地球「ふははは! 見たか! これが宇宙船地球号の底力! 何が魔人だ! 何がボッチだ! 貴様らなどこの人類最後の、母なる大地ことこの地球様に勝てる訳ないだろぉがぁっ!!」
其処は、マジンガーの墓場だった。あらゆる姿の鉄の魔神が無惨な姿で打ち捨てられ、あらゆるマジンガーの系統を受け継いだ機体が破壊し尽くされた状態で漂っている。
己以外のマジンガーは認めない。そう言うが如く、死に体を晒すマジンガー達を背に、その存在は己の銘を口にする。
マジンガーZERO。最終にして原初の魔神、あらゆるマジンガーの頂点に君臨し、超越者として遥か高次元の彼方で君臨する魔なる神。
その存在は問い掛ける。何用かと。マジンガーZEROという極大の存在感に圧倒され、その威圧に魂ごと消えかける兜だったが、魔神の問い掛けによって正気を取り戻す。
『頼む、力を貸して欲しい。今俺達はある連中によって圧されている。もしお前が人に仇なす存在じゃあ無いのなら、人の可能性を信じているなら───頼む! お前の力を俺に、俺達に貸してくれ!』
危険な賭け、と言うのは兜本人が重々理解している。目の前の魔神は人の手に負える存在ではない。人の手で生み出されながら、その範疇から大きく逸脱した超越者である。懇願しても嘲笑われるだけに終わり、下手をすれば取り込まれる。あるいはそれ以上の地獄が齎されるかもしれない。
しかし、それでも兜甲児は願った。今も戦っている仲間達を守る為、近い内に地球へ押し寄せる根源的災厄に立ち向かう為、マジンガーZEROの力がどうしても欲しかった。
そして兜は、己の願いが叶うのならば自身がどうなっても構わないという覚悟で懇願している。これだけの圧倒的存在から力を借りるのならば、きっと相応の代価を支払う必要も出てくるだろう。だからこそ兜甲児は願う。自分を代価にどうか願いを聞き届けて欲しい────と。
“フム、良カロウ”
『────ふぁ?』
思わず、変な声が出た。
“何ダ、不服カ?”
『い、いや全然! 全然不服じゃありませんよ!?』
思っていた反応とは色んな意味で斜め上過ぎる。目の前の魔神はとんでもない超越者だ。それは間違いない。これだけの相手なら、一人間でしかない自分の願いなど一蹴されるかと思っていただけに、アッサリと承諾するマジンガーZEROに兜は動揺する。
『じ、自分から言っておいてなんだけど、本当に良いのか? アンタからすれば俺の願いなんて何の価値も無いと思ったんだけど……』
“フン、マァ単ナル気紛レダ。ソレニ其方ノ世界デ起コロウトシテイルノハ、我等ニトッテモ無視デキナイ話。奴ガ原罪ヲ産ミ落トソウト言ウノナラ、ソレヲ防グノモ我等ノ役目”
『原罪?』
“ト言ウカ面倒ナノダ。折角《奴》ト戦ウ段取リガ着イタノニ、余計ナ手間ヲ取リタクナイ。譬エソレガ欠片デスラナイ模造品ダトシテモ……ナ”
奴、欠片、模造品、目の前の存在から聞かされる断片的な情報の数々に混乱する兜だが、今はそれを精査する余裕はない。
“ソレニ、グランゾンヤゲッターノニバカリ暴レサセルノモ面白クナイ。何ヨリ《皇帝》デハナク我ヲ選ンダ。故ニオマエニ力ヲ貸スト決メタノダ”
『は、はぁ。どうもありがとう』
“イヤ、正直焦ッタノダ。以前ゲッターノ力ヲ浴ビタ事ガアッタカラ、モシヤト思ッタガ……ウム、流石兜甲児、ソウデナクテハナ”
何故だろう。色々気になる情報を得ているが、目の前の魔神が思ってた以上に私情に塗れている事に、兜は別の意味で困惑する。
けれど有難い。目の前の魔神が手を貸してくれるのなら、これ程心強いモノは無い。ならば急いで皆の所に戻らなくては。
“ダガ、我ガ力ノ一部ヲ与エル代ワリニ条件ガアル。我………イヤ、マジンガーノ力ヲ手ニスル者ヨ、我ガオマエニ求メルノハ唯一ツ。勝利ダ”
意識が徐々に薄れていく。最後に兜が耳にしたのは原初の魔神からの最後の通告。
“マジンガーニ敗北ハ許サレナイ。モシオマエガ敗ケヲ認メル日ガクレバ───我ガ総テヲ破壊スル”
それは一切の妥協を許さないモノだった。マジンガーは最強であると、人の可能性の光を信じても尚、それ自体は拘り続けるZEROに兜は不敵に笑みを浮かべる。
そしてそれを了承と捉えたマジンガーZEROも笑みを浮かべた─────様に見えた。
◇
「まだか、マジンガーよ。兜甲児、まだ原初には届かないのか」
周囲がスーパーロボット達が戦いを繰り広げる中、瀕死のヴィルダークが呟く。彼が手を伸ばした先には、マジンガーが未だ沈黙を保ったまま倒れている。急げ、もうじき尽きる自身の命を無駄に消費させない為に“扉”を開けと、一縷の望みを託したヴィルダークは兜甲児の帰還を願った。
「おい」
そんな時だ。背後から聞き慣れた人物の声が聞こえてくる。視線を其方に向けると自分と同様に瀕死となった好敵手、シュウジ=シラカワがシオニーを支えに佇んでいた。
「───何か、手伝える事はないか?」
理由など求めない。自身の最期の力を振り絞り、何かを成そうとしているヴィルダークをシュウジは問詰せず、ただ何か手伝える事は無いかと訊ねた。
自身を察してくれた宿敵に、内心感謝しながらヴィルダークは瞑目する。しかし、今彼に出来る事はない。今自分が行っているのは、次元力の応用の中でも更に異端な部類の荒業だ。最早手遅れな自分なら兎も角、“奴”に対抗しうるシュウジを捨て駒にする訳にはいかない。
故にヴィルダークは口を開こうとした。何もないと、自分と言う死に損ないを相手にせず、シオニーと共に仲間の下へ逃げろと。
そんな時だ。彼等の頭上を巨大な影が覆ったのは。見上げたヴィルダークは口許を緩め、もう一つの賭けを思い付く。上手くすればこの地に特大な戦力が生まれる事を期待して……。
「ならば、一つ頼まれてくれるか」
「あぁ、分かった」
そしてそんなヴィルダークの頼みを、やはりシュウジは即答で了承するのだった。
◇
『チィ、コイツら!』
『強く、速く、そして堅い。成る程、確かにコイツは厄介だな』
『冷静に分析している場合かよ!』
アスクレプスに圧され、ジリ貧に追い詰められつつあったZ-BLUE。度重なるサイデリアルとの戦闘で疲弊した今の彼等では、強制的に真化を施されたサクリファイの尖兵を相手にするのは厳しい。
クロウが強制的に真化融合させられた彼等を、どうにか元に戻せないか模索しているが、経過は芳しくない。しかし彼等を元に戻せる可能性がある以上、それを捨て置く訳にはいかない。
相手は強大、その上此方は疲弊した状態で、加えて本気で相手するには躊躇ってしまい、その所為で徐々に追い詰められてしまう。このままでは事態はより取り返しのつかない方向へ向かいかねない。やはりここは強行するしかないか。ヒビキや知り合いのいるクロウ達には申し訳ないが。と竜馬達ゲッターチームが覚悟を決めて、アスクレプスに攻撃を仕掛けようとして……。
『竜馬! こっちだ!』
『號!?』
見上げれば、其所にはZ-BLUEの艦の中でも指折りの戦闘能力を誇る真ドラゴンがいた。
『お前ら、何でここに!?』
『後方で援護に徹していたんじゃないのか!?』
『話は後だ。いいから真ドラゴンに乗れ、お前達を待っている人がいる』
竜馬達の疑問の言葉を他所に號は三人に真ドラゴンはその頭を垂れる。有無を言わさず早く乗れと急かす號に不思議に思いながら、真ドラゴンの頭部へ飛び移る。一体誰が待っていると言うのか、ゲッターチームの疑問はすぐに解消される。
「よし、何とか合流出来たか」
『テメ、シュウジ=シラカワ!?』
『退避していたんじゃなかったのか?』
『それに一緒にいるの………もしかしてシオニー=レジスか?』
血塗れで今にも死にそうな顔をしながらも、シュウジは眼前の真ゲッターを見上げる。そんな彼に対し竜馬達は、何故ここでシュウジが出てくるのかと疑問に思った。彼の役目はサイデリアルの皇帝ヴィルダークを倒す事であり、それは既に終わっている。
ならば何故ここにいるのか。竜馬が口を開いて訊ねるよりも先に、彼等の前に影が舞い降り、その手には人型のバスターマシンが握られていた。
『ノノ!?』
「ウフフフ、見た目に似合わず頑張るモノですから、ついやり過ぎてしまいましたわ。ごめんなさい」
首を掴み、愉悦の笑みを浮かべるサクリファイ。恍惚に歪んだ口元を隠しもせず、指を艶やかにノノの体に這わせていく。
「さぁ、貴女も私と1つになりましょう。私の愛は総てを溶かし、総てを呑み込む。それは機械であっても例外ではありません」
『ノノから、離れろォォオォッ!!』
取り込もうとするサクリファイの魔の手から妹分を救うべく、ラルクはディスヌフと共にサクリファイへ切り込む。相手が生身の人間だろうと関係ない。自分をお姉様と慕ってくれるノノを助け出すため、ラルクはディスヌフを操り巨兵の拳を振り抜こうとするが……。
『っ!!』
ディスヌフの振り抜かれた拳は黒に染まった太陽、邪悪なるヘリオースの手によって簡単に受け止められてしまう。
「フフ、元気が良くて大変結構です。しかし戯れもここまで。名残惜しいですが、そろそろ幕引きと致しましょう」
瞬間、ヘリオースを中心にエネルギーの奔流が荒れ狂う。地を砕き、天を裂き、星を揺さぶり、それでも止まらない力の濁流。その様子を観測していたトライアは言葉を失う。
軈て、Z-BLUEの頭上には禍々しく燃え滾る太陽が具現化していた。赤黒く、脈動し、全ての命を拒絶する破滅のエネルギー。
『くそ、あの女また何か始めようとしてやがる!』
「だな、もう猶予はない。この一回で成功させて見せる」
『なに?』
一刻も速くあの太陽をどうにかしなければならないのに、シュウジの口から溢れる言葉は至って冷静なモノだった。アレを見ても全く臆していないシュウジを不思議に思うゲッターチーム、しかし、シュウジに彼等の疑問に答える暇などなかった。
「シオニーさん、本当に良いんですね?」
これから行われるのは、シュウジとしても初めての体験、近くにいるシオニーを当然巻き込んでしまうが、もうここまで来た以上彼女を放り投げることも出来ない。
「と、ととと当然よ! ここまで来たんですもの! 私に構わず、さっさと始めちゃって!」
そんなシュウジの問いをシオニーは笑顔で即答する。怖いくせに、足を震わせて今にも腰抜かしそうな癖に、それでも気丈に振る舞うシオニーに、シュウジは心の底から彼女に尊敬の念を抱く。
膝を着き、真ドラゴンに触れる。瞬間、真ドラゴンと真ゲッターの両方から凄まじい迄のゲッター線が溢れ出す。
『な、何だこりゃあ!?』
『予想を遥かに上回るゲッター線の奔流、だと!? シュウジ=シラカワ、一体何をした!?』
「これから、“門”を開く」
『何!?』
「ヴィルダークから聞いた。次元力を操り、ある境界線を越えた者には、こことは違う別のナニかへ通じる“門”の開閉を行うことが出来ると。それが時空振動なのか、それとも時空修復の事なのか、それは定かではない」
「本来ならばただ別世界、別次元、別時空へ繋がるだけの荒業だが、今この場においてそれはなされない。何故ならここには、ゲッターとマジンガーという二つの要素が加わっているからだ!」
『な、何を言って───』
「
「───いけませんわ、自分達ばかり楽しんでは」
ゲッターが光輝く中、ディスヌフを下したサクリファイがヘリオースと共に迫り来る。しかし、奴の行く手を二つの機影が遮った。
『悪いけど、ここを通しはしないよ』
『この刹那に、俺達の総てを賭ける』
それはプレイアデス・タウラと尸逝天、エルーナルーナと尸空の二人だった。突然の乱入にサクリファイの目が見開かれる。僅かな刹那の攻防。その僅かにして最大の隙をサクリファイが晒した瞬間───戦場にて光が溢れた。
◇
────何だ、ここは?
────ここは、ゲッターの………ゲッター線の中なのか?
────俺達は、ゲッターに取り込まれたのか?
上もなく下もなく、ただ漂う様な感覚。ゲッターという力に取り込まれたのかと弁慶は危惧するが、それに反して忌避感はなかった。死とは異なる魂と肉体の別離、竜馬は本能的に悟った。今この場には自分達の他に彼等がいるという事を。
────へ、成る程。そういう事かよ。
───なっ!? そ、そんな!?
───う、嘘だろ!?
其所にいたのは、もうこの世にはいない筈の者達だった。早乙女博士、ミチル、そして───武蔵。何れも先の戦いや事故で亡くなった者達に、竜馬を除く二人は驚愕に震えていた。
“───どうやら、間に合ったようじゃな”
───成る程、理屈は分からねぇが、どうやら俺達はゲッター線。その飛びっきり深い所へ飛ばされたらしい。
“───シュウジ=シラカワ。かのシュウ=シラカワと連なる者。奴が残してくれた最後の遺産。よもやこの様な形で助けられるとはの”
────ミチルさん、まさか、また会えるなんて。
“フフ、話をしたいのは山々だけど、残念ながら今はその時ではないわ”
───ど、どういう事なのか、俺にはてんで理解出来ねぇや。先輩、一体どうなってんだよ?
“考える必要はねぇさ。お前らはただあるがままに受け入れればいい。ゲッター線を理解し、共に進めばいい”
“竜馬、隼人、弁慶。お前達はもうワシの敷いたレールなど必要ない。必要なのはただ前に進む意思のみ。忘れるな、進化の意味を。間違えるな、進化の在り方を”
意識が遠くなっていく。視界が白み、全てが遠くなっていく。笑みを浮かべて自分達を見送ってくれる博士達に想いを馳せながら、竜馬が最後に見たのは────。
星よりも巨大な────銀河すら呑み込む巨大なゲッターロボだった。
◇
それは、進化に目覚めた竜の化身。
それは、最終にして原初の魔神。
その光景を目にした者は口にする。神話の始まりと。
吹き飛んだアスクレプス達。宙を舞い、大地に叩き付けられる様を見てZ-BLUE達は戸惑う。アレは何だ、と。
進化の力を得、新たな姿へ移行した竜が空へ舞う。
そしてそんな二体を先導する様に、日輪を背負う重力の魔神が前に出る。圧巻、壮観、そして圧倒的。
『あぁ、間に合ったか』
『何だよ、凄いじゃないか』
ヘリオースに機体を貫かれ、死を前にしたエルーナルーナと尸空は思う。良かったと。自分達の献身は無駄ではなかったと。本来の予定とは大きく外れているが、新生した彼等を見て二人は安堵する。
軈て爆散し、スフィアごと命を奪われる。しかし二人に一切の後悔はなかった。後を託せるに充分な力を持った彼等ならば、きっとやり遂げてくれると信じて。エルーナルーナと尸空。サイデリアルに属していながら、その上位存在に反旗を翻そうとしていた二人は、確かな達成感を得ながら消えていった。
それを見届けながらヴィルダークは見上げる。もう、自分に出来る事はない。己の無力さと、同時にやり遂げた充足感を得ながら、ヴィルダークは一言口にする。
「───後は、頼んだぞ」
手足が灰となって崩れ、立てなくなったヴィルダークは、彼等の背を目に倒れ込む。彼の呟きは風に溶けていき、空の彼方へ消えていく。
『あぁ、任されたよ』
だが、その想いは確かに聞き届けられた。日輪を輝かせ、強い意思をその目に宿した鋼の戦士達は、眼前の巨悪を前に闘志を滾らせる。
マジンガーZERO
真ゲッタードラゴン
ネオ・グランゾン
それら三体を前に、それでも歪んだ慈愛は悦を溢す。
しかし気付かない。その歪みに歪んだ笑みが僅かながら軋んでいた事に、微かながら皹入っていた事実に奴自身も気付かない。
さぁ、今度こそ、今度こそだ。地球に於ける最後の戦いが、今こそ開かれる。
今こそ、決着の時だ。
地球「アヒィン」
Q.結局、ZEROはどうして参戦してきたの?
A.ZERO「ゲッターやグランゾンばかりズルーい! 俺も混ぜてー♪」(ドワォ
次回、ダイナミック。
それでは次回もまた見てボッチノシ