導入部分ですのでかなり短めです。
────ラース・バビロン。サイデリアルの主力であるスフィアリアクターと彼等を束ねる皇帝であるアウストラリスの居城、蒼の地球の8割近くを占拠しているかの大帝国の本拠地、そこにある居住区という名の牢獄でシオはある人物と面会していた。
「シュウジが………帰った?」
「そうだ」
彼女の前に立つのは
「本当に、彼は帰れたの? 自分の世界へ?」
「あぁ、先程揺らぎを感じた。それぞれ別の世界へ飛ばされたZ-BLUEとは違い、奴だけは遥か彼方へ消えていく様だった。恐らくは“理の壁”を超えたのだろう」
アウストラリスの言うことは今一つ理解できない。理の壁とは何なのか、専門的知識は何一つ解らない彼女だが、一つだけ分かった事がある。
もう、彼は戦う必要なんて無いという事、傷付く必要なんて無いという事、穏やかで、健やかに生きていける本来在るべき場所へ帰れたという事、それを知ることが出来たシオは───。
「よかっ………たぁ」
その眼から大粒の涙を流して彼に漸く訪れた平穏に心から喜んだ。嗚咽を漏らし、喜びを露にしているシオを尻目にアウストラリスは部屋を後にする。
(これで終わりか。シュウジ=シラカワ、私はまだ、貴様に何も問いてはいないのだぞ)
不満、或いは憤りか、外套を翻しながら玉座へ戻る彼の手はキツく握り締められていた。
◇
────私は失敗した。
許されない事をした。絶対にしてはいけないのに、絶対に破ってはいけないのに、私はあの御方の意思を背き、己の感情を優先させてしまった。
失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。
私は罪人だ。決して許されず、永遠に罰せられるべき、唾棄すべき人間だ。どんなに言葉を重ねても、喩えあの御方が許しても、何より私自身が許せない。
だって─────。
────誰かの
「──────ん、んぅ?」
頭が重い。まるで長い夢を見ていた様な倦怠感、全身に掛かる怠さに目を瞑りながら立上がり、辺りを見渡した。
どうやら何処かの街の路地裏らしい。未だに頭に掛かるモヤを払うように首を横に振りながら、シュウジは路地裏の先にある光、大通りらしき所へ向けて足を進めた。
「俺は確か、宇宙で宇宙怪獣とバジュラと戦ってそれで………」
思い返すのは先程まで自分が何をしていたのか、思考は巡らせるほど加速していき、頭の中のモヤも晴れ渡っていく。
他の皆はどうしているのか、Z-BLUEの皆もここに来ているのか、兎も角合流しなければと路地裏から出たシュウジが目にしたのは………。
「─────え?」
街だった。平穏で、穏やかで、ありふれた普通の街。何の変哲もなく、代わり映えの無いシュウジにとって
「………なん、で?」
頭が混乱する。思考が定まらない。今自分が置かれている状況にシュウジは何一つ理解出来ずにいた。
大通りをなに食わぬ顔で行き交う人々、仕事帰りのサラリーマン、夕飯の買い出しの主婦、子供と手を握り家へと帰る家族。それらを呆然と見つめるシュウジに元気な子供が声を掛けてきた。
「うわー! スッゲェ! ねぇねぇ、コレ何のコスプレ!?」
「え? 」
「うわ、本当だ。良くできてるなぁ、特にその仮面とか手が込んでますねぇ」
「あの、何処かの仮装パーティーの参加していた人ですか? SNSにアップしたいんですけど、宜しければ一枚撮らせて戴けませんか?」
「あ、あの、すみません! 急いでますので!」
「え、ちょ、ちょっと!」
「うわ、なんだあの人足速ぇ!?」
自分の格好を見て集まってきた人達、混乱の渦に叩き込まれ、マトモに考えられなくなっているシュウジは言葉短く残して大通りから立ち去っていく。後ろから聞こえてくる戸惑いの声を振り切ってシュウジは駆けた。
(なんだ!? 何が起きている!? これもアンチスパイラルとの戦いで見た幻の中なのか!?)
或いはあの時聞こえてきたサクリファイが何かしたのか、──いや、恐らくは違う。最後に耳にしたあの女の口振りからして、どうやらあの時の時空振動は奴にとっても予想外の出来事の様だ。
なら一体誰が、荒くなる呼吸を無理矢理整えながらやって来たのは見覚えのあるアパート。そう、そこは以前あの世界に訪れる前までシュウジが住んでいた────自宅だった。
「ハハハ、マジかよ」
引き攣った笑みを浮かべ、階段を昇る。カンカンと音を立ててシュウジは通路の一番奥にある部屋へ目指す。205と掛かれた札の掛かった部屋、それがシュウジの住まいだ。
ドアノブに手を伸ばす。心臓が早く鳴り、五月蝿いほどに脈動している。開けるなと、開けてはならないと本能は訴えるが、それに反してシュウジの手はドアノブに伸び、そのドアを開いた。
───鍵は、掛けてはいなかった。アパートの住人達も皆顔の知れた気の良い人達だからと心配はないと口答えをすれば幼馴染みのあの娘に怒られた記憶が甦ってくる。
キィィィと小さく音が鳴り、シュウジは一歩前に出て部屋へと入る。懐かしい部屋だ。台所に置かれた用品も、トイレに張ったアイドルのポスターも、部屋に置かれたゲームやアニメグッズも全てがシュウジの記憶通りに置かれている。
そして────。
「うそ………だろ? なんだよ、コレ」
寝室、ベッドの上で眠っている
何の冗談だコレは? アンチスパイラルが見せた可能性の迷宮で見た幻覚もここまで酷くはなかったぞ? まるで深い谷底に落ちていくかのような感覚、いっそ敵が見せた幻だと知った方が余程心が楽になる。
しかし、現実は変わらない。何故ならこの日この時間、自分はバイト前の仮眠と称してこの部屋で眠っていたのだから。
なら、だとしたら、ここはこの世界は────自分が元いた世界だというのか?
「俺は………帰ってきたのか」
『────その通りです』
「っ!?」
返って来るとは思わなかった自身の呟き、自分以外の誰かがこの部屋に来ているのかと辺りを見渡すが、周囲には誰もいなかった。
では一体誰が………いや、いる。この頭に直接語り掛けてくる聞き慣れた声の主、時獄戦役以来滅多に聞くことのなかったシュウジにとって最も心強い味方である筈の男。
『あの時、貴方とグランゾンは“理の壁”を越え、この世界へとやって来ました。ここは正真正銘、貴方が元いた世界ですよ』
愕然となった。頭では察していながらも頑なに認めようとしなかった現実がよりにも寄ってシュウジ本人が一番信頼している人物から突き付けられた。
帰ってこれた。念願だった、念願だった筈の故郷に帰れた事に。嬉しい筈だ。嬉しい筈なのに何故自分は今、こんなにも気持ちが沈んでしまっているのか。
『───今こそ語りましょう。シュウジ=シラカワ、嘗て白河修司だった者よ。君には真実を知る権利がある』
力なく項垂れるシュウジに最早拒否するだけの気力は残されていない。そんな彼に構うことなくシュウ=シラカワは語る。シラカワの系譜とグランゾン、その起源を。
全ては第二次世界大戦、その末期まで遡る。
次回、起源。
明かされるのは絶望か、希望か。
「どーしたのよバカシュウジ」
「君は……」
廻り廻って、巡り巡って
遂に二人は
それでは次回もまた見てボッチノシ