巫女なボクと化身使いなオレ   作:支倉貢

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第49話 俺が守る

天馬side

いつもの、部活の時間。俺はユニフォームに着替えて、今日転校してきた狩屋と一緒に話してた。

いつもの、部活の時間。なのに、今日は何かが違った。俺の動揺に気が付いたのか、信助が俺を見上げる。

 

「紅葉先輩……遅いね」

「うん……」

 

いつもなら、とっくに来て着替えてるはずの、紅葉先輩がいない。俺と、いつもどっちが早くグラウンドに着くか競争していたのに……。

 

「……紅葉先輩に何かあったのかな?」

 

紅葉先輩は、ついこの間フィフスセクターの手によって、怪我を負わされた。何があっても、おかしくない。もしかしたら、今頃……。

イヤな予感が、頭をよぎる。俺はいてもたってもいられなくなって、走り出した。

 

「天馬⁉︎ おい、どこに行くんだ!」

「俺、紅葉先輩を探してきます‼︎」

「僕も行く!」

「……俺も行く」

 

キャプテンの制止を無視して、俺と信助と剣城は部室から出て、紅葉先輩を探しに行った。紅葉先輩、無事でいて下さい……!

 

 

 

 

 

 

「紅葉先輩ーー‼︎ 紅葉先輩ーー‼︎」

 

大声で四方に紅葉先輩を呼び叫ぶが、紅葉先輩は見当たらない。返事もない。姿もない。別の辺りを探していた信助が駆け寄ってきた。

 

「信助! 紅葉先輩、いた?」

「ううん、いない! もっと遠くかな? もぉ〜この学校広いよ〜! 探し切れないよ!」

「でも……絶対、探し出さなきゃ! 紅葉先輩にもしものことがあったら……‼︎」

 

俺がもう一度、辺りを探しに行こうとしたところを、俺の正面から走ってきた剣城が引き止めた。

 

「天馬、いたぞ」

「ホントか⁉︎ よし、すぐ行こう!」

 

駆け出しかけた俺を、また剣城が俺の腕を掴んで引き止める。

 

「なんだよ、剣城!」

「……っ」

「? ……どうかしたの?」

「……俺が行ってくる。お前らは戻ってろ」

「え⁉︎ でも、紅葉先輩が……!」

「お前らが行くとややこしくなる。あとは俺に任せろ」

「……うん、分かったよ。剣城、紅葉先輩のこと、よろしくね」

「ああ。分かった」

 

剣城side

天馬たちを練習に戻らせ、俺はまた紅葉を探しに行った。あいつの寂しい気持ちや、折れそうなほど真っ直ぐな心は、誰よりも俺がよく知っている。あいつは、俺が楓さんから託されたんだ。だから、俺が必ず守る。

まだ見に行ってないところをくまなくチェックし、紅葉の姿を探した。日は既に傾き、練習ももうそろそろ終わるかという時間だ。

こんなに探しても見つからないなんて、きっと何かがあったに違いない。この不安が、俺の脳裏に最悪の結末が浮かび上がらせててしまう。

そんなこと、絶対にさせない。あいつは、俺が守る。

 

 

 

 

 

 

あれからまたずっと探し続け、中庭の植え込みの前に小さな影を見つけた。

ずっと探していた、あの見慣れた小さな影。

 

「……紅葉」

「……………………」

 

紅葉は項垂れ、ただ静かに力なく座っていた。こんな力ない彼女を見るのは、これで2度目だ。俺は紅葉の肩に手をかけ、振り向かせた。

 

「何でここにいるんだ。今何時だと……」

 

紅葉の顔を見た瞬間、言葉を失った。

目元には濃く残った涙の痕の上から、さらに堰を切ったように涙がボロボロとこぼれていく。金色の雫が、傾いた日差しを反射し、光り輝いていた。紅葉はただ泣いていた。しゃくりあげることもなく、大声で叫ぶこともなく。ただ、大きな目から涙を流しているだけだった。

 

「紅葉……?」

「…………」

「何があったんだ?」

「…………」

「何で泣いてるんだ?」

「…………」

 

何を尋ねても、何も答えない。紅葉はただただ泣いていた。何も喋らない紅葉に痺れを切らし、俺は彼女を連れて行こうと、無理矢理紅葉の腕を引っ張った。

 

「っ‼︎ やぁあぁああ‼︎」

「⁉︎ 紅葉……?」

 

突然暴れて俺の腕を振り払った紅葉は、バランスを崩し植え込みに倒れ込んだ。俺は紅葉に手を伸ばすが、紅葉は拒むように堅く目を閉じ、下がっていく。

 

「何があったんだ、紅葉。話してくれないか?」

「…………」

 

なるべく優しい声音で、彼女を安心させようと話しかける。紅葉は涙を拭いながら、口を開けようとして、躊躇したのか閉じてしまう。これを話していいのか、紅葉は自分の中で迷っているようだった。

 

「話してくれ。黙っているだけじゃ、俺には何も分からない。お前に悪いようなことは、絶対に言わない。だから、俺に話してくれないか?」

「……」

 

紅葉は震える声で、途切れ途切れに呟いた。

 

「……ボク、ばけ、ものって……。楓が、前の試合に、会場壊したからって……。だ、だから、ボクもばけものだって……」

「化け物……?」

「朝から、何か変だと思ってた。みんな、ボクを見る目が怖かった……。ひっく……やっと、分かった……。ボクが、ばけものだからっ……ボクが、みんなと全然、違うから……っぅう……っ、いなくなった方がいいって……」

「もう言うな」

 

泣きながら告げる言葉は、残酷なものだった。きっと、外の世界に出てあまり時間も経っていないから、人よりもショックが大きかったんだろう。心ない言葉というものが、どれほど人の心を抉るのかを知らない彼女にとって。

もう、何も言わせないように、俺は強く紅葉を抱きしめた。紅葉の体が、恐怖で震えているのが分かる。

 

「……大丈夫だ。お前は、化け物なんかじゃない」

「ぇ……? ほん、とに……?」

 

俺の腕の中で、俺を見上げる紅葉の手が、縋るように俺のユニフォームを掴む。涙で濡れた瞳が、少し期待の色を滲ませる。

本当だ。俺は言葉にする代わりに、頷いた。その意図を理解したのか、紅葉はまた次々と涙を流し、俺の背中に手をまわして泣きついた。

 

「うっ……う、ううっ……」

 

ずっと、怖かったのだろう。自分が、人間ではないと言われたのが。ショックで、この恐怖をどうしたらいいのか分からなくて。でも、もう大丈夫だ。そう、言葉にするのが照れ臭かった俺は、紅葉をもっと強く抱きしめた。


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