『G』の日記   作:アゴン

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自宅での自粛の為の暇潰しになれたら幸いです。

皆さんも、コロナウィルスには充分に気を付けましょう。


その220

 

 

機動兵器の装甲すら撃ち抜く電磁ライフルを携えて、オルドリン達の前にヨーコ=リットナーが降り立った。突然の来訪者の登場に動揺するベルク達だが、唯一ゲイツだけは苛立ちを露にするだけに留まっていた。

 

「長い髪に凄腕の狙撃………まさか、彼女がヨーコ=リットナー?」

 

「ヨーコ=リットナーって、あのZ-BLUEの中でもトップクラスの狙撃手の!?」

 

Z-BLUEのメンバーについてはオルドリン達も情報だけで言えば把握している。その中でも腕利きの狙撃手として知られる人物の登場に、オルドリン達も驚きを露にしている。

 

「確かに彼女は新大陸の住人、恐らくはロシウ大統領からの情報を得て、独自にここへ調査に乗り出したのでしょう。彼女とロシウ大統領は同じ大グレン団の仲間だと聞いてますから」

 

「流石ロシウ大統領、手際が早い」

 

「…………」

 

ヨーコの登場に驚くが、マリーベルの分析で直ぐに彼女が来てくれた事への疑問が解消され、ロシウ大統領への賛辞を送るオルドリン。本当は全く別の人間からの別の案件でここへ来た訳なのだが、敢えてヨーコはそれを否定することはしなかった。

 

「全く、厄介な奴が来てくれたもんだよ。ヨーコ=リットナー、一応聞いておくが………お宅、一体何しにここへ来た?」

 

「───勿論、あんた達を此処からぶっ飛ばす為よ」

 

一瞬だけ空いた間が気になったが、ライフルの銃口を向けてくるヨーコにゲイツは再び舌を打った。

 

「断っておくが、一応俺達は戦争を仕掛ける為にここにいる訳じゃないんだぜ? 全ては巫女様の予言に従った迄さ。サイデリアルをやっつけて折角世界は平和になったんだ。お互い、穏便に事を済ませようとは思わないかい?」

 

「白々しいわね。多くの人達の気持ちを踏みにじっておいて、何が蒼神教よ。アイツの名前を利用して、こんな兵器を作っておいて!」

 

「んん? 今、アイツって仰りました? お宅、もしかしてあの蒼のカリスマと………まさか、そういう関係だったりしちゃってたりしますぅ~!?」

 

「っ! コイツ!」

 

蒼のカリスマ───シュウジ=シラカワはヨーコにとって無視できない存在だ。これ迄幾度と無く助けられ、時には支えられた。

 

けれど、それに比例してヨーコがシュウジに出来たことはあまりにも少なかった。破界事変の時にはそもそも蒼のカリスマがシュウジだと知らなかったし、世界中から敵視されていた頃も何の手助けもする事が出来なかった。

 

敵対し、殺し合った時だって全てはあのアドヴェントが仕組んだ事だった。奴の呪縛から解放される為だからって死を受け入れ、それでも立ち止まること無く進み続けるアイツにヨーコは漸く自覚した。

 

アイツの、シュウジの助けになりたい。今はもう最初の頃とは別人の様に強くなってしまったアイツだけど、それでも何でも良いから支えになりたかった。今回の件だって少しでもアイツの力になりたいが為の行動だった。

 

それを、目の前の男が嘲笑う。蒼のカリスマという男を下衆の勘繰りで汚されたくない。目の前で嗤うゲイツの眉間を撃ち抜こうと、ヨーコは引き金を引こうとするが………。

 

「おっと、それは隙ありだぜボインの姉ちゃん」

 

「っ!?」

 

横から、大男の蹴りが飛び込んでくる。咄嗟にライフルを盾にするが、男の───ベルクの蹴りは想像以上に重く、ヨーコは勢いに負けて吹き飛んでしまう。

 

それでも、空中で体勢を整えて無事に着地するのは流石の身体能力だった。学校の教師となって毎日ワンパクな子供たちと肉体言語で相手をしていた為か、その動きは何処までも繊細でしなやかだった。

 

しかし、それでもダメージがあるのは間違いない。ライフルを盾にしても相手は大柄な男の蹴り、直撃は避けても襲い来る衝撃に、ヨーコは全身に迸る様な痛みを感じていた。

 

「おいゲイツ、そろそろ遊びは終いにしようや。機体に火を入れろ」

 

「………どうやらその方が良さそうだ。そんじゃベルク、暫くの間時間稼ぎは任せたぜ」

 

「っ! ま、まて!」

 

この場から去ろうとするゲイツを逃がさんとレオンは追跡を試みるが、幾人もの男達がレオンの行く手を阻んでいく。皆、どれも山賊染みた格好をして、それは何処と無くベルクと似た者達だった。

 

「おうテメェ等、適当に客人達の相手をしろや」

 

「す、凄い数だにゃー」

 

一体どれ程の人員がこの基地に隠れていたのか、圧倒的戦力差を前にオルドリンは主であるマリーベルに目線を送る。

 

もう、誤魔化す必要はない。既にその段階は過ぎ去っていると、マリーベルもまた覚悟を決める。

 

「臆するな。我がグリンダ騎士団の精鋭達よ。汝の剣は力無き民達の剣、相手は平和を侮蔑する破壊の徒、ならばこここそが我が騎士剣を奮う場所に他ならない!」

 

既に自分達の武器はヨーコが登場した際に車から下ろしている。その手に其々の得物である剣を握り締めて、マリーベルは己の騎士達を鼓舞する。

 

「戦えグリンダ騎士団、悪逆のテロリストを断罪するのです!」

 

「「「イエス・ユアハイネス!!」」」

 

既に、マリーベルは皇族としての地位を失っているが、それでも自ら主君を立てるのを止めないオルドリン達にマリーベルは僅かに頬を緩ませる。

 

相手は多数、状況は最悪。なれど我等がグリンダ騎士団は、一騎当千の精鋭達。山賊風情に負けはしない。そう高らかに口にするマリーベルにベルクはニンマリと笑みを溢す。

 

「おほぉ~、かぁっこいいねぇ。流石は本場の騎士様だ小綺麗でいらっしゃる。………んじゃ、殺せ」

 

ベルクのその合図と共に戦闘は開始された。多くの雑兵が手に武器を握り締め、数に物を言わせて雪崩れ込んでくる。しかも、ただ襲い掛かってくる訳ではない。一人一人が連携を持って効率良く襲いかかり、グリンダ騎士団の面々は外見に見合わない華麗な連携に目を見開いて驚愕した。

 

だが、それも一瞬。これ迄の幾度と無く経験してきた大きな戦いを経て、オルドリン達の強さも洗練されている。飛び交う銃弾の雨の中を掻い潜り、時には手に待った剣を以て切り裂いたりと、その実力は既に嘗てのラウンズにも劣りはしないだろう。

 

それに、戦っているのは彼女達だけではない。加勢に来たヨーコもまた、そのライフルを巧みに操って棒術代わりに雑兵達を薙ぎ倒し、銃を構える者達を瞬時に構え直して撃ち抜いていく。

 

「ヨーコ=リットナーさん、ご助力感謝します!」

 

「しかし、いいんですか? 貴女は来るべき戦いに備えて心身共に休んでおくべきでは……」

 

「気にしないで頂戴、本当はこんな風に関わるつもりはなかったし、これは完全な私の独断。それに、あの連中にはキッチリとお返しをしてやりたいしね!」

 

銃を味方に当たらないように計算しながら相手を撃ち抜き、それでいてオルドリン達と違和感無く即座に連携していくのはグリンダ騎士団の誰もが驚愕していた。

 

これが、Z-BLUE。一度は蒼のカリスマとグランゾンを倒し、サイデリアルから地球を救った地球圏最強の部隊の一人、その名に一切の偽り無し。

 

だが、それにしても相手もまた強固だった。数でこそ圧倒されても此方もまたブリタニアの中でも精鋭を誇った部隊、それでも勝ちきれないのは奴等もまた幾つもの修羅場を潜り抜けてきた猛者だと言うことか。

 

「オラァッ! こんなものかよ騎士様よぉっ!」

 

「くっ!?」

 

特にこのベルクという男、その図体に見合わず俊敏で奮われる攻撃の一つ一つが重い。相手をしているオルドリンはその家柄から剣の扱いは人一倍得意で、その冴えはラウンズにも匹敵している。

 

なのに、そんな彼女ですら防戦するので手一杯だった。相手の読みにくい動きも合わさって手出し出来ず、奴の腰に据えられた銃に手を伸ばさせないようにする事だけで精一杯。

 

当然、ベルクにもオルドリンの狙いは読めていた。自分の動きを見切る為に防戦に徹している事も、距離を開けられて銃を手にしないように必死に食らい付いていることも。

 

小賢しいが、実際オルドリンの判断は間違っていない。此処で自分が万が一敗北すれば、瞬く間に戦局は覆される。数で埋めようとしてもそれを覆す強さと勢いがグリンダ騎士団にはあった。

 

故に、ベルクは一つ奸計を思い付く。策と呼ぶには稚拙で悪意に満ちたそれを。

 

「しっかし、流石は蒼のカリスマ様だ。アイツの名前のお陰で俺達の負担は大分減ったよ。嘗ての恩人の為に一言礼を言いにワザワザやって来るバカ共、いやぁ。ここ最近笑いが止まらなくて腹筋が辛かったぜ」

 

「っ! それは、あんた達が蒼のカリスマの名前を勝手に使ったんでしょうが!」

 

「おうよ。だがここまで影響があるとは思っていなかったんだぜ? 来ても精々数十人程度と予想してたんだが……クク、まさか千人規模の人間が世界中から捕まってくれるとはなぁ! 流石の俺様も予想外だぜ」

 

千人。笑いながらそう口にするベルクにオルドリンは驚愕を露にした。何故そこまで被害が大きくなっているのに政府は何もしないのか。それだけサイデリアルとの消耗が激しかったのか? それもあるだろうが………多分、違う。

 

「疲れちまったんだよなぁ! 世界が、戦うのを! もうこれ以上戦えないって、戦いたくないってなぁ!」

 

「っ!」

 

「だから政府の連中は見捨てたのさ、蒼のカリスマなんて広告塔に群がるバカ達を、助けてやるほど暇じゃねぇってな!」

 

「お前ぇっ!」

 

吐き捨て、嘲笑うベルクにオルドリンの沸点は一気に頂点を超える。人の善意を、誰かに感謝する気持ちを、純粋な気持ちを踏みにじるこの男を許せないと。

 

「ハハッ、怒ったか? だがこれが事実だ。所詮この世界はやったもんが勝ち、騙された方が間抜けなんだよぉ! そしてぇ、テメェ等もその一つだ。グリンダ騎士団! いいやぁ、マリーベル=メル=ブリタニア!」

 

しかし、ベルクの標的は別の者に代わる。その矛先は雑兵相手に剣を振って蹴散らす元皇族の姫君、マリーベル=メル=ブリタニア。

 

「知ってるぜぇ、テメェの事。魔神激昂事件、蒼のカリスマとグランゾンに大敗北をした当時の連邦の軍隊の中にテメェ等グリンダ騎士団がいたこともなぁ!」

 

「それが、どうしました!」

 

「怖ぇんだろ?」

 

「っ!?」

 

ベルクのその一言に、マリーベルは自らの心臓を鷲掴みにされる感覚を味わった。

 

「分かるぜぇ。あの蒼のカリスマ、あのグランゾンだもんなぁ。地球の全戦力の半分を潰しちまう力、聞いただけの俺様もブルッてたもんさ。で? その恐怖はあれから少しでも和らいだのかよ。敗北の皇女さまよぉ?」

 

「黙りなさい! 今の言葉、撤回しなさい!」

 

「っ! だめ、マリー! 下がって!」

 

ベルクの挑発、何時ものマリーベルならそんなモノに乗せられる事はなかった。だが、彼女は思い出してしまった。蒼のカリスマとグランゾンに何もかも打ち砕かれたあの日の事を。

 

 

 

その時の恐怖を、羞恥を、屈辱を、マリーベルは今も振りきれていない。恨みや憎しみといった感情こそは薄まっても、恐怖という色は今も彼女の心の中で色濃く残っている。醜くも愚かな自身の心情、それを指摘したベルクにマリーベルは我を忘れて斬りかかる。

 

それを止めようとするオルドリンだが、その一瞬の隙を突かれてベルクの蹴りによって吹き飛ばされる。遠退いていくマリーベル、オルドリンが目にするのは怒りに我を忘れた姫に死角から襲い来るベルクの刃、それが彼女の首に触れようとした、その時。

 

「下がれマリーベル!」

 

「「っ!?」」

 

唐突に現れた第三者が、横からベルクの刃を弾き飛ばした。

 

「お、オルフェウス!?」

 

「な、何故アイツがここに!?」

 

「え、誰!?」

 

誰もが驚いている中、ヨーコだけがオルドリンにソックリの男性に目を丸くしていた。

 

「来やがったかピースマークのオズ! 何でテメェがあの牢屋から出てこれんだよ!」

 

「貴様こそ、いつ大監獄から出てきた! 監獄長はクビにされたか?」

 

「只今休職中さ。テメェ等残らずぶち殺したらまた戻る……さっ!」

 

腕を振り抜き、オルフェウスを振り払うベルクだが、その腕には僅かながら切り傷が刻まれていた。あの一瞬で切りつけたオルフェウスには感心するが、それ以上にあれだけ打ちのめして尚立ち向かってくる事に、ベルクは苛立ちを感じていた。

 

「オルフェウス、貴方………どうしてここに?」

 

「話は後だ。それよりもこの状況を打開する事を考えろ! 直ぐに奴は仕掛けてくるぞ」

 

浮かんでくる疑問よりも目の前の状況を乗り越えることを優先する。オルフェウスの一喝に思い直したオルドリンは直ぐに構えを直し、ベルクへの対応を始める。

 

しかし、ベルクから仕掛けてくることはなかった。奴の性分ならより苛烈となって襲って来ると思ったのに、意外なほど静かな奴に二人は違和感を覚えた。

 

「───残念ながら時間だ。続きは外でやろうや」

 

ベルクがそう口にした瞬間、基地内の至る所から爆発し、それに合わせてこれ迄全く動きのなかった機動兵器達が起動し始める。

 

「これは、なんで!?」

 

「コイツら、さっきまで何とも言わなかった癖に、まるで自動人形みたいだにゃ!」

 

「人形………まさかっ!?」

 

「ハッ、流石にバレるか! そうさ、お察しの通りコイツらにはモビルドールシステムが組み込まれている。嘗てのOZの総帥トレーズ=クシュリナーダの遺産、詰まる所ここは蒼のカリスマとトレーズの夢のコラボ施設って訳さ!」

 

何処までもふざけた言動にヨーコは堪らず引き金を引く。しかし、既にベルクの姿はそこには無く、爆発と火の手ばかりが勢いを増していく。

 

このままでは基地の崩壊に巻き込まれる。急いで基地から脱出を計ろうとするオルドリン達だが、火の手の勢いに呑まれ、マリーベルと引き離されてしまう。

 

「っ! マリー!!」

 

炎の中へ呑み込まれようとする己の主を手を伸ばして助けようとするも、爆発と爆風が二人の間を裂くように引き離していく。オルドリンの慟哭の叫びが崩壊する基地に木霊する。

 

しかし、その一方でヨーコは気が付いた。マリーベルが炎に包まれる直前、一つの影が彼女を炎から拐っていった事に。やはり、アイツもここにいた。その事を確信したヨーコは放心するオルドリンを連れ、基地から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『爆発だと!? 一体何が起こっている!?』

 

『方角から恐らく、オルドリン達が潜入している蒼神教の本拠地かと思われます!』

 

『何故、自らの拠点を………』

 

マリーベルの要請を受け、機体を乗せたグランベリーと共に蒼神教の本拠地へ向かっていたヨハン=シュバルツァーとオペレーター達は、突如として起きた爆発によって立ち上る黒煙に驚きを露にしていた。

 

これも蒼のカリスマの策略か、得体の知れない策に混乱するヨハンだが、直ぐに状況確認の為に檄を飛ばす。

 

『っ、直ぐに団長達の通信を繋げ! 団長、オルドリン達の状況はどうなっている!?』

 

『通信、繋がりません! 恐らくは爆発による影響かと思われます!』

 

『ぬぅぅ……』

 

やはり、マリーベル達はあの拠点にいる。しかも恐らくは最悪に近い状態で孤立、もしくはそれ以上の被害が出ている可能性すら考えられてしまう。自らの拠点を破壊してまでオルドリン達を亡き者にしようと言うのか。一般的戦術論から余りにかけ離れた策略、しかしこれも蒼のカリスマの罠だと考えれば、納得してしまう自分がいる。

 

『あっ、生存反応を感知! これは………オルドリン達です!』

 

『っ!』

 

そんな時、オペレーターから朗報が届く。モニターに映せば、煙の中から出てくるジープにオルドリン達の姿が確認できた。無事だった事に喜ぶのも束の間、嫌な予感を感じ取ったヨハンは即座に次なる指示を飛ばす。

 

『各KMFの降下を! 恐らく、敵は直ぐに出てくるぞ!』

 

『了解!』

 

『ランスロット・ハイグレイル、スタンバイ!』

 

『並びにブラッドフォード・ブレイブ、ゼットランド・ハート、シェフィールド・アイ、降下準備完了!』

 

『よし、降下開始!』

 

オルドリン達が脱出した絶妙の距離感で彼女達の機体が新大陸の大地に降り立つ。流石の手際だと一同はヨハンの手際に感謝するが、その一方でその表情は何処までも暗い。

 

車をオルフェウスに任せ、機体に乗り込んだオルドリンが待っていたのは懐かしの愛機のコックピット、彼女の搭乗と共に愛機であるハイグレイルは起動し、全てのシステムが正常に稼動する。

 

『皆、良く無事だった! 状況の報告を急いでくれ、中で一体何が起こった!』

 

『ヨハン戦略顧問。その………マリーが』

 

『なに? 姫様が、マリーベル団長がどうかしたのか!?』

 

『………っ』

 

ソキアの言葉にヨハンは設問するが、誰もそれに答える事は出来なかった。否、それに応える間もなく、状況は更なる変化を迎える事になる。

 

「来るわよ! 全員気を引き締めなさい!」

 

『『っ!!』』

 

浮遊するバイクに股がり、通信に割り込んできたのはライフルを担いだヨーコだった。ヨハン達はZ-BLUEの一員である彼女の登場に戸惑い、オルドリン達は否応なしに目の前の光景に釘付けとなる。

 

燃え盛る炎の中から現れる無数の機体、その中でも特に巨大なその影は、機動兵器に乗るオルドリン達も見上げるほどに巨大だった。

 

『な、なによ………これ』

 

『この、大きさは………』

 

『連中、何てものを造り上げたんだ!』

 

それは、破壊を意味する巨大MS。それ一体だけで幾つもの都市を殲滅できる大規模な破壊兵器。嘗てナチュラルとコーディネーター、人類が対立した世界で全てを破壊せんと生み出された悪魔の兵器。

 

そして、対するはその構造上からそのシステム無しでは動かすことは不可能とされてきた、嘗ての裏組織アマルガムが作り出した獣の名を冠した巨大AS。

 

デストロイガンダム、そしてベヘモス。無数の機体の群の中でも飛び抜けた巨体を誇る機体がそれぞれ五体、合計十機がオルドリン達の前に君臨していた。

 

『どーよ、俺達が造り上げた汗と涙の結晶。喜んでくれたかい? この日の為にパパ、一生懸命頑張ったんでちゅよ~』

 

耳朶に響いてくるのは何処までもふざけた言動を貫く男、ゲイツのものだった。奴の乗っている機体は血の様に紅く染め上げられている。

 

そしてそのASの横には蠍の形を模した巨大な兵器、ナイトギガフォートレスと呼ばれる大型KMFがゲイツの操るASの横に並んでいる。その位置からして、恐らくはベルクが乗っているのだろう。

 

『なぁパパさんよ。折角プレゼントをお披露目したんだ。このままカミナシティまでパーティーと洒落込もうじゃねぇか!』

 

『おっとベルク君、それはグッドアイデアだ。後でアイスキャンディをやろう』

 

『さて、そう言う訳だから騎士様達よぉ、もうお前らに興味はねぇんだ。逃げるんなら、止めはしないぜぇ? 尤も、この軍勢から逃げられたらの話だがよぉ!』

 

嘲笑うベルクに、しかしオルドリン達は何も言い返せなかった。圧倒的戦力の差、普段のオルドリン達ならば負けじと応戦するだろうが、彼女達の柱でグリンダ騎士団の象徴であるマリーベルの不在が、今のオルドリン達に大きな影を落としていた。

 

「ちっ、流石にこの数は骨が折れるわね。それにあのデカブツ、こんな事なら私もガンメン持ってくるんだった!」

 

そして、ヨーコもまた追い詰められた状況に冷や汗を流す。見上げるほどの巨大な機動兵器、何れもが強大で一部隊や個人では手に余る。このままではなぶり殺されるだけだ。そう誰もが思った時、ふとベルクがある疑問を感じた。

 

『あん? そういや、シェスタールのお坊っちゃんはどうした?』

 

『あぁ? あの坊やがどうした?』

 

『いや、こう言う時口うるさく言ってくるからよ。やけに静かだから気になって……』

 

いつもならこのタイミングで食って掛かってきそうなモノなのに、今日に限ってそれはない。不思議に思ったベルクが辺りを見渡したとき……それはいた。

 

砕かれ、残骸となったKMF。それは先程までシェスタールが乗っていた機体だった。何故奴の機体があんな事になっている。不思議に思うベルクだが、それ以上に近くで佇む優男に目が行った。

 

優男の後ろには目をパチクリとさせているマリーベルが佇んでいる。何故彼女が見慣れない男と一緒にいるのか、恐らくはあの優男も蒼神教にノコノコ入信してきたバカの一人なのだろう。逃げ遅れ、基地内を彷徨っていた所にマリーベルと遭遇、命からがらここまで逃げてきたといった所だろうか。

 

その割には衣服に煤や汚れが着いていないことが不自然だが……余程運が良かったのだろう。いやこの場合はその逆か。

 

『ほほぅ? まだ逃げ切れていない間抜けがいたのかよぉ。バカだなぁ、そんな女見捨ててとっとと逃げれば良かったのによぉ。まぁ、運が悪かったと思って諦めてくれや』

 

「───その前に、一つ聞いても良いだろうか?」

 

『あん?』

 

「何故、こんな事をした? どうしてワザワザ蒼のカリスマの名前を使い、こんな真似をしたんだ? 捕まっていた人達は老若男女問わず、皆疲弊し、傷付き、廃れていた。サイデリアルという脅威から解放され、漸く自由に生きる事が出来るのに、何故お前達はそれを縛る。誰かに感謝するという気持ちを踏み躙れる」

 

『───ぶ、ブハハハハッ! おいおいマジか!? お前マジで言ってんのか!? おい聞いたかよゲイツ、コイツ本物のバカだぜ。この期に及んで命乞いじゃなく俺を追及してきやがった』

 

 

 

『良かったじゃねぇか兄弟。ファンが出来て』

 

『いらねぇよこんなカス。おい、質問に答えてやるよ優男、そんなもんはな強い奴にとって関係ねぇんだよ。この世は弱肉強食、弱く、騙され、陥れられた奴が悪いのよ。感謝の気持ちぃ? んなもん勝手に抱いたのが悪いんだろぅがよぉ! 利用され、バカみてぇに踊らされてなぁ! いやぁ、見ていて愉快だったぜ。蒼のカリスマの名前に吊られてホイホイやってくるバカを見るのはよぉ!』

 

「───そうか」

 

『それに、あのトレーズだって言ってただろうがよ! 闘いこそが人の本性だってなぁ! 俺達ジルクスタンの人間は闘いこそが生き甲斐。ならよぉ、俺達の生き方もまた肯定されるべきだって事だろうが!』

 

「………そうか」

 

『疑問は解消されたか? ならとっとと死ねやぁ!』

 

男からの質問を嘲笑うベルクは、そのお返しとばかりに己の機体を動かしていく。蠍の尾が動き、先端が開くと、そこから目映い光が降り注ぎ、男とマリーベル諸とも呑み込んだ。

 

光は軈て爆発し、紫色の煙が空に向かって昇っていく。サクラダイトの光、その光景を目の当たりにした誰もが(ヨーコは除く)絶句していた。

 

『ハッハァ! どうよ兄弟、綺麗な花火だったろぉ? 今度はカミナシティでもっとド派手なモノを打ち上げてやるからよ』

 

『ソイツは楽しみだ。花火大会なんてガキの頃に見たきりだったからなぁ………あん?』

 

ふと、ゲイツは違和感を感じた。ベルクの機体の放つ光は間違いなくマリーベルもあの優男も呑み込んで消し炭にした筈。なのに、煙の中から見える影は消し炭処か、未だ人の形を保っている様に見える。

 

もしや意外にも威力を抑えて放ったのか? ベルクの意外な爪の甘さに訝しむと………。

 

「───成る程、弱肉強食か。確かにお前の言うことも尤もだ」

 

煙の中から現れるそれに誰もが凍り付く。オルドリンも、ゲイツも、オルフェウスも、ベルクも、グリンダ騎士団の面々も、そして…………マリーベルも。

 

やがて驚愕は恐怖となって伝播していく。それは嘗て世界中を恐怖に陥れ、ブリタニア失墜の切っ掛けとなった男。

 

「だがな、それは獣の理だ。お前らが獣に成り果て、それでも尚理不尽に力を奮おうものならば───」

 

誰も、言葉を発せない。口を開くことが出来ない。恐ろしくて、体が言うことを聞かない。

 

何故ならば。

 

「良いだろう。そんなに戦いがお望みなら、俺が相手をしてやる」

 

怒れる魔人を前に、抗える者など………この場の人間には誰一人いないのだから。

 

 

 




ボッチ「人の名前を勝手に使いやがって、許さんねぇ」

他者視点

ボッチ「絶対に許さんぞ虫けらども! じわじわとなぶり殺しにしてやる!」

大体こんな温度差




次回、魔人激昂。

魔神じゃないよ魔人だよ。



それでは次回もまた見てボッチノシ

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