紅葉side
今日は、ホーリーロード第2回戦。相手は、万能坂中だ。楓によれば、フィフスセクターと繋がりを持つ強豪校らしい。ってか、雷門最初から強豪校に当たりすぎだよ! 何なの、嫌がらせ?
あと、南沢先輩が退部したそう。ボクが剣城くんを追いかけた後、南沢先輩が円堂監督に退部すると言ったらしい……。残念だなぁ、南沢先輩のなでなで大好きだったのに……。
みんなはまだフィフスセクターに逆らうつもりは無いと、意思を固めている。円堂監督は無理にとは言わないと言っていたけど、このままじゃ、みんなフィフスセクターと戦えないよ……。
だけど、一つ変わったことがある。蘭丸が一緒に戦ってくれると言ってくれたことだ。
「蘭丸、ありがとう‼︎」
「しょうがねえからな。全く、お前らは……」
「あれ? いつの間にか蘭丸がお母さんになってるよ!」
「だ・れ・が、お母さんだ?」
「え〜? だってさ、蘭丸元々女の子みたいだから違和感な…………うぁあゴメンっゴメンってば‼︎ ボクが悪かったですっ悪かったからぐりぐりはやめてぇ‼︎」
蘭丸の制裁によりズキズキ痛む頭を抑えてると、視界に黄色い影が現れた。
「ぅぅっ……つ、剣城くん……」
「…………お前、分かってんだろうな?」
「へ? 何が?」
ボクがコテンと小首を傾げる。分かってんだろうなと言われても、何のことかさっぱり分からないもん。
「こないだのことだ」
「こないだ? …………あ、ああ。もしかしておんぐっ」
お兄さんのことかと思ったが、剣城くんに口を手で塞がれて言えなかった。
「いいか、誰にも言うなよ。言ったらてめえを襲うからな……?」
お、襲っ⁉︎ な、ななななっ……‼︎ 何て恐ろしいこと言うんだこの後輩はっ‼︎ 襲うっ⁉︎ ボ、ボク殺されるっ⁈
「は、はい……」
プルプル震えながらボクは取り敢えず頷いた。剣城くんは満足したのか、そっぽを向いてポジションへ向かった。ボク、生きて帰れるかな……?
今回、ボクはまた速水くんと交代してもらって、ポジションについた。楓はまたベンチだし……。
試合開始のホイッスルが鳴る。倉間くんがボールを剣城くんに流すと、剣城くんは突然ボクらの方へ向かってシュートを打ち込んだ。シュートは雷門陣営を斬り込み、三国先輩は突然のことで動けず、あっさりゴールを許してしまった。試合は、オウンゴールで始まってしまったのだ。
ボクが剣城くんを見やると、剣城くんはただならぬプレッシャーが感じられた。
「雷門は、俺が潰すッ……!」
ボクと剣城くんの目が合う。剣城くんはボクをキッと睨みつけてきた。ボクも負けじと、剣城くんを見つめ返した。
「そんなことさせないよ。雷門はボクが守る」
試合が再開され、天馬くんがボールをキープするが奪われてしまう。相手チームはパスを出すが、それはパスというよりも威力が強く、雷門の選手を弾き飛ばしていった。特にDFの蘭丸や信助くんがダメージを受ける。さらには審判に見えない角度でラフプレーを行ったり。そのせいで、蘭丸がケガをしてしまった。
「む〜っ! 何なのあいつら!」
蘭丸がベンチに入り、ボクはDFに下がって、速水くんは元のポジションへ戻った。ボクは既に怒り心頭だ。汚い! やり方がすっごく汚い! そんな相手にケガさせる力があるならもっと色んな方向に使いなさいよ!
「もうっ許さないもんね、絶対に点決めてやりますから!」
ビシッと万能坂の選手達に指を指した。で、ここで大切なことを思い出す。
「あ、人に指指しちゃいけないんだっけ……」
「紅葉、お前かっこいいとこで何でボケるんだよ……」
呆れたように、楓にツッコまれる。そう教えたのはどこの誰よっ! と、楓にツッコみ返したが、監督にフィールドに出るよう促されたので仕方なく我慢することにした。
万能坂のパスをカットし、ボクは万能坂陣営に斬り込んでいく。
「あの赤髪女が蹴球神社の巫女、於野紅葉なんだってな」
「とんでもない実力の女だと聞いていたが、大したことはなさそうだな」
「しかし、あいつがフィフスセクターにとって脅威の存在であることは確かだ。テレビで見た程度だが、化身シュートの威力は計り知れない。さっさと潰せ」
「なら、足を潰せ。サッカーさえ出来なくなれば、雷門の勝機はなくなる」
何か周りでブツブツ聞こえるけど、あいにく今のボクにはそんなこと聞いてる暇はない。てことで、そのままドリブル突破を試みる。すると、万能坂の選手が両サイドからスライディングを仕掛けてきた。
「っとぉっ‼︎」
そんなのに引っかかるワケないでしょ! ボクは軽くトンッとボールを空中へ運び、ボク自身も飛んでスライディングをかわした。スライディングを仕掛けてきた選手達は悔しそうな顔をする。
「へっへ〜ん! そんなのでボクが引っかかると思ったの?」
ざま〜みろっての! ボクはベーっと舌を出して、また前を向いて走り出した。そしたら、またスライディングしてきた。君達スライディング好きだねぇ。なんてのんきなこと考えてたら、突然衝撃が襲ってきた。
「うわぁあっ⁉︎」
誰かが体当たりしてきた。ボクはそのままピッチに叩きつけられて、転がった。
「ったぁ〜っ……誰だボク押した奴っ……って、剣城くん⁉︎」
ボクの代わりにボールに足をかけていたのは剣城くんだった。剣城くんは万能坂のキャプテンを睨みつけて、口を開いた。
「これがお前達の潰し方か……。やり過ぎじゃないのか……」
「何のことだ」
「分かってるはずだ。今のスライディング、決まっていたらこいつの足は確実に潰れていた」
「えっ⁈ そ、そうだったの⁉︎」
「お前はもうちょっと危機感を持て。巫女だろ? それくらい察せ」
な、何かバカにされた……? 呆気にとられてるボクを無視して会話は続く。
「だったらどうした? あんな女、二度とサッカーが出来なくなればいいんだよ」
「なっ⁉︎ ってめえ‼︎ もういっぺん言ってみろ‼︎ 主は今までずっと神社の中でしか暮らすことしか許されなかったんだぞ⁉︎ 仲間とサッカーをすることも、友達を作ることも許されなかった‼︎ やっと外に出て、仲間が出来て、その矢先がコレか⁈ てめえらみてえな外道共に主の気持ちが分かるか? 分かるワケねえよなァ、おぉ⁉︎ やっぱてめえらぶっ潰す‼︎ てめえら全員まとめてぶっ潰す‼︎」
もう許さねえ。オレはガバッと立ち上がり、あのクソキャプテンを睨みつけた。だが剣城はボールを足で持ち上げ、鋭い蹴りを叩き込んだ。
「デスソード‼︎」
突然のことに相手チームのゴールキーパーも反応出来ず、あえなくゴールを許してしまっていた。ゴールを決めたことに鳴るホイッスルに続けて、前半終了のホイッスルも鳴った。
オレもワケが分からずポカンとしていると、剣城がこっちに来た。おっと、長く出過ぎたか。オレは主の中に戻った。
「……大丈夫か」
「え?」
「……強く当たったから」
「へ? あ、はい……大丈夫ですよ?」
ボクは剣城くんを安心させようと、にっこり笑った。剣城くんはそうか、と一言言って、ベンチへ歩いていった。優しいんだね、剣城くん……。ボクはクスッと笑い、剣城くんの後をついて行った。
……キュウビのイライラ爆発しましたね、よかったのかな? ま、いっか。