるほどの衝撃は与えられず、ただただ無様に堕落した。

落ちて、落ちて、底まで行かずに浮遊した。

 

その在り様が嫌で人生を終えたはずなのに、どうして俺は此処にいる?

 

もう■■■■は死んでいる。

あの時たしかに、自らの手で殺している。

 

ならば一体、此処にいる俺は誰なのだ?

 

――――ああ。

 

「……あァ、もうイイよ」

 

もういい、どうでもいい。

 

考えるのはもうやめだ。

所詮この身は偽物でしかない。

 

考えたところで意味などないし、考えるのにももう疲れた。

 

「とりあえず、気に食わないから死んでいけ」

 

周囲を取り囲む炎が一斉に弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

つまり久堂真希とは、衛宮士郎の鏡像だ。

 

生前――前世の彼は、火災に遭ってすべてを失くした。

士郎ほどに幼くはなかったし、彼のように(ノロイ)を受けてもいなかった。

 

だが、真希はすべてを失った。

 

母がいた。父がいた。兄がいた。妹がいた。友がいた。恋人がいた。

恩師。後輩。同僚。好いていた者から嫌っていた者まで。街の一つが地図から消えた。

 

自分独りが生き残り、そして嫌気が刺し自刃した。

 

目が覚めると次の人生。

意味が分からない。

理屈が通らない。

 

しかしそれでも、生きるしかなかった。

一度死んだのにこれなのだ。二度目を試すのも気が引けた。

 

久堂真希は衛宮士郎の鏡像だ。

 

火災によってすべてを失い。

しかし、拾った命を己で捨てた。

 

生きろ、などと言われる間もなくすべてが燃えた。

 

生きていてくれた、そう泣いてくれる相手など当に灰になっている。

 

ああ、この世のすべてがまやかしならば、自分はいったい誰なのだろう。

いったいどうして、自分はこんな場所にいるのだろう。

 

火、火、火――命の火など、消えてしまってもいいではないか。

 

このまま生きて苦しもうとも、このまま死して苦しもうとも、先に待つのは煉獄の炎。

あの大焼炙(だいしょうしゃ)地獄にて、永劫に焼かれ続けるのだから。

 

 

 

 

 

世界の根底を理解した正義の味方は一心に駆ける。

ただただ愚直に、幼稚な動機を胸に秘め。

 

あの地獄を生き延びて、なのに自ら命を絶った?

 

何を考えているのか意味がわからない。

 

すべてを見捨て生き残ったからこそ、これから先はすべてを救おうと決意した。

それが衛宮士郎の持つ思想の一つ。

 

或いはかつての少女が言うように、地獄を越えたからこそ幸福を求める。

自分はそれを選ばなかったが、確かに正しい道のひとつなのだろう。

 

だが、だがしかし。

 

あの男は、現実をすべて捨て去った。

己の未来を放棄した。

 

「自分一人が生き残りながら自殺だなんて、お前は間違っている――ッ!!」

 

そんな選択は認められない。

衛宮士郎は、その選択を許せない。

 

対する真希は、もはや辟易していた。

 

「いい加減にしてくれよ衛宮」

 

幾度となく放火しようと、衛宮士郎は切り抜ける。

 

元より彼は正義の味方。

いずれ至った錬鉄の英雄。

 

魔術師であっても戦闘者でない真希には、彼を殺しきる技術がない。

いくら固有結界という強大な力を持っていようと、相手も固有結界(それ)を持っているから決定打には成り得ない。

 

しかし才能(スペック)では優っているので、簡単に倒されることもない。

千日手状態に陥っている。

 

それがどれほど続いたのだろう。

ついに根負けした真希は切り出した。

 

「……ああ、もう……いいや。おい衛宮!」

 

息も絶え絶えと言った風の正義の味方へ、ため息と共に両手を上げる。

 

この馬鹿の勢いに押されて、頭の熱が冷めてきた。

赤い弓兵もこんな感じだったのだろうか。

 

「――俺の負けだよ」

 

否定するのも面倒になったと言いたげな口調で、久堂真希はこう告げた。

 

 

 

 

善悪混沌、功績罪業に関わらず、もの皆焼き尽くす焔の世界。

 

そんな世界は、もうどこにも存在しない。

 

久堂真希は敗北した。

経緯はどうあれ、衛宮士郎に負けを認めた。

 

お前は間違っているのだという、その糾弾を認めてしまった。

故にこそ、真希の心象風景は姿を変えた。

 

その根底は覆らなかったが、性質は大きく変化したのだ。

 

それは、罪人たる己を罰する贖罪の地獄。

即ち、すべての穢れとすべての不浄を祓い清める紅蓮の世界に。

 

――偽称。

 

名を騙る。名を偽る。嘘の名を付けるという彼の起源。

これを瓢箪から駒と言うのだろうか、まさに偽りの名が真実となった。

 

Muspellzheimr Lævateinn(焦熱世界・激痛の剣)――

 

至高の輝きに焼かれていたいという、とある女性が誇る修羅の矜持。

所詮は創作に過ぎないが、かつての真希は胸を打たれた。

 

それは、或いは己の鏡像へ向けた敗者の矜持だったのかもしれない。

 

偽物も本物になるのだという、衛宮士郎を認めた証。

 

 

 




主人公のコンセプトは

・士郎の鏡像
・トリックスター

名前は偽称の起源から、読み方を間違えやすそうという意図で。苗字の方は適当です(考えてた時に丁度コナンがやってたとか言えない)。
原作遵守を信奉し傍観に徹した主人公が、終わった物語の舞台に赴いて新たな騒動に巻き込まれる。とか考えたんですが、どう考えても続けられない……


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