巫女なボクと化身使いなオレ   作:支倉貢

53 / 61
第47話 鬼神・楓

剣城side

紅葉が目覚めたと楓さんから聞いて、病院に1人向かっていた。もちろん、ついでに兄さんに会いに行く予定だ。

病院の入り口付近で、何人かの男に連れられた楓さんを見た。

 

「楓さん……」

「…………」

 

楓さんは俺と目が合うとこちらへ歩み寄ってきた。周りにいた男たちの制止を無視して、ただすごい剣幕で俺に詰め寄る。楓さんは俺の肩を掴み、毅然とした口調で話した。

 

「剣城……。妹を、頼んだぞ」

 

いつもの、あのふざけた口調じゃない。一体何があったのか。問いかけようとしたところ、楓さんは男たちの元に戻り、そのまま去っていってしまった。

 

「……楓さん?」

 

ただならぬ雰囲気だった。最近、楓さんの様子がおかしい。なんだか恐ろしいものだった。

そういえば、帝国戦のあの時も……。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー病院。

 

「出て行ってくれ、京介」

 

兄さんが、涙を流して紡いだ言葉を聞いたその時。

 

ガラッ‼︎

 

「⁉︎」

「‼︎」

 

乱暴にドアを開けて病室に入ってきたのは、楓さんだった。ユニフォームが少し汗ばみ、肩を上下させて俺を鋭く見据えた。楓さんは静かに俺の元にツカツカと歩み寄り、静かに俺を睨みつけていた。そして、ボソボソと何か言い出した。

 

「剣城……てめえ、どこで油売ってやがる……! てめえの場所はどこだ! あいつは、てめえをずっと待っていたんだぞ⁉︎ 今あいつの信頼に応えなくてどうすんだよ‼︎」

 

あいつ。詳しくは言わなかったけど、誰だかすぐに分かった。

紅葉だ。

 

「……京介、この人は」

「部活の先輩だ。そして……紅葉の、兄だ」

「!」

 

兄さんは、楓さんを見つめる。楓さんは兄さんの視線に気付き、頭を下げた。

 

「初めまして。紅葉の兄、於野楓です」

「……こちらこそ初めまして。剣城優一です。いつも京介がお世話になってます」

「すみません。こんな急に押しかけて。でも……どうしても、剣城……お前に戻ってほしかったんだ」

「……楓さん」

 

楓さんは俺を見ると俺の手を掴んだ。

 

「あいつは、まだお前を信じてる。お前を、待ってる仲間がいる。お前をきっと迎え入れてくれるさ」

「‼︎」

「分かったら行くぞ、剣城!」

 

ニカッといつものイタズラ笑顔を見せた楓さんの背中を追い、俺は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそれだけじゃない。海王の時もそうだった。

海王で知った事実。紅葉を襲った事故は、フィフスセクターによって仕掛けられたものだった。

それを知った楓さんの、あのオーラは…………まるで、鬼神そのものだった。

化身を発動する時よりも、さらに背筋が寒くなった。普通の人間じゃない。そう思った。

 

「許さねぇ……」

 

体から、ユラユラとどす黒いオーラが放たれる。俺はあのオーラを、ゴッドエデンで一度だけ見たことがあった。教官たちが紅葉のことを話題に出しただけで、楓さんはこのオーラを(まと)っていた。

紅葉を傷付ける奴らは許さない。愛する妹の存在。あの人は、それだけで生きていた。

昔も、今も。そして、これからも。きっと、あの人は紅葉を守り続けるだろう。鬼神のごとく、激しい怒りを宿して。

俺は楓さんの背中を見つめながら、彼の言葉に頷いた。

紅葉は、必ず俺が守る。だからあんたは……きっと、生きて帰ってきてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅葉がいる病室を訪れ、2回程ノックし、扉を開ける。紅葉が、ベッドの上で(うずくま)っているのを見た。いつもの、あの明るい天然バカな紅葉じゃない。こんな沈んだ姿は初めて見たから、どう声をかけてやればいいのか、俺にはわからなかった。

 

「……紅葉」

「………………」

「……楓さん、フィフスセクターに戻るんだってな」

「‼︎‼︎」

 

俺がボソリと言い放った言葉に、ガバッと顔を上げて反応した紅葉。泣きじゃくって、くっきりと残った涙の痕。まだ潤む金色の瞳を俺に向け、泣き足りないのか、ポロポロと次から次へと涙が(こぼ)れていく。その顔は、いつもの笑顔を映さず、ただただ泣き続けていた。

 

「知っ……てる、の……?」

「さっき、楓さんと会った。……すぐに分かった」

 

なるべく、淡々と言葉を紡ぐ。彼女を、これ以上傷付けぬように。

辛かった。こんな力ない紅葉を見るのが、初めてだったから。目の前にいるのは確かに紅葉なのに、中身がまったく違う人に見えて仕方なかった。

(あふ)れ出る涙を手で拭い、また(こぼ)れてきた涙を拭う。嗚咽を飲み込み、ただひたすら肩を震わす彼女を、俺は何も言わずに優しく抱きしめた。

 

「……」

「…………っ」

 

何をしてるんだ、俺は。自分から勝手にやっておきながら、すごく恥ずかしいことをしているような感覚に陥る。だ、大丈夫だ。た、ただ抱きしめてるだけだ。他には何もやってない。俺は何もやってない。何度も自分に言い聞かせ、落ち着かせようとするが、心拍数は上がりっぱなしで落ち着く気配がない。

女の体って、こんなに柔らかいんだ……。フカフカしてて、あったかくて、いい匂いがする……。……って、何を考えてるんだ、俺は!

でも、もっと強く抱きしめたら、壊れてしまいそうで。こんな、割れ物みたいだとは思わなかった。俺は少し抱きしめる力を強くして、紅葉の顔を俺の胸に当てた。

 

「泣きたいんだろ?」

「……」

「お前はずっと我慢してきた。こんな別れなんて、初めてだろ?」

「…………」

 

紅葉は一言も言葉を発さず、黙って頷く。俺はそれを見て、さらに続けた。

 

「別れて、悲しくて泣くのは自然だ。お前は何も気にすることはない。……だから泣け。泣きたいだけ泣け。いいな」

「……! ふっ、く…………ぅ、ううっ、ぅう……」

 

俺の胸に抱きついて、泣き出した紅葉を安心させるように、紅葉の頭を優しく撫でる。……辛かったよな。大切な人と別れるなんて。

紅葉の涙が、俺の制服のシャツに落ち、濡らしていく。泣く紅葉を、俺はずっと抱きしめて彼女の頭を撫でていた。

 




どうでもいい豆知識。
カエデは、カエデ科カエデ属の木の総称です。一般的にモミジは植物の名称ではなく、紅葉する植物の総称として用いられます。
英語ではカエデもモミジも「Maple(メープル)」と呼び、カエデの樹液からとった甘味料は「メープルシロップ」と呼ばれます。

なんか、2人の名前を見てちょっと気になって調べてみたらこんなことが分かりました。紅葉ちゃんの方が意味的にはでかかった。そして2人はメープルでまとめられる。
……メープル兄妹wwwwwwwwww
重い話題が一気にぶっ飛んだ。なんかすみません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。