巫女なボクと化身使いなオレ   作:支倉貢

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第23話 反逆、そしておかえり

両チームがポジションにつき、後半が開始される。1年生組……特に天馬くんは、ホイッスルが鳴っても動かず、ずっと俯いて突っ立って居る。さっき、春奈先生が言った話を引きずってるのかな……? こんな時、どうすれば……? 考え、ぎゅっとズボンを握るボクを、剣城くんが横目で見ながら言った。

 

「どうやら思い知ったようだな」

「……まだです」

「は…………?」

 

反射的にボクは剣城くんに言い返してた。それを聞き付けた剣城くんが、不機嫌丸出しでボクを見下す。鋭い目線が怖かったけど、それでもボクは言い返さずに居られなかった。

 

「まだこれからです! まだ何も始まってないし、何も終わってない!」

「はあ? てめえも見りゃ分かるだろ。松風天馬も諦めた。これでもなお、諦めないと言うのか?」

「当然です。それに、君は勘違いを一つしています」

「勘違いだと……?」

「彼は諦めてなどいません。今に分かります。見ていなさい」

 

ボクは剣城くんにそう言い放つと、フィールドに目を向けた。

得点ボードには、3対0とあった。指示通りになったって事か……。でも、まだ……まだなはずなんだ。天馬くん……いや、松風天馬! 君はまだ、諦めていない。そうでしょう? ボクは、祈るように目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり、天馬くんは諦めていなかった。1点を返したのだ。勿論、天馬くんが決めたワケではないが。拓人が天馬くんからのパスを受け、シュートを決めたのだ。チーム内は困惑していたけど、ボクは1人笑みを浮かべていた。これならまだ、革命の機を狙える。彼らには、点を入れて嬉しいと思う反面、フィフスセクターに逆らってしまった、という心の中で葛藤を起こしているはず。何でみんなそんなに怖がるかなぁ……。

 

「やりましたね、皆さん」

 

ボクは飛び跳ねて喜びたいのを抑えて、なるべくにこやかにみんなに話しかける。するとみんなが一斉にボクに冷たい目線を投げかける。倉間くんがボクに噛み付くように言った。

 

「やりましたね、じゃねぇよ‼︎ 分かってんのか? 俺達はフィフスセクターに逆らったんだぞ‼︎」

「……そうですけど…………でも、点が取れたのに変わりはありません。皆さんには、革命の意志がある……なら、サッカーを取り戻せます」

「え……?」

 

訳が分からない、と言うような目で、みんながボクを見る。……この革命は、ボク1人じゃ成し遂げられない。だから、みんなの力が必要なんだ。まず、みんなの不安を取り除かなきゃ……。

 

「大丈夫ですよ、皆さん。ボクがサッカー部を守ります」

「大丈夫って言ったって……!」

「もう、遅い……」

 

拓人が肩を落とし、俯きながら呟いた。声も震えている。

 

「もう遅いんだ……。俺が、シュートを決めてしまった……。サッカー部は終わりだ‼︎」

「終わりじゃないよ」

 

ダメだ。ここで、みんなの士気を落としては。微かにある希望を、こんなところで失うワケにはいかない!

 

「ボクなら、サッカー部を守れるし、みんなも守れるよ。絶対に守れる!」

「根拠もないクセににそんな事言うんじゃねぇ‼︎」

 

倉間くんが遂に声を荒げる。こんなところで怯んじゃいけない!

 

「出来る! 守ってほしいなら言ってよ。ボクなら……ボクの"チカラ"なら、みんなを守れる! だから信じて……」

 

ボクは真っ直ぐみんなを見つめる。でも、みんなはボクから目を逸らし、バスへと向かった。

 

「…………ッ、ボクなら出来る……出来るのにッ……‼︎」

 

ボクは呟き、ジャージを握り締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この試合の後、久遠監督が雷門を去った。フィフスセクターの制裁だとか何とか……。みんな、特に拓人は、「俺の所為だ」と言って、落ち込んでいた。

翌日の朝練は、みんな根気の無いものとなっていた。当然、と言えば当然かもしれない。久遠監督が居ないし、何よりキャプテンの拓人が居ない。ミス連発で、士気が今までに無いくらい落ちていた。

休憩中、速水くんが溜息混じりに呟いた。

 

「サッカー部はどうなっちゃうんでしょうね」

「久遠監督はこんな雁字搦めの状況でも、俺達の自由を認めてくれたよな」

「でも、それも出来なくなりますね」

 

車田先輩も蘭丸も肩を落として言う。その中、南沢先輩だけが、どうでもいいという感じで言った。

 

「ま、どうせフィフスセクターから来るんだろ。適当に言う事聞いて、内申書で合格点を貰えばいいさ」

「それでいいのかよ!」

 

車田先輩が声を荒げる。だが南沢先輩はお構いなしだ。

 

「それが部活でサッカーをやる意味だろ」

 

そっか……南沢先輩は、入部テストで落ちた3人と同じ……。フィフスセクターは学校の成績にまで首を突っ込んでるのか……。

 

「結局、誰が来たって同じって事か」

 

チーム内に、諦めムードが漂う。何とかしなきゃ、そう思ったその時。

 

「そんな事はないぞ!」

 

ふと頭上から、声が降ってきた。声の聞こえる方へみんな顔を向けると、誰かが立っていた。しかも2人。でも逆光で、顔がよく見えない。その声の主自ら、こちらへ向かって歩いてくる。だんだん、顔が見えてきた。春奈先生が顔を輝かせる。ボクも驚かざるを得なかった。その2人は、ボクにとって馴染みのある、いやありすぎる2人だった。

 

「今日から雷門中サッカー部の監督になった、円堂守だ!」

「「ええっ⁉︎」」

「みんな、よろしくな!」

 

天馬くんと信助くんが声をあげる。勿論、みんなも驚きの声をあげていたが、特に天馬くんと信助くんの喜びは大きいようだ。

 

「凄いや、本物だぁ‼︎」

「うん、円堂さんにサッカー教えて貰えるなんて、夢みたいだよ‼︎」

「そうか、それは何より」

 

また、円堂さんとは別の声がした。ボクの大好きな声だ。円堂さんの背後から、スッと姿を現す。ボクよりも高い背、揺れる赤髪のポニーテール、強い輝きを放つ金色の瞳。みんな、特に2年生と3年生が目を見開く。円堂さんが、その人物を紹介した。

 

「今日から雷門の仲間になる、於野楓だ!」

「よっ、よろしくな」

 

目の前に立っているのは、紛れもなく楓だ。ボクのたった1人の兄であり、たった1人の家族。ボクの1番大好きな人。

 

「楓ぇっ‼︎」

 

ボクは一目散に楓に抱き付いた。涙がどんどん溢れてくる。楓の制服に顔を押し付け、ただただ涙を抑えようとした。楓は一瞬驚いたものの、「ただいま」とボソッと言って、頭を撫でてくれた。

 

「うっぐすっ、ふえっ……お、かっ、えり……楓っ……」

「え? 紅葉先輩……?」

 

天馬くんが、ワケがわからない様子でボクと楓を交互に見る。蘭丸がボクらの事を解説してくれた。

 

「あいつは於野楓。紅葉の双子の兄さんで、俺や神童の幼馴染なんだ。かなりのシスコンで、バカ」

「最後2つはいらねえよ、霧野クン。てか、そいつら新入部員か?」

 

楓はボクから離れて、天馬くん達の前へと進む。

 

「初めまして、俺は於野楓。紅葉の双子の兄だ。ポジションは主にFWをやっている。よろしくな」

「俺は松風天馬です! よろしくお願いします!」

「西園信助です!」

「よろしく!」

 

楓は2人と握手を交わした。そしてすぐに、楓は改まった表情で頭を下げた。

 

「俺が居なかった今まで、紅葉を守ってくれて、本当にありがとう。感謝してる」

 

楓は頭を上げ、ふわりと微笑んだ。みんなは戸惑っていたけど、楓らしいなとボクは思った。楓、ずっとボクの事を気にかけてくれたんだ。そう思うと、何か嬉しくなる。

円堂さんがボクらを見て、微笑んでいたのは、誰も知らない。

 




楓くんが帰ってきたーーー‼︎
やっと出せたよ、楓くん。やった‼︎
これからも頑張ります^ ^

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