『G』の日記   作:アゴン

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今回、ある意味で主人公最大のピンチ


その24

J月β日

 

……この間から溜息ばかりでる毎日だが、起こってしまった事実は変えられないので、憂鬱な気分だが報告代わりに今日も日記を書こうと思う。

 

先日、ZONEと呼ばれる建造物と共にインサラウムが侵攻してきた際に、自分は即興ながらある計画を打ち立てた。

 

“和解”。色々無理のある案だったが、これが最も血の流れない平和なやり方なのだと自分は思う。最初こそは集団レベルで烏合の集程度ならばグランゾンで即座に仕置きに掛かろうと思っていたが、王国と言われているだけあって彼等の軍事力は中々のものだと見受けられる。

 

何せZONEという巨大な次元力抽出装置まで建造できるのだ。こと次元力に関する技術力だけなら地球より上回っているかもしれない。

 

それに向こうは次元獣を操る術を持っている。ガイオウにしか操れないとされていた次元獣がインサラウムの技術で従っているという事実は連邦政府にとっても中々衝撃的な話なのではないだろうか?

 

無論、連邦だって無力な訳じゃない。いざという時はアロウズだって動かせるし、その“裏に潜む連中”だってインサラウムの科学技術には興味を持つ筈。和解という手段を選べば、取り敢えずインサラウムと地球連邦の衝突は避けられるのだ。

 

地球とインサラウムが互いにぶつかり合った時、双方とも無事では済まないだろう。唯でさえ未だ地球側はインベーダーやバジュラ、地球外知的生命体からの脅威に晒されているのだ。問題を増やさず効率良く解消させるには、この二つの世界が手を取り合う必要があった。

 

地球を戦いの舞台にしてしまう以上、リモネシアにも戦火が及ぶ可能性がある。それだけは避けたい自分としては何としてもこの和解を成功させたかった。

 

それなのに……あのアサキムの野郎、横からいきなり現れて全てを台無しにしやがった。

 

奴の所為でインサラウムには逃げられ、ZONEも発動してしまい、周囲の大地が死んでしまった。

 

木も草もない、ただ白い砂となった大地。初めて死に瀕した大地を見て俺は言葉を失った。

 

結局、ZONEを止めたのはZEXISのある一体の機体。初めて見る機体だから新顔かなと思った時、その機体はドームの中に吸い込まれる様にZONEに取り込まれ、その機能を停止させた。

 

それを見届けるとアサキムは苛立つ含み笑いを残して離脱。その凄まじい速さで瞬く間にグランゾンの索敵範囲から逃れ、完全に行方を眩ませていった。

 

……正直、弄ばれたのだと思う。自分の剣の攻撃を奴は終始余裕で受けきってみせた。その気になれば打ち返せる攻撃を奴は足止めという目的の為だけに手を抜いたのだ。

 

対する此方は奴の奔放かつ速すぎる動きについて行くだけで精一杯、ワームスマッシャーを撃つ暇も与えては貰えなかった。

 

結局最後まで奴の動きを完全に捉える事は出来ず、ZEXISを除いて唯一残った自分も、謝罪の言葉を残して情けなくその場から離脱する事しか出来なかった。

 

望まない形だったとはいえ、それなりに長い間パイロットやってた自分としては結構頭に来る事実だった。だが、事実は事実として受け入れ、自分を精進させていこうと思う。

 

……けど、何度考えても解せない。何故アサキムはあのタイミングで介入してきたのだろうか?

まさか通りすがりの偶然という事は流石にないだろう。

 

やはり奴なりの目的があるのだろうか? 以前、自分を殺しに来たときも何やらブツブツ言ってたし、好からぬ事を考えているのは明白だろう。

 

今後も、奴の事は注意して旅を進めようと思う。次の目的地は中華連邦だから気持ちも切り替えて頑張ろう。

 

……そういや、散々アサキム言った所為で思い出したのだが、奴の乗る機体って魔装機神に似てね?

 

それも魔装機神の中でも有名な“彼”の機体に何処となく似てる気がする……自分の考え過ぎだろうか?

 

 

 

 

J月×日

 

……幸せというものは歩いてこない。だから人は幸せに向かって歩いて行くのだと昔誰かが言ってた気がする。

 

けど、自分の場合は幸せに向かって歩いていっても、幸せの方はマスドライバーを使って宇宙に逃げていってる様な気がする。

 

今日、辿り着いた中華連邦でシュウ博士の事やその他諸々の話を聞いていた最中、ばったりと再び出会ってしまった。

 

“シュナイゼル=エル=ブリタニア”神聖ブリタニア帝国の第二皇子が、何の因果か再び自分の前に現れたのだ。

 

何でも中華連邦のお姫様と第一皇子オデュッセウス殿下の結婚式がある為その披露宴に招待されたのだとか。それを耳にした時、いや、どう考えてもアンタの仕業でしょ、なんて言葉が出掛かったが、口を両手で抑えて賢明に堪えた。

 

現在百万人の旧日本人が蓬莱島と呼ばれる人工島に住んでおり、中華連邦の領域に滞在しているという。蓬莱島は黒の騎士団の拠点の一つとして上げられる場所だ。大方そっちの方を封じようと画策したのだろう。

 

その後、フランスでの時と同様に自分もシュナイゼル殿下達の泊まるホテルにどうかなと誘われたが……やんわりと断らせて貰った。

 

いや、もうホント勘弁して頂きたい。余所様の所で眠るだけでも体が拒絶反応を起こすのに、この世界で最も重要なポストに座る人と同じ宿屋に泊まるとか、ストレスと緊張で胃にワームホールが出来る思いだ。

 

ただ、皇族の人の頼みを断るのだから此方としては荒波立てずに終わらせたい。この時自分は急な用があるとその場を誤魔化し、次に出会ったら誘いを受けますと言って場を濁し、その場から速やかに立ち去った。

 

何故シュナイゼル殿下が自分という一庶民を相手にそこまで拘るのかは知らないが、あまり関わり合いにはなりたくない。友達を選り好みするのは良くないが、腹の中を探り合う関係はもっと良くないと自分は思うのです。

 

しっかし、大宦官とやらも中々エグい事をする。要するにその天子とかいうお姫様を生け贄に、自分達はブリタニアでの立場を確立しようという魂胆が見え見えではないか。

 

大変ですねとシュナイゼル殿下を労う言葉を吐くと、何故か殿下に「やはり君は聡明だな」と褒められた。や、別に褒められる様な話じゃないから。単にそう言った事を“知っている”だけの話だから。

 

そう、自分はそう言った話を知っている。なのに……何だろう。最近そう言った情報が曖昧になってきている。

 

単にこの世界にきて色々あったからど忘れしたのだと思うが……なんだろう、そんな事を考えていると眠たくなってくる。

 

見れば時計も12時を回っている。明日も朝早いから今日の所はこれでお終いにしようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……一体全体、何がどうしてこうなった? 今朝まで自分は中華連邦のとある街で地道に情報収集に勤しんでいた筈。

 

切っ掛けがあったのは───そう、情報探しに一段落をいれようと昼食を摂る為に街の料理店に入ろうとした時、偶然を装ってやってきたナイトオブラウンズの二人、ジノ君とアーニャちゃんに出会った時だ。

 

この時に気付くべきだった。二人がただ庶民の味を満喫する為に街に繰り出したのではなく、自分を探して捕まえる為に来たのだと。料理店に一緒に入って満足気に食べているものだからこれで終わりなのだとすっかり油断した。

 

お礼に夕食は此方が奢ると言って聞かないジノ君、アーニャちゃんはひたすら写真を撮るだけで何もせず、自分はなされるがままに車に入れられ、半分拉致られた形で連れてかれた。

 

んで、そこで待ち受けていたのは満面の笑みを浮かべるシュナイゼル殿下。その顔にコークスクリューブローを叩き込みたくなった俺は間違っているだろうか?

 

そして現在、結婚式が執り行われる朱禁城にて、自分は場違いと思いながら会場の隅っこで大人しくしております。

 

先程からジノ君が自分を呼ぶ姿を目撃しているが……やめて欲しい。これ以上自分を衆目に晒さないでくれ。

 

そんな自分の気持ちなど聞き入れて貰える筈もなく、ジノ君は今も自分を捜している。だが残念、今の自分はかくれんぼモードで人混みの中で身を隠している為、そうそう見つかる事はない。

 

呼んでいるジノ君には申し訳ないが、ここで自分は一人結婚式の披露宴を眺めていようと思う。

 

しっかし、普段は着ない所為かこの黒のスーツ、結構着づらいな。ドレスコードに引っ掛からないようシュナイゼル殿下御自ら手配したものらしいから悪いモノではない筈なんだけど……。

 

というか、朱禁城に入る前に着替えの部屋とか用意されたし……なに? 外堀埋められているのか俺?

 

しかもこの服、どうやら素材は超一級品のようだし、値段は怖くて聞けないが……高級車数台分とか言わないよな?

 

もし破いたり汚したりしたらどうしよう。そんな緊張感を持ったおかげで此方は服を汚さないよう常に気を張らなければならない状態。人とぶつかってジュースでもぶち撒けられた日には、自分の人生は借金街道まっしぐら間違いなしだ。

 

いや、シュナイゼル殿下がそんなセコい真似をするとは思えないが、それでも気になる所が庶民の性である。

 

はっ! もしやシュナイゼル殿下はこれが狙い!? 庶民の感性を利用して自分の身動きを封じるなんてシュナイゼル……恐ろしい人! ────うん、ただこれが言いたかっただけ、他意はない。

 

はてさてそんなこんなで時刻はそろそろ夕飯時、いつもなら宿屋でご飯を食べていただけに、今の自分は腹ペコ状態だ。

 

服にソースを付けないよう最低限マナーに気を付けながら一口パクリ。うん、美味い。流石は世界が注目する婚約の場だけあって出される料理も一級品だ。

 

……タッパーとかでお持ち帰りとか出来ないかな? ワームホールにこっそり入れればバレないか? そんな事を考えながら唸っていた次の瞬間、何やら人垣の向こうから騒ぎが聞こえてきた。

 

何だろうと顔を覗かせると、そこにはゼロと紅月カレンちゃんがシュナイゼル殿下に向き合う形で姿を見せていた。スザク君が割って入っている事から、どうやら彼等は呼ばれていない客人らしい。

 

自分も本当は呼ばれてないんだけどね! おかげでスタッフの人達はてんてこ舞いだった事だろう。面倒をかけたお詫びにせめて問題を起こさないよう隅っこで気配を消していたのだけれど……何も問題起こしてないよね?

 

……ていうか、今気付いたんだけど、この会場、ZEXISのメンバーが結構きているよね? 見掛けは会場のスタッフの格好に着替えているから今まで気付かなかったけど、ソレスタルビーイングの面々もチラホラ見かけるし、向こうではクロウさんが隙を見計らっては料理を摘まみ食いしている。もしかしてまだ借金を返済できていないのだろうか?

 

折角の祝いの席だというのにゼロと出くわすとは、ホント今日は厄日だわ。と、そんな事を考えていると。

 

「───では、私の代打ちの打ち手を紹介しよう。私の友人、シュウジ=シラカワだ」

 

気が付けば、いつの間にか皆が自分を見ていた。

 

え? な、なんぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人垣が割れ、その中心で悠然と佇む人物に、ソレスタルビーイングを始めとしたZEXISの侵入組は目を見開いた。

 

破界事変から名前として知るだけで、実際その姿を見る者は殆どいなかったZEXIS達。だが、今回衆目に晒された中で彼という人物を目撃する事になる。

 

“シュウジ=シラカワ”エリア11や暗黒大陸でその姿を言葉としてしか伝わらなかった人物。

 

そんな彼が今、人垣の中を堂々とした態度で歩き出し、シュナイゼルの横に立ち。

 

「殿下、私になにかご用ですか?」

 

「あぁ、いきなり呼びつけてしまって済まないね。頼みと言うのは他でもない。私の代わりに彼と一局打ってくれないか?」

 

「私が? ゼロと? ……ククク、あまりお戯れが過ぎるのではないのですか? シュナイゼル」

 

式場の全員が注目するなか、シュウジ=シラカワのシュナイゼルに対する呼び捨てに周囲がざわめきだす。普通なら不敬の罪で極刑の筈なのに、当のシュナイゼルはニコニコと微笑むだけ。

 

まさか、本当にシュナイゼルとシュウジ=シラカワは繋がっていた!? 知られざる事実を前にカレンは動揺が隠せなかった。

 

すると、ふとシュウジと目が合う。ジッと見てくる彼の瞳にカレンは負けてなるものかと睨むが、返ってきたのは───。

 

「お久しぶりです紅月カレンさん。以前はエリア11で大変お世話になりました」

 

満面の笑顔と共に返される言葉、その一言に周囲の人間は更にざわめき立ち、ナイトオブラウンズの枢木スザクですら驚愕の顔をしている。

 

読めない。目の前の男の考えが何一つ理解出来ない。黒の騎士団の総帥とされるゼロですら、シュウジ=シラカワの真意が読みとれないでいた。

 

今、この場を支配しているのはゼロでもなければシュナイゼルでもない。得体の知れない謎の男、シュウジ=シラカワだった。

 

 

 

 

 

 

 




主人公「あ、カレンちゃんだ! おっひさー♪」

カレン「な、なんだ……コイツ!?」


大体こんな温度差。

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