春秋の恥さらしネタ帳 作:春秋
1~4を一つにまとめました。
「アンタ、誰?」
オレのセリフだ。
お前が誰だよ、そして此処はどこだよ。
目の前にはピンクブロンドの髪を靡かせる美少女。その周囲には杖を持ちローブを着た少年少女、プラス頭が寂しいオッサン。
うん、意味がわからん。ということで、状況を整理してみよう。
まずは自分のことからだな。
オレの名前はラスク・レリーフ。美味しそうという意見は聞き飽きた。
アンサリヴァン騎竜学院に通う
竜は生まれる時は三種類に分かれており、それぞれ四速歩行の
よし、基本的な知識はこれでいいな。
次はこうなった経緯だ。
俺は地竜である相棒、オリヴィエと共に竜騎士となるべく特訓に励んでいた。
オリヴィエに乗って森を突き進んでいたら、知らぬ間にこの状況だった。
うん、やっぱり意味がわからん。
「ぐぉおおお――!」
「っと、どうどう、落ち着けオリヴィエ」
俺の不安を感じ取ったのか、周囲を威嚇しだすオリヴィエ。
それに反応して警戒を露にするオッサン。
一瞬怯むが気丈にこちらを睨む桃色少女。
「あー、オレはアンサリヴァン騎竜学院一年のラスク・レリーフ。誰か、現状を説明してもらえないかな?」
とりあえずオリヴィエから降りて助けを求めてみよう。
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結論、ここは異世界でした。
わけがわからないよ。
あの場で唯一の大人だったオッサン――コルベールさんというらしい――の説明によると、この土地はハルケギニアという大陸にあるトリステイン王国という国である。そして大勢いた少年少女はこの国に建つトリステイン魔法学院という貴族の全寮制学校で、貴族の血統のみが使える魔法という能力を育てる施設なのだとか。まぁそういう意味ではアンサリヴァン騎竜学院と同じ思想ともいえる。
そしてオレがあの場にいた理由だが、貴族の少年少女による使い魔召喚の儀という奴なのだそうだ。メイジ(貴族≒魔法使い)が運命を共にする使い魔を召喚し、契約する儀式。オレはその使い魔候補として召喚された。簡単に言うとあの桃色少女が竜飼い人でオレが相棒ってことだ。
嫌だよ。
いくら稀に見る美少女だからって気位高そうでこっちを睨んでくるし。でも話を聞くに此処は異世界、しかも月が二つあったので多分間違いない。そんな右も左も分からない土地で少なくとも衣食住は提供されるとなれば、大人しく従うほうが利口だろう。
幸いにして向こうはオリヴィエを送り返したオレを見て異郷のメイジだと思ってくれたらしく、そうそう酷い目にも会わないだろう。
いざとなればオリヴィエに乗せて貰って抜け出すのもありだしな。
という訳でオレは桃色少女――ルイズの使い魔となったのである。
唇はやーらかかったけど左手痛い。
ゼロの竜騎士2
「さっさと起きなさい使い魔、朝食の時間よ」
朝からイラッと来る発言で目が覚めた。
第一声からしてこれとは、先が思いやられる。
ただでさえ床に敷いた藁の寝床で一夜を過ごしたのだ、反骨心や反逆心の一つや二つは目覚めて然るべきだろう。
「おはよう御主人、いい朝だね」
「まったくね。これでアンタが早起きだったらもっと良かったけど」
「それは悪うございました」
目の前におわす桃色の髪をした美少女、ルイズ・フランソワーズ……なんちゃらは、公爵家のご令嬢らしい。
いくら異国のメイジとして認識されていても、爵位なんて持ち合わせていない俺は平民の扱いとそう変わらない。
いや、これでも高待遇だってことは分かってるんだけどね。
「はぁ、なんでアンタみたいなのが召喚されるのよ」
「はぁ、なんでオレみたいなのを召喚するのかね」
視線をルイズの顔から左手に向ける。
そこにあるのは七文字の文様、使い魔のルーンという奴らしい。
次に右手へ移動する。
そこにあるのは円とその中に収まる竜頭の紋章。竜飼い人に刻まれた星刻だ。
両手の甲にこんなのがあると、自分を特別視してしまいそうだ。
うん、我ながらカッコイイと思う。男の子ならカッコイイものに憧れるのは当然だ、英雄視されたいのも当然のことなのだ。
まぁ、異世界に召喚されて使い魔になってる現状からして、特別には違いないのだろうが。
「何してるの、早く行くわよ」
「へいへい、お供しますよマイマスター」
「よろしい」
さぁて、楽しい朝ごはんがオレを待っている!
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「っと、思ったんだけどなぁ」
「何をブツブツ言ってんのよ、煩わしいわ」
床に腰を下ろすオレ。
椅子に腰掛け見下すルイズ。
目の前には具のないスープと硬いパン。
ルイズの前にはスープにサラダにお肉にパン。
まぁ食いもんに文句がある訳じゃないが、彼我の差が激しすぎてテンション下がるぜ。
あとせめてテーブルで食事をしたかった。
「ん、味は悪くない。ってか美味い」
内容が質素だから比べようもないが、学院(アンサリヴァンの方)の食堂に慣れてるオレが美味いと思えるってことは相当だろう。
この学院も他国から留学生を招いてるって話だし、やっぱり諸々の水準は同じくらいなのだろう。
「ここの料理長は王宮に勤めてた事があるって聞いたし、腕はいいはずよ」
「へぇ、流石にここまで大きい学院ならそういう人を雇ってんだなぁ」
要チェックだ。
機会があればゴマをすりに行くのも手だろう。
主に食事事情を改善するために。
「なぁ御主人、ちょっとその肉を分けては――」
「もらえる訳ないでしょ」
「じゃあそのタレ、タレだけでいいから」
「嫌よ気持ち悪い、ご飯を恵んであげてるんだから我慢なさい」
うん、やっぱりゴマすりに行こう。
俺の食事事情改善のために。
ルイズが口にしているあの食事を恵んでもらうために!!
ゼロの竜騎士3
「ラスク、アンタのドラゴンであのサラマンダー蹴散らしてくれない?」
「いきなり物騒だなルイズよ」
朝食を終えて教室へ向かう途中、ルイズの知己に出会った。
褐色の肌と豊満な肢体を持ち、燃えるような赤髪が綺麗な美女だった。
キュルケと名乗った彼女はツェルプトーという家の娘で、ルイズの生家であるヴァリエール公爵家とは因縁の間柄らしい。彼女の使い魔はサラマンダーという火属性のトカゲであり、この周辺の地域では非常に珍しい種族なのだとか。
それに業を煮やした家の桃色少女がプッツンしてしまい、地竜であるオリヴィエを召喚して件のサラマンダー――延いてはツェルプトー家のキュルケさんに一泡吹かせてやれというお達しなのだった。
まぁいかにサラマンダーといえど所詮トカゲに過ぎない。
竜のオリヴィエとは格が違うので、やろうと思えば簡単なことだが。
「だが断る」
「あんでよ、主人の命令が聞けないって言うの?」
「オレはそんな可哀想な事なんてしたくない。それにこんなところに呼び出したら、下手すると床が自重で抜けかねない」
竜は重たいんだぞ。
あの巨体だから分かると思うがな。
「ねぇ使い魔さん、ヴァリエールの小娘なんて捨ててアタシの所へ来ない? 可愛がってあげるわよ?」
「ラスク!」
「この通り、御主人に殺されそうだから遠慮しとくよ」
ルイズ怖い。
美人が怒ると怖いっていうけど、あの端正な美貌がまるで鬼神のようじゃないか。
竜も恐れ戦いて逃げ出す迫力だったぞ。
「もうゼロのルイズったら、使い魔からの信頼度もゼロなのねぇ」
「ツェルプトー! アンタねぇ……」
「あらごめんなさいな、ゼロのルイズ。本当の事を言って悪かったわ」
「く、ぬぬぬ、ヴァリエール公爵家三女の私をよくも、目に物見せてやるわ!」
「アタシは火のトライアングルなのよ? ゼロのアナタにどうこう出来るかしらね?」
煽るキュルケにから回るルイズ。
キュルケさんはからかい半分のようだが、ルイズは本気で目の敵にしてるな。喧嘩するほど仲がいいとは言うが、これじゃまるで姉妹喧嘩だよ。っていうかさぁ……
「お前らー、教室行かねーのー?」
廊下で喧嘩は迷惑だと思います。
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メイジにはそれぞれ二つ名という物があるらしい。
先ほどのキュルケさんの場合は微熱。
そして彼女が口走っていたゼロのルイズというアレ、そのゼロというのがルイズの二つ名なのだとか。意味はそのまま
何をやっても爆発を引き起こす異端児。
メイジであるなら誰でも使えるコモンマジックという種別のものから、五つ(一つは失われたらしいので実質四つ)に別れた系統魔法まですべからく。「ロック」で爆発、「ライト」で爆発、「錬金」で爆発、「ファイアーボール」で爆発。そうして付いたのがゼロの蔑称なのだとか。
しかも王家に連なる公爵家のご令嬢ということで距離を取られ、整った容姿と高い成績も合わさって孤立状態に近いらしい。それを思えば今朝のキュルケさんのからかいも、ルイズを気に掛けている証拠と言えるかもしれない。ルイズによれば16である彼女より二つ年上とのことらしいので、印象通り妹分みたいに思っているのかもしれない。
まぁそれは一先ず横に置いといて、だ。
「早いとこ片付けないとなぁ」
ルイズが「錬金」の魔法で爆破したこの教室を掃除しないといけない。トホホ(泣)
ゼロの竜騎士4
「アンタも私のことバカにしてるんでしょ?」
なんとなく無言で片付けていると、ルイズから声がかかった。
「はぁ? いきなりどうしたよ」
「惚けないで! 私はゼロ、魔法の一つもちゃんと使えない落ちこぼれ。どんなに虚勢を張っても、これがアンタを
幻滅したでしょ、と呟き影を背負うルイズだが、コイツは勘違いをしている。
「アホかお前は。幻滅も何も、最初からお前の評価は底辺だっての」
「なっ! ここは普通慰める所でしょ! ほんっと空気読めない平民ねアンタ!」
「人を何処ともしれない土地に召喚した誘拐犯が何言ってんだ」
こちとら家族友人と訳も分からぬまま引き離されてるっての。
慰めてもらえるだなんて自意識過剰も甚だしい、頭髪だけでなく頭の中身まで桃色少女め。
「オレを召喚したのはお前で、オレが契約したのもお前だ。グダグダ
「……文句言うか慰めるかどっちかにしなさいよ」
「慰めてねぇ、当然の事を言ってやっただけだ」
「素直じゃないわね」
「お前が言うな」
互いに顔も見ず掃除に勤しみながらだが、考えなくても口が勝手に動いている。
使い魔に選ばれるくらいなんだから、結構相性が良かったりするのかねぇ。
「ありがと……」
「ん……」
昼食は並んで食べたとさ、まる
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「で終わってればそこそこ美談だったと思うんだけど」
せっかくルイズの態度が軟化して椅子に座った食事ができたのに、いい気分が台無しだ。
原因は目の前の男。ナルシストっぽい言動のギーシュという金髪少年が、二股をやらかしたことにある。学院で働くメイドが彼の落とした香水を拾った所、それが二股をかけられていた少女の一人による贈り物だったらしく、あれよあれよという間に二股が発覚しギーシュ少年が晒し者となった。
それに腹を立てた彼は件のメイドに罪を擦り付けて八つ当たりし、鬱憤を晴らそうという事で騒ぎが起きたのだ。
見過ごせなかったオレは乱入、そして現在に至る。
「諸君、決闘だ!」
「いいね、勝者こそ正義ってのは分かりやすい」
「まさか貴族に歯向かって勝てる気でいるのかい平民君?」
「勝てるかどうかと戦うかどうかは別問題だろう魔法使い?」
「いい啖呵だ、ではヴェストリの広場にて決闘を執り行おう」
そして決闘場たる広場に到着。
「ちょっとラスク、大丈夫なの?」
「ああ、手はあるからな」
「……勝てるの?」
「ああ、負ける気はしない」
「怪我したらご飯抜きだからね」
「かすり傷くらいは許してくれよ?」
「だーめ」
なんと、本当にノーダメージじゃないと飯抜きかよ。
こりゃさっさと終わらせるしかないな。
「準備はいいかい平民?」
「ああ、いつでもいいぜ貴族様」
「では、ワルキューレよ!」
呪文と共に杖をひと振りすると地面から金属製の女騎士が生まれる。
「僕は貴族だからね、もちろん魔法を使わせてもらうよ? よもや嫌とは言わないね?」
「ああ、構わないぜ。ならオレも」
右手に刻まれた星刻に意識を傾ける。さあ来いオレの相棒、あの二股男の鼻をへし折るぞ。
星刻の輝きと共にオリヴィエが召喚される。
「オレは竜使いだからな、もちろん竜を使わせてもらうぜ? まさか文句はないだろう?」
「な、なななっ!」
コイツはオレが召喚された場にいなかったのだろう。
オレが跨がるオリヴィエを見て、顔の血の気が引いている。
「くっ、僕も貴族だ、決闘から逃げはしない!」
「アンサリヴァン騎竜学院所属の一年、ラスク・レリーフ。付いたあだ名が
「グラモン元帥が三男、青銅のギーシュ・ド・グラモン。往くぞ!」
おお、思ったより骨がある男だ。
まさかオリヴィエに立ち向かってくるとは。
だがしかし――
「ま、参りました!」
速攻で終わったけどな。