春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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例の如く、時期詳細不明です。
アニメのUBWを動画サイトで見て、夜刀様が蓮の前に試練として立ち塞がるという展開を見たくなったので書いてみました。

元々はFate熱を再燃させるためだったはずなのに……



ゼロの新世界VS無間大紅蓮地獄

 

『そうか、こうなったか……』

 

憎悪に濡れ血涙に染まった髪と瞳は、どちらも血の色を濃くした赤。

体を覆い隠す白い衣装は、身を守る蛇の鱗を思わせた。

 

その顔付きは端整で、男性的な力強さと女性的なしなやかさを両立している。

男神(おがみ)に対する表現にしては、正しく神の美貌と言えるだろう。

 

「――お前は、何だ?」

 

否、問わずとも解っていた。

 

その魂が、その神威が、その理が雄弁に語っている。

本来なら食い合い侵し合う覇道の法則が、接触しながらも馴染んでいるのが理解できる。

 

普通に考えれば、そんなことは有り得ない。

藤井蓮と共に駆け抜けたマルグリット・ブルイユでもなければ、覇道の渇望は衝突するしかないと決まっているのだから。

 

『俺は残影。既に潰えた敗北者の残滓だ』

 

いや、そんな理屈など後付けに過ぎない。

ただ純粋に、藤井蓮には理解できる。理解できない筈がない。

 

   時よ止まれ、時よ止まれ――

 

   この刹那よ永遠なれ――

 

   愛しい宝石よ、美しいままに止まっておくれ――

 

その狂おしいまでに透き通った祈りは、藤井蓮が願う幻想そのものなのだ。

 

どれほど上辺を塗り固めても、どれほど憎悪に染められていても。

永遠を願うその祈りだけは、決して違える事などありはしない。

 

『お前がこの先を目指すというのなら、どうか証明して見せてくれ』

 

かつてどこかの未来で憤激の咆哮を上げた守護者の残骸は、理知的な光を宿した瞳で蓮を見下ろす。

既に失くした過去を懐かしむように、不出来な後輩を慈しむように。

 

『既知も修羅も黄昏も、そして無間(おれ)も敵わなかった。それでは届かないんだよ』

 

悲しげに、哀しげに――言い表せぬ悲嘆の激情を秘めた声。

失くした物の大切さに嘆くと同時、えも言われぬ無力感に苛まれているのが見て取れる。

 

永遠を望む渇望をここまで憎悪に染め上げ、にも関わらず本質を歪める事なく貫き通している魂の強さ。

自分にはない神としての貫禄を垣間見、蓮は静かに断頭の処刑刃を右腕に落とす。

 

目の前の男の願いに応えたい、応えねばならないと――未だ若き無間の主は腹を括った。

 

「海は幅広く 無限に広がって流れ出すもの 水底の輝きこそが永久不変

 Es schaeumt das Meer in breiten Fluessen Am tiefen Grund der Felsen auf,

 

 永劫たる星の速さと共に 今こそ疾走して駆け抜けよう

 Und Fels und Meer wird fortgerissen In ewig schnellem Sphaerenlauf. 」

 

口に出すのは、刹那の輝きを永遠に留めたいという祈り。

深海においても輝きを失わない永遠の宝石へ送る誓い。

 

そしてそれは、対峙する紅蓮の狂神も同じく。

 

『どうか聞き届けてほしい

 Doch deine Bnten,

 

 世界は穏やかに安らげる日々を願っている

 Herr, verehren Das sanfte Wandeln deines Tags.』

 

憎悪に()れ、憤怒に(まみ)れてなお。

時よ止まれと狂い泣き叫ぶのは、女神に託された神の責務を果たすため。

 

どこまでも狂おしく、どこまでも愚直で――誰よりも彼女を愛していたから。

 

「自由な民と自由な世界で

 Auf freiem Grund mit freiem Volke stehn.

 

 どうかこの瞬間に言わせてほしい

 Zum Augenblicke duerft ich sagen 」

 

だからこそ、藤井蓮は目の前の男を斃すのだ。

 

悔しいことに、彼の激情(あい)を尊いものだと認めたから。

あんな無惨な姿になってなお、幻想(えいえん)現実(せつな)を取り違える事のない姿に感動すら覚えたから。

 

『時よ止まれ 君は誰よりも美しいから

 Verweile doch du bist so schon――

 

 永遠の君に願う 俺を高みへと導いてくれ

 Das Ewig-Weibliche Zieht uns hinan. 』

 

そう、だから彼は黄昏(かこ)の復活を求めない。

女神の愛は永遠で、彼女への愛も永遠だ。

 

失くしたものは帰らない。

彼女の愛は汚せない。

 

だから……

 

Atziluth(流出)――」

 

この刹那に、守護者(あい)超越()えよう。

 

Res novae――(新世界へ)

 

新世界へと、未来を託そう。

 

「    語れ超越の物語   」

『 Also sprach Zarathustra 』

 

これが彼らの、女神へ捧ぐ愛の証明。

 

『我は夜都賀波岐が将、天魔・夜刀! かつて藤井蓮=ロートス・ライヒハートと呼ばれた我が神咒()において、女神の治平を生む礎となろう』

 

水銀を思わせる白蛇の如き衣装を脱ぎ捨て、甲冑の背に八枚の断頭刃を廻す煉獄の神。

未だ若く、荒々しく。故にこそ可能性に満ち溢れた女神の伴侶が迎え撃つ。

 

『さぁ――吼えろよ新鋭!』

()かせよ負け犬!」

 

時間停止(ことわり)が馴染み境界が不明瞭だったはずの、紅蓮と水星の覇道が牙を剥く。

両者が共に主たる無間大紅蓮地獄が、もうひとりの主を呑み込むべく侵攻を開始した。

 

 

 




ナイスなタイトルが思いつかなかった……


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