栄都学園に到着した。観客席は沢山の人で溢れ返っている。まあそうだよね。雷門サッカー部は、大名門だもん。
「お待たせしました! 雷門中のあるところに角間あり‼︎」
「うわぁっ⁈」
いきなりの大声にびっくりする。何だ、誰かと思ったら角間さんじゃん! テレビでよく貴方のお父さんの声をよく聞いたよ。実況でね。
ていうか何なのあの栄都学園のメガネ率! 全員メガネだよ⁉︎ メガネ率100%のサッカー部なんて聞いた事無いよ!
あ、因みにボクは今回、ベンチです。ちくしょー‼︎ ボクだってサッカーしたいサッカーしたいサッカーしたいサッカーしたいぃぃ‼︎ 暫く駄々こねてたけど、春奈先生がケーキ買ってくれると言うので仕方なく諦めてあげました。←ケーキで釣られた。
「雷門頑張れーー‼︎」
ボクは両手を口元に当てて、大声を出して応援した。
試合開始のホイッスルが鳴る。キックオフは、雷門からだった。
「…………何なのあれ」
前半はあっさり終了し、今はハーフタイム。前半、雷門は2点もリードされていた。見ていて分かった。あれは、完璧に手を抜いてる。見ているだけで、イライラした。
みんなの表情は暗い。どんよりした空気が、ベンチを包む。我慢出来ない。オレはベンチから腰を上げ、キャプテン達の元に立った。
「……何? たかが2点リードごときでもうダメだ、とか思ってんの? バカ言ってんじゃねぇ! そもそも、てめぇら手ェ抜き過ぎなんだよ‼︎ 何なんだあのなっさけないプレーは‼︎ サッカーは、てめぇらが思ってるほど甘くねぇんだよ! てめぇら、それでも雷門中サッカー部か‼︎ ふざけんな‼︎」
あんなサッカー、サッカーを侮辱してるのと同じだ。サッカーを完璧に舐めてる。舐め切ってる。蹴球神社宮司として、1サッカープレイヤーとして、許せない。ボクは拳をわなわな震わせながら、俯いて何も言わないみんなを見ていた。
「どうして、あんなプレーをするんですか‼︎」
今まで黙ってた天馬くんが、声を上げた。やっぱり、天馬くんも気付いてたんだね。
「三国先輩も車田先輩も天城先輩も南沢先輩も霧野先輩も速水先輩も倉間先輩も浜野先輩も……キャプテン! 何で本気で戦わないんですか‼︎ 先輩達が本気を出せば、
栄都学園の守りなんて、簡単に崩せるじゃないですか‼︎ なのに、何で本気を出さないんですか! 先輩達は、負けてもいいんですか⁉︎」
「いいのよ! 負けても」
「⁈」
口を開いたのは、春奈先生だった。驚いた。ボクも天馬くんも、信助くんも葵ちゃんも水鳥ちゃんも茜ちゃんも。
「負けても……いい……?」
「紅葉ちゃん達にはまだ言ってなかったけど、この試合は始めから3対0で雷門が負けることは決まっているの」
「負けることは、決まっている……?」
言葉をオウム返しすることしか出来ない。ボクにはただただ、衝撃だった。衝撃しかなかった。楓と一緒にやった、あの楽しいサッカーは、出来ないの……?
「フィフスセクターを知ってるわね」
「は、はい。日本のサッカーを管理してる所だって」
葵ちゃんが戸惑いながらも、春奈先生の質問に答えた。その答えを聞いた春奈先生が、続けた。
「えぇ。でも、ただ管理してるだけじゃないの。フィフスセクターは試合の勝敗を点数まで決めて、各学校に通達してくるの」
「‼︎」
「点数まで決めて⁉︎」
「何でそんな事を‼︎」
信助くんが驚きの声を上げ、天馬くんが追及するように、春奈先生に尋ねる。
そうか……練習試合が決まったあの時、みんなが暗かったのは……これが原因だったからか!
でも何故、そんな事を? ボクがふと思った事(と言うよりも天馬くんが先に聞いた事)に、春奈先生がまた答えてくれた。
「秩序を守る為よ」
「秩序……?」
「みんなも知ってる通り、今は学校の価値がサッカーの強さだけで決まる時代。弱ければ、見向きもされない。だから、どの学校にも公平に勝ちがまわるように、フィフスセクターが勝敗指示を出しているの。そして、指示に従ってさえすれば、学校の評判を維持出来る」
この事も……あの入部テストで落ちた人達が言ってた、「サッカーをすれば、内申点が上がる」ってのと、繋がってるのかな?
「それっ、て」
「八百長って事じゃねぇか‼︎」
葵ちゃんの声が震える。逆に水鳥ちゃんは、怒りのこもった声で叫んだ。
「この事を知っているのは、サッカーに関わってる一部の人間だけ。それが今のサッカー界の実情なの」
「そんなのおかしいですよ。始めから点数まで決まっているなんて、そんなのサッカーじゃない!」
天馬くんも、納得いかないみたい。それもそうだ。ボクだっておんなじ気持ちさ。今まで楽しんでやってきたサッカーが、180°変わってしまうなんて……。
ボクも天馬くんの意見に同情しようと、口を開こうとしたら。
「お前らに何が分かる‼︎」
叫んだのは、拓人だった。ボクも天馬くんも、拓人に視線が行く。
「お前らに何が分かるんだ。俺達がどんな思いでサッカーをやっているのか、三国さんがどんな思いでシュートを入れられているか、お前らに分かるのか‼︎ 俺達だってやりたいさ、出来ることなら好きなサッカーを思いっきり。でもフィフスセクターに逆らえば、サッカー自体が出来なくなってしまう! だからこそ、俺達はっ‼︎」
「神童‼︎」
蘭丸がもういい、と言わんばかりに、拓人を制止する。拓人は肩を震わせ、何処かへ走り去ってしまった。
「あ……っ、た、拓人‼︎」
ボクは、すぐに拓人を追いかけた。ボク……何であんな事を言ってしまったんだろう。拓人も、サッカーがとっても好きだって事を忘れていた。酷い事、言ったよね……。傷つく事、言ったよね……。ごめん、ごめんね、拓人……。ボクは心の中で謝りながら、走った。
お手洗い場の辺りで、拓人を見つけた。拓人の髪の毛から水滴が落ち、ユニフォームは肩まで濡れていた。力無く、弱々しく歩く拓人が、何だか何処かへ消えそうな気がした。
「拓人っ‼︎」
「‼︎ 紅葉⁉︎」
「拓人ぉっ‼︎」
驚く拓人なんて気にせず、ボクは拓人に抱き付く。ぎゅっと顔を拓人の胸に押し付けると、拓人の匂いが鼻をくすぐった。よかった、拓人はちゃんとここに居る。拓人の感触が欲しくて、ボクはもっと腕に力を込めた。
「も、紅葉……っ、は、離れてくれっ」
「やだっ」
拓人に肩を掴まれ、離されそうになるのを、ぐっと耐える。絶対離さないもん。そうして抱き付いていると、不意に頭に優しい感触がした。
「ほら、なでなでしてやるから……」
「んなっ…………こ、子供扱いしないでよ!」
ボクが地団駄踏みながら怒ると、拓人がくすっと笑った。
あ……また笑ってくれた……。
「……ふぇっ」
「え?」
「ふぇぇぇぇぇぇぇんっっ‼︎ ごめんね拓人っ……ボク、拓人の気持ちも知らずに、あんな事っ……ぅぅっ」
安心したのか、ボロボロ涙が溢れてくる。小さい子供みたいに泣きじゃくって。拓人はびっくりしてたけど、ボクを落ち着かせようと、なでなでしてくれた。
「紅葉……泣くなよ」
「ひっぐ、ぅぅっ……ご、ごめんっ……グスッ」
「……泣くなよ。俺だって……泣きたくなるじゃないか……」
拓人がそんな事言ってたなんて、ボクは全然知らなかった。
久々の更新〜。結構書いたなぁ。
あ、評価や感想等頂けると凄く嬉しいです。切実に。