巫女なボクと化身使いなオレ   作:支倉貢

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第46話 離れたくない

太陽が出て行ってから、ボクは何があったのか思い出していた。

 

「えーと、確か……スーパーからの帰りがけに鉄骨が落ちてきて……ええと……」

「病院に搬送されたんだよ。それから一週間以上目覚めなかった」

「一週間も⁉︎ え、じゃあ試合は……‼︎」

「地区予選は通過した。俺たちは勝ったんだ」

 

楓が、縋りつくボクを安心させようと頭を撫でる。よかった。勝ったんだ……。ボクはホッとして、楓から手を放した。

 

「紅葉」

「なぁに?」

「俺、またフィフスセクターのところに行かなきゃならなくなった」

 

楓の言葉に、ボクは時が止まったような感覚に襲われた。

は……? フィフスセクターに、戻る……? 何で? ボクは目で楓に訴えた。ボクの瞳は揺れていた。

 

「すまない。俺が雷門に戻れたのは、一時的なものだったんだ。もう、あっちに行かなきゃ……」

「やだ……。何で、どうして‼︎ ずっと一緒にいてくれるって、言ってくれたんじゃん‼︎ 何でいなくなっちゃうの⁉︎ やだよ‼︎ ずっと一緒にいてよっ‼︎」

 

ボロボロと涙を(こぼ)しながら、楓の腕を掴む。嫌だ。やっと見つけた、ボクの幸せ。やっと手に入れたボクの日常が、こんなあっさり奪われるなんて思ってなかった。まるで小さな子供の癇癪(かんしゃく)みたいに泣き叫ぶボクを見た楓も、悲しげな顔をしていた。

 

「お願い! 一緒にいて!」

「っ……紅葉…………」

「話はついたか?」

 

突然聞こえた、第3者の声。ハッと顔を上げると、黒いスーツを着た男の人たちが数人立っていた。楓を連れて行くためだろう。ボクは怖くて、楓にしがみついた。

 

「……まだだ。もう少し待っててくれ」

「それはできん。時間だ。連れて行け」

「いやっ‼︎ やめて‼︎」

 

楓を連れて行かせまいと、ボクは必死に楓を抱きしめた。しかし、子供対大人では力の差がありすぎる。男の人たちは、楓を押さえ込み、ボクの腕を掴んで後ろ手に拘束した。楓共々連れて行くつもりだ。

それでもいい。楓と一緒なら、どこでもいい。とにかく、離れるのは嫌だった。

だが、楓は男の人たちを振り切り、ボクの腕を掴んでいる男の人を体当たりで突き飛ばした。

 

「俺の妹に、触るな‼︎」

 

楓が、ボクを背で庇う。

 

「……こいつに手を出すな。俺がお前らに付き合う代わりに、妹は見逃せ。いいな」

「楓っ……行かないでよ……」

「もちろん、約束は守るつもりだ。しかし、君の可愛い妹がついていきたいと言うのなら、連れて行かせてあげたいとは思うがね」

「ふざけるな。紅葉はお前らの道具にはさせない。もう少し待て」

 

楓は男の人たちを睨んで、外へ追い出した。

 

「楓……」

 

目元を真っ赤に腫らして、ボクは泣く。離れたくない。ずっと側にいてほしい。ボクは言葉で伝える代わりに、楓の服の裾を握った。

楓は何も答えず、ボクを抱きしめた。

 

「……っ………ぅぅ……」

 

ああ。楓が、泣いてる。ボクを抱きしめて、ボクの胸に顔を埋めて、嗚咽を飲み込みながら、泣いてる。

 

「楓……」

「ふ……っぅぐっ……ぅ……」

「ぅぅっ……うぁぁああぁぁああああぁ‼︎‼︎」

 

こんなに2人で盛大に泣いたのは、初めてだった。

 

「いやだ。行かないでよっ、ずっと一緒にいてよっ」

「行きたくない。ずっとお前と一緒にいたい。お前と暮らしたいのに……っ‼︎」

 

ぎゅうう、とお互いの体を抱きしめる。離れないように、しっかりと。

しかし、そんな2人を引き離す、ドアが開く音が聞こえた。

 

「いつまでやってる。おい、早く連れてけ」

 

男が楓の肩を掴みに行こうとする代わりに、楓は黙って男たちの横を通り過ぎた。楓はボクを残して、後ろを振り返ることなく病室を出て行った。


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