病院の外まで出て、肩を上下させながら息を整えていた。あ、雨宮くんって、一体何者だったんだ……。ボクは一回深呼吸して、また剣城くんを追おうと病院に戻ろうとした途端……。
「…………」
剣城くんが、冷たい視線、というか何故ここに? という視線をボクに向けていた。
え……? 何で剣城くんがここに……?
「っ⁈ つ、つつつ剣城くん⁉︎」
「あれ? 京介の知り合い?」
剣城くんの声、よりも優しい声音が耳に入る。へ? と思い、剣城くんを再び見直すと、そこには微笑みを称えた優しそうなお兄さんがいた。剣城くんと同じような藍色の髪に、ふんわりとしていながら鋭さが残る目。微笑みを浮かべている口元には、黒子があった。他にあると言えば、車椅子に乗っている、ということ。楓に昔、車椅子は足が動かない人が乗るって聞いたことがある。でも、言っちゃいけないって言われたな……。
「あの……」
「は、はひっ‼︎」
あっ、噛んだ。うわぁあぁあああぁぁっ最悪っ‼︎ 恥ずかしくて、自然と頬が熱くなる。その様子を見て、お兄さんはくすくす笑っていた。うあぁあぁあああぁ……っ。お、お兄さんにも笑われた……。更に頬が赤くなって、思わず顔を伏せる。でもお兄さんは、ボクに優しく声をかけてくれた。
「ふふっ、そんな恥ずかしがらなくていいよ。可愛いから。で、君は……」
「俺の部活の先輩」
剣城くんがサラッと答える。
「そうなのか? へぇー……。君、名前は?」
興味津々に顔を向けられる。ボクは取り敢えず答えた。
「お、於野紅葉です……」
「紅葉ちゃん、だね。俺は京介の兄の剣城優一。いつも京介がお世話になってます」
と、言い、お兄さんがぺこりと頭を下げる。ボクもそれにお兄さんに頭を下げた。
優一さんか……。剣城くんと全然違うね、何これ。
「紅葉ちゃんはこんなところで何してるの?」
「ぅえっ⁉︎ あー、え、えーと……」
剣城くんを追いかけてここまで来ましたっ‼︎ ……と言えと⁉︎ 無理だ‼︎ 無謀だ‼︎ そんなこと言ったら、剣城くんとこれからどんな顔して会えばいいのさっ‼︎
「と、友達ですっ‼︎ ここに友達がいるので、そ、その……」
「お見舞いだったの? 偉いね、紅葉ちゃんは」
そう言って、優一さんがボクの頭を撫でる。な……なでなでもしてくれる、だと……⁈ 何て優しいお兄さんなんだっ‼︎
「優一さんっ‼︎ これからはお兄さんと呼ばせて下さいっ‼︎」
「⁉︎」
「? 別にいいけど?」
何だか剣城くんの鋭い視線を感じるけどそんなの関係ないねっ! ボクが更になでなでを求めて抱きつこうとしたが、スカートのポケットにあるスマホのバイブレーションが鳴った。誰だろ? そう思ってスマホを耳に当てる。
『このバカヤロウ‼︎ 今どこにいる⁉︎ 早く帰ってこい‼︎ 帰ってこなきゃ俺の説教5時間な‼︎』
ガチャ、と電話が切れる。目の前にいる剣城くんと優一さんがボクを覗き込む。ボクはというと、冷や汗がダラダラ流れていた。
「ぅあぁぁあっヤバッ……。楓めちゃくちゃ怒ってる……」
「どうしたの、紅葉ちゃん?」
「あっ、えと、ボクもうそろそろ帰りますっ失礼しました‼︎」
ボクはバッと勢い良く頭を下げ、逃げるように駆け出した。
剣城side
俺は今もの凄く機嫌が悪い。理由は単純。あのキツネ女だ。何故あの女がここにいる。俺を追ってきたのか? そんな考えが脳内を支配する。
「京介?」
「あ、いや……何だ兄さん」
小首を傾げて兄さんが俺の顔を覗き込んでくる。まずい、こんなところを見られては兄さんに俺がシードをしていることがバレてしまう。俺はなるべく平静を装い、兄さんを見た。
「あの娘……紅葉ちゃんって言ったよね。可愛いなぁ……妹みたい」
「あんな妹が欲しいなぁ」と言いながら、兄さんは笑った。俺はキツネ女が走っていった道を見つめる。ふと思い浮かぶのは、キツネ女の笑顔だった。
……いや、何考えてんだ俺。何で可愛いとか守りたいとか他の奴に笑顔向けて欲しくないとか思ってんだ。バカか俺は。
くしゃり、と前髪を握り締める。
その様子を兄さんに見られてたらしく、兄さんは笑いながら俺に問うた。
「何顔赤くしてるんだ? もしかして……あの娘のこと好きなのか?」
「はぁっ⁉︎」
違う。俺はあんなチビ女なんか好きじゃない。絶対に。俺はブンブンと頭を振って、あのキツネ女のことを何とか忘れようとした。
優一さんだぜひゃっふぅ‼︎ そして剣城にも春が……⁈(ニヤニヤ
剣城「キモい」
お、おうふっ……いわれちまったぜ……。
次回は試合行きます‼︎ 万能坂だぜひゃっふぅ‼︎
剣城「……(テンションめんどくせえなこいつ)」
それでは次回、お楽しみに‼︎