「……ん」
目覚めて真っ先に見たのは、真っ白な天井だった。あれ? ここ、どこ……? あの時、意識を失ってから何があったのだろう。必死に、意識を失う前のことを思い出そうとする。でも、僅かな鈍い痛みの残る頭では、まともに考えられなかった。
ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。ボクはパジャマに着替えさせられ、ベッドの上に寝かされていて、どこかの部屋にいることが把握できた。
「ぅ……」
痛みに頭を押さえると、頭には包帯も巻いてあった。一体、誰が助けてくれたんだろう。ちゃんと怪我の手当てもしてくれているし……。
一人考え込んでいると、ドアの向こうからドタドタと足音が聞こえてきた。思わず、ボクの体が強張る。足音はドアの向こうで止まり、乱暴にドアが開かれた。
「紅葉ちゃんっ‼︎」
「えっ⁉︎ あ……雨宮くん⁉︎」
現れたのは、同じパジャマに身を包んだ雨宮くんだった。雨宮くんはここまでずっと走ってきたのか、息を弾ませている。
「紅葉ちゃん……気がついたの?」
「……はい、まあ……。あの、ここは……」
「ここは病院だよ。楓から聞いたんだ。紅葉ちゃんが意識不明の重体だって……」
「そ、そう……って! 何で雨宮くんが楓のこと知ってるの⁉︎」
さらりと聞き流したが、ボクは楓の名が出てきたことに驚き、雨宮くんに食い付く。
「えへへ。知らなかったの? 紅葉ちゃん」
「うん! 全然知らなかったよ〜!」
「ちょっと前に知り合ってね」
雨宮くんはボクのベッドに腰掛け、ニコリと微笑む。うん、天使みたいに可愛いんだけどな……行動がちょっと……。
「ねぇ、紅葉ちゃん」
「?」
「君は……今のサッカーをどう思う?」
「今の、サッカー……?」
突然雨宮くんに問われた。ボクは、キョトンとして雨宮くんを見つめ返した。雨宮くんも黙ってボクを見つめ返す。
今のサッカー、か……。
ボクは少し、んーと考え、見つめてくる雨宮くんに答えを出した。
「ボクは……今のサッカーは、間違ってると思う。本来あるべき姿のサッカーを、みんな見失っている。ボクは、サッカーを守らなきゃいけないんだ。それが、蹴球神社の巫女の仕事だから……」
「紅葉ちゃんは?」
「え?」
答えを出したはずなのに、さらに問われてボクは戸惑う。雨宮くんの指先がボクの頬にそっと触れた。
「それは蹴球神社の巫女としての答えでしょ? 紅葉ちゃん本人はどうなの?」
「どう、って……」
巫女としてもそうだし、自分自身の答えでもあった。それでも、雨宮くんはボクに答えを求めてくる。……ていうか何か、体重こっちに向けてきてない⁉︎
「あ、あの……雨宮くん、近くないかい⁉︎」
「ん? そうかな〜」
わっ! ニヤニヤしてる! 絶対分かってる‼︎
「ちょ、あ、雨宮くんっ……! わっ!」
ドサッと、ベッドに倒された。視界に先程の白い天井と雨宮くんの笑顔が映る。
「あの……えっと」
「一度、こうしてみたかったんだよね〜」
え、え、え……。展開に全くついていけないボクを放って、雨宮くんはボクの両手首を片手で拘束して顎を固定した。
「へ⁉︎ ちょっあ、あの」
「紅葉ちゃんはおとなしくしてていいよ。後は僕がちゃんとしてあげるから」
「は⁉︎ ちょ、ちょっと待ってよ! さっきの質問は⁉︎」
「ん? あー、もういいよ! 僕がこうしたくて油断させるために聞いたことだし」
「嘘だったの⁉︎」
こんなやりとりをしながら、雨宮くんはボクに近付いてくる。また顔を近付ける! ボクの顔に何かついてるの⁉︎ 距離がゼロに等しくなりそうになった瞬間。
「紅葉、入るぞ………………」
今度は静かにドアが開いた。入ってきたのは楓だった。楓はボクと雨宮くんの状態を見て、固まった。
「…………」
「やあ。久しぶり、楓!」
「……お、おう。久しぶり…………って、ざっけんなゴラァ‼︎」
まるで鬼のような形相で雨宮くんの首を腕で締める楓。その時、ボクの手を拘束していた手も離れた。そして、楓は雨宮くんをベッドから引き摺り落とした。
「てっ……てんめぇ‼︎ よくも俺の妹に手ぇ出してくれたな‼︎ ミンチになりてぇのか、ん⁉︎」
「か、楓っ! 落ち着いて……ぅ、ぅん……」
「「紅葉/ちゃん‼︎」」
頭に鈍い痛みが走り、フラつく。受け止めたのは雨宮くんだった。
「んぅ……」
「大丈夫? 紅葉ちゃん」
「チッ……」
受け止めてくれた雨宮くんに、何で楓が怒るんだろ?
「ねぇ、紅葉ちゃん」
「何……?」
「紅葉ちゃんはさ、僕のこと何て呼んでる?」
「……雨宮くん?」
「太陽って呼んでよ」
「あぁ? てめえやっぱ表出ろ」
「うん。いいよ? 太陽」
ボクが名前を呼ぶと、太陽は子犬のような笑顔を見せた。
「! 紅葉ちゃん大好き!」
「待てゴラァ‼︎ 抱きつくなアホ‼︎」
「何だよ! 別にいいじゃないか! 僕と紅葉ちゃんは将来結婚するんだから! ね? お義兄さん!」
「誰がお義兄さんだ。ぶっとばすぞてめえ」
「ま、まあまあ……。太陽、僕はまだ結婚できないよ?」
「大丈夫! 僕がちゃんと迎えに行くから!」
「いかせるかよバーカ‼︎」
太陽と楓がワイワイ言いだしたのを見て、ボクはクスリと笑った。仲良いなぁ、2人共。
海王戦、お楽しみにして下さった方、申し訳ありませんでした。
楓ハッスルさせるつもりだったんですけどね……そうすると収集つかなくなってくるので。
ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。