巫女なボクと化身使いなオレ   作:支倉貢

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第37話 vs万能坂3 〜革命〜・優しい温度

紅葉side

試合再開のホイッスルが鳴り、万能坂ボールから動き始める。ボクはブロックでボールを奪い去り、パスを出そうと周囲を見渡す。しかし、天馬くんも拓人も剣城くんまでもマークされて、パスが出せない。またこのまま突破するか、と考えを巡らせていたその時。

 

「紅葉! こっちだ‼︎」

 

呼ばれて顔を上げると、車田先輩がこちらを見ながら走っていた。ボクは驚くも取り敢えず車田先輩にパスを出した。そして、車田先輩から浜野くんへパスが繋がる。相手がディフェンスに入るため、浜野くんに突進してきた。浜野くんがボールの上に乗ると、波が出現した。ピエロのようにボールの上で足を動かし、相手をスイスイと突破した。

 

「なみのりピエロ‼︎」

 

進んだ浜野くんは、速水くんにパスを出し、速水くんからさらに敵陣に斬り込んでいったボクにパスが渡る。ボクは前線にいる剣城くんにパスを出した。

剣城くんはゴールを見据え、化身を発動した。

 

「剣聖ランスロット‼︎」

 

剣城くんは腕を振るうと、ランスロットのマントがなびく。ボールに強烈な一撃を込めて蹴りを放ち、シュートが飛んでいった。

 

「ロストエンジェル‼︎」

「ッ‼︎ はァァァァっ‼︎ 機械兵ガレウス‼︎」

 

対するGKは化身を発動し、化身キーパー技も発動した。光と光の鍔迫り合いに、思わず目を背ける。ロストエンジェルはガレウスを押し出し、見事ゴールを決めた。

得点と試合終了を告げるホイッスルが高らかに鳴る。ハッとスコアを見ると、2対1で雷門の勝利だった。自然と、頬が緩む。

 

「っ…………! やったあぁあぁあぁああぁ‼︎」

 

ボクは天馬くんとハイタッチして喜び合った。

 

「やったね、やったね天馬くんっ‼︎」

「はい、やりましたね! 先輩‼︎」

 

試合に勝てたことも嬉しかったけど、何よりボクはみんなが一緒に戦ってくれたことが一番嬉しかった。ボクはみんなに向かって、最上級の笑顔で言った。

 

「ありがとうッ、みんな‼︎」

 

何人かがお、おう……と軽く返事を返してくれる。あれ? 何かみんなの顔が赤いように見えるのは気のせいかな? ボクがコテンと首を傾げると、不意に剣城くんが視界に入った。

 

「剣城くん!」

 

剣城くんを呼び止め、振り返った剣城くんに改めて頭を下げる。

 

「ありがとう、剣城くん。貴方のおかげだよ」

「…………」

 

剣城くんは相変わらず無言でボクを見ていたが、ああ、と短く答え、ベンチへ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー後日。この日は、3回戦の相手の発表となった。その相手はというと……。

 

「て、帝国⁉︎」

 

蘭丸の驚いた声がミーティングルームに響く。蘭丸が驚くのも無理はなかった。そうと言うのも、地区予選の対決カードが入れ替わり、本来なら勝ち進んだ先の相手となるはずの帝国学園と当たることになったからだ。

ちなみにボクは帝国学園の実力を見たことが無い。もちろん、彼らのことも全く知らない。ま、強かろうが強くなかろうがボクの敵じゃないよね。驕り高ぶるワケじゃないけど、これは本当だ。ボクが本気で戦えるのは楓しか居ない。ボクはハァと小さく溜息をついて、今日の晩御飯の献立を考えていた。

 

 

 

 

ミーティングの日からは、練習の毎日。みんな前回の時よりも意欲的に練習に参加し、天馬くんは信助くんの必殺技開発を一緒にしている。本当に2人は仲がいいんだと思う。蘭丸はまだ足が完治してないらしく、ベンチで見ていた。

楓とオフェンス練習をしていると、天馬くんがふとどこかへ行ったのを見た。天馬くんの前方には、剣城くんが。一体何をしてるんだろう? ボクが天馬くんを追おうとすると、ぐいっと首根っこを掴まれた。

 

「あうっ‼︎」

「どこ行く気だお前」

「あ、楓……」

 

自由が効かないため、声で判断した。こうなったら仕方ない。楓には悪いけど、ちょっと女の子達の餌食になってもらうよ! ボクは『時空転送』で携帯を取り出し、ラ○ンで監督と楓のクラスメイトの女の子達のグループトークに送信した。

 

「…………これでよしっと‼︎」

「?」

 

しばらくすると、楓のクラスメイトの女の子達が一斉にグラウンドへやってきた。

 

「は……⁉︎ ちょ、おま、まさか……」

「「「「キャァァァァァァ楓くぅぅぅぅぅぅぅんっっ‼︎」」」」

「うわあぁあぁあぁああぁ‼︎」

 

楓はボクを放して、迫り来る女の子達から逃げ出した。今がチャンス! ボクは天馬くんと剣城くんが歩いていった方向へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

天馬くん達が向かったのは、いつかの病院? という場所だった。そういえばここ、剣城くんのお兄さんと雨宮くんがいるところじゃ……。

ボクはまた病院に入り、病院の人達の目をかいくぐった。以前剣城くんの後を追った時の記憶を思い出しながら、廊下を歩く。記憶と一致する部屋の前に、天馬くんがいた。

 

「天馬くん?」

「うわぁっ⁉︎ って、紅葉先輩か……びっくりした……」

 

天馬くんはホッと一息つく。天馬くんはどうやら、部屋の前で中の様子を伺っていた。中から、剣城くんとお兄さんーー優一さんの声が聞こえた。

 

「そんなに毎日来なくてもいいんだぞ? 気をつかうなよ」

「気なんてつかってないよ、兄さん」

 

やっぱり違う。いつもの近寄りがたい感じじゃなくて、とても優しい声音。同じく耳をそば立てていた天馬くんがボソッと呟く。

 

「兄さんって……」

「剣城くんのお兄さんだよ」

 

ボクが答えると、天馬くんは驚いた様子でこっちを見た。

 

「知ってるんですか? 先輩」

「うん、前にちょっとね」

 

ボクらがボソボソと話してる間にも、中では会話が続く。

 

「練習あるんだろ? 準決勝、行けるといいな」

「……ああ…………」

 

剣城くんの声が小さくなる。もしかして剣城くん、優一さんに自分がシードだってこと、隠してるのかな……? 剣城くんの様子に気が付いたのか、優一さんが心配して声をかける。

 

「……どうした? 最近、元気ないぞ?」

「そんなことないさ。ちょっと水飲んでくる」

 

そう言うと、剣城くんはドア、つまりこちらへ近付いてきた。ヤバい、見つかる! 隠れようとしてもここは廊下。隠れる場所すらない。ガラッ、とあえなくドアは開かれてしまった。ボクらを見た剣城くんの表情が険しくなる。

 

「っ! お前っ!」

「あ、お邪魔してすみませんっ! 俺、雷門中サッカー部1年の松風天馬といいます! 実は剣城に用があって」

「いいからここを出ろ‼︎」

 

剣城くんは天馬くんの腕を掴んで部屋を出ていった。…………あれ? いや、ちょっと待て。ボクは⁉︎ ボクの存在は⁉︎ もしかして忘れてる⁈ 天馬くんもボクの存在忘れてる⁈ ひっ……酷いッッ‼︎‼︎

 

「ぅぅっ、天馬くんのバーカァ‼︎」

「あ、もしかして……紅葉ちゃん?」

 

部屋の中から、優しい声が聞こえる。振り返ると、優一さんがボクを見ていた。

 

「ゆ……優一さん……。お、お久しぶりです……」

 

や、ヤバい。見つかった。こんなとこ見られたら、優一さんにどう思われるか……。ボクがぺこりと頭を下げると、優一さんはパアッと表情を明るくさせ、今にもこっちに来そうな勢いで両手をいっぱいに広げた。

 

「久しぶりっ! 会いたかったよ、紅葉ちゃん‼︎ おいでおいで! こっちおいで!」

「わ、分かりました! 分かりましたから落ち着いて下さい!」

 

ものすごいテンションの荒ぶりっぷりを見てなんかホッとした。ボクが優一さんの指示通り優一さんのベッドに座ると、優一さんはぎゅうっとボクを抱き締めた。

 

「ふわっ⁈」

「ふふっ……かーわいっ♪」

「ゆ、優一さっ……力緩めて……く、くるひぃ……」

「あ、ごめんごめん」

 

ニコニコと笑顔を向ける優一さん。逆に軽く死にかけて優一さんの腕の中でぐったりするボク。お、男の人の力、なめてたわ……。なんて恐ろしい……。そんなボクの思いなんておそらく知らずに、優一さんはボクの頭を撫でて、背中に腕をまわして抱き寄せる。

あったかい……。優しい手つき……。ボクの胸の奥がじんわりと温かくなっていくのが分かった。何だろ、この感じ……何だか、懐かしい……。ボクはどこかで一度感じたその優しい温度に身を任せ、ゆっくりと意識を手放した。




お、終わった……。皆さん聞いて下さい。なんと今回、は・つ・の‼︎ 3000字越え、達成致しましたーーーー‼︎
ドンドンパフパフ←
え? そんなのどうでもいいって?
……ですよね〜あはは〜………………。←隅っこで膝を抱えて泣く
字数多くてすみません。ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。

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