『G』の日記   作:アゴン

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今回からオリジナルな話になるかもです。


その27

V月I日

 

今日、ブリタニアに向かう途中で面白い人と遭遇した。“ランド=トラビス”と名乗る暑苦しい笑顔が印象的なその人はビーター・サービスと呼ばれる修理屋で、時空震動に巻き込まれてこの世界に訪れた来訪者だと言うのだ。

 

出会った経緯もそんな修理関係の話で、ブリタニアに向かう列車に乗り、優雅な旅の最中に列車が突然トラブルを起こして運行停止。数百人の人々が立ち往生した時、そこに彼が獅子を模したスーパーロボットと共に現れた。

 

手頃な料金で直してやると列車の運転手の人と交渉、普通ならば専門の人に任せる所なのだが、その専門の人が此方に到着するのは三日以降になりそうだったので渋々彼の申し出を了承。最初こそは彼に任せてもいいのかと大勢の人々が不安に抱いた事だろう。

 

けど、彼の鮮やかな手並みと体格からは似合わない繊細な手捌きが、自分を含めた乗客達の度肝を抜いた。素人の人にも分かるほどの巧みな手の動かし、工具を操る巧妙な手の動きやボルトを締める力強さは最早芸術の域だ。人は見かけによらないと改めて実感させられた。

 

助手のメールちゃんという女の子もランドさんの的確な指示で動き、時には事前に工具を取り出したりと見事に息の合った活躍を見せてくれた。

 

このまま行けば無事列車も動かせそうだと安堵したが、少しここで問題が起きた。何でも列車が止まった原因は電子配列盤に異常があり、それの影響で列車は止まったというのだ。

 

脱線させないよう列車を操った運転手の人の操縦の腕も見事だし、原因を短時間で見抜いたランドさんも凄い腕の持ち主だと思う。彼が今まで行っていたのは緊急停止の際に歪んだ車輪と機関部の応急処置で、しかも原因の配列盤の事はもっと前から分かっていたらしい。

 

ただ、普通の電子配列盤なら兎も角、今回この列車に施された電子機器はこの世界に来たばかりで、詳しくは知り得ないランドさんだと修理の時間が長くなりそうなのだという。

 

下手すれば丸一日掛かるかもと言われ、多くの乗客が肩を落とした時、自分が力になれるかもと思って手伝いの名乗りを上げた。最初こそは大丈夫かと心配されたが、こういう工学は自分も最近覚え始めているので大丈夫だと返し、作業は再開した。

 

ランドさんは自前の機体を使って列車の駆動部を整備、一方で自分は配列盤の方を見ていたのだが、すぐに原因が分かり作業は捗った。

 

この電子配列盤、確かに中々のもので新品だが、肝心な最適化を済ませておらず初期設定のままなのだ。運転していた人は昔ながらのベテランさんで、その人に聞いてみると、こんなシステムが施されていたのは聞いていないと言うのだ。

 

そのシステムというのは全自動システムというもので、言うなれば発進から停止、ダイヤル通りの運行など、今まで人がやっていたものを機械が自動で行うという代物なのだ。

 

そんなモノが搭載されている事など露ほども知らなかった運転手は突然起こった急停止に驚愕し、急いで自然停止させるよう手腕を発揮、見事列車を被害最小限に押し留めたのだ。

 

……なんというかまぁ、そんなシステムを積んだ所為で脱線を起こし掛けるとか、本末転倒な気がする話だ。しかも運転手の人に教えていないとか、それが職務怠慢のレベルでは済まない大事故に繋がると何故分からないのだろう?

 

兎も角、その後自分は配列盤の異常を直し、その際に乗客の一人であるとある会社員からノートPCを拝借し、序でにあるプログラムをこのシステムに送り込んだ。

 

それも手動システム。単に全自動から手動に変わるという簡単なシステムだが、これを本来全自動しかなかったシステムと連結させて自動と手動、二つの動かし方を可能とした列車に昇華させることが出来た。

 

尚、自動システムの方も少しは手を加え、状況に無理に合わせるのではなく、的確に適応した行動を取れるトレースシステムを投入。簡単に言えば新人の人からベテランの人に合わせて幅広く応用の利く補助輪の様なものだ。

 

ベテランさんからはその操縦技術を学び、新人さんにそれを最適に教え伝える。謂わば列車の教室だ。時間が無くてこの程度の簡単なプログラムしか造られなかったが、今度この列車に乗るときはもっと精度の高いモノをプレゼントしようと思う。

 

けど、自分のやり方はとても褒められるものではなく、これでは強盗みたいなものなので、自分は今まで使っていた全自動システムもバックアップとして取ることにした。

 

その際例の会社員の人からメモリーカードを貰ったのだが……何故か崇められた。何で? しかもメモリーもタダで譲ってくれたし、良いのかな? アレ結構良いものだからそれなりに値段のするものだし。

 

しかも譲ってくれる条件がその時自分が造ったプログラムをそのまま保存しておいてと言うものだし……いや、別にいいよ? 俺もここの所金銭問題で悩んでたし、その分のお金が浮いて俺も嬉しいし。

 

その後、ランドさんの方も整備を終え、駆動テストを行った後再出発。ランドさんも一応見届けるという形で次の駅まで随伴してくれた。

 

そして特に問題も起きる事はなく、二時間の遅れで列車は到着。ひとまずこれで何とかなったなと思った時、ランドさんから呼び出しを受けた。何でも自分のプログラム構築していた際の行程をさり気なく見ていたそうなのだ。

 

まだまだ拙い腕なので恥ずかしいのだが、ランドさんの方はその若さで大したもんだと褒めてくれた。誰かに褒められるなんて滅多にないから戸惑ったけれど、悪い気はしないから受け取っておく事にした。

 

その後、ランドさんからの誘いを受けてとある居酒屋へ。奢るぞと言ってくれたランドさんに最初はどうするか迷ったけど、別に急ぎの旅じゃないし、夜も耽ってきたから別にいいかと彼の誘いを受ける事にした。

 

仕事の後の一杯は格別だとビールをジョッキで一気に飲み干すランドさん。自分は大した仕事はしていないからあまり注文はしないよう心がけたのだが、そんな自分の気持ちなどお見通しなのか、ランドさんはドンドン注文してジャンジャン自分に酒を注いできた。

 

それからはランドさんの修理屋としての話を聞きながら酒を呑んだりツマミを食したり、結構楽しい時間を過ごした後、自分はある質問をした。

 

メールちゃんの事だ。兄妹で修理屋しているんですか? と訊ねたらランドさんは目線を逸らしてそんなものだと言う。何だか気になる言い回しだなと思いもしたが、余所様に突っ込んだ話をするのも失礼なので、この話題は早々に切り上げて別の話をする事になった。その間、メールちゃんは詰まらなそうにスルメをチューチューと吸ってたり、一人寂しそうにしていたのが印象的だった。

 

そしてその後、すっかり遅くなったので自分達はその場で解散。それぞれ宿屋を探す為に互いに別れを告げた。

 

一期一会、これも旅の醍醐味かと奢ってくれたランドさんにお礼を言い、その場を去ろうとしたのだが……次の瞬間、メールちゃんから驚きの台詞が飛び出してきた。

 

“ダーリン”ランドさんの背中で眠りながらそう呟くメールちゃんに自分達は固まった。少し気まずい雰囲気になりながらも改めて解散、自分は聞かなかった事にしてその場を後にした。

 

まぁ、人の趣向は人それぞれだ。互いの合意の上だと言うならば自分からは何も言うまい。けれど、もし次に会うことがあれば、とある場所に観光することをお勧めする。

 

“中華連邦”きっと二人にとっても住みやすい国だろうと思い、今日の所は終了する。

 

 

 

V月F日

 

……今日、久し振りに複雑な心境を覚えた。ブリタニアへの国境も近くなり、少し休もうかと立ち寄った街で……“奴”に会った。

 

“ガイオウ”破界事変の際、その脅威な力で世界を混沌に叩き込んだ破界の王。陰月付近の宙域で倒した筈の奴が、平然とホットドックを頬張りながら公園のベンチに座ってやがった。

 

サングラスを掛けて変装のつもりだろうが、俺には此方を小馬鹿にしているとしか思えなかった。驚きと苛立ちの感情を抑え、奴に何故生きていると問いただしたら、奴は俺の質問を無視して「久し振りだな蒼いの」などと友達感覚で声を掛けて来やがった。

 

向こうが蒼のカリスマの正体を知っていた事に少なからず動揺するが、今はそれ処じゃない。不敵な笑みを浮かべる奴を俺はもう一度問うた。

 

だが、それでも奴は此方の質問に答える事無く、黙々とホットドックを頬張り……それを「平和の味だ」と評価した。

 

何を言っているのか最初は分からなかったが、その時から俺は奴に違和感を感じた。……殺意や敵意がまるでないのだ。破界事変の時のような誰彼構わず暴れ回っていたあの時の奴とは何やら身に纏う雰囲気が違っていた。

 

そんな奴に俺も肩透かしになり、言いたいことも山ほどあったが……まぁ、あの時の様に暴れ回る素振りなど微塵も感じなかったので、取り敢えず無視を決め込む事にした。

 

近くにあったホットドックを買って食べようとしたのだが……あの野郎、事もあろうか俺からホットドックを奪いやがった。買う金がねぇと言っていたが、そんな事は理由にならない。返してもらおうとあの手この手で奪い返そうとしたが、流石に破界の王と呼ばれていただけあって生身ではまるで勝ち目がなかった。

 

もう一度……いや、今度こそBHCで塵も残さず消滅させてやろうかと思ったが、それじゃあ色々負ける事になるのでグッと堪える。

 

子供みたいに笑う奴に呆れながら、俺は思った。本当にコイツはガイオウなのか? と。

 

敵意もなく、殺意もなく、ただ平和を満喫する厳ついおっさんに見えるのは俺の見間違いだろうか?

 

結局俺は奴から話を聞き出せる事はなく、寧ろ奴から色々質問されてしまった。……内容は美味い飯はどこかとどの国の料理が美味かったのかと、もっぱら食い物ばかりの話で面食らってしまったが。

 

その後も特にコレと言った会話もなく、今日の宿を取るためにその場を後にするが……奴の、ガイオウの黄昏た横顔が何だか印象的に見えた。

 

懐かしの故郷を想うような、死に別れた親を思いだしているような……そんな顔。尤も、奴に親というものが存在しているのならみてみたいものだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───今、俺はグランゾンに乗り、リモネシアに向けて急行している。

 

今朝、目を覚ましていよいよブリタニア領土に入ろうかって時に、ガイオウの奴が自分の所にいきなり現れてこう言ったのだ。

 

「今すぐリモネシアに戻れ」と、最初は何言ってんだと思いながら疑問符を頭に浮かべるが、奴の真剣な表情に自分は何も言えなくなり、取り敢えず街の郊外にある森の中にグランゾンを呼び出し、リモネシア付近の状況を観測し───絶句した。

 

リモネシア全体を覆い隠すように重力力場が変動し、次元境界線が歪んでいたのだ。時空震動、このタイミングで起きる災害に俺はいっそ作為を感じた。

 

ガイオウに確認を取る間もなく、俺はグランゾンを発進させ、人目も気にせず飛び出した。

 

……イヤな予感がする。頭の中に浮かぶ一年前のあの時を払拭しようと頭を横に振り、グランゾンを更に加速させた。

 

見えた! リモネシアを視認出来る距離で近付いた俺はモニターに拡大表示させ、次の瞬間に俺が目にしたのは……。

 

紅い炎に包まれたリモネシアの島だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソッ、なんだって俺がこんな焼き討ちの様な事をしなくちゃならないんだよ……』

 

『あらぁん? だめよぉウェインちゃん。仕事の選り好みをしちゃあ。これもアンブローンお婆ちゃんからのオーダーですもの。キチンとこなしてこそプロってものでしょ?』

 

燃えるリモネシアの大地に立つ二体の巨人と無数の次元獣達。炎に包まれる大地を見て、エメラルダンの同型機“サフィアーダ”に搭乗するウェイン=リプテールは、目の前の身の毛の弥立つ所業に苦虫をかみ砕いた顔で吐き捨てる。

 

対する黒いパールネイル……もとい、“パールファング”を駆るマリリン=キャットは、キャンプファイヤーをするかの如く目の前の惨劇を楽しんでいる。

 

同じ人間とは思えないやり方。残虐にして冷酷なやり口。全てを灰にする彼女達の部隊の名は……ファイヤ・バグ。螢とは縁遠い業火を放つ彼女達を、ウェインは生涯受け入れることはないと心の底から思った。

 

だが、そんな奴らの片棒を既に自分も担いでいる。ハイナイトと呼ばれ、王を守護する筈の自分達が盗賊紛いのゲスへと成り下がってしまっている事に内心落胆する。

 

(……せめて、ここにいた人間達を避難させている事が唯一の救いか)

 

『さてさて、本当にこんなんで噂の魔神ちゃんは来てくれるのかし───』

 

瞬間、上空から何かが降り立ち、砂塵を巻き上げる。吹き荒れる砂の嵐の中、現れたのは───彼女達が待ち望んでいたとされる蒼き魔神“グランゾン”

 

獲物が網に掛かった。口元を喜びに歪ませてマリリンは背後の次元獣に命令を下す。

 

『キャッハハ♪ 大物が掛かった! ヤッダー信じられない。この程度の小火で魔神様が網に掛かってくれるなんてマリリン感激ー♪ さぁギガアダモンちゃん達、やっちゃってー♪』

 

愉快痛快と楽しさを露わにしながら、次元獣達に命令を下すマリリン。次元獣達もその命令に反する事なく、従順に従い、一直線に魔神に向かって進撃する。

 

コレまでとは違う異彩を放つ次元獣達。インサラウムの次元力の技術で生み出された人造次元獣達は時に次元の壁を破って魔神の背後に周り、時には横、下、上と縦横無尽に襲いかかる。

 

流石の魔神も手を出す暇はない。そう思われた瞬間。

 

『…………』

 

いつの間にか手にしていた一振りの剣。それを横に回るようにして薙いだ瞬間、無数の次元獣が横に両断。そのまま光となって消えていった。

 

───言葉を失う。あれほどの次元獣達を一刀の元に消し去る事なんて想像していなかったマリリンとウェインは、開いた口が塞がらなかった。

 

……そして。

 

『…………なよ』

 

『………あ?』

 

『な、何? 通常回線を開いてきたの?』

 

彼らは知る事になる。

 

怒りに染まった魔神が、どれほど恐ろしい事になるのかを。

 

そして、再び世界は震撼する。魔神の凄まじさに。

 

『生きて帰れると思うなよ。貴様等ぁぁぁっ!!』

 

“魔神激昂”これから起きる出来事を人々は後にそう語る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうですかミスターリボンズ。私の情報は正しかったでしょう?』

 

「……確かに、今回は君の言うとおりだったよ。アイム=ライアード。けどね、あんまり僕の前でそういう態度は止めたほうがいい。君の本心が逆に丸見えだよ」

 

『失礼しました。……では、これで失礼を』

 

「色々問題のありそうな奴だったねリボンズ。それで? 予定通りに進めるのかい?」

 

「そうだね。彼があの島に固執しているのはこれで明らかになったし、チャンスともなった。──さぁ始めるとしよう」

 

“魔神封印作戦”そのコードが発信された時、リモネシアを中心に世界中の各勢力が姿を現した。

 

『まさか、本当に魔神とやりあえるなんてなぁ? さぁ、魔神よ。お前の一番大切なモノをみせてくれぇ』

 

『……ジノ、アーニャ、準備はいいか?』

 

『本音を言えば気が進まないが、皇帝陛下直々のご命令なら仕方ないさ』

 

『けど、リモネシアも同罪。アイツ等、魔神を隠してた』

 

『……ガンダムが来ているのを期待していたが、これでは私刑ではないか』

 

『ゴネるのは無しにして下さいよMr.ブシドー。今回の作戦にワンマンアーミーの権利は通用しませんから』

 

『アレがリボンズのお気に入りの魔神? へぇー、妬けちゃうわ』

 

 

 

遂に、世界が魔神を捉えた。魔神を殲滅すべく、魔神を捕獲すべく、様々な勢力が間違った形で集う事になる。

 

怒り狂う魔神。その中で────

 

 

 

 

“シラカワシステム起動シークエンス開始”

 

 

もう一つの胎動が静かに脈打っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は日記形式皆無です。

ご了承下さい。

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