「こんなもんでいいっすよね、監督‼︎」
楓が円堂監督を振り返って尋ねる。円堂監督は口元に笑みを浮かべながら、ボクらに頷いてみせた。よし、ここからが本番だ。ボクはグッと拳を握り締め、楓を振り仰いだが……。
ドサッ
「…………へ……?」
素っ頓狂なボクの声がグランドに響く。ボクはそのまま立ち竦む他なかった。
何故。何故楓が両手両膝をついているの?
「かっ……楓っ⁈」
「うっ……! せぇな……。ちょっと疲れただけだ。んな大声出すなっつーの……」
楓はいつものように嫌味っぽく言ったけど、肩で息をしているのが見てとれた。ボクは言いようのない不安に襲われ、次第に目を潤ませながら、楓の肩を掴んで揺さぶった。
「やだ‼︎ ねえ、大丈夫⁉︎ どこか苦しいの⁉︎」
「大丈夫、大丈夫だから……そんな泣きそうな顔すんな」
楓は笑いながらボクの頭を撫でてくれたけど、少し顔が青ざめてて、苦しそうだった。ここで、ボクはとても重要なことを思い出す。ボクの目はじわじわと涙で潤み、ガバッと楓に抱きついた。
「ぅぅっ……ご、ごめん、楓……ボク、ボクッ……‼︎」
「気にすんなって。俺がすすんでやったことなんだからさ。お前が謝る理由なんて、ねえよバカ」
楓はボクの頭をなでなでしているけど、ボクの目からはボロボロ涙が溢れてくる。何でこんな大切なことを忘れてしまっていたのだろう。何で、何で……!
何で楓が体が弱いことを忘れていたのだろうーーーー。
楓はボクを抱きとめながら、顔を円堂監督の方へ向けて、大声で言った。
「すみません監督〜。俺、ちょっと倉間クンと交代していいっすかね。流石にちょっとキツいっす……」
「あ、ああ。倉間! 交代だ!」
円堂監督が交代を言い渡し、倉間くんがフィールドに出るのと同時に楓がフィールドを出た。駆けつけた葵ちゃんと水鳥ちゃんに支えられて歩く楓を不安の目で見つめるボクに、天馬くんが声をかけてくる。
「あの、紅葉先輩……楓先輩は一体、どうしちゃったんですか?」
「…………楓はね、生まれつきじゃないんだけど……体が弱いの」
「えっ⁉︎」
ボソッと呟いたボクに、天馬くんが驚きの声をあげる。楓、天馬くん達にも言ってなかったんだ……。だがその言葉で腑に落ちなかったのか、倉間くんが食い付いてくる。
「どういうことだ? 生まれつきじゃないって……」
「いつからかは分からないんだけど……だんだん体力がなくなっていくの。だから、さっき必殺技を使ったので体力がなくなっちゃったんだよ、きっと……」
「そんなことって……あるものなのか?」
蘭丸がボクの涙を指で優しく拭いながら尋ねてくる。ボクもグスッと鼻を啜りながら答えた。
「分からない……でも、ボクの一族は特殊だから……そういうこともあるのかもしれない……」
そう。ボクの一族は普通の人間とは違う。姿形は似ていても、身の内に秘めたチカラがある。それがボクらだ。何をしても、結局は違う。どうしても違ってしまう。
楓もそうだ。内に秘めたチカラがある。いや、取り憑かれた、という方が正しい。"アイツ"に取り憑かれたことにより、楓の体はあんなに弱くなってしまった。
でも、いつか必ず楓を助ける。ボクのチカラで成仏させる。絶対、アイツを楓から離させてみせる!
ボクはグッと拳を握り、前を向いてポジションについた。
はい、今度は楓にも何か明かされましたね。
楓の体を蝕むモノは一体何なのか。
それではまた次回!