ニーアシリーズ、これを機に始めてみようかな。
といってもオートマタくらいしか買ってませんが。
「私では………不服ですか?」
「ある意味そうと言えるかもしれませんね。少なくとも、貴女を前にしても私は微塵もその気にはなれない」
目の前の巫女、シャムナからの唐突なプロポーズに思わず素で返答してしまった蒼のカリスマだが、彼女がショックを受けている間にどうにか気持ちを持ち直し、持ち前の振る舞い方を取り戻す。
「勘違いさせたようで訂正しておきますが、別に貴女が醜いという訳ではありません。私には既に気持ちを固めた相手がいる。彼女が幸福な人生を歩めるまで私は誰ともそういう関係になるつもりはない」
「成る程、既に想い人がいらっしゃると。かの魔人にその様な人物がいると知れたのは収穫です。ですが………」
「申し訳ないが、金品の類いを幾ら積まれた所で貴女方の望みに応えるつもりはない」
「それは………リモネシアがあるからですか?」
シャムナから告げられるリモネシアの一言に蒼のカリスマ───シュウジの眉が僅かに吊り上がる。動揺はしない、相手が予言の巫女と称されている以上この程度調べられている事は想定済み。寧ろこれくらいの情報は簡単に集められるという判断基準が得られた程だ。
恐らく、向こうは此方の素性も調べている。世界中に自国の兵士を輸出品として扱っている国だ。兵士が稼ぎに外へ出向するという事は、それだけ外の情報は得られるという事。各国の主義主張、精神や信仰問わず、兵士という中立な立場で忍び込む究極の人海戦術。
恐らくはその情報を以てこれまでの情勢の中生き残って来たのだろう。それらの情報を統合すれば未来予知にも似た芸当も可能、ソレスタルビーイングの量子演算機構であるヴェーダクラスの情報整理能力があればの話であるが。
それが可能なのは現状シュナイゼルしか心当たりがない。目の前の巫女が彼ほどの情報を操る能力があるのかは不明だが、それは違うのではないかとシュウジは仮面の奥で訝しむ。
「何故、貴方ほどの御方がリモネシアという小国に固執するのです。その気になれば世界すら手に入れられる貴方が、どうしてそこまでリモネシアに拘るのですか?」
「貴方が私をどう見ているのかは知りませんが、私に世界をどうにかしようなどという分不相応な野心は抱きません。第一面倒です。その様な事を考える暇があれば、明日の夕飯の献立を考える方が余程有意義だ」
蒼のカリスマ───シュウジは、どれだけ力を得ようともその根っこには一般的な倫理観が遺伝子レベルで染み付いている。世界を支配するなんて大層な野望は抱いた事などこれ迄を振り返っても皆無だし、そもそも企む意味がない。
そう遠くない未来にこの世界、この宇宙は破滅を迎える。全てを巻き込んだ大消滅、避ける術は現状ただ一つしか存在しない中、そんな状況で力を以て世界を支配した所で、待っているのは短い優越感のみ。
「では、此処ではない別の世界ならばどうですか?」
「───なに?」
シャムナの溢したその一言に、シュウジは一瞬仮面の奥で真顔になる。別の世界、この様々な世界が融合した多元世界に於いて、その言葉は文字通りの意味を指している。目の前の予言の巫女は冗談や酔狂でそんな戯れ言を口にする女ではない事は、この短い時間の中のやり取りで理解できた。
だからこそ解せない。別の世界への転移、それだけの次元力の応用がこの国では可能となっているのか。不思議に思うシュウジだが、ふと一つだけ可能となる手段があることに気付いた。
「………まさか」
「ふふ、流石に気付かれますか。そう、この神殿の奥には嘗てのアマルガムが所有していたシステム、TARTAROSが稼働準備に入っております」
現地球に住まう大半の人々の命を犠牲に時空振動を起こし、時空修復を行う禁忌のシステム、まさか完全に破壊されず回収し修復されていた事実に、シュウジは自身の詰めの甘さに眉を寄せる。
「蒼のカリスマ様、貴方に我が国の祖神になって頂きたいのです。確かに我が国は争いしか知りません。戦い、奪い、踏みにじる事しか知らぬ国ですが、漸くその因果から抜け出せる算段が出来たのです。嘗てトレーズ=クシュリナーダは言いました。戦いこそが人の本質だと、それに倣うのであれば、我が国こそが人の本質を最も色濃く顕しているのではないかと」
「人は戦い、争い、その果てに平和という理想を手にする。彼の言葉にはそういった一面もあると思いますが?」
「ですが、その戦いの中で失われた命は戻ってきはしないのもまた事実です。理想と仰いましたね? ならば、その理想に辿り着けない国は一体どうすればいいのです」
そこまでシャムナが口にした事で、シュウジは彼女の云わんとしていたモノを察した。彼女が行っているのはTARTAROSを用いての脅しや命令ではない、シャムナというジルクスタンの支配者は蒼のカリスマという自分にすがり付いているのだ。
これ以上戦いが起これば、兵士という国の財産は無くなり、収入源を失ったジルクスタンは滅ぶしか無くなる。ジルクスタンという国に未来はない、やり直さなくても分かる避けようのない結末に彼女に残された手段はこれしか残されていなかった。
世界の人命の半分を失ってもジルクスタンを守る。それを可能としたのが時空振動と時空修復、そしてTARTAROSなのだ。
嘗て同じTARTAROSを用いて人生をやり直そうとしたレナード=テスタロッサとは違う。逃げる為ではなく、国を守る為に時空修復を行おうとしているシャムナに、シュウジは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
今の彼女は嘗てのシオニー=レジスと酷似している。滅びの危機に瀕した祖国を救うため、必死に足掻いてもがいて、これしかないとすがり付く思いでアイム=ライアードに固執した頃の彼女に………。
「蒼のカリスマ───いいえ、シュウジ=シラカワ。貴方もこれまで多くの戦いに身を寄せていたのでしょう? ならば、もういいではありませんか。貴方はもう戦わなくていい、それだけの結果を今日まで世界に示し続けていた貴方に誰も責めたりはしません。それこそ、世界の半分の命を報酬として支払ってもお釣りが来る位には………ね」
「俺はそこまで打算的にはなれんよ。俺が戦う理由はいつだって自分の心に従ったまでの結論に過ぎない。これまで戦ったからその報酬? ふざけるなよ。俺はそんな言い訳の為に戦ってきたんじゃない」
それでも、シュウジはシャムナを否定する。戦ってたのはジルクスタンの兵士達だけじゃない。Z-BLUEもリモネシアの皆も、地球人類も、この宇宙に住まう全ての命が明日も分からぬ未来の為に戦っている。
滅ぶのが嫌なら、誰かに頼ればいい。自分なんかにすがり付く位なら国連にでも頼ればいいのに、弱味を見せることの意味を履き違えている輩が多すぎる気がする。
「アザディスタンは世界と共に生きる道を選んだ。リモネシアも何度も立ち上がる意地を見せた。なら、アンタの国だって同じことが出来るんじゃないのか? 戦いしか出来ない? そんなの言い訳だろ? 戦いしか出来ないんじゃなく、戦いしか知ろうとしないから、いつまでもこの国は停滞したままなんじゃないのか?」
「………随分と、勝手な事を言う」
「事実だ。それに、仮に別の世界に転移してそこでやり直そうとして、どうやってジルクスタンを立て直す? やり直した所で一つしかやり方を知らないあんた達が、どうこの国の人々を導くんだ?」
国を守る為に世界を渡り、そこでまた戦いを繰り返すのであれば、それはもうやり直す意味がない。その大事な部分を自分ではなく蒼のカリスマである自分に丸投げしている時点で既に先は見えている。シャムナという巫女もまた先行きの暗い未来に絶望したのだろう。故に別世界へ転移し、少しでも滅びの未来を先伸ばしにしようと画策する。
「シャムナ、あんたは間違えた。頼る相手を、手を伸ばす相手を。なぁ、これまであんたには多くの人間が手を差し伸べたんじゃないのか? 本当はアンタにも親身になってくれる人がいたんじゃないのか?」
言われて、思い出す。国連に媚を売る情けない女と内心で吐き捨て、それでも何度もしつこくこちらに歩み寄ろうとした一人の真摯な女性の事を。
シャムナは選択を間違えた。別世界への転移と蒼のカリスマという絶対的力に固執するのではなく、困難でも誰かと共に今いる世界で精一杯生きるべきだった。
だが、既にシステムは止まらない。稼働段階だったTARTAROSが遂にその機構を起動させる。
「それでも、これしかない。私達が、ジルクスタンを生き残らせるにはもうこれしかないの! シャリオ!」
瞬間、神殿の天涯が崩れ、あのKMFがシュウジの前に立ちはだかる。どうやら此処で戦うつもりらしい、見れば玉座の奥へ繋がる通路へシャムナが駆け込んでいく。恐らくはあの先にTARTAROSがあるのだろう。
しかし、それは出来なかった。加速を着けたKMFがその加速で蒼のカリスマを機体ごと外へ投げ出したからだ。
神殿から弾き出され、遠く離れた街中へと落とされる。舞い上がる土埃の中から現れるシュウジが目にしたのは夥しい数のKMFだった。
『残念ですよ。貴方がこちらについてくれれば、ジルクスタンの未来は約束されたも同然なのに』
「誰かに行く末を委ねる未来に意味はあるのか?」
『意義はある! 姉さんが築く未来を僕が守る! ジルクスタン王国は不滅だ!』
まるでそれしかないと語るシャムナの弟シャリオ。悲鳴のような叫び声を上げる少年に果たして大人気なく本気を出しても良いものか。自分を包囲するジルクスタン王国の軍隊、流石に戦いを生業にしている国だけあってその軍事力は確かなモノ。
ラース・バビロンで至ったアレになるか。シャムナのTARTAROS稼働まで時間が無いことから迷っている暇はない、仕方ないなと未熟な自分に呆れながらも自身の奥底に眠る可能性を引き出そうとした時。彼が現れる。
『手が足りないか? ならば今は俺が貸してやる!!』
「!」
空から現れる巨大な影、そのサイズからMSだと思われるその機影は、蒼のカリスマとシャリオの間に割って入る様に着地する。
「き、君は………」
その機体に覚えがあった。それは以前生きる場所を失った兵士達の代弁者と称し、一度はヒイロ達と敵対する道を選んだ男。シュウジがトレーズの友人だとするならば、彼はトレーズの理解者。
『ジルクスタンの兵士達よ! お前達の正義、この俺に見せてみろ!!』
そう言えばボッチと五飛って共にトレーズと関わりがあるのにあまり絡んでないな。
そう思って書いたのが今回のお話。
尚、赤い二人の修羅もジルクスタン入りしてる模様。
ボッチは逃げ切れるか!?
それでは次回もまた見てボッチノシ
追記。
今さらですが本作の主人公のイメージはエネル顔もできるシュウを少し若くした感じです。