『G』の日記   作:アゴン

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今回の亜種平行世界、ストーリーの濃さに圧倒。
男女問わず皆ヤバカッコいいとか惚れるわぁ。


その167

 

 

サイデリアルから翠の地球が解放されたという吉報は翠の地球に住む全人類に瞬く間に知れ渡り、これまで長く苦しい戦いを強いれられてきたレジスタンスの人々は一時の勝利の美酒に酔いしれた。

 

サイデリアルという未知の敵によって故郷を、人を奪われてきた翠の地球の人々、彼の者達によって付けられた傷は深く、簡単に癒えたりはしないだろう。

 

その憎しみは簡単には消えず、失ったモノの大きさは決して小さくはない。しかしこれで一つの区切りは付いた。残すサイデリアルの主戦力は蒼の地球にある新地球皇国のみ、彼等に対する怒りはその時が来るまでとっておく事にしよう。

 

翠の地球の人々がサイデリアルからの解放に喜んでいる一方、その最大の功労者であるZ-BLUEは重苦しい空気に包まれていた。

 

プトレマイオスⅡ、ソレスタルビーイングの移動拠点でGNドライヴ搭載型のガンダムを保有する私設武装組織、Z-BLUEの主力の一端を担うかの戦艦のブリーフィングルーム、所謂作戦会議室にて、その重苦しい空気は最も色濃く充満していた。

 

「───と、以上で私の持ち得る情報はこれで最後です。何かご質問があれば受け付けますよ?」

 

口を開くのも億劫になりそうな重苦しい空気の中で、明るい口調の男の声が部屋に広がっていく。蒼のカリスマ、彼がいる事でその場の空気が重くなっているというのに、当の本人は全くその自覚はなかった。

 

倒した筈────否、死んだと思われていた魔人が生存しており、尚且つ自分達の前で堂々と佇んでいる。唯でさえその事実で色々混乱しているというのに、こうも平然とされては警戒している自分達が間抜けではないかと、ネェル・アーガマの艦長オットーは口には出さず内心愚痴る。

 

だが、そんな風に思っているのはオットーだけではないらしく、各艦の艦長達も彼と同じ様な反応を示していた。あのブライト艦長やジェフリー艦長すら溜め息を溢したり瞑目しながら、魔人から得た情報を必死にまとめようとしている。

 

明らかに疲労しているであろう反応をする其々の艦長達、色々言いたい事はあるだろうが、今は蒼のカリスマから得られた情報を整理するだけで精一杯だ。

 

「流石に情報が多かったと思うので、簡単ではありますが此方の端末に纏めて置きました。参考になってくれれば幸いです」

 

「……あぁ、これはどうも」

 

疲れた声色で蒼のカリスマから端末を受け取るスメラギ。彼女が受け取るのを確認すると、彼は踵を返し、部屋の出入り口に向けて歩を進める。

 

「では、私はこれで失礼します」

 

「ちょっと待ってくれるかしら」

 

「ん?」

 

「今の話で、大体の事情は理解しました。あのアドヴェントやサクヤなる者の存在、時獄戦役で何故貴方が我々に敵対したのか、そしてそうせざるを得なかった理由も……」

 

「…………」

 

「でも、だからこそ敢えて質問させて欲しい。今後貴方は私達と一緒に戦ってくれるの?」

 

スメラギのその問いは、Z-BLUEの誰もが気にしていた質問だった。蒼のカリスマ───シュウジ=シラカワは時獄戦役から自分に何が起きたのか、何故Z-BLUEと戦う事になったのか、その理由と真実を答えた。

 

誰もが納得した。誰もが理解し、共感した。親しい人達を人質に取られ、従う事しか出来なかったシュウジの悔しさと怒り、それを思えば先のアドヴェントへの強行も納得が出来るというモノ。

 

訊ねたいことは多々ある。宇宙の大崩壊、それを防ぐ為のスフィアの使い方、そして真化へ至るには一体どうすればいいのか。

 

しかし、そんな事よりも確かめたい事があった。果たしてこの男は自分達と肩を並べて戦ってくれるのかと、地球や宇宙の為…………人類の為に戦ってくれるのかと。

 

返ってきたのは、クククという不敵に溢れる笑み。

 

「そうですね。取り敢えず私達の目的は今の所共通しています。サイデリアルの手から二つの地球を完全に解放する事、それが叶うまで貴方達に協力する事を約束しましょう」

 

それだけ言って部屋を後にするシュウジ、仮面を被り、その表情は読めなかったが共闘する確約は出来た。他にも聞きたい事があったが、今はこれで充分過ぎるだろう。

 

モニター越しに映る各艦長達の表情にも喜びの色が見て取れる。これで残る当面の問題はただ一つ。

 

と、その前に───。

 

「あ、あのー……、それで私は…………どうすればいいんですかね? いっそのこと独房にでも入れてくれれば有り難いのですが」

 

おずおずと手を挙げる元サイデリアルの幹部部下、ギルター=ベローネ。彼の処遇に付いて再び艦長達は頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プトレマイオスⅡにある居住区の一室、Z-BLUEと合流する際に一先ずの宿代わりに提供されたシュウジ=シラカワのプライベートルーム。監視、軟禁の用意は無く、当然のごとく用意されたシュウジの完全なる私的空間。

 

事情を説明したとは言え、自分の為に貴重な一室を提供してくれるZ-BLUEにシュウジは心からの感謝の気持ちを抱いた。このお礼は必ず返そう、人の優しさに感激しながら部屋へと入ると…………。

 

「遅かったな」

 

当然のごとくベッドを占領している緑の魔女が、ユルフワ系のキャラの抱き枕を抱えて待ち構えていた。

 

「…………何でいるのん?」

 

「決まっている、契約の話だ。散々お前に振り回されたんだ。いい加減此方の約束も守って欲しいものだ」

 

シュウジの問いにしれっと即答のC.C.、いきなりな訪問と急な話に戸惑うが、言われてみれば確かに今日まで、シュウジはC.C.をこれでもかと振り回してきた。仲間であるZ-BLUEの皆に疑いの眼差しを受けながら戦い続ける日々、C.C.自身は然程気にしている様子はないが、仲間を騙す様な毎日はきっと気楽な時間では無かった筈だ。

 

その事を考えれば彼女の約束を守ってやるのも当然の義務と言える。C.C.の尊大な言い方に思うところは有るにはあるが、今はそれを甘んじて受けるべきだろう。仮面を外し、コートを備え付けの衣装掛けに吊るし、ワームホールを開くと徐に袖を捲り、腕をワームホールへ突き入れた。

 

「ちょっと待ってて、今材料を取り出すから…………」

 

これまでの長い放浪生活でピザの材料程度は揃えられている。時獄戦役を経て、グランゾンを復活させた以降も食料の確保に余念は無く、レジスタンスに協力しては彼等の備蓄を少しずつ分けて貰っていた。

 

あの日、C.C.と交わした約束。今日までその事を守ってくれていた彼女にも感謝しなければならない。だったら、約束のピザ位喜んでご馳走してやるというもの。

 

「あ、ピザを作るんだったら石窯が必要だな。プトレマイオスⅡに石窯ってあったっけ?」

 

「なぁ」

 

「ん?」

 

「お前は様子を見に行かなくてもいいのか? ヒビキ=カミシロはお前の弟分なんだろ?」

 

唐突のC.C.の質問にシュウジの手は止まる。そう、あの戦場から回収されたジェニオン・ガイのパイロットであるヒビキの意識は未だに戻ってはいない。

 

肉体的に問題があるわけではない。現にヒビキの体は健康優良児そのもので、命の危機にある状況の窮地には陥ってはいない。

 

肉体に問題が無いのだとすれば、残った可能性は唯一つ、精神…………即ち心の問題だ。そしてZ-BLUEにはヒビキが今のような状況に陥った理由に察しが付いている。彼の扱うスフィアは“いがみ合う双子”、その力を最も強く引き出す方法は人の希望と絶望、その狭間で揺れ動く人間の心だ。

 

今のヒビキはその反作用で意識を絶望に沈められている状態だ。戦うに連れて大きくなる希望、それに比例して肥大化する絶望、その二つに挟まれたヒビキの心はアドヴェントとの一件で遂に限界を迎えてしまった。

 

一度絶望に沈んだ人間が這い上がるのには生半可な力では不可能だ。それもスフィアの影響でより大きくなった絶望に呑み込まれたのであれば、ヒビキが今後目を覚ます可能性は限り無くゼロに近い。

 

今頃は彼の友人達がヒビキの身を案じて見舞いに向かっている事だろうし、何か対策を講じているのかもしれない。だが、今回のヒビキの状態は余り単純な話ではなさそうだ。

 

では、ヒビキはこのまま目を覚まさないのか? C.C.がZ-BLUEの誰もが気にしていた事を敢えて口にしようと────。

 

「いえ、彼は必ず戻って来ますよ」

 

───する前にシュウジはC.C.の言葉を遮り、力強く断言する。そんな事は有り得ないと、必ず彼は立ち上がると、理由や根拠を口にせず、ただ事実だけをシュウジは口にした。

 

何故そう断言できる。C.C.は自信満々に言い切るシュウジを呆れながらも疑うことはしなかった。この男がそう言うのならそうなのだろう。根拠の無い自信、しかしそこには言葉に出来ない確信があった。

 

なら、敢えて質問するのも野暮だろう。シュウジの断言に一先ず納得する事にしたC.C.はそれ以上ヒビキに関する問いを投げることは無かった。

 

「あれー? おっかしいなぁ、確かここら辺にチーズを置いておいた筈なんだけどなぁー」

 

そう言いながらワームホールからポイポイと色んなモノを取り出していくシュウジ、一体何処にこれだけの量の代物を隠し持っていたのか。

 

(まさか、これ全部グランゾンの中に仕舞ってたんじゃないだろうな?)

 

缶詰めだったり枕だったり、他にもタッパーに詰め込んだ料理の余り物など、様々な代物が部屋に広がっていく。これら全部がグランゾンのコックピットに仕舞われていたのか、勿論そんな事は無くこれら全ては人のいない重力空間に置いていたもの。しかしもしこれらがあのグランゾンの中に置かれていたものだと思うと…………中々シュールに思える。

 

そんな時、カランと音を立てて落ちる一枚のプラカード、何だと思いC.C.がそれを手にして見ると、そこにはデカデカと《ドッキリ》という文字が描かれていた。

 

「おいシュウジ、これはなんだ? ドッキリと書かれているが?」

 

「へ?」

 

C.C.に言われ振り返ると、彼女の手に持ったプラカードを見てシュウジの表情は一変する。それは一時の気の迷いから良く分からないノリでつい作ってしまったドッキリ専用のプラカード。

 

“実はドッキリでしたー(笑)みたいな勢いで誤魔化せばみんな許してもらえるんじゃないか作戦”剰りにもあんまりな作戦の内容の為、決して日の目に当たることは無かったシュウジ渾身の失敗作。

 

そもそも、死んだ筈の人間が実はドッキリでしたーなんてノリで返ってきたらフルボッコ案件不可避である。そんなモノが通用するノリのいい人はZ-BLUEにはいない。それは以前相良宗介と出会した時に嫌という程味わっている。

 

そんなモノが目の前の魔女に渡ってしまっている。もし万が一このプラカードの存在がZ-BLUEに知れ渡ったりすれば、その日の内に自分は居場所を失う事になるだろう。

 

冷たい視線、まるで養豚場の豚を見るような目で此方を見てくるルルーシュ、スザク、バナージ、カミーユ、そしてヒビキ達。ヤバいなんてモノじゃない、そうなってしまえば自分はマジでモノホンのボッチになってしまう。

 

「あ、あーそれ? おかしいなぁなんでそんなものを拾ってるんだろ? 寝惚けてたのかな? アハハ」

 

あくまで知らぬ存ぜぬを貫き、自分は関わりありませんというアピールをしながらC.C.に近付く。早いところ此れを回収し、後日人気の無いところで処分しなければと思い、C.C.の持つプラカードに手を伸ばす。

 

が、その手はプラカードを掴む事無く空を切る。あれ?と疑問に思いC.C.を見ると────ニタァァッと、そんな擬音が聞こえてきそうな程の、凄まじく良い笑顔を浮かべていた。

 

「おやおやどうした? 蒼のカリスマともあろう者が、笑顔が引き吊っているぞ?」

 

(こ、この魔女ォォッ!!)

 

気付いていやがる。このドッキリと書かれたプラカードを見て、その経緯と理由をこの魔女は一瞬で見抜いていた。これがお婆ちゃんの知恵袋の成せる技か、なんて傍迷惑な!

 

しかしそんな事を考えても最早手遅れ、このままではこの魔女に弱みを握られ、ボロ雑巾の如く使い潰されるか、或いはこのプラカードをZ-BLUEの面々に差し出され自分は養豚場の豚となってしまうだろう。

 

「ふふふ、さぁて折角お前の弱みを握れたんだ。このプラカード、どうしてくれようかなぁ?」

 

「い、い…………」

 

「ん?」

 

「嫌だー!」

 

「のぅわ!?」

 

そんな未来は絶対に回避せねばならない。ならばここは力付くでも奪還をせねばならないだろう。力加減は強く、それでいて怪我を負わせないように飛び掛かったシュウジは避けるべき未来の為にC.C.へ襲い掛かる。

 

まさかこんな短絡的な行動に映るとは思っても見なかったC.C.も動揺しながら抵抗する。ドッタンバッタン大騒ぎをする二人、幸いここの部屋は防音も完備されている。多少騒いでも問題はなかった。

 

しかし───。

 

「シュウジ、いきなり入ってごめんなさい。どうしても貴方と一度話をしたかったの」

 

シュンというスライド音と共に部屋へと押し入る紅月カレンとヨーコ=リットナー、両人共に特徴的な朱色の髪をした彼女達は、それぞれシュウジとある意味綿密な関わりを持っていた。

 

これまでシュウジと敵対し、死なせた事を後ろめたく思っていた二人、どうして何も言ってくれなかったのか、どうして頼ってくれないのか、一人で何でも出来るだけに誰かを頼ろうとしないシュウジに、二人は複雑な想いを抱いていた。

 

しかし、今回明かされたシュウジの時獄戦役での出来事を聞いて、彼女達はシュウジにどう問い詰めるべきか分からなかった。頼りたくても頼れない状況、呪いを施され、助けを求めるサインすら出すことを許されず、ただ孤独でいることを強要される。その辛さと苦しさを共感できる術を持たない自分達では、済まなかったとモニター越しで頭を下げる彼に何も言えなくなってしまった。

 

だからせめて話を聞くだけでもと思い、ここまで重い足を引き摺りながらやって来た。幸い、そう思っていたのが自分だけではなかったのが互いに唯一の救いだった。

 

これからは私達が彼の助けになろう。そんな気持ちでいざ扉を開けて部屋へと入ると。

 

「「あっ」」

 

緑の魔女をベッドの上で押し倒す蒼の魔人(笑)の姿があった。カラカラと朱の二人の足下に転がる物体、それがドッキリと書かれたプラカードだと分かると………。

 

「ふ、フフフ…………」

 

「あは、アハハ……」

 

「ヒイッ!?」

 

何処からともなく電磁ライフルを取り出し、拳をバキバキと鳴らす二人に、シュウジは変な声が漏れた。

 

「よっと、それじゃあ私はこれで失礼させてもらうよ。ではなシュウジ、ピザの件楽しみにしているぞ」

 

「この状況で!? 嘘でしょ!?」

 

ではなと、手を挙げて部屋を後にするC.C.。残されたシュウジは部屋の隅に追いやられ、迫り来る朱の修羅に恐怖で震え上がる。

 

「ま、待って! せめて、せめて話だけでも聞いて!」

 

定番な命乞い、言ったところで無駄だと分かっていながらもそうせざるを得ないのは、悪人善人問わないらしい。

 

けれど少しは効果が合ったのか、二人の歩みは止まる。まさか通用するとは思わなかったのかどう説明すればいいのか分からないシュウジは…………。

 

「て、て、て───」

 

「「…………」」

 

「テヘペロ♪」

 

取り敢えず可愛さをアピールしてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アビャー」




C.C.「いつまでも、あると思うな、ヒロインの座」


それでは次回もまた見てボッチノシ

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