悔しい! けれど書いちゃうの!(ビクンビクン
───エリア11を統括する政庁総督府。ブリタニアに反逆を目論む輩を投獄する場所に特殊な箇所が存在する。ブリタニア人でありながらブリタニアに反旗を翻した者、中でも貴族出身の者を投獄する場所に二人の人間が相対するように向き合っていた。
片方は帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズのNo.7として知られる枢木スザク。ブリタニア皇帝を守護すべく選ばれた騎士とされる枢木は、目の前の存在を怒りの形相で睨みつけていた。
ナイトオブセブンのスザクの睨みを前にしても全く動じた様子のない男、それこそがスザクを前に相対する者の一人、仮面の男“蒼のカリスマ”だ。
先のリモネシアでその力を徹底的に見せつけられた事で全世界にその恐ろしさを刻みつけた魔神を操る魔人、世界の半分の戦力を破壊しても未だその全貌を明らかにしていない。同じ仮面でも組織を使って世界と戦うゼロとは違い、目の前の存在は一人で世界を圧倒する力を持っている。
握り締めた手に汗が滲む。果たして自分一人で抑えられるのか。不安と恐怖の感情がスザクの中に混ざり、額に大粒の汗を流す。
「そこをどいてくれないかな枢木卿。君と戦うつもりはない。そこにいる紅月カレンさんを引き渡してくれれば私は潔くこの場から離れよう」
「それは出来ない。自分はナイトオブラウンズの一人だ。敵を相手に退くわけにはいかない。特に、世界の大逆人であるお前を前にしている以上尚更だ。……それに、お前のその言葉のどれを信じろというんだ!」
「我が愛機、グランゾンでこの政庁に乗り込んでいない事実。ワザワザここの警備網を潜って来ている時点で私に敵対する意志は無いと示していたのだが……意外と頭が固いようだ。若い内にそれでは後々苦労するぞ、少年」
「黙れ!」
目の前の魔人の余計なお世話とも言える説教が終わった瞬間、スザクは地面を蹴って瞬く間に蒼のカリスマとの距離を詰めていく。そして、奴の懐に入った瞬間──。
「もらった!」
片足を軸に、上段回し蹴りが放たれる。喩え魔人でもこれを受ければ何かしらのアクションを起こす。それを見越した上で今度は確実な体技で圧倒する。
スザクの頭の中で目の前の魔人を倒すプロセスが組み込まれる中───信じられない事が起きた。
“回し受け”日本の空手における防御の技がスザクの足を捉え、次の瞬間には弾き飛ばされていた。宙に舞うスザクを見てカレンの表情も驚愕に染まる。
空中で体勢を整えて地面に着地するスザクだが、その表情はカレンと同じ驚愕となっており、次の攻撃を仕掛ける事はしなかった。
自分の攻撃を初見で見破り、尚且つあしらう様に払いのける目の前の魔人に、スザクは改めて戦慄する。心のどこかで否定していた。あの蒼のカリスマがワザワザ捕虜一人の為に政庁に乗り込んでくる事は有り得ないと、恐らくは黒の騎士団の誰かによる名前を借りての愚行なのだと、どこかでそう思っていた。
だが、改めて確信する。この男こそが世界を恐怖の底に叩き込んだ怪物の中の怪物、蒼のカリスマなのだと。幼い頃から鍛えてきて、ラウンズとなった今では体術だけは誰にも負けないと自負してきた自分の技が全く通用しない。その事実がスザクに重圧としてのし掛かる。
“逃げろ!”嘗てゼロのギアスによって掛けられた“生きろ!”という呪いが、この場から逃げる事を強く命令してくる。
だが、逃げる訳にはいかない。ラウンズとしての立場でもそうだが、今ここにはナナリーがいる。彼女を残して自分だけ逃げる訳にはいかないと、スザクは理性でもって蒼のカリスマの前に立ちはだかる。
理性と本能の狭間で息苦しくなる最中、一向に向こうは攻撃してくる様子は無かった。
「……何故、攻撃してこない」
「言った筈だよ。私には君達に危害を加える意志はないと、……これは最後通告だ。今すぐこの場を引いてナナリー総督の所に戻りなさい」
「───っ!」
重圧が重くなる。仮面越しからでも分かる濃厚なプレッシャーを前に、スザクの呼吸は荒くなる。脳裏でリモネシアでの恐怖が蘇る中、それでも逃げるわけにはいかないと、スザクは足に力を込めて魔人を睨みつける。
そんな彼に蒼のカリスマはヤレヤレと首を振って嘆息し、スザクに向けてあるものを投げ渡す。足元まで転がってきたそれを目にした瞬間、枢木の目は大きく見開かれた。
「これは、ナナリーの!」
「そう、それはナナリー総督が付けていたブローチですよ。中々見事な装飾でしたので少し拝借しました」
「貴様、ナナリーに何をした!」
「それが知りたいのなら早く彼女の元へ向かったらどうです? 急がないと……大変な事になりますよ?」
「っ! き、貴様ぁぁぁっ!」
仮面の奥底で笑っているだろう蒼のカリスマに、スザクの怒りが沸き上がる。目の前の存在を今すぐ叩き潰してやりたいが、ナナリーをこれ以上一人にする訳にはいかない。
「此方枢木、特殊独房エリアに侵入者を発見! 繰り返す! 独房エリアに蒼のカリスマ出現! 直ちに警備体制を敷き直し蒼のカリスマの捕縛を最優先とせよ!」
耳元に付けていたインカムを起動させて政庁中に報せると、スザクは地に落ちたブローチを拾い上げるとナナリーの元へ駆けていった。
スザクの姿が遠くなるのを見て、蒼のカリスマから深いため息が漏れる。一安心と言うように溜息を吐き出す彼を見て、カレンは目の前の魔人がやはり自分の知る人間だと確信した。
緊急警報のサイレンが鳴る。政庁中に響き渡る警報と遠くから聞こえてくる複数の足音、もうすぐ警備の者が大勢で押し寄せて来るであろう事態を前に。
「さて、ここにはもう用ないし、そろそろ帰るとするかな」
仮面の男はそう言ってカレンの前へと歩み寄って手を伸ばし……。
「さぁ、行こうかカレンちゃん」
「……シュウジの癖に生意気よ」
カレンは少し躊躇した後、遠慮がちにその手を取った。
◇
ハロー、今晩は。帝国最強の騎士を相手にハッタリや口先でどうにか乗り切る事が出来た蒼のカリスマことシュウジ=シラカワでっす。
いやー、最初はどうなる事かと焦ったけど、やっぱああいう場面で仮面を被ってるのって凄くアドバンテージが高いよね。表情が見えないってのはそれだけで相手に不安を煽らせるものだから、ああいう緊迫した状況では効果覿面だ。
ただ、いきなり蹴りを放ってきた時は内心メチャ焦ったけどね。一度の行動で十メートルはあった距離を詰めてくるとか、彼も大概人間離れしてるよな。
けれど此方も唯でやられる訳にはいかない。リモネシアで復興作業に励んでいた頃、ガモンさんから一通りの型は教えてもらってたし、この間のトレーズさんとの組み手(という名の殴り合い)で大体のやり方を覚える事が出来た。
回し受けもその組み手の中で何度もやってきたし、相手が殴りかかってきた瞬間に出せる位の腕にはなれた。ただそれでもスザク君の蹴りは速くて重かったから、受けた方の手は暫く痺れて使い物にならなくなったけどね。
その後は事前にナナリー総督から貸してもらったブローチを渡し、一芝居を打ってスザク君を遠ざければこっちのモノ。予め用意していた脱出ルートを使って逃げるという簡単な作業となります。
尤も、途中でカレンちゃんの愛機である紅蓮の回収をしていたりしたから言うほど余裕では無かったけど、何事も思わぬ事態と言うモノは存在するものだ。その時は自分が紅蓮のシステムの立ち上げに携わったけどね。
“紅蓮聖天八極式”カレンちゃんが捕まっている合間にブリタニアの技術者達によって改修されたその機体は、以前よりもずっと性能が上がっていて、乗り込んで操った当初のカレンちゃんは凄く驚いていた。
しかも背中にはエナジーウィングなる特殊装備が施されており、機動性もグンと上がっていて自分も驚いた。
ブリタニアの技術者の中にはあんな腕のいい人もいるのか、今度色々教えを請いたいものである。
そして脱出方法なのだが、紅蓮のシステム立ち上げに手間取ってしまい、近くにまでブリタニア兵が来ていたモノだから、紅蓮が起動した瞬間先にカレンちゃんを逃がしました。
その後、カレンちゃんが突き破った壁から自分も飛び降りて、グランゾンを呼び出してお得意の一撃離脱で一気にエリア11を抜け出したのである。……地上100メートル以上からのダイブは何気に今までで一番怖かった。お股がヒュンッてなったのはここだけの話である。
……え? そんな事よりもナナリー総督に何をしたかって? 別に何もしてませんよ? 先も言った通り自分は彼女からブローチを借りただけ、それ以外の事は一切していない。
というか、手を出したら別の意味で殺されそう。中華連邦にいる多くの紳士達の手によっていつか謀殺されそうで怖い。
なら何故大変な事になるなんて言ったかだって? そりゃ大変な事になるよ。主に俺が。
だってあそこには多くの警備兵ともう一人ラウンズがいるんだよ? 急がないとそいつらに囲まれてデッドエンドまっしぐらだもの、急ぐのも当然だ。
先程カレンちゃんにその事について追求されて上の通りに答えたら……なんと腹黒と言われてしまった。
あの程度で腹黒とか、ゼロの右腕だった人物からとは思えない暴論である。自分程度の策略が腹黒だったらシュナイゼル殿下の腹はどうなんだって感じである。黒を通り越したナニカにしか思えねぇよ。
さて、そんな呑気な会話をしている自分たちは現在エリア11から離れたとある無人島にいます。急に紅蓮を動かしたモノだから、どこか異常をきたしていないか見なくてはいけないからね。
道具は幾つか政庁から逃げ出した時にパクってきたので整備は問題なく行っております。……向こうも紅蓮を奪ったからこれでおあいこだよね?
……あと、これは今更どうでも良いことなのだけれど───自分の正体バレてました。何でもヨーコちゃんが口を滑らせた時聞いたのだとか。
ヨーコちゃん、君仮にも教師でしょ、誰かに教えるのではなく口を滑らせたって……ちょっとあんまりなんじゃね? しかもカレンちゃんだけじゃなく、ZEXIS全体に知れ渡っているとか、今後あの人達と会ったら俺どんな顔すりゃいいのよ?
ま、おかげで仮面を被りながら作業に取り掛かる事にならなくて済むし、別に構わないんだけどね。
……現実逃避している訳じゃないよ? ホントだよ?
◇
───私の前で紅蓮の整備をしているのは世界中で指名手配されている大逆人、蒼のカリスマと呼ばれる魔人その人だ。
グランゾンと呼ばれる魔神が最初に目撃されたのは……まだ、黒の騎士団も出来ていなかった頃。レジスタンスとして活動し、一日一日を死に物狂いで生きてきた私達にとって、嘗て無い衝撃を与えた。
ただ真っ直ぐ突き進んだだけでブリタニアの陣営を崩した突破力を始め、三大国家の軍隊を一瞬にして無力化させた事やインペリウムの軍勢を相手に一歩も引かなかった事、更には破界の王ガイオウと正面から戦った光景は今も鮮烈に思い出せる。
……未だに信じられない。あの世界中を騒がせている蒼のカリスマが、目の前で油塗れになって紅蓮を整備している光景を、私はまだ実感出来ていなかった。
だって、まるであの頃と変わってないんだもの。ゴウトさんに怒鳴られながら働く彼の姿が、今も重なって見える。
だから私はこう言った。私達と一緒に来て戦って欲しいと、仮面を脱ぎ捨てて世界の為に戦って欲しいと、私はあの頃と変わらぬ彼にそう誘いを掛けた。
答えは───返されなかった。此方の質問にただ笑っているだけの彼に私はそれ以上追求する事はなかった。
きっと、彼は分かっているのだろう。自分がZEXISに参加する事でどれだけ皆に迷惑を掛ける事になるのかを。
蒼のカリスマは今や、インベーダーや次元獣以上の災厄として認定されている。そんな存在がZEXISと一緒にいるのを知られたら私達の立場が悪くなる。世界にとって悪だと思われている彼が参入する事は、ZEXISが世界にとっての悪と言うようなものだから……。
今回の事で私は確信した。蒼のカリスマ……いや、シュウジ=シラカワなる人間は世界の敵にはなり得ない。魔神という力を手にしただけの───ただの人間なのだと。
だけど、情報統制の徹底された今の世の中じゃ、どんなに正しいことを叫んでも理解されることはない。それを承知の上で彼は一人で戦う事を選んだ。
彼はもう一人で戦う以外に道はない。なら私はそんな彼の孤独を一日でも早く終わらせる為に、彼以上に戦ってみせよう。
いつか彼が、彼自ら仮面を取る日を願って、私はまた戦おう。紅蓮と一緒に。
「よし、これで出力は安定っと、カレンちゃん、俺達も行こうか。ZEXISの皆もそろそろサンクキングダムに着く頃だろうし……」
「了解。んじゃ、アンタの整備した紅蓮で大活躍をするとしますか。ブリタニアに手を加えられたのは癪に障るけど、これならアンタのグランゾンにもそろそろ勝てるんじゃない?」
「や、それはない」
生意気な所も変わらない。しれっとした顔で否定するシュウジに蹴りを入れて、私はもう一度願った。
いつか、コイツと一緒に何かを守る為に戦いたいなと、そう……胸に秘めて。
二人の温度差
カレン「お願い! 私達と一緒に戦って!」
主人公「ここをこうして……え? なんか言った?」
主人公は作業に集中すると周りが見えなくなるタイプ。
次回嘘予告
再び訪れるサンクキングダム。様々な思惑が交差するなか、明確な悪意がZEXISを襲う!
「さぁ! 諸共消し飛びなさい!」
知らない内に絶対絶命のZEXIS! そんな時、奴が現れた!
「グゥゥゥレイスくぅぅぅん!」
「っ!?」
「なンだぁ? その意味深な表情はぁ? クヒッ!」
次回、第二次スーパーボッチ大戦Z~脱却篇~
また見てボッチ!