春秋の恥さらしネタ帳   作:春秋

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納得できない事があっても深く追求してはいけません(¬д¬;)



夏のひとひら3

 

 

ラウラとシャルが撃ち抜かれた。

鈴が俺を庇って撃墜された。

 

セシリアが腕を刺し貫かれ、今まさに生命を脅かされようとしている。

ダメだ。これはダメだ。そんなことを、させてはいけない。

 

眼を見開け。

現実を見据えろ。

出来る事を考えるんだ。

 

白式のエネルギーが尽きた?

だからどうした!

 

ご大層なIS(よろい)がなければ、大切な仲間の盾にすらなってやれないのか。

そんな無様を、彼女らの前で晒せる訳がないだろう――!

 

このまま大地に突っ伏して、仲間の敗北()を見届けるだなんて。

俺は、■■(おれ)は――そんな結末なんて認めない!

 

Assiah(活動)――吼えろ白き威装(びゃくしき)ぃ!」

 

白式のコアと繋がった(・・・・)のが解る。

そしてこの右腕の相棒は、俺の意思に応えてくれた。

 

動力源を失ったはずの装甲に、白の輝きが灯った。

雪片・弐型も展開装甲が復活し、シールドエネルギーを喰い破る消滅の力が宿っている。

 

(……やれる)

 

根拠もなく確信し、その場に立ったままサイレント・ゼフィルスに斬りかかる。

空振りしたはずの剣は、紅椿の『空裂』が如く攻勢エネルギーを飛ばす。

 

飛来した斬閃が、セシリアに襲いかかろうとしていた敵機を切り裂いた。

 

「俺の仲間は、誰一人として殺させやしねえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日と言えば、話をしておきたいのだが……」

 

誕生日――箒の誕生日にあった、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の一件。

 

「あの時は通信が繋がっていなかったし、お前の記憶も曖昧だったようだから胸に秘めていたが、今日の襲撃でお前が使った力は……」

 

言い淀む箒に、気が引けながらも答えを告げる。

 

「ああ、今日はハッキリと覚えてるし、前の事も思い出した。今日のあれも前のあれも、俺じゃない俺の力だ」

「一夏じゃない、一夏……」

 

“ああ、無論だとも。君が篠ノ之箒であるように、我もまた織斑一夏である事に変わりはない”

 

かつて彼の口から聞いた、不可思議な声音を思い出す。

 

「夢を、見るんだ」

「夢?」

「変な夢」

 

そして怖い夢。

 

影絵のような男と、悪魔のような男と、日常を愛する狂人。

業火のような愛を求める女、絶対の死を求める男、死生(ぼせい)踏破(ほうよう)を求める少年(しょうじょ)

 

望まずして屍兵となった者たちが、それらを救おうとした少女らがいた。

吸血鬼に成りたかった男がいた。愛する者との別れを嘆いた女がいた。

 

断片的にしか思い出せないが、それでも悍ましいとすら思えるその一幕。

それらが、現実にあった事(・・・・・・・)だなんて……

 

「今日のアレで、なんとなく分かった。アレは前世の俺なんだ」

「輪廻転生――元は仏教用語だったか」

 

輪廻転生、それには言い知れぬ多幸感を抱いてしまう。

恐らく、それも前世に関係する言葉なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名は、織斑(マドカ)――」

 

姉の生き写したる少女は静かに、懐から取り出した銃口を向ける。

 

「円環を意味する我が名の由来は、永劫に繰り返す回帰の理」

 

言葉の意味は理解不必要(わからない)が、その敵意と殺意だけは痛いほどに伝わってくる。

 

「双頭の蛇として生み出された、お前の半身だ織斑一夏!」

 

言葉尻に合わせて発砲。

咄嗟に展開した白式の装甲で弾き飛ばす。

 

マガジンの中身をすべて吐き出すと、不要とばかりに投げ捨て生身で疾走してきた。

 

しかし、一夏は更に警戒を強める。

そんな暴挙を行うからには、何らかの策略があるに違いない。

 

ignition(術式駆動)――!」

 

それは彼女の一言で確信した。

 

宣言により明らかに威圧感が跳ね上がったのだ。

一夏は本能的に雪片を展開し、流れるように()を起動させる。

 

Assiah(活動)――零落白夜!」

「判断は良いが、力が足りない!」

 

零落白夜に手刀を繰り出したことにも驚愕したが、次に更なる驚きが訪れた。

物理エネルギー以上の何か(・・)を秘めた今の雪片を、素手で受け止め防いでいる――!

 

それはつまり、相手も同種の力を使っているという事で……

 

「聖餐杯、というらしいな。この術式の元となった者は」

 

チクッ。

頭のどこかに、その名前が引っかかる。

間違いない。前世の俺が知っている名前だ。

 

「ただ固く、堅く、硬く。決して壊れぬ不滅の肉体、貴様にこの装甲が貫けるか?」

 

不敵に笑う姉に近似した顔を前に、一夏は相手を睨むくらいしか出来ない。

現在持ちうる最高の手札・切り札を、こうも簡単に阻止されたのだ。

 

勝てないと、そう悟った。

 

「蛇は疲弊し眠っているらしい、貴様に私は殺せない! ここが貴様の死に場所だ!」

 

勝ち誇った勝利宣言に対し割り込んだのは、彼の親友の声だった。

 

Yetzirah(形成)――」

 

咄嗟に飛び退くマドカだが、その程度では逃れられない。

青白い十字剣の弾丸が、彼女をその場に縫いとめた。

 

Kaiser Wilhelm Heilige Kreuz(皇帝追悼の聖十字架)

 

一夏は信じられない思いで、背後の声に振り向く。

 

無造作な赤髪、トレードマークとも言えるバンダナ。

五反田弾が、そこにいた。

 

「十字架は神の子を磔刑に処した聖なる遺物。カイザー・ヴィルヘルム教会に設置されていたそれは、多くの信仰を吸っていた。ただでさえ折り紙つきな拘束力だ、形成位階のお前には逃れられやしねーよ」

 

めんどくさいとでも言いたげな口調で、散歩でもしているような気楽さ。

日常そのものな顔をしながらも、日常では決して垣間見せなかった姿だった。

 

 





Kaiser Wilhelm Heilige Kreuz
カイザーヴィルヘルム・ハイリヒクロイツ。教会の屋根にある十字架、√次第でベイ中尉に止めを刺した凶器。07版ではカイザー・ヴィルヘルム教会から持ち出された聖遺物のストックという設定を知り、勢いで書いちゃいました(笑)

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