翌日。紅葉side
「いいか、みんな! 今日は思いっきりボールを追ってこい! 革命も使命も関係ないサッカーを楽しむんだ!」
翌日の朝、河川敷のグラウンドに集められたボクらを見渡して、円堂監督が言った。天馬くんの話によれば、対戦相手は木枯らし荘のサッカーチームらしい。
革命も使命もないサッカーか……。私的な試合なら、確かにフィフスセクターも首を突っ込めないだろう。
「背負うものがない試合か……」
「忘れてたな、そういうサッカー!」
拓人が呟けば、三国先輩が笑顔で続く。2人共、嬉しいのが声音でわかった。天馬くんも隣にいる見たことのない少年に声をかける。
「面白くなりそうだね!」
「ああ! ……好きにやっていいのか……」
「?」
ボソリと呟いた声に、ボクはその真意を図りかねていた。じーっと見つめる視線に気が付いたのか、少年がボクを見下ろす。
「あんた……」
「ん?」
「あ、そっか。狩屋は知らないよね」
見つめ合うボクらに気付いて、天馬くんがボクらの間に入る。天馬くんが、「ほら、挨拶しなよ」と促す。
「初めまして……狩屋マサキです」
「狩屋、この人は於野紅葉先輩だよ。昨日話しただろ?」
「ああ……この人が、めちゃくちゃサッカーが強いっていう」
「於野紅葉です。よろしくね、狩屋くん!」
にこっと微笑み、右手を差し出す。初めて会う人には、笑顔と握手が一番良いって楓が言ってたもんね!
狩屋くんも、にこりと笑みを浮かべて握手を返してくれる。予想はしていたけど、やっぱりボクより身長が高いなぁ……ぐすっ……。
ボクらの元に、蘭丸が歩み寄ってきた。そして、狩屋くんを真っ直ぐ見つめて言う。
「狩屋。昨日みたいに強引なプレーは、相手に付け入る隙を与える。……気を付けろ」
「…………」
狩屋くんは不満げな表情を浮かべていた。そういえば、蘭丸の表情も、何だか冷たい……?
一体、何があったんだろう。2人の間で、ボクは首を傾げるしかなかった。
すると、突然狩屋くんが、ボクに抱きついてきた。蘭丸も驚いて、目をみはる。
「‼︎」
「わっ⁉︎ ちょ、狩屋くん……?」
「マサキ」
「え?」
耳元で、小さく呟く狩屋くん。少しくすぐったかったけど、混乱からか、ボクは聞き返していた。
狩屋くんは少し離れて、にこりと微笑んでいた。
「俺のことは、マサキって呼んで下さい」
「え? あ……うん。いいよ、マサキ」
「ありがとうございます。それにしても……先輩可愛いですね!」
「はい⁉︎ え、ちょっ!」
「おい、狩屋‼︎」
マサキはまた、ぎゅーっとボクを抱きしめる。蘭丸の制止も戸惑うボクも、完璧無視。
ていうか、何を言ってるんだいマサキ。ボクなんかよりも葵ちゃんたちの方が何十倍も可愛いよ。
でも、弟みたいに甘えてくるのが可愛くて、ボクはマサキの頭を優しく撫でた。そしたら、マサキはさらに強い力でボクを抱きしめた。
「……あの、マサキ。ちょっと苦しい……」
「あ。すみません、紅葉先輩」
ニコニコ笑顔を絶やさず、マサキは離れていった。その後天馬くんがマサキを呼んだため、ボクは蘭丸と共に残された状態になった。
マサキの後ろ姿を見てから、蘭丸がボクに近寄る。
「大丈夫か? 紅葉」
「うん、全然平気さ。ふふ、マサキって可愛いね。弟みたい」
「………………」
「さ、ボクらも行こうか!」
そう言って歩き出そうとした途端、パシッと手首を掴まれ、後ろに引っ張られる。体勢を崩しかけたところを、背後にいる人物に抱き止められた。
「蘭丸……?」
背後で倒れかけたボクを支える蘭丸を、見上げる。蘭丸は、何だか辛そうな顔をしていた。
「蘭丸?」
「……紅葉。あいつには……狩屋には、気を付けろ」
「え? ちょ、蘭丸……」
蘭丸はそれだけ言うと、ボクから離れて歩き出した。呼び止めようと手を伸ばすが、何だか引き止めてはいけないような気がして、その手は何も掴むことは出来なかった。