Ω月ζ日
現在、自分はZ-BLUEに合流すべくグランゾンと共に周辺宙域を探索している。自分達を転移させたワームホールは多くのバスターマシン達によって抑えられており、今の所は安定している。
彼等の労力を減らす為にあのワームホールを破壊して憂いを断とうとも考えたが、まだZ-BLUEの皆が戻って来ているか分からない現在の状況では、そんな事をするのは下策といえる。あの巨大なワームホールを消すのはZ-BLUEの皆が此方に戻ってきてからの方が良いと判断し、今はまだ放置しておくにする。
………いや、違うな。色々それっぽい事言って誤魔化しているが、要するに自分はまだ未練があるのだ。あの世界に、ニコちゃんや両親が住んでいるあの世界に戻ることを、今になってまだ自分は捨てきれていないのだ。
Z-BLUEの所在なんて此方から暗号通信を送れば一発で分かるのにそれをしないのも、偏にそれが理由に過ぎない。───情けない、いつまでメソメソしているのだろう。分かっていた事なのに、自分で決めた事なのに、未だに自分は元の世界に戻る事を諦めきれないでいる。
この新しい手帳、新品で手触りも違うのにまるで置いてきたあの日記の続きを書いているみたいだ。まだ自分とあの世界は繋がっている。まるでそう言われてるみたいだ。
────だから、決めた。いつか、自分は必ずもう一度あの世界に戻る事を、もう一度ニコちゃんの歌を聞きに行こう。あの時した約束を果たしに行くことをこの瞬間自分は決意した。
博士は………何も言わなかった。否定も肯定もせずただ『そうか』の一言だけ呟いて後はそれっきり、今も話すことは出来るのに互いにそれをしようとしない。
今は、そっとしておくべきなのかもしれない。いや、もしかしたら自分の方が博士に気を遣われてるのかもしれない。何かと自分に気に掛けている博士の事だ。きっと自分が立ち直る時を静かに見守っていてくれているかもしれない。
なら、今はその厚意に甘えて気持ちを落ち着かせる事に専念しよう。とてもじゃないが、今の自分は人様の前に立てる状態じゃない。
別れたくない別れがあった。離れたくない離別があった。苦しくて、悲しくて、辛くてどうしようもない気持ちで一杯で、今この瞬間も泣きそうになる。
でも、進み続けると決めた。立ち止まっても、足踏みしても、自分はこの道を進み続けると決めた。────だから。
今は涙を呑んで笑っておこう。いつかまた彼女に会える日を夢見て、空元気でも笑っておこう。それがきっと明日を乗り越える力になる筈だから─────。
Ω月√日
取り敢えず丸一日ワームホールの前で待ってみてもZ-BLUEが戻ってくる気配がないので、一先ず自分はソレスタルビーイング号に向かう事にした。彼処にはジンネマンさん達がいるし、Z-BLUEの皆がいる可能性も高い。
何かしらの情報を得られるかもしれないから何となく其処へ向かおうとしていたその道中、リディ君とスズネ先生改めアムブリエルが率いるクロノ&サイデリアルの混成部隊と遭遇。そしてそのまま戦闘へと至った。
つーかリディ君まぁだクロノにいたんかい。いい加減機嫌直して戻って来いよと説得してもうるさい黙れの一点張り、アムブリエルの方は私は自由になるんだーと言って、此方はこっちの話すら聞こうとしない。
人の話を聞かずやりたい放題の二人、そんな二人の勢いに乗って調子づく敵部隊、ついこの間まで豆腐メンタルだった自分にはそんな状況がちょっと苛つき…………つい、やっちゃったんだ★
具体的に言えばワームスマッシャーによる広域殲滅攻撃、久し振りのグランゾンによるその攻撃は敵部隊の全てを一瞬にして撃ち抜いた。リディ少尉が乗っていたバンシィもいつぞやの時と同じように四肢を撃ち抜き、アムブリエルが駆るジェミニアにも搭乗者に被害が出ない程度に蜂の巣にしてみせた。
一瞬にして自分の部隊が全滅した事に驚愕するも、アムブリエルの方は動けなくなったバンシィを置いて急いでその場から離脱、その際に彼女は気になる事を口にしていた。
“皇帝がお前を待っている” この言葉から察するに、どうやら自分がこの世界に戻ってきている事は既に向こうに知られている様だ。だったら話は早い、来るべき時───オペレーション・エクリプスに備え自分も準備と気持ちを整えておくことにしよう。
そんな訳で自分は四肢のもげたバンシィと其処に呆然と乗っているリディ少尉を連れてソレスタルビーイング号に合流、この時Z-BLUEはELSと交戦していた様で苦戦している彼等に合わせて戦線に参加したのだが、何故かELSは自分が駆け付けてきた時に合わせて撤退していった。
………なんか、俺、ELSに避けられてね? 沸き上がってくる寂しさに何とも言えなくなったが、戻ってきたZ-BLUEに改めて合流し、遅れてきた詫びとして回収していたバンシィとリディ少尉をブライト艦長に預け、現在自分はグランゾンの整備に当たっている。
バンシィとリディ少尉を引き渡す際にブライト艦長は引き攣った笑みを浮かべていたが………アレはどういう意味なのだろう? というより、大抵の人は自分と会話をする際決まって表情を引き攣らせている気がする。
ギルターに訊ねても分からないみたいだし、幾ら考えた所で分かる筈も無いから、取り敢えずこの件は考えない事にした。
再会したC.C.さんに盛大にため息吐かれたりしたけど、え? 俺ってなんかいけない事した? その時の状況に合わせて最適の行動をした筈なんだけど………。
そんな事いったら「だからお前はボッチなんだよ」と返された。酷くない?
◇
「シュウジさん、リディ少尉は大丈夫ですかね」
一先ずELSからの侵攻を退けたZ-BLUE達、現在整備班と共に現在はソレスタルビーイング号にて己の愛機の為に尽力していた。
周囲から整備の音が聞こえてくる。そんな中偶々隣り合わせになっていたヒビキは現在医務室で眠っているリディが気掛かりで、彼を間接的にそんな状態にしたシュウジにそれとなく訊ねた。────因みに、今も彼は仮面を着けている。
別にシュウジを責めている訳ではない。敵対している相手に手を抜けと言えるほどヒビキは機体操縦に秀でてはいないし、殺す気でいる相手を死なせずに遣り過ごす程熟練していない。ただ、彼───リディ少尉には前々から追い詰められている節があった。何に、どんな理由で自身を追い詰めているのか知らないが、戦場で遭遇する度に彼の心の閉ざし方は尋常では無くなってしまっている。
そんな状態の彼に理不尽の塊であるシュウジが蹂躙する。彼の雄叫びも感情の発露も何もかも破壊し粉砕する。シュウジの容赦の無さを同じ部隊にいる事で否応なく知ることになったヒビキからしてみれば、リディの眠りは彼にとって最後の心の防御なのかもしれない。
「大丈夫じゃない? 別に彼の身体に傷があるわけでもないし、軍医の先生も過度なストレスで一時的な意識混濁みたいなモノだと言ってた事だしね。真面目な彼の事だ、きっとああなるまで自分を追い詰めたのだろう。若いんだからもっと気楽にすればいいのに」
「あ、アハハハハ………ですよね」
これだよ。シュウジのそれっぽい持論にヒビキは乾いた笑いで同調する。その中に多分な達観の色を込めて。
(──前々から思ってたけど、シュウジさんて天然な所あるよな)
「でもミネバちゃんが今看病しているし、きっと良くなるよ。彼が味方に着いてくれれば心強いしね」
「……………でも、リディさん結構頑固な所あるし、ラプラスの箱の秘密についても話してくれるかどうか」
「ラプラスの箱? あぁあれね? 別に良いんじゃない? 事ここに至っては余り意味のある情報じゃないし」
「…………………………は?」
「そもそも、環境に合わせて成長・進化を伴うのが生命体の正しい在り方な訳で、それを政府運営に組み込むことはそれ事態は悪い事じゃあ無いんだよね。問題はその新しく生れた人類とどう向き合うかが重要なだけで。………まぁ、当時の宇宙世紀の人達からすれば大事な話だから仕方ない事だと思うけどさ」
「」
「あとはクロノの教義だっけ? あれもどうせ“人類は月に到達した時点でサイデリアルの支配下に置かれていた。クロノはその為の監視役である”みたいな感じで記されているんだろうけどさ、今更そんなモノで俺達がビビるかっての」
仮面を被っているから今は蒼のカリスマとして此処にいるのに、つい口調が素に戻ってしまう。まぁ相手は気の知れたヒビキ君だし別に良いよね、なんて思いながら最後の仕上げを終えたシュウジは、ふと格納庫に違和感を覚える。
静かだった。先程まで整備の音で充満していたソレスタルビーイング号内の格納庫が、まるで時間が止まった様に静まり返っている。あれ? 何で皆こっち向いて止まってんの? 俺何かした? 自分のした事に一切分かっていないシュウジが首を傾げてヒビキに向き直ると。
「お、俺、何も聞いてませんから!!」
「へ?」
何故かそれだけを言ってヒビキは自身の愛機の整備にのめり込む。まるで何かから逃げる様に。他の人達も同様に鬼気迫る表情で各機体の整備に打ち込んでいく。
なにやら尋常ならざる勢い、その勢いに乗り切れなかったシュウジは少しの疎外感を味わいながら格納庫を後にした。
シンカを超え、人の極致へと至り、大きな別れを経験しても、やっぱり
Q.ボッチにとってラプラスの箱&クロノの教義はどれくらい意味があると思っている?
A.ミカンの白い筋位、健康には良いみたいだけど然程重要でもないよねって言う。
前回までシリアスでしたが、今回からはきっとこんな調子。
それでは次回もまた見てボッチノシ