剣城くんが明らかにイラついている顔で、ツカツカと階段を降りてくる。剣城くんは、雷門サッカー部をあんなにめちゃくちゃにした人だ……。円堂監督、大丈夫かな……? ボクはハラハラしながら剣城くんを見つめる。それに対して、楓は腕を組んで眺めるように円堂監督を見ていた。
剣城くんは黙ってボールに足を掛け、転がしてボールを足首の上に乗せた。あれは、剣城くんのシュート技……!
「デスソード‼︎」
一撃で雷門サッカー部セカンドチームをボロボロにした、あの必殺技を発動した。みんなが固唾を飲んで円堂監督に視線を向ける。
円堂監督は笑みを浮かべたまま、スッと顔を横にずらし、シュートは円堂監督の顔の横ギリギリを飛んでいき、ゴールネットに突き刺さった。これには剣城くんも驚きを隠せなかったらしく、動揺の色が見られた。その一方で円堂監督は変わらぬ笑みを浮かべているだけだ。
「凄いシュートだな、やるじゃないか‼︎」
「チッ、ふざけやがって‼︎」
「ハハッ、まあまあそう怒るなよ、剣城クン」
楓がケラケラ笑いながら、剣城くんの肩に手を置こうとした。まあ、気分が悪いらしい剣城くんはイヤそうに手を払い除けたけど。
因みに言うと、剣城くんと楓では、楓の方が背が高い。何で双子の兄妹でこんな身長差が出るんだ! 遺伝子どうなってんのさ! 不公平だぁぁぁ‼︎ ボクが1人でムシャクシャしてると、円堂監督が練習の終了を告げた。
「え、終わりですか? もっとやりたかったのに……」
「紅葉、本音が……」
楓のツッコミが聞こえたけど、気にしないさ! 本音を言って何が悪い!
ここで、倉間くんが疑問を円堂監督にぶつけた。
「学校のグランドじゃ見えないのって、何だったんだ?」
「みんな、勝つために特訓に来たんだろ? だったら見えたじゃないか」
「え?」
「本気で勝利したいと思っている仲間の顔だ、本気のサッカーをやろうとしている仲間の顔がな!」
円堂監督が説明しても、分からないような顔をしているみんな。実を言うと、ボクもあまり分からない。唯一分かっているらしい楓が、ハァと溜息をつき、代わりに説明した。
「まあ要するに、みんながここに居るってことが、今日の練習ってワケよ」
「ん〜?」
「明日から、学校で待ってるぞ」
そう言い残して、円堂監督は去っていった。……ボクは今の楓の説明でもあんまり納得しなかったかな、うん。
ボクはぽりぽりと頭を掻きながら、取り敢えず今日の晩御飯のメニューを考えていた。
「…………よし、楓! 今日はチゲにしようか!」
「ん、ああ……って、マジか⁈ 紅葉ありがとう、愛してるッ‼︎」
と言って、ぎゅぅぅとボクに抱きつく楓。楓は辛党だからね。帰ってきたら絶対作ろうと思ってたんだ。幸せそうに笑う楓の温もりを感じながら、楓の背中に手をまわした。
ーーーー翌日。2年生のクラスに転校生が来た。といっても、ボクとは違うクラスだけど。でもね、黄色い叫び声が窓の外から聞こえてきたから、すぐ分かったよ。
ボクは放課後、そのクラスに行って、その人物を呼んだ。
「サッカー棟行こう、楓‼︎」
「お、紅葉。あ、ごめんな、妹が呼んでるんだ……じゃあな」
ニコッと笑うと、周りに居た女子が「「「「キャァァァーーーー‼︎‼︎」」」」と黄色い歓声を上げる。うっわぁ、うるさい。そういえば、楓学校で、両腕にチョコレート抱えて帰ってきたことがあったなぁ……? まあどうでもいいけど。ボクは楓と肩を並べて歩き始めた。
サッカー棟の前まで来ると、入り口から誰かが出てきた。
「拓人……?」
「っ‼︎」
拓人はボクらと目が合った瞬間に、いきなり走り出し、ボクらの間を抜けていった。逃げ出すように駆け抜けていった拓人の背中を呆然と見ていたボクらの元に、足音が近付く。足音の正体は、剣城くんだった。
「剣城くん……君、何か知っているのですか?」
「ああ……神童先輩、退部するんだってさ」
「⁉︎」
さらりと返ってきた返答に、ボクは驚かざるを得なかった。ボクは反射的に走り出していった。
「っなっ⁉︎ おい、紅葉‼︎」
楓が振り返って叫ぶも、そんなのボクにはお構い無し。とにかく、拓人と話したい一心で、足を動かしていた。
楓side
剣城クンから神童クンが退部すると聞いた途端、紅葉は反射的に走り出していた。ああやって後先考えずにとにかく行動するとこは相変わらずだなと思うが、あいつは神童クンの想いに気づいていない。まったく、鈍感なのも良い所だ……。俺が内心溜息をついていると、剣城クンに笑われた。
「先輩に向かって失礼だな、剣城クン?」
「……ふん」
「おーおー、相変わらず無愛想だなぁ。後輩ならもっと可愛げ見せろ! 松風クン達みたいにさぁ」
「あんたに見せる可愛げなんかねえよ」
「ハハッ、可愛くねぇ〜」
……うん、剣城クンはイジると面白いなぁ。楽しい楽しい。1人で楽しんでると、俺はふと剣城クンに対してずっと思ってたことを尋ねた。
「剣城クンさぁ……ぶっちゃけ、紅葉のこと好きじゃね?」
「…………は?」
あれ? 何かこれでもかってくらい蔑むような目で見た。うーん、俺の見間違いかなぁ……。ま、どうでもいっか。俺がさっさとサッカー棟に入ろうとすると……。
「良いのか? あのキツネ女を放っておいて……。あいつ、神童先輩の気持ち気づいていないんだろ? まして、相手は昔からの友人だから、キツネ女は警戒心なんてさらさら無いだろうな。好きな奴がそこまで無防備なんだから……流石の神童先輩も、何するか分からないぜ?」
人の悪い笑みを浮かべて、剣城クンが言い放つ。俺の肩がピクリと動いた。確かに、剣城クンの言うことも一理ある。それに紅葉は外の世界を知らないため、純粋過ぎる。俺の予想では、多分紅葉はキスさえも知らない……。って何処まで純粋なんだあいつは! だから、防衛能力なんか、これっぽっちも無い。結界は張れるけど、一定の距離で離れてないと、張れない。つまり、紅葉がされるがままに襲われる可能性もあるということだ。
神童クンを信用していないワケではないけど、もし紅葉が意図せずに神童クンを誘ってしまったら……。
俺は最悪の事態を考え、踵を返して紅葉を追い始めた。
うーん……。あまり裏要素的なのは書きたくない……。書いてるこっちが恥ずかしいっ‼︎/////
キスも書きたくないなぁ……。ま、頑張ってキスが相場かな。皆さん、こんな勇気の無い私を許して下さい(泣)。
で、今回分かった事。楓がチャラい。こんな軽い男なのかお前はぁぁぁ‼︎ こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……。ま、剣城とどんどん絡んでいただきましょう(笑)。
楓「次回もお楽しみに‼︎」