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中東方面でマーティアルとアマルガム、それぞれ二つの組織の尖兵達とやり合って負傷し、その後どうにか傷を癒す事が出来た自分はネオ・ジオンとプラントの動きを探るべく、グランゾンと共に宇宙へ赴いていた。
ネオ・ジオンやプラントの動きを探るべく自分が訪れたのはインダストリアル7と呼ばれる民間のコロニー、宇宙工学を学びに来た学生とかコロニー建設業者の人達が多くいる、ごく普通の工業コロニーだ。
本当ならグランゾンで侵入するのではなく、ちゃんとした手続きの下でこのコロニーに訪れたかったのだが、ネオ・ジオンと地球連邦が小競り合いを続ける現在の状況では無駄に時間が取られそうだった為、仕方なく無断でここに来る事になってしまった。
勿論、侵入する際は細心の注意を払っている。コロニー側の監視カメラや警戒カメラの類は事前に用意しておいたダミー映像ですり替えておいたし、グランゾンも自分がコロニーに取り付くと同時にワームホールへ収納しておいたから、早々誰かに見られるという事はない筈。
このコロニーに訪れて三日程経過しているが、自分の事が話題に上がっていない事から、多分自分達の事は知られていない筈。まぁ、万が一知られて騒ぎになっても困るし、情報の方もそこそこ集まったからそろそろお暇させて貰うけどね。
今回集まった情報の多くはネオ・ジオンに関する事なんだけど、やはり民間にはそこまで情報は出回っていないのか、あまり有益になる様な情報は得られなかった。けれど今回このコロニーを伺ったのはネオ・ジオンの今後について市民の人から生の声が聞きたかったからだし、そちらの方は結構聞けたからこれはこれで良しという事にしておこう。
で、今回市民の人達と世間話という事で話を聞いた所によると、やはり地球連邦と小競り合いをしている事は不可解に思っているらしく、殆どの人達が今後の世界情勢に不安を抱いていた。
まぁそらそうだよなぁ。ネオ・ジオンって新世時空振動が起こる前……つまりUCWではそこで大きな戦争を起こしていたって話だし、それを体験している人からすれば冗談ではないって思っている事だろう。
というか、そもそもなんでネオ・ジオンは現在の地球連邦をああも毛嫌いしているのだろう? そりゃ戦争をしていた相手と宜しくやるのは面白くないと考える人間はどちらも少なからずいるだろうが、それでも上手く立ち回ろうとするのが指導者の正しいやり方なのではないのか? 政治の事はあまり詳しくないので何とも言えないが、少なくとも戦争という行いは間違っている筈。
やはり、地球至上主義を掲げる連中が関係してくるのかなぁ? けど、ネオ・ジオンにはハマーン=カーンという文武共に秀でた女性指導者がいると聞く、そんな人が組織の舵を握っているのなら早々迂闊な事はしないと思うんだけどなぁ。
この場合、地球至上主義とやらの連中の方を怪しむべきなのだろうか? ネオ・ジオンと連邦、どちらも一枚岩ではなさそうだから何とも言えないけど、ひとまずネオ・ジオンの方は後回しにしても良さそうだ。
いや、この場合は地球至上主義の奴等の方が気になると言った方が正しいか、何だか連中の動きには裏があるように見える。奴等の実質のまとめ役であるサイガス准将も何らかの指示を受けて動いている節があるようだし、連中の方がもっと根深いモノがあるかもしれない。
それがネオ・ジオンと対立する原因になっていると考えれば、彼等が小競り合いしている理由も少しは理解できるかもしれない。……まぁ、結局は自分の推測と直感による所が大きい推論なので、あまりアテにはしないけどね。
それはさておき、今回このインダストリアル7に赴いた時、意外な人物と再会できた。沙慈=クロスロード君、どうやら彼も宇宙工学を学ぶためにインダストリアルにある学校で勉強を頑張っているようだ。
遠巻きから見ていたが、ここの学生と仲良くやっているようだし、時々聞こえてくる話から察するに恋人のルイスさんも元気でやっているみたいだ。特にルイスさん、知らなかった事とは言え再世戦争で一度彼女を殺し掛けている自分としては、仲睦まじそうな二人にホッとする心境である。
それ以上話を盗み聞きするのは拙いと思い彼等から離れた自分は再び情報を集めたのだが、上記にも記した通りこれ以上の情報はなく、仕方なく近くのビジネスホテルに戻る事にした。
その際にやたら身なりの良い初老の男性とぶつかったんだけど……大丈夫かな? すぐさま謝ったし、向こうも気にするなと言ってくれたから良いんだけど、高貴な人と拘わると色々アレな事になるから此方としては気が気でない。
ぶつかったあの人、確かカーディアス=ビストさんだったかな? 後から調べた所によればビスト財団という有名な財閥の二代目当主様らしいし、後から難癖付けられたりしないだろうか? ……流石に被害妄想が過ぎるか。二、三しか会話しなかったけど、個人的な印象はさほど悪くない。聡明そうな人柄だったし、多分悪い人ではないのだろう。
どうやらビスト財団はこのコロニーの大株主みたいだし、迷惑を掛けない内にここから離れた方がいいかもしれない。
まぁ、今回の出来事を纏めると大体こんな所だろう。明日からまた別の所へ行って情報も集めなければならないから早い内に休んでおこうと思う。
しかし、新世時空振動の影響でまだら模様の宇宙で無くなるとは思わなかった。これまでの時空振動は幾ら起きても宇宙の景色まで変わる事はなかったのに、不思議なモノである。まぁ、この時空振動が人為的に引き起こされたモノであれば話は別だけどね。
今後はこの宇宙と新世時空振動についても調べなければならないのでこれからはもっと忙しくなるだろう。
/月※日
───今、自分はネオ・ジオンの軽巡洋艦であるムサカに客として乗っている。周囲は誰もおらず警備の者もいないから日記を書いているが、それでも自分は警戒を緩めず今も周囲の動きを気配で察知している状態だ。何故自分がネオ・ジオンの艦に乗っているのか、事の始めは数時間前まで遡る。
インダストリアル7で情報を集めていた自分がそろそろここから離れようと思いグランゾンに乗り込んだ時、コックピットから重力場の異常数値を感知したのだ。
異常と言っても微々たるモノ、多元世界であるこの世界なら時空振動により多少の重力変動は珍しくないので以前までの自分なら無視する所だった。しかし、新世時空振動により次元境界線が安定し、そうそう時空振動は起こらなくなった今の世界で、このような数値を感知するのはおかしい。愛機であるグランゾンの性能と自分の直感を信じた自分は、感知した場所を探るとワームホールでその場所へ転移した。
そこで自分が見たモノは……少しずつ時間が停止していくリモネシアの皆だった。
それは端から見れば何の差異もない微々たるモノだろう。しかし、時間のズレは確実に地球を蝕んでいる。俺はすぐさまグランゾンの感知システムを総動員させて調べ尽くし、原因を割り当てた。
幾つもの検証を重ねて調べた結果、一年もしない内に地球の時間は停止し、全ての人類もその成長を止めるという結論が出た。
頭がどうにかなりそうだった。地球……いや、この世界に生きる全ての人間が止まるという現実を前に自分の思考は暫く停止し、その直後には溢れんばかりの怒りがこみ上げてきた。
どこの誰かは知らないが随分勝手な事をしてくれる。この時までの俺は冷静ではなく、怒りのままグランゾンを稼動させ、この“時の牢獄”を破壊しようとした。
グランゾンは重力を操る魔神、時の牢獄も今ならネオにもなる事もなく破れるかもしれない。そう思い自分は地球の近海で、他の組織に自分の事が知られるのを覚悟した上でブラックホールを生成しようとした時、ナナイ=ミゲルと呼ばれる女性が通信を寄越してきたのだ。
ムサカに乗った彼女が自分に寄越してきた通信内容は、暫くの間ここで待っていて欲しいという事。本当なら今すぐにでもあの忌々しい牢獄を破壊してやりたい所だ。
けれど、あのタイミングでネオ・ジオンが自分に接触してきたのも気掛かりだ。もしかするとネオ・ジオンには自分の事やあの牢獄の事を知っている人間がいるのかもしれない。今の自分には圧倒的に情報が足りていないのもまた事実。あの牢獄を破壊するのはもう少し様子を見た方がいいのかもしれない。
やはり、日記というのは良いものだ。自分の心の内を文面として吐き出すだけでも随分気分が変わってくる。
……誰かが近付いてくる。そろそろ自分を呼びつけた者と対面できると思うので今日の日記はひとまずこれで終わりにしようと思う。
◇
「お待たせしました。Mr.蒼のカリスマ」
「……いえ、それで? 私を呼び止めた理由はなんです? まさか、私をネオ・ジオンに抱え込もうという心算ですか?」
「……私の口からはなんとも、全てはこの御方から伺って下さるようお願いします」
そう言って仮面の男の前に出されるのは一台のノートパソコン。電源の入った画面を蒼のカリスマに向けるようテーブルの上に置くと、ナナイ=ミゲルは失礼しますと頭を下げ、部屋から出て行った。
一体なんなのだと蒼のカリスマが首を傾げた時、モニターに一人の男が映し出された。
『モニター越しとはいえ、こうして面と向かって話すのは何気に初めてだな。蒼のカリスマ』
「……その声、クワトロ大尉ですか?」
『今の私はシャア=アズナブル。ネオ・ジオンの総帥の席に座する者だよ』
モニターの向こう側で笑みを浮かべる男に、蒼のカリスマはその仮面の奥で僅かに目を見開かせた。
次回辺りから時獄篇が本格始動する予定。
Q主人公ってグランゾン以外にも乗れるの?
A一応破界篇でもシミュレーションでアクシオを操作したりしています。