巫女なボクと化身使いなオレ   作:支倉貢

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第51話 木暮との再会

「それって、いじめじゃないですか!」

 

今までのことをみんなに話し終えたところ、天馬くんが第一声を発した。ボクは天馬くんの言葉に、どういう意味かと首を傾げて尋ねる。

 

「いじめって、何だい? 天馬くん」

「えっ……紅葉先輩、知らないんですか?」

「うん。こうやって外の世界に出たのもここ最近だしね」

「そ、そうなんですか……あ、そういえば、そうでしたね……」

 

天馬くんは独りごちると、今ボクがどういう状況に置かれているかを教えてくれた。

話はまあまあ長かったので、要点を簡単にまとめると、ボクは周りの多くの人たちに嫌われているということ。だから、その人たちはボクを貶めたいという事らしい。

 

「ふーん。でも何で?」

「……お前って、本当に能天気だな」

「うるさいなぁ!」

 

蘭丸の呆れたような声にカチンときたボクは、蘭丸をベシッと叩いた。そんなボクらの様子を見て、倉間くんも肩を竦めた。

 

「何さ」

「いや……。いじめに遭ってるっていうのに、相変わらずの能天気で呆れてる」

「もう! 倉間くんまで! ボクそんなにおバカじゃないよ?」

「いや……ただのバカだろ」

 

冷静に剣城くんからもツッコまれ、口を噤む。ゔっ、剣城くんに言われたら何も言い返せないじゃないか……。

三国先輩が、腕を組みながら呟く。

 

「しかし……紅葉が実際にいじめられているのが分かったから……先生に言った方がいいんじゃないか?」

「大丈夫ですよ、三国先輩!」

 

三国先輩の提案を遮って、ボクは立ち上がった。速水くんが、ボクを咎める。

 

「で、でも、もしかしたらまた……」

「大丈夫だって! これはボクに対しての挑戦みたいなものでしょ? 上等だよ! 絶対、負けないもんねっ!」

 

心配そうな目を向けるみんなに、ボクは明るく笑ってみせる。それを見た拓人が、ふっと小さく笑みをこぼしたのを、ボクは見逃さなかった。

いじめってあまりよくわからないけど……でも、寄ってたかってきたって、ボクは負けないもんね! かかってこい! ボクがやっつけてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青木side

練習終了後、イレブンを解散させた私たちは、円堂さんと新しくコーチに就任した鬼道さんと肩を並べて歩いていた。

今日は、本当にいろんなことがあった。

一つは、鬼道さんが雷門のコーチとなったこと。これからの強敵との戦いに向け、チーム強化のためにも、鬼道さんの存在は大きい。

二つは、新入部員。狩屋マサキと名乗る彼は、実を言うと私の知り合いだ。というのも、以前お日さま園に足を運んだ際に知り合った。元々警戒心の強い彼は、昔の私に少し似ていた。そのためか、意外とすぐに打ち解けることが出来た。

……まったく、いつの間に猫をかぶるなんてマネを習得したのだろうか。保護者は何をやってるのかしら……。

そして三つ。紅葉が、先の海王学園戦が原因でいじめに遭ったこと。紅葉の件については、私も警察として見逃すワケにはいかない。だが、今の校長と理事長はフィフスセクターから配属されているため、警察(こちら)の捜査に協力してくれるかどうか……。それに、フィフスセクターに従うことが正義とされているこのご時世、内部からも大きな反感を持たれるだろうな……。

私は一つ、溜息をついた。それに気付いた円堂さんが、私を見る。

 

「どうしたんだ?」

『いえ、何でもありません』

「そうか?」

『ただ、こうしてお二方が並んでいるのを見ると、懐かしくて』

「懐かしい? ああ……確かにそうだな」

 

鬼道さんが私の言葉を受けて、ふっと笑う。こうしていると、すぐに10年前を思い出す。何も考えずにただひたすらボールを追いかけ、一喜一憂したあの日を。

そんなことを思いながら前を向くと、見覚えのある髪型をした人を見た。円堂さんも気付いたらしく、声を上げる。

 

「ん……? あれ? 木暮?」

 

背中で声を受けたその人も、振り返った。そして、私たちを目を見開いてこちらに注目する。

 

「……ええっ⁉︎ 円堂さんに鬼道さんに、青木さん⁉︎」

「やっぱり木暮かー! 久しぶりだなぁ〜」

 

その人物は、木暮さんだった。背丈や顔立ちは少しばかり変わったものの、あの髪型は変わっていないらしい。それにしてもスーツか……あまり似合わないわね。

円堂さんが木暮さんに駆け寄ってきたのを見て、私も小走りで円堂さんに続く。

 

「あ、そうそう! 俺今、ここに勤めているんです」

「おおっ、頑張ってるじゃないか」

 

木暮さんは私たちに一枚ずつ名刺を差し出した。それに、目を通す。それを見た途端、私はメモ帳を取り出し、ペンを走らせた。

 

『ここって確か、過去に汚職事件があったところじゃ……』

「えっ⁉︎」

「ええええ⁉︎ え、いや、青木さん! なんてこと言ってんですか‼︎」

『冗談です』

「はあ⁉︎ もう……。あっ、ちょっと失礼します」

 

木暮さんのリアクションを見て楽しんだところで、木暮さんの携帯に着信があった。いやはや、人を騙してその顔を見るのはやはり楽しいものだわ。

くくっと肩を震わせながら笑っていると、隣にいる鬼道さんがフッと笑ったのを見た。

 

「相変わらずだな、お前も」

『そうでもありません』

 

鬼道さんの言葉に、ニヤリと笑って返す。

そう。私も変わった……はず。円堂さんたちと自ら距離を置いてから、自分がどれだけ円堂さんたちの空間に頼ってしまっていたかがわかった。自立するためにも、いい経験だったと今では思える。

 

「あ、どうも! 明日の件ですね、はい……はい、は……ええっ⁉︎ キャンセル⁉︎ そんな、急に言われても……! もしもし、もしもーし!」

 

どうやら、不穏な空気の会話だ。ドタキャンされたらしい。何の都合かは知らないが。電話が切れたらしく、木暮さんはがっくりと肩を落とした。

 

『仕事の件ですか?』

「いえ……あ、円堂さんは雷門中の監督になったんですよね?」

「ああ……?」

 

いきなり円堂さんに話を振ったと思ったら、今度はご機嫌に笑った木暮さん。

 

「うっしっしっしっ……! さあ、行きましょ!」

「え、どうしたんだよ木暮……? おいっ!」

 

木暮さんは円堂さんの腕に抱きつき、どこかへ連れて行こうとする。彼氏に甘える女子か、とツッコミを入れたかったが、声が出ない分、すぐには届かない。ペンを走らせるのにも、時間がかかる。

まあ、それはどうでもいいとして……木暮さんのあの笑い声は、あまり良くないことが起こる前兆である。過去の事例が良い例だ。

私は少しイヤな予感を覚えながらも、置いてきぼりにされた鬼道さんと顔を見合わせ、彼らの後ろについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして連れてこられたのは、私や松風が住む木枯らし荘だった。

……あ、そうか。木暮さんここに住んでるんだった。忘れてた。

木暮さんは門の前で立ち止まると、玄関前で掃除をしている秋に声をかける。

 

「おっ、グッドタイミング!」

「おかえり、木暮くん。あ、青木さんも」

「なんだ、秋のアパートに住んでんのか」

「はい、いろいろと節約できるんで」

 

こんな会話を交わしていると、もう一人の声が聞こえてきた。

 

「監督、青木さん、鬼道コーチ⁉︎」

 

犬小屋にいるサスケと遊んでいた松風が、立ち上がった。そしてさらに、この近くには、10人ほどのユニフォームを着た大人が……。

ーーああ……なるほど、そういうことか。

確か、木枯らし荘には秋空チャレンジャーズという住人で結成したチームがある。私は入っていないけれど、木暮さんは、このチームのキャプテンだったはず。

そして、円堂さんは雷門中の監督……。ここまで言えば、察しのいい人はわかるわよね?

木暮さんが、チームメイトに向かって、円堂さんを紹介する。

 

「この人は、雷門中学の円堂守監督です。

 

 

 

 

 

……明日の、対戦チーム」

「ええっ⁉︎」

「「ええーっ⁉︎」」

 

予想外の出来事に、円堂さんと松風と秋は、一緒に叫んでいた。


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