巫女なボクと化身使いなオレ   作:支倉貢

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第32話 勝利のために

天馬side

楓先輩から聞かされた話は、とても衝撃的だった。紅葉先輩に、そんなことがあったなんて。紅葉先輩が近くて遠い存在になったように思えた。楓先輩が再び口を開く。

 

「……お前らの見てきたあの紅葉のもう一つの人格は、キュウビのものなんだ。紅葉があいつと生きていく中で、人格として紅葉の体に馴染んでしまった。ああなってしまったが最後、紅葉は一生キュウビと生きていかなきゃならないんだ……」

「そんな……」

 

俺の口から、震える声が出る。あの凄く強い紅葉先輩がキュウビ……? じゃあ、普通の紅葉先輩は……? 俺の頭の中を、色んな考えが支配する。

ふと、ミーティングルームのドアが開く音が耳に届いた。振り返ってみると、そこには紅葉先輩が立っていた。紅葉先輩を見た途端、全員の表情が強張る。紅葉先輩はそんなみんなの表情を見ながら、キョトンとして言った。

 

「あれ? どうしたんですか?」

 

いつもの紅葉先輩だった。みんなが紅葉先輩から目を逸らす。俺も思わず俯いてしまった。あんなこと聞かされた後で、話題の本人に会うと、どう対応すればいいのか分からない。でも、楓先輩だけは違った。

 

「お、やっと起きたか。さっき、天河原の試合の反省会やってたんだよ」

 

……嘘だ。もちろん、俺もその場に居たから分かる。さっきまでしていたのは紅葉先輩の本当の過去。全然関係ない。嘘をついてまでも隠し通したい。楓先輩にとって、これが紅葉先輩を守るための最良のことなのだろう。

そのことを知らない紅葉先輩は、後頭部をポリポリ搔いて、言った。

 

「ふーん、そうだったんだ。だったら叩き起こせば良かったのに……」

「大丈夫だよ、後でその内容教えてやっから」

「ホント? ありがとう、楓!」

 

ニコッと、無邪気に笑う紅葉先輩。楓先輩は、この笑顔を守るために……。

俺は唇を噛んで俯く他無かった。楓先輩はとても強い人だ。俺はあの人の強さに負けそうだった。

結局あの後何も無く、俺は木枯らし荘へ帰っていった。

 

 

 

ーー翌日、紅葉side

「おはようございます!」

「はよ〜っす」

 

楓とボクの挨拶が部室内に響く。いつもなら天馬くんあたりが「おはようございます!」って元気に返してくれるのになぁ……。部室では、何やら揉めていた。何かあったのかな? ボクはその中心へ行った。そこには、拓人と南沢先輩が居た。ハァ、と溜息をついて、南沢先輩が言う。

 

「迷惑なんだよな、お前達の言うサッカーを押し付けるな」

「南沢さん、あの試合……中学に入って初めてでした。……とても嬉しかった」

「そんなの分かってる。だがあれはあれだ。指示に逆らってフィフスセクターが黙っていると思うか? お前達は廃部になってもいいのか?」

「「廃部⁈」」

 

驚いた天馬くんとボクの声が重なる。そんなボク達に、蘭丸が説明してくれた。

 

「逆らって廃部になった学校はいくつもあるんだ」

「ええっ⁉︎ 逆らったってだけで廃部になっちゃう……廃部………………廃部って何?」

 

ボクがコテンと首を傾げると、みんながずでーっと転んだ。あれ、ボク何か変なこと言った? 楓が呆れながら教えてくれた。

 

「廃部ってのは、部活そのものが無くなるってことだよ‼︎」

「ええっ⁉︎」

 

さらに聞いたボクは再び驚いた。驚くボクをよそに、蘭丸は拓人に諭すように言う。

 

「神童……お前と気持ちは同じだ。でも、南沢さん達の言うことも分かる」

「今まで通りやるしかないんだよ」

 

倉間くんも諦めたように言った。ボクはそんなみんなを見ながら、眉を顰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

放課後。部活中なのに、ボクや楓、天馬くん、信助くん、拓人、三国先輩以外は練習しない。南沢先輩なんか、座って見てるだけじゃあないか……。その様子を見ながら、ボクは内心イライラしていた。

 

「紅葉、抑えろ」

「っ……でも……」

 

ボクには本当に分からなかった。みんな、サッカーが好きなハズなのに……。何で、その気持ちを抑え込んでまで、サッカーを続けるの? そんなの楽しくないじゃないか。ボクなら、勝敗指示とか関係なしに戦うのに……。俯こうとしたところ、不意に藍色の髪が視界に入った。

顔を上げると、剣城くんが円堂監督の元へ向かっていた。いつも近寄りがたい雰囲気の剣城くんなんだけど、今日はいつもよりも血相が凄いというか、何というか……。その途端、剣城くんはこんなことを言い出した。

 

「次の試合、俺を出せ」

「お前を試合に?」

「そうだ」

 

剣城くんが試合に? ボクがじっと剣城くんを見ていると、速水くんがあたふたしながら焦る。

 

「とうとう来たんですよぉ……雷門サッカー部を潰せという指示が……」

 

誰もが、円堂監督の言葉を待った。

 

「…………いいだろう。お前には出てもらう」

 

円堂監督から告げられたのは、了承の返事だった。

 

「……あんたがどういうつもりか知らないが、俺は好きにやらせてもらう」

「構わん」

 

円堂監督がそう言うと、すぐに拓人が反論する。

 

「待って下さい! こいつはシードです。俺達の邪魔をします!」

「かもな」

「だったらどうして⁉︎ 本気で勝利を目指すんじゃないんですか⁉︎」

「……本気で勝利を目指すからこそ、剣城くんを出すんだよ……」

 

そう言ったのは、誰でもなくボクだった。何となく。何となくだけど、円堂監督の考えが分かってきたような気がする。口では上手く説明出来ないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の帰り、ボクはあることを実行しようと決意した。ボクの前方には、剣城くんの背中が見える。そう、ボクは今、剣城くんの後を追っていますーーー。




も、紅葉ちゃんが……ストーカー行為をぉぉぉおぉおお‼︎
楓ぇ、何やってんのさぁ‼︎
楓「そ、それは……次回分かる。すぐ分かる……」
あら? 何でそんな元気ないの⁉︎
ま、それも次回分かるか。
次回お楽しみに!

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