巫女なボクと化身使いなオレ   作:支倉貢

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第38話 vs帝国学園1 〜圧倒的な実力〜

 

帝国戦当日。試合があるというのに、剣城くんは来てない。剣城くん、どうしたんだろう……。ボクはいまだにジッと昇降口を見ていた。すると、いきなり脳天に激痛が走る。

 

「った⁈」

「ほーら、ぼさっとすんな紅葉! 試合始まるぞ?」

 

背後からの楓の声に、ボクは楓が犯人だと完璧に察した。あんたの仕業かこのやろう。腹が立って、ボクは楓にぐーぱんちを食らわせた。あ、もちろん楓のお腹だよ? しかも鳩尾★

痛みで蹲ってる楓を無視して、ボクはずっと昇降口を見る。剣城くんが来る気配は全く無い。どうしたのかな……。心配していると、円堂監督の集合がかかったので、仕方なく昇降口をあとにした。

 

 

 

「つーとっぷ?」

「俺と紅葉でですか?」

 

円堂監督の言葉に、ボクと楓がほぼ同時に聞き返す。監督は大きく頷く。でもボクは楓に尋ねた。

 

「つーとっぷって何?」

 

こう聞いた途端、みんながズッコケた。そしてすかさず倉間くんが答えてくれる。

 

「FW2人で攻める戦略のことだよ! 何でそんなことも知らないんだよ‼︎」

「しっ、知らないもんは知らないから仕方ないじゃあないか‼︎」

 

何だよ! 知らないことのどこが悪い! ボクはムスッと頬を膨らませて、倉間くんに張り合う。楓が呆れながら仲裁に入った。

 

「はいはいそこまで。あ、監督、続けて下さい」

「あ、ああ……。紅葉はいつもDFだけど、FWの実力も凄いからな! 今度はお前ら兄妹で、大暴れしてこい‼︎」

「「はい‼︎」」

 

ボクらは同時にコクリと頷く。そして、顔を見合わせた。

 

「足引っ張んじゃねぇぞ、紅葉!」

「君こそね、楓!」

「俺は大丈夫だっつーの。元々FWだかんな」

「ボクが攻撃的DFだってこと、知ってるでしょ? それにボクは君より強いからね」

「んだとぉ⁈ 俺の方が強えよバーカ‼︎」

「ボクだ‼︎」

「お前らなぁ、喧嘩するのは試合の後にしろよ」

 

蘭丸の仲裁により、ボクらは一時休戦。でもこの後絶対喧嘩になるのは目に見えてる。それを察したのか、拓人がボクらに言った。

 

「ほら、しっかりしろ。お前達が攻撃の要になるんだ。頼んだぞ!」

「ああ!」

「もちろん!」

 

ボクらは同時に答える。タイミングもほとんど同じ。ボクらって、ホントよく似ている。永久櫻さんからも言われるんだ。

ボクらは一緒にポジションに走る。ふと、楓が前を向きながらボソリと呟いた。

 

「お前と同じピッチに立つのは初めてだな」

「…………うん、そうだね」

 

確かにそうだ。ボクが初めてピッチに立ったのは入学式のあの日。その時、楓はいなかった。楓が帰ってきてからも、ボクと楓が一緒に戦うことは無かった。

 

「だからかな……。何だかワクワクする。お前と一緒に走れるのが、すっげえ楽しみなんだ」

「そう……。ボクもおんなじ気持ちさ。楓となら、思いっきり走れるって思う。……やってやろうね、楓」

「もちろんだ。あいつらに吠えズラかかせてやんよ」

 

ボクらはニッと笑いあい、ポジションに立った。見てろよ、フィフスセクター。ボクら於野一族をなめてたらどんな目に遭うか!

 

 

 

 

キックオフのホイッスルが鳴り、ボクが楓にボールを転がす。楓がボールに足をかけたのを見て、ボクは走り出した。相手選手をぐんぐん抜き、中盤辺りに来たところで、ボクは楓にアイコンタクトを送る。受けた楓も走り出した。仕掛けてくるDFもかわし、何ともあっさりすぎる突破でもうゴール前。

ほらね、やっぱりこんなもの。本気の50%を出すまでもない。楓もボクに追いつき、足を止めた。それを見て、相手DF陣がボクらを囲む。

 

「何か来たよ?」

「だな。あーぁ、やーっぱこんなもんか……」

 

楓もぐーっと伸びをして、さらにはあくびもした。

 

「つまんねえな、紅葉」

「だねえ……」

「さぁーて、どう料理してやろうか……」

 

楓はトン、とボールを爪先で上げ、ゴールを見た。そして、ニタァと笑う。うっわぁ、気持ち悪いっ……。←おい

 

「よし、痛めつけてやろうか」

「うん、やめようか」

「は⁈ 何でだよ‼︎」

「君のやることなすこと全部信用出来ない‼︎」

「しっつれ〜だなお前! 年上は敬うもんだぞ!」

「双子だから大して差は無いでしょバーカ‼︎」

「んっだとぉ⁈」

 

楓はホントにこんなんだからボクがストッパーになってるんだよ、ありがたく思ってほしいよまったく。と、ボクらが喧嘩してるのをチャンスだと思ったのか、相手がタックルを仕掛けてきた。

ま、そんなのに引っかかるワケもなく。楓は力を込めてボールを上空へ蹴り上げた。遅れて飛んだボクが、胸でボールをトラップする。上空から楓を見下ろして言った。

 

「楓ーっ! アレ、やってみる?」

「アレ? ああ、いっちょやるか‼︎」

 

ボクは綺麗に着地を決めて、ゴールを見据える。ボクの前に楓がついた。

しゃがみ込んだ楓が雄叫びを上げ、ボクは手の平に息を吹きかけ、月下美人の花弁が吹き荒れた。月をバックに、ボクらは飛ぶ。そして、月と重なるボールに、左右から同時蹴りを叩き込んだ。

 

「「月下狂乱‼︎」」

 

花弁を従えて飛んだボールは狂い咲く月下美人の如くGKに隙を見せず、一瞬でゴールを貫いた。そして、ボクが人差し指を空へ突き出す。

 

「はい、1点もーらいっ」

 

ニコッと笑い、楓とハイタッチを交わす。これがボクらのやり方。圧倒的な実力を見せつけることで、相手の士気を下げる。しかも、本気を出さない。もちろん、さっきのシュートも本気じゃないよ? ウォーミングアップ程度の力で蹴ったもん。

これだから、普通の試合はつまらない。本気で戦えないもん。ボクが本気を出せるのは楓だけ。それ以外の相手だと、ボクが強すぎる。だからつまらないんだ。

ボクは唖然してる相手選手を見ながら、ハァと溜息をつき、ポジションに戻った。

 




紅葉ちゃん達の最強っぷりを書いてみました。
本気が出せないって、すっごい辛いと思うんですよね……。
次回もよろしくお願いします。

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