それではどうぞ。
Side無し
秋が深まり、既に衣替えも済んだこの時季。そして、この頃に、紅葉達双子の一大イベントがある。それは、彼等の誕生日だ。
蹴球神社のイロハカエデも、紅く色づき始めたのを始まりとして、紅葉は楓の、楓は紅葉のプレゼントを考える。特に紅葉は、今年の春に外界に出たばかりなので、何かを買おうと決めているのだ。
前日。
「お願いします」
「「え?」」
朝、紅葉は幼馴染である神童と霧野に頭を下げていた。突然のことに、2人は戸惑う。紅葉はバッと顔を上げて、懇願した。
「お願い、2人とも! 楓へのプレゼント選び、手伝って!」
「そうか、明日は紅葉達の誕生日だったな」
ポンと左の掌を上に、右の拳を乗せる霧野。その言葉に、神童も納得し、意見を述べる。
「楓のことだから、多分お前が選んだものなら何でも喜んでくれるんじゃないか?」
「う〜〜〜〜ん、でもなぁ……」
紅葉は右手を顎に添えて、考えるそぶりを見せる。しばらく黙り込むと、紅葉の表情がパアッと明るくなった。そしてこの時、神童と霧野の目には、紅葉の頭の上に電球が見えた。←
「そうだっ、この前見つけた"アレ"なら……」
一方その頃。
「頼む」
「え」
楓は、後輩である剣城に頭を下げていた。楓は驚き戸惑い、頭の隅では何だこいつ気持ち悪いと思っている剣城の肩をガシッと掴み、顔を近付けて言った。
「紅葉への誕生日プレゼント選び、手伝ってくれ」
「は?」
楓の顔から逃れようと少し体を反る剣城に、楓は変わらぬ笑みを浮かべる。因みに剣城と楓では、楓の方が身長が高いので、どうしても剣城は彼を見上げなくてはならない。
だが、今の剣城には、そんなことどうでもよかった。何でこんな先輩にアドバイスしなきゃいけないんだ。ていうか紅葉先輩が明日誕生日だって初めて聞いたぞ。何で情報流してくれなかったんだよこのアホ。と、頭の中で楓を罵る。
勿論そんな剣城など知らず、楓は懇願し続ける。
「な、頼むよ剣城!」
「イヤです。俺、今日兄さんのとこ行くんで」
「いやいや、今の何だよ! 優一さんとこ行くって、絶対俺についてくの断る為の口実だろ!」
「そんなに誰かについてって欲しいなら、松風あたりを誘って下さい。それでは」
「あっ、おい剣城‼︎ 紅葉にお前のこと好k「行きます。是非とも行かせて下さい」…………そんなにイヤか、バラされんの」
「…………」
こうして、剣城は半ば脅されながら、楓と一緒にプレゼントを買いに行った。
そして、翌日。誕生日。
部活が終わり、ジャージに着替えた後、紅葉と楓はミーティングルームに集まった。
「お、紅葉」
「楓!」
お互い、この日を楽しみに待っていた。プレゼントを後ろに隠し、わくわくとドキドキが止まらない。その中、楓が口を開いた。
「んじゃ、俺から。誕生日おめでとう、紅葉」
そう言って渡したのは、ヘアゴムだった。ダークピンク色のそれは、ラメが入っており、キラキラと輝いていた。
「これなら、お前のオレンジ色の赤髪と合うと思ったんだ」
「わぁぁっ、ありがとう‼︎」
紅葉は早速、貰いたてのゴムで髪を括る。ほぼ同系色のヘアゴムが、紅葉の髪が揺れる度にキラッと光る。紅葉も嬉しそうに笑って、自分の持っていた小さな袋を渡した。
「はい、コレッ! ボクからの!」
楓が袋を開けると中にはチェーンのブレスレットが入っていた。ブレスレットにはところどころに赤色のとても小さい宝石が埋め込まれていて、沈みかけの夕日の光を反射し、キラキラ輝く。
「とっても綺麗でしょ。実はコレ、ペアなんだよ!」
「ペア?」
楓が問い返すと、紅葉は自分の右手首を見せる。そこには、楓が持っているブレスレットと同じものがあった。だが、紅葉のものは、赤ではなくオレンジ色の宝石が埋め込まれていた。
「ねっ、お揃い!」
ニコッと笑い、楓に抱き付く紅葉。楓はそんな妹を愛おしく思い、頭を撫でた。楓も早速左手首に付けた。
「……ありがと、紅葉」
楓はポンポンと紅葉の頭を軽く叩き、紅葉と楓は手を繋いで、仲良く帰って行った。
翌日。
「で? 楓さんから貰ったんですね」
「はい! 剣城くんも一緒に選んで下さったんですよね」
「はい、まあ……」
朝練が始まる前、紅葉は剣城に会いに行った。礼を言う為だ。
「ありがとう、剣城くん」
紅葉は自分の中の最大級の感謝の気持ちを込めて、微笑む。剣城は少し頬を染め、何か言おうとしたが、背後からの楓の殺気に負け、「どういたしまして」と呟いて去ることしか出来なかった。
紅葉ちゃん、楓くん、誕生日おめでとう〜〜〜〜‼︎