『G』の日記   作:アゴン

76 / 266
この話を書いていると何故か無双シリーズがやりたくなる。




その62 後編

 

 

 

────圧倒的。様々な因子が蠢き、要素が充満するこの戦場で、その存在は一際異彩を放っていた。支配していると言ってもいい。様々な不確定、不安定材料が飛び交う戦場で、その存在……蒼き魔神はそれら全ての因子、要素、そして戦場の空気全てを支配していた。

 

ネオ・グランゾン。唯でさえ手が付けられなかったグランゾンの進化系の機体。その力は無数に湧き出てくるバジュラの軍勢を瞬く間に退け、イノベイドとバジュラのそれぞれの陣営から集中砲火を受けても平然とその場に佇んでおり、そして止めには巨大な質量の塊であるバトルギャラクシーを一撃で破壊、その存在を原子の一粒も残さず完全に消滅させていた。

 

その力、まさに無双。その姿、正しく魔神。日輪を背負う事で更なる力を得たグランゾン、そしてその操者である魔人蒼のカリスマはバジュラの女王に寄生するグレイス=オコナーを、冷ややかな目で見下ろしていた。

 

『これで邪魔者はいなくなりました。さぁ、貴方の力を見せて下さい。グレイス=オコナー、貴方の力を、神と自称するその力の程を。私はその全てを真っ正面から悉く破壊してみせましょう』

 

『小僧が、図に乗って!』

 

魔人の挑発に女王が憤る。空間を震わせる程の巨大な雄叫びと共にバジュラの女王に光が宿り……。

 

『ならば見せてやろう。これがプロトカルチャーすら戦慄した一撃、銀河を統べる神の一撃だ!』

 

極大の光が放たれる。バトルギャラクシーの主砲とは比較にならない閃光が、周囲のバジュラ諸共グランゾンを呑み込んだ。宇宙空間が歪曲するほどに巨大なエネルギー、その奔流に巻き込まれれば如何に魔神といえど無事ではすまない。

 

『……バカな』

 

無傷。ダメージが通るどころか傷一つ付いていない魔神にグレイス=オコナーはただ驚愕するほか無かった。そんな彼女の様を見て、魔人は仮面の奥でほくそ笑む。

 

『別に驚く必要はないでしょう。貴方の攻撃が私に届く直前、ワームホールで回避したに過ぎません。で? 銀河を支配する神様がまさかこの程度で終わったり……しないよな?』

 

『シュウジ、シラカワァァァ!!』

 

激昂した女王が更なるエネルギーを凝縮させて魔神に向けて放つ。先程よりも強大で、先程よりも巨大なエネルギーの奔流が、渦となって魔神に押し寄せてくる。

 

極大の光。それを前にして魔人は動揺を見せず、仮面の奥で笑みを深めると、目の前に異空間の扉を開く。またワームホールに逃げ込むのかと邪推するグレイスだが、魔神はその中に逃げ込もうとせず、異空間の中に腕を突き入れ、ある物を取り出してきた。

 

手にしたのは───剣。魔剣の類と思わせるその剣は魔神が振り下ろした瞬間、迫り来る極大の閃光を一刀の下に両断してみせた。

 

『バカな、一度ならず二度までも、我が一撃は星をも穿つ筈。それなのに何故!?』

 

『この剣には少々細工を施していましてね。超重力による干渉波を微弱ながら纏わせているのです。これならば貴方が寄生する女王バジュラの纏う次元断層による防御壁にも干渉できます』

 

『っ!?』

 

『気付かれないと思いましたか? 女王バジュラと共に出現する際、既に我がグランゾンは次元干渉における異常数値を検出しています。大言壮語を語っておきながら実質は絶対な防御壁で固めている。そういう所が小物っぽいのですよ』

 

『────っ!!』

 

『ですが如何なる事象、物質にも干渉できる重力からは逃れる事は出来ません』

 

剣を携え、女王を見下ろす蒼のカリスマと蒼き魔神グランゾン。己の攻撃手段を悉く看破されていく事実にグレイス“達”は怒りを尚増幅させる。己の攻撃も防がれ、自身を覆う防御壁も見破られて対応策を取られ、着実に追い詰められた彼女達が次に取った手段は……バジュラに指示を出し、圧倒的物量で応戦する事だけだった。

 

またコレか。似たような戦法で仕掛けてくるグレイスに呆れ混じりの溜息が零れる。このまま迎撃しても、向こうは何度でもバジュラをけしかけて此方に向かって来させるだろう。

 

バジュラ達は謂わば操られた傀儡だ。奴の思惑をねじ伏せる為にも、バジュラ達をグレイス等の支配から解き放つのは必要な事なのだが、如何せんそこまでの手立ては魔人は用意していない。

 

バジュラ達を支配という呪縛から解放させるには、バジュラの生態を完全に理解する必要がある。このまま一方的に蹂躙し、グレイス達を叩き潰したとしても蒼のカリスマ───シュウジにとって、完全な形での報復完了とは成り得ない。

 

どうしたものかと仮面の奥で暢気に熟考する魔人、そんな彼の前に突然赤いバルキリーに乗ったロックシンガー、熱気バサラがバジュラの群に向かって突っ込んでいった。

 

『バジュラ、俺の歌を聴けぇぇぇっ!!』

 

戦場に広がっていくバサラの歌声、それを聴いたバジュラは僅かな動揺を見せ陣形を崩したが、次の瞬間には元の状態へと戻り、バサラを狙って押し寄せてくる。

 

だが、この時蒼のカリスマは見逃さなかった。バサラが歌を歌ったと同時にバジュラの腹部から発せられる特殊な波動、“フォールドクォーツ波”を。

 

グランゾンのモニターに出されるバジュラ達の生態系図。それを目にした時、蒼のカリスマは成る程なと納得する。この時点ではまだ仮説でしかなかったモノ、しかし次の瞬間、戦場に響き渡る音楽が流れ出た途端、シュウジの考えは確信へと変わった。

 

『さぁ、行くわよ! 私の歌を聴けぇぇぇっ!』

 

『みんな、抱きしめて! 銀河の、果てまで!』

 

ランカ=リーとシェリル=ノームの歌声が宇宙に響き渡る。その純真な想いに満たされた歌声は、支配されていたバジュラ達に浸透し、グレイス=オコナー達の呪縛から解放されていった。

 

『バカな! 用済みとなったリトルクィーンの歌声が女王の支配から解き放つだなんて!』

 

『成る程、流石は超時空生命体であるバジュラだ。生命体としての常識をこうも簡単に覆すとは……流石の私も驚きを禁じ得ませんね』

 

『っ!』

 

『理解出来ていないようでしたので説明してあげましょう。バジュラという生き物は頭部にこそ神経系の集束部分は確認されていますが、別にそれ自体は重要な器官ではありません。喩え頭を撃ち抜かれようが生命活動を自律させる。貴方はこれを女王バジュラが支配するが故の構成なのだと、バジュラという生態系の仕組みなのだと考えをまとめた様ですが……実際は違います』

 

『なんだ、一体それは……何だというのだ!?』

 

『別に、そんな大した話ではありません。我々人間も“心”が何処に存在するのか定義出来ないように……バジュラもまたソレと同じ、ただそれだけの話なのですよ』

 

『心……だと? そんな、そんな不確かなモノの為に、我らの計画が!?』

 

『その不確かなモノを粗末に扱った結果が今です。グレイス=オコナーよ、そして亡霊共よ。今こそ我が報復の時。────終幕の時だ』

 

バジュラの女王を覆っていた次元の壁が、ランカとシェリル、二人の歌声によってかき消される。それを見計らい魔神が無数の光の槍で女王バジュラの首を撃ち貫き、胴体から頭部が切り離される。

 

そんなバカなと、自分達の計画が音を立てて崩れていく様を耳にしていた一方で、グレイス=オコナーは目の前の魔神の姿に視線が釘付けになっていた。

 

『相転移出力、最大限……』

 

魔神の背負う日輪が、目映い光を放つ。

 

『縮退圧、増大……』

 

瞬間、魔神の頭上にワームホールが形成され、戦場を包み込む程に広がった時、次の瞬間にはグレイス=オコナーと魔神ネオ・グランゾンはZEXIS達の前から姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────何だ、これは?

 

ネオ・グランゾンの開いたワームホールに呑み込まれ、気が付いたら見知らぬ大地に佇んでいた。突拍子な状況に追い込まれ、女王バジュラの頭部に寄生しているグレイス=オコナーは目の前の状況にただ呆然としていた。

 

理解出来ない。理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない。

 

何が起こった。そして、何が起ころうとしている。付いていけない状況の中で必死に思考を巡らせていたグレイス達の頭上に───影が伸びてきた。

 

何だ? そう思い見上げたグレイスの視界に映っているのは、厚い雲に覆われた空に一人宙に浮かぶ魔神の姿だった。

 

『重力崩壊臨界点……突破』

 

魔神の胸部が開き、黒い球体が三つ。それらが一つになるように融合していく様を見て、グレイスは嫌な予感を感じた。

 

嵐が巻き起こる。魔神を中心に吹き荒れる重力力場の嵐は、グレイスの周囲にある大地を抉り、崩壊させていく。

 

大気が乱れ、大地が崩れる。時間が乱れ、光が歪む。あらゆる事象が欠落し、世界を構成するあらゆる系が崩壊する。

 

『────お前達の存在を、この宇宙から抹消してやろう』

 

魔人の口調が変わる。今までの蒼のカリスマとしての丁寧な言葉遣いではなく、素朴で乱暴なシュウジ=シラカワとしての言葉。それを耳にした時、グレイスは目を見開きながら悟った。

 

“自分達は、手を出してはならない存在に手を出した”

 

大気、重力、光、それら全てが一つの黒点に集約された時、魔神の前に一つの事象が完成された。

 

『さぁ、眠るがいい……』

 

三つの黒が集約された事により爆発が起こり、厚い覆われた雲に穴が開く。降り注がれる光の中でグレイス=オコナーが目にしたモノは……。

 

『縮退砲……発射!』

 

自らを称していた存在。“神”の姿がそこにあった。

 

あぁ、そうか。あの魔神を目にした時から嫌な予感がしていたが、ここへきてグレイスはそれがなんなのか理解出来た。

 

(神様が相手じゃ、そりゃ敵わないわよね)

 

笑みがこぼれる。達観しながらも涙を流し、笑みを浮かべるグレイスが最期に見たのは……世界を再世させる光の奔流だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何が……起きた。グレイス=オコナーは、何処へ消えた!?』

 

超大型艦、ソレスタルビーイングに乗るイノベイド達の頭目であるリボンズ=アルマークは戦慄する。先程まで存在が確認されていたグレイス=オコナーの反応が突然消えた事に、彼の心境は大きく掻き乱されていた。

 

魔神が突然開いた巨大なワームホール。それを目の前にした時はどこかに転移されるのかと思われたが、消えたのは魔神グランゾンとグレイス=オコナーの姿のみ。気が付けばグレイスの存在は跡形もなく消え去り、我に返ったリボンズが目にしたのは、ワームホールの中から悠々と出てくるグランゾンの姿だけだった。

 

魔神にリボンズは言った。何をしたのかと。その問いに対し……。

 

 

『さて、これで私の目的の半分は達成された。……次は、お前だ。リボンズ=アルマーク』

 

振り返りながら魔神は己の名を口ずさむのだった。

 

その仮面の奥で、魔人は一人ほくそ笑む。

 

魔人の魔神による蹂躙は……まだ終わらない。

 

 

 




次回はボンズリさんの番ですね。


以下、主人公の持つ強化パーツ。

“友の形見”

トレーズが主人公に送ったロングコート。原作のIFルートの53話後に入手。


効果

出撃時に気力が+20アップ。

命中率、回避率、更にCT率が30%アップ。

というエレガント仕様(笑)

やりすぎた。けれど後悔はしていない。

それでは次回もまた見てボッチ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。