太陽が出て行ってから、ボクは何があったのか思い出していた。
「えーと、確か……スーパーからの帰りがけに鉄骨が落ちてきて……ええと……」
「病院に搬送されたんだよ。それから一週間以上目覚めなかった」
「一週間も⁉︎ え、じゃあ試合は……‼︎」
「地区予選は通過した。俺たちは勝ったんだ」
楓が、縋りつくボクを安心させようと頭を撫でる。よかった。勝ったんだ……。ボクはホッとして、楓から手を放した。
「紅葉」
「なぁに?」
「俺、またフィフスセクターのところに行かなきゃならなくなった」
楓の言葉に、ボクは時が止まったような感覚に襲われた。
は……? フィフスセクターに、戻る……? 何で? ボクは目で楓に訴えた。ボクの瞳は揺れていた。
「すまない。俺が雷門に戻れたのは、一時的なものだったんだ。もう、あっちに行かなきゃ……」
「やだ……。何で、どうして‼︎ ずっと一緒にいてくれるって、言ってくれたんじゃん‼︎ 何でいなくなっちゃうの⁉︎ やだよ‼︎ ずっと一緒にいてよっ‼︎」
ボロボロと涙を
「お願い! 一緒にいて!」
「っ……紅葉…………」
「話はついたか?」
突然聞こえた、第3者の声。ハッと顔を上げると、黒いスーツを着た男の人たちが数人立っていた。楓を連れて行くためだろう。ボクは怖くて、楓にしがみついた。
「……まだだ。もう少し待っててくれ」
「それはできん。時間だ。連れて行け」
「いやっ‼︎ やめて‼︎」
楓を連れて行かせまいと、ボクは必死に楓を抱きしめた。しかし、子供対大人では力の差がありすぎる。男の人たちは、楓を押さえ込み、ボクの腕を掴んで後ろ手に拘束した。楓共々連れて行くつもりだ。
それでもいい。楓と一緒なら、どこでもいい。とにかく、離れるのは嫌だった。
だが、楓は男の人たちを振り切り、ボクの腕を掴んでいる男の人を体当たりで突き飛ばした。
「俺の妹に、触るな‼︎」
楓が、ボクを背で庇う。
「……こいつに手を出すな。俺がお前らに付き合う代わりに、妹は見逃せ。いいな」
「楓っ……行かないでよ……」
「もちろん、約束は守るつもりだ。しかし、君の可愛い妹がついていきたいと言うのなら、連れて行かせてあげたいとは思うがね」
「ふざけるな。紅葉はお前らの道具にはさせない。もう少し待て」
楓は男の人たちを睨んで、外へ追い出した。
「楓……」
目元を真っ赤に腫らして、ボクは泣く。離れたくない。ずっと側にいてほしい。ボクは言葉で伝える代わりに、楓の服の裾を握った。
楓は何も答えず、ボクを抱きしめた。
「……っ………ぅぅ……」
ああ。楓が、泣いてる。ボクを抱きしめて、ボクの胸に顔を埋めて、嗚咽を飲み込みながら、泣いてる。
「楓……」
「ふ……っぅぐっ……ぅ……」
「ぅぅっ……うぁぁああぁぁああああぁ‼︎‼︎」
こんなに2人で盛大に泣いたのは、初めてだった。
「いやだ。行かないでよっ、ずっと一緒にいてよっ」
「行きたくない。ずっとお前と一緒にいたい。お前と暮らしたいのに……っ‼︎」
ぎゅうう、とお互いの体を抱きしめる。離れないように、しっかりと。
しかし、そんな2人を引き離す、ドアが開く音が聞こえた。
「いつまでやってる。おい、早く連れてけ」
男が楓の肩を掴みに行こうとする代わりに、楓は黙って男たちの横を通り過ぎた。楓はボクを残して、後ろを振り返ることなく病室を出て行った。