『G』の日記   作:アゴン

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今回はインサラウム篇の半ば、次回で終われるよう頑張ります。


その41

もうウンザリだ。カラミティ・バースでリモネシアは破壊され、漸く復興が形となって来たのにアロウズとブリタニアに焼かれ、今度はインサラウムという侵略者にZONEという兵器を設置される。

 

一体、世界は何故ここまでリモネシアを目の敵にするのか。───もし神という者が存在し、リモネシアに対してそうするよう仕向けているのなら……俺は、神を殺す事も厭わない。

 

だが、それはひとまず後回し。今更になって出てきた王冠野郎に俺は敵意を持って答えた。

 

『インサラウムの皇子が一体何のようだ? それに今聞いた限りでは……今度はアンタが俺の相手をすると言ったか?』

 

『それがそなたの本性か、ウェインの言っていた事は真であったか。苛烈にして熾烈、分かり易いが故に凄まじい。……問いに答えよう、そうだ。余がそなたの相手をし、この地球への侵略の足掛かりとさせてもらう』

 

今までと違いどこか覇気を思わせる皇子に違和感を覚えるが、今はどうでもいい。敵の大将が出てきたのであればそれらを粉砕してやるまで、グランワームソードを取り出し、皇子の乗る機体と相対する。

 

しかし、次の瞬間自分を囲むように無数の次元獣が出現した。てっきり一騎打ちだと思っていただけに気の抜ける事をしてくれるインサラウムに対して不満を募らせていると、王冠機体から皇子の苦々しい声が聞こえてくる。

 

『アンブローンか、余計なことを……済まない魔神よ。一騎打ちのつもりが余計な邪魔が入った』

 

『別に構わん。どっちにしろこの程度ではハンデにもならないからな。おら、気にしないで打って来いよ』

 

背後から襲いかかってくる次元獣に振り向きもしないでワームスマッシャーを撃ち込み、爆散する連中を無視しながら皇子に対し分かり易い挑発をする。

 

通信の向こうから皇子の息を呑む音が聞こえてくるが、覚悟を決めたのか皇子は雄叫びを挙げながら向かって突っ込んできた。

 

『はぁあぁぁぁあっ!!』

 

振り下ろしてくる刃を此方も剣で受け止める。受けた一撃は確かに鋭く重いが……それだけだ。シュバルのおっさんやガイオウの様な迫力は微塵も感じられなかった。

 

教本通りの戦い。皇子の剣の使い方はまさにそんな感じだ。二撃、三撃と立て続けに打ってくる攻撃を受け止めて次に大振りになった瞬間、奴に向けて横薙に振り払った。

 

『ぐぅぅぅっ!』

 

自分の反撃を受けて大きく仰け反る皇子の機体。このチャンスを逃してたまるかと追撃を仕掛けようとするが、周囲の次元獣が皇子を守ろうと押し寄せてきた。

 

鬱陶しいと剣で振り払い、何匹か屠るが、それでも次元獣達は怯むことなく数で押し寄せてくる。

 

『……グラビトロンカノン、発射』

 

『ぐ、あぁぁぁぁっ!!』

 

面倒になってきたので周辺一帯を高重力の雨で叩き潰す。降り注ぐ重力の雨に耐えきれなくなった次元獣は次から次へと圧壊して消滅していく、そんな中、皇子の機体の他に奇妙な次元獣がグランゾンの攻撃に耐えていた。

 

黄色い次元獣。しかもその中で最も非力とされるダモン級の次元獣がグランゾンの高重力に耐えているのだ。ギガ・アダモンや他の次元獣が耐えきれず消滅する中、その次元獣だけが耐えていたので不思議に思った時、突然通信回線に別の声が割って入ってきた。

 

『ダメだシュウジ! それ以上攻撃しちゃダメだ!』

 

声の主は……カレンちゃんだった。通信の入ってきた方角へ視線を向けると、カレンちゃんの紅蓮を筆頭に、ZEXISの面々がリモネシアに向かって接近している。

 

『邪魔しないでくれカレンちゃん。今はコイツ等を始末する大事な場面なんだ。後でちゃんと事情も説明する。だから今は───』

 

『違う! 違うんだ! その黄色い次元獣は……エスターなんだよ!』

 

『───っ!』

 

息を呑んだ。あの黄色い次元獣がエスターちゃんだと知らされた俺はそんなバカなと疑いながら、脳裏である光景がフラッシュバックする。

 

そう言えば、今回の騒動が始まった最初の頃はクロウさんのブラスタを黄色くさせた機体を見かけた様な気がする。もしかして、あれにエスターちゃんが乗っていたのか!?

 

瞬時に俺はグラビトロンカノンの攻撃を止め、エスターちゃんらしき次元獣に向き直る。瀕死の状態なのかピクピクと痙攣を起こしてはいるが、ギリギリの所で押し留まったのか消滅は免れている。

 

その事に安堵した瞬間、背後から衝撃が走った。歪曲フィールドで防いだ為損傷はしていないが、それでも此方の意識の外から攻撃してきた奴は相当の実力者に違いない。

 

一体誰が? そう思いながら振り向いた瞬間、俺は以前自分が立てた仮説が正しかった事を確信した。

 

『今の攻撃を防ぎますか。流石は魔神グランゾンと蒼のカリスマですね。いや、シュウジ=シラカワと呼んだ方がいいですかな?』

 

『……やっぱり生きていたか、アイム=ライアード!』

 

趣味の悪い装飾の機体と鼻につく独特な言葉遣い、全てが嘘で包まれた狂言者、アイム=ライアードが奴の愛機であるアリエティスと共にZONEの近くに佇んでいた。

 

『その口振りだと私の力がどういうモノなのか理解出来ている様ですね。流石は魔人と呼ばれるお方だ』

 

『御託はいい、お前を倒す事に変わりはねぇんだからよ』

 

『私を倒す? 何故? 私アナタに何か粗相をしましたかね?』

 

『惚けるつもりならそうしろ。だがな、此方はお前が出てきた瞬間に色々確信してるんだよ。お前が裏でアロウズの黒幕と通じている事もな!』

 

『成る程、どうやら私が予想していた以上に見抜いているご様子だ。ある一点だけ見落としてはいますが……まぁ、こればかりは知る術がないので除外、それ以外の点では見事と言っておきましょう』

 

アリエティスで拍手をしながらあからさまに挑発してくるアイム、その苛立つ奴の態度に俺は必死に殴りたい衝動を抑えた。

 

今の奴は危険だ。破界事変の頃と比べて力を増している奴と戦うにはもう少し情報が必要だ。そう思いながら立ち上がってくる皇子とアイムを同時にどう戦うか模索していた時、隣に青と銀の混ざった機体が降り立ってきた。

 

『やっと追い付いたぜ蒼のカリスマ、自分が世話になった場所を壊されて腹が立つのは分かるが、あんましカッカするな。奴の思う壷になるからよ』

 

通信でそう言ってきたのは、ZEXISの中でも比較的友好な関係だったクロウさんだった。軌道エレベーターの時もそうだったが、どうやら彼は新しい機体で戦ってきたようだ。羽振りも良さそうだし、遂に借金も返済できたのかな?

 

クロウさんのブラスタがリモネシアに降りたったのを皮切りに、ZEXISの面々が次々と島に上陸してきた。次元獣も既に黄色い次元獣を除いて全て消滅し、今この場にいるのはZEXISと自分、そして皇子とアイムだけとなっている。

 

『アイム、色々とテメェには聞きたい事がある。いい加減観念するんだな』

 

『それには及びませんよクロウ=ブルースト。私の事について知りたいのなら寧ろそこの魔人さんから聞くと良いでしょう。何せ満足な情報もなく私の存在と力を見抜いたお方なのですから』

 

銃口をアイムに向けるクロウさん。だが、アイムの話す内容が驚くべき事実だったのか、周りのZEXISから驚愕の言葉が出てきている。

 

『話を逸らそうとしてんじゃねぇよ。お前、さっきある一点が足りないって言ったな……まさか、インサラウムの奴らにもちょっかい出してたのか?』

 

『フフフフ、本当に聡明な方ですねアナタは…ええそうです。インサラウムの宰相アンブローンに次元科学を進めるよう提案したのは何を隠そう私です』

 

その事実に皇子と俺を除いた全員が絶句する。攻撃してきたタイミングといい、姿を現した事といい、恐らくアイムはあの皇子に何らかの力の発露を促しているのではないか?

 

インサラウムの機体は殆ど次元科学を施されたものだと聞く。次元科学に関わっているのなら、あの皇子の機体にだって何らかの仕掛けが施されている筈。

 

もしかしたらアイムはそれを狙っている? 確認したい所だが、今はそれよりも大事な事がある。

 

『で、お前は一体何の為に出てきた? まさか大人しく叩き潰されに来た訳でもないだろう』

 

『ふふふ、ご名答。つくづくアナタは厄介なお人です……よ!』

 

俺の質問に奴の機体がZONEに触れた瞬間、ZONEが活動を開始した。揺れ動く大気、捻れる空間に時空震動の予兆を感じた俺は変わらずアイムを睨み付ける。

 

『……これが、お前のやりたかった事か?』

 

『シュウジ=シラカワ、アナタは私に予想以上の力を見せた。以前リモネシアでお会いしたときは取るに足らないただの人間でしたが……今はそうは思わない。スフィアもなく、黒の叡智にすら触れてもいないのにその力は最早危険すぎる。よって、ここにいるZEXISごと時空震動で別次元に飛ばす事で私の勝ちとさせて頂きます』

 

……成る程、奴の言いたいことは分かる。戦って勝てない、または危険な相手に無傷で勝つには“戦わない事”が最も有力な手段である。

 

自分に手出しできない所に跳ばしてしまえば、仮に再び相対してもその頃には既に自分達を上回る力を手にしているという算段だ。

 

つまり、奴がこの場に姿を晒した時は既に奴の勝ちは決まっていた事になる。確かにこれは上手い手だし、俺は素直に感心する。

 

───だが、この作戦には穴がある。それは、ここに自分とグランゾンがいる事だ。確かにZONEは頑強だ。周囲に次元の壁を隔てる事で最強の防御力を有しており、ZEXISの攻撃を持ってしても罅一つ入らない。

 

けれど、その次元の壁諸共ZONEを消し飛ばす手段があるならばどうだろうか? 動揺するZEXISの面々を後目に、俺はグランゾンの胸部を展開させてあの攻撃を放つ準備を始める。

 

『シュウジ、何をするつもりなの!?』

 

『カレンちゃん、そしてZEXISの皆さんは急ぎこの場から離脱して下さい。ZONEの破壊は私の方で何とかしておきます』

 

『破壊だと! まさか……止めろシュウジ=シラカワ! アレを撃てばZONEどころかリモネシアだって!』

 

破界事変の時、初めてBHCを目にした事を思い出したのか、アムロ大尉から攻撃中止の通信が入ってくる。カレンちゃんやヨーコちゃん達からも今すぐ止めろと言ってくるが……止める気はない。

 

だって、このままこのZONEを放置すれば次元力を引き出されて地球は死の星となってしまう。リモネシアを壊すのは……本当に、本当に忍びないけれど、ZONEを破壊できるのは自分しかいない。自分だけしかこの状況を打破できないのであれば────やるしかない。

 

シオさん、ラトロワさん、ガモンさん、ジャール組やリモネシアの皆には……永遠に許されない事だろう。けれど、それでも皆が生きているのなら俺はそれでよかった。

 

さぁ、始めよう。地球上で二度と撃つつもりはないと約束した誓いを破り、俺はグランゾンでマイクロブラックホールを生成する準備に取り掛かる。

 

───だが、思いもよらない乱入者がそれを許さなかった。

 

『ダメだよーシュウジ君、そういうのってただの自己満足な思い込みでしかないんだよ?』

 

『────え?』

 

『君にそんな役割は似合わないよ。魔人は魔人らしく、堂々と構えて皆から畏れられてなきゃつまらないもの』

 

どこかで聞いたことのある声、歪曲していく空間の中、自分が見たものは……。

 

『じゃあね、ボッチな魔人君。君の世界に対する足掻きっぷりは見ていて飽きなかったよ』

 

にこやかに微笑むカルロスさんの姿だった。

 

ZONEにシャトルが激突する。その時、眩いばかりの光が自分とZEXIS達を包み込み、俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ここは、どこだろう? 見渡す限りの白い景色、グランゾンのモニター越しに見える奇妙な光景に俺はただ呆気に取られていた。

 

大気を調べて問題ないことを確認すると、俺はグランゾンから降りて改めて周囲を調べ始めた。

 

白く、生命の鼓動を感じさせない無機質な世界。手にした小石すら砕けて砂になる様を見たとき、俺はZONEで死にかけた大地を思い出す。

 

ZONE。そういえば自分はリモネシアに設置されたアレを壊すためにブラックホールクラスターを撃とうとした。けど、それは別の誰かによって遮られてしまい、次の瞬間にはシャトルがぶつかり、ZONEから光が溢れて現在に至る。……所々あやふやな点はあるが状況を纏めるに、自分はもしかしたらアイムの目論見どおり転移されたのだろうか。

 

だとしたら自分は帰れるのだろうか。この死んだ大地で生涯を過ごすことを考えると……ゾッとする話だ。

 

どうにかして戻ろう。アテはないがここにただいるだけよりずっとマシだ。そう思い一歩歩み出すと……。

 

「お前がここにいるという事は、カルロスの奴は上手くやったみたいだな」

 

その声に自分は反射的に反応する。最早聞き慣れたその声に俺は敵意を抱いて振り向くと……。

 

「よぉ蒼いの、この間ぶりだな」

 

ホットドッグを片手に破界の王がそこに立っていた。

 

 

色々聞きたい事はあるが、取り敢えず一言。

 

「そのホットドッグ、どこに売ってたの?」

 

 

 

 

 

 




毎回多くの感想ありがとうございます。

相変わらず中々返せませんが、一つ一つ大事に読ませて頂いております。

本当にありがとうございます。



嘘予告

囚われたエウレカ、次元獣とされたエスター、二人を助ける為。ZEXISはインサラウムの宮殿へと殴り込む。

侵入に気付く兵士、立ちはだかるハイナイト。互いに譲れぬ戦いの中で一人の戦士が介入する。

「待たせたな」

次回、第二次スーパーボッチ大戦Z~混迷篇~

見参! ダンボール魔人!!



次回もまた見てボッチ!


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