『G』の日記   作:アゴン

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その164

 

 

 

 

 

翠の地球を支配するサイデリアルの基地拠点、以前までかの侵略者達が跋扈していた時より少し流れ、現在この星ではサイデリアルの手から解放される為に最後の戦いが幕を開けようとしていた。

 

バルビエルの魔の手に囚われたセツコと、サイデリアルの支配から翠の地球を解放する為、Z-BLUEは翠の地球におけるサイデリアル最後の拠点施設へと赴いた。

 

作戦領域に入ると同時に行われた今回の作戦は、早さを重点に置いた電撃作戦。その概要も外の部隊が基地内部の戦力を引き出し、手薄になった所を潜入部隊が強襲を仕掛けて囚われのセツコを救出するという、至って単純な内容だ。

 

作戦は上手くいった。途中サイデリアルの幹部補佐であるサルディアスが仕掛けた狡猾な罠によって何度も足止めを受ける事になったが、それらを突破して尚彼等の勢いの落ちる事はなく、Z-BLUEは翠の地球に残されたサイデリアルの戦力を撃破していった。

 

このまま順調に行けばサイデリアルから翠の地球は奪還される。地球側が漸く掴んだサイデリアルに対しての明確な反抗作戦、その第一段階が結実のモノになる。

 

そこへ現れるバルビエル。セツコを渡しはしないと、愛憎渦巻く怨嗟の魔蠍の力をフル活用しながら迫るバルビエルとその愛機アン・アーレスはZ-BLUEに戦いを挑む。

 

サイデリアルの幹部であるバルビエルの介入、これにより戦場はより激しさを増し、戦いは更なる局面へと向かおうとしていた。

 

そんな時だ。潜入部隊からのセツコ救出成功の合図もなく、サイデリアルの基地から彼女の愛機であるバルゴラが飛び出してくる。

 

怨嗟の魔蠍のスフィアリアクターであるバルビエルに近付いた事で、間接的にスフィアの深淵に触れたセツコは、自らのスフィアである悲しみの乙女の力を最大限に引き出す事に成功、彼女の助力もあってバルビエルを追い詰め、遂に翠の地球からサイデリアルを追い出すまであと少しにまで迫った所に───。

 

そいつは現れた。

 

『やぁヒビキ。助けに来たよ』

 

『アドヴェント!? それにソイツは……』

 

『アサキム!』

 

白の機体に乗る自らをクロノの穏健派の一員と名乗っていたZ-BLUEの協力者、アドヴェント。そしてその傍らに立つのは自分達とこれ迄と幾度となく争ってきた黒衣の死神、アサキム=ドーウィンがこの戦場に降り立った。

 

混沌とする戦場、状況から己の不利を悟ったバルビエルは残された僅かな戦力と共に戦場から離脱。奇しくも翠の地球はサイデリアルから解放され、オペレーション・エクリプスは完遂された。

 

しかし、当然な事ながら事態はそれだけでは収まらない。予期せぬ乱入者達と相対する事となったZ-BLUEは、日頃から疑問に思っていた事を質問する。

 

何故と、どうしてと、ただ疑問に思ったことを口にした瞬間…………反って来たのは無情な攻撃だった。ただ質問しただけ、自分達を味方だと言い切った男から返されたのは、笑顔のまま繰り出される弾幕の雨。

 

いきなりの攻撃に戸惑うZ-BLUE、停戦を呼び掛けても全く応える様子のないアドヴェント達にZ-BLUEは否応なく応戦する事になる。翠の地球が解放された直後に行われる連戦、厳しい状況の中それでもZ-BLUEはクロノの精鋭と互角以上に渡り合い、ランド、クロウ、セツコ達三人がスフィアリアクターとして覚醒した事により、厄介だったアサキムも打ち払う事に成功した。

 

そして、アドヴェントもZ-BLUEに敗れ敗北。搭乗していた機体は爆散し、彼も愛機と共に運命を共にした。

 

と、────思われた。

 

『成る程、確かに君達は強くなった。初めて会った時とは比べ物にならない程に……』

 

『な、なに!?』

 

『あの爆発の中で…………生きてる!?』

 

『しかし、それでも私には勝てない』

 

爆発の中から浮かび上がるように現れるアドヴェントにZ-BLUEの誰もが絶句する。対して、爆発の中でも生きているアドヴェントに、ヒビキは己の中で酷く何かがざわめいているのを感じた。

 

『あ、アドヴェント…………』

 

『フフ』

 

『あ、アァァァァッ!!』

 

『アハハハ!』

 

嗤う。人の形をしたナニかは悶え、混乱し、苦しむヒビキを前にその顔を満面の笑みを浮かべていた。嬉しさと愉しさ、自分の影響で苦しんでいるヒビキを見て、アドヴェントはこの時、確かに愉しんでいた。

 

繰り出されるジェニオン・ガイの攻撃、加減も容赦もなく放たれた一撃は、確かに生身である筈のアドヴェントを捉えた。

 

しかし、その体に幾分の傷もなく、悠然と立ち尽くすその姿にヒビキは言葉を失う。

 

『さて、お遊びもここまでにしよう。既に運命は動き出しているのだからね』

 

掲げられるアドヴェントの右手、瞬間空は割れ、大地は砕かれ、ジェニオン・ガイは光に包まれた。爆発と轟音が轟き、全てが収まる頃にはジェニオン・ガイは完全に機能停止。ヒビキとその相棒はアドヴェントの一撃によって撃墜されてしまった。

 

『嘘だろ。ジェニオン・ガイを…………一撃で!?』

 

『アドヴェント、あの男はやはり……』

 

『人間じゃ、ない!』

 

動揺するZ-BLUE、怯み、動揺する彼等を笑みで一瞥するアドヴェントはそのまま倒れ伏すジェニオン・ガイに近付き、ヒビキに真実を告げる。

 

『アド……ヴェント』

 

『それなりの付き合いだ。ヒビキ、最後に君に真実を与えよう。君の疑問に答えなかった事、君の要望を聞かなかった事、それは………』

 

“君が、私の所有物(モノ)だからだよ”

 

『な……』

 

その言葉に、ただその一言にヒビキは己の足下が崩れていくのを感じた。この感覚は覚えがある。そうだ、これはあの時自分と兄貴分が敵対した時と───。

 

『君の事は全て知っている。母親の事も、父親と姉の事も……そして、君が兄貴分として慕っていた彼の事も』

 

『っ!』

 

『彼──シュウジ=シラカワは確かに優れた人間だ。伊達にあの男の因子を受け継いではいなかった。一を聞くことで十を知り、十を学ぶ事で百を己の糧にしている。正に人間の理想系、あれこそが正しく人間の先を行く生命の在り方なのだろう。だが、それ故に彼は私には勝てなかった』

 

彼の者は人間として当たり前に在りすぎた。絶大な力を有しておきながら他者を捨てきれず、己の足枷にしている。だから容易く此方の意図に絡まれ、身動きが取れなくなってしまう。

 

『滑稽だよ。彼は力をもて余しておきながらその責務を果たしていない。あれが私達と同じ高みに至れるというのだから、世の中は何が起こるか分からない』

 

そう吐き捨てるアドヴェントの目には確かな侮蔑の色が滲んでいた。それを目の当たりにしたヒビキは折れそうになった心を怒りの炎で灯し…………。

 

『だ、まれぇ!』

 

『うん?』

 

『お前が、あの人を、シュウジさんを……語るなぁぁっ!!』

 

アドヴェントの一撃を受け、それでも尚立ち向かう意思を持つヒビキは、ジェニオン・ガイを無理矢理に動かした。

 

何の捻りもないただの振りかぶりの一撃、つまらないモノを見るようにアドヴェントは軽々と避け───。

 

『残念だよ。ヒビキ』

 

その手を再びジェニオン・ガイに翳した。またあの一撃が来るのか、身構えるヒビキだが───。

 

『っ!?』

 

『今、君の心に張っていた精神的バリアを解除した。これにより君の心はよりダイレクトに私を感じ取れるだろう』

 

『あ、あぁ………』

 

心が固まる。魂が凍える。目の前にいる超常の怪物に、ヒビキの己の内に眠る根元的恐怖が膨れ上がった。

 

『あぁ……あぁぁぁぁっ!!!』

 

『ヒビキ!?』

 

『その眼、それに両目が!?』

 

『まさかアドヴェント、お前は!』

 

『そう。私がヒビキが追い続け、そして怯え続けてきた存在、彼の言葉で言うのなら……』

 

“テンシだ”

 

『ウァァァァァッ!!?』

 

心が割れる。魂が砕ける。自身の内に刻まれた恐怖と絶望、その二つに心と魂が折れようとしていた。

 

発狂し、叫び、人格が崩壊する痛みを受けるヒビキを前に、アドヴェントはその瞳を慈しむように見つめ、目を細める。

 

奴を前にZ-BLUEの誰もが動けなかった。圧倒的存在、銀河の中心で遭遇したあの黒いアンゲロイ達の時と同じだ。絶対的恐怖と絶望を前にしたZ-BLUEは、苦しむヒビキをただ見ている事しか出来なかった。

 

そんな時だった。銃声が轟き、アドヴェントの頬を掠めていく。誰もが予期せぬ出来事にアドヴェントを含めた全員が驚愕に目を見開いた。

 

一体誰が? 不機嫌になったアドヴェントが眉を寄せながら振り返り、銃声があった方角へ目を向けると……。

 

『…………なんだと?』

 

まず、その人物にアドヴェントは驚いた。何故なら彼の記憶には欠片たりとも覚えがない者だったからだ。

 

「ひ、ひひ………」

 

銃を手にカタカタと震える男、男の名はギルター=ベローネ。サイデリアルの恥将として知られていた男が、アドヴェントに向けて銃口を突き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルター=ベローネは後悔した。後悔し続けて、一体自分が何に後悔していたのか分からない位に後悔した。

 

事の始まりは数時間前、Z-BLUEの一員であるセツコ=オハラの救出に向かうという蒼のカリスマ───もとい、シュウジ=シラカワの提案から始まった。

 

翠の地球に点在するサイデリアルの拠点、その悉くを単独で制圧し、最近になって生身で空を飛び始めた規格外の化け物にギルターはもう抵抗する意識すら消え失せ、彼の話す作戦の内容にただ耳を傾けた。

 

作戦の内容はシンプルなモノで、彼が基地に潜入している間、自分は外で待機し見張りをするという、相変わらず作戦とは呼べない作戦内容だった。これ迄と殆ど変わらない作戦、なのにシュウジ=シラカワという男は自分に対し、ある種の絶対的信頼を置いている。

 

その事に酷い重圧を覚えるギルターだが、今回の作戦は少しばかり興味があった。何せ相手をするのは嘗て自分の上司であったバルビエル、自分を嗤い、見下してきた奴だというのだ。

 

ザマァミロ、ほぼ確定した元上司の辿るであろう悲惨な未来を前に、ギルターは僅かばかり胸の奥のトゲが抜け落ちるのを感じた。

 

そんなこんなで始まる作戦、Z-BLUEが訪れる数分前に基地へ突入した蒼のカリスマを見送ったギルターは、外の見張りをしながら久し振りに落ち着いた様子でいられた。

 

今頃バルビエルはあの化け物によって良い様にボコボコにされているのだろうなぁ。そんな事を考えていたのだが、数分後、ギルターはZ-BLUEとサイデリアル、並びにクロノの戦いに巻き込まれる事になる。

 

一体自分が何をしたのか。過激さを増していく戦場の中でギルターは声にならない叫びを上げながら必死に逃げ続けた。剰りにも必死になりすぎてシュウジに助けを求める余裕すらなかったギルターだったが、遂に戦闘終了の時まで生き延びることに成功する。

 

生命の危機、理不尽な状況とそこから生還したギルターは途端に不愉快さで一杯になった。何故自分がこんな目に合わなければならないのかと、恐怖と混乱と苛立ちでパニック症状に陥ったギルターは護身用に預けられた銃を取り出し、その引き金を引いた。

 

別に当てるつもりは無かった。自分をこんな目に合わせた理不尽な状況に仕返しがしたかったのと少しばかりストレスを発散したいだけだった。

 

────気が付けば、今の自分は混沌とする戦場のど真ん中にいて、且つこの場にいる全員の視線に晒されていた。

 

(え? なに? なんで皆私を見てるの?)

 

圧倒的やっちまった感、Z-BLUEや見知らぬ誰かから降り注がれる視線に、ギルターは遅くも自らがトンでもない事を仕出かしてしまった事を自覚する。

 

『君は……何かな?』

 

(ヒィッ!?)

 

目の前のイケメンから発せられる尋常ならざる雰囲気にギルターは心臓が跳び跳ねる思いをした。瞬間悟る。あ、これ終わった。

 

ガタガタと震えるギルター。涙を、鼻水を垂れ流す彼に、アドヴェントは有象無象の一つかと思い込む。このままここに捨て置いても別に構わない、が。ふとした瞬間、アドヴェントは目の前の無様な男が誰なのか思い出した。

 

『思い出した。確か君はギルター=ベローネ。サイデリアルの幹部、バルビエルの部下の一人だったね』

 

(っ!?)

 

目の前の怪物が自分の名前を知っている。その事実にギルターは己の心臓が鷲掴みされる錯覚を覚えた。

 

『彼のお抱えの補佐官がどうしてここに? もしかして置いていかれたのかな? だとしたら気の毒だ。あぁ、とても気の毒だ』

 

全身が震える。息が出来ない。人とは思えない化け物を前に、ギルターは掠れた呼吸しか出来ずにいる。

 

『そんな君に私は手を差し伸べよう。君さえよければ私が君の拠り所になろう。どうかな?』

 

「───ふぇ?」

 

途端にギルターには目の前の青年が、よく分からない化け物から自分を救い上げる神のごとき存在に思えるようになった。これまで幾度となく酷い目に合ってきたギルター。それは恥辱にまみれ、後悔と挫折に満ちていた。

 

『約束しよう。君の未来は私が守ると』

 

そんなこれ迄の人生が目の前の青年の一言によって救われた気がした。この手を取れば自分は救われる。根拠もないのに何故かそう思えて仕方がない。

 

対してアドヴェントは目の前のギルターを全く見えてはいなかった。精々捨ての駒を拾い上げる程度の認識、時が来れば自分を慕う連中と同様、使い潰す算段しか持ち合わせていない。

 

「ほ、本当に私を、このギルターを貴方の側に置かせてくれるのですか?」

 

『勿論だとも。共に世界の未来を切り開こう』

 

テンシと呼ばれるアドヴェントは通常の人間とは一線を画す存在、その言葉から人を巧みに操り、何度も己に心酔する傀儡を生み出し続けていた。

 

このギルター=ベローネもその一人、自分に従い、自分に仕える事を至上の喜びと認識させるなど造作もない事、最早ここには用はない。後はここから立ち去り、来るべき時を待つだけだ。

 

『君の力、どうかこの私に貸してくれないか?』

 

さぁ、早くこの手を取れ。俯くギルターにアドヴェントが最後の煽りを口にしようと────

 

 

 

 

「だが断る」

 

 

 

 

 

『────なに?』

 

瞬間、ギルターから発せられるその一言に、アドヴェントは嘗てない衝撃を受けた。

 

何故自分の言葉に従わない。これ迄とは違う対応のギルターにアドヴェントは動揺を隠せなかった。

 

アドヴェントは考えていなかった。ギルター=ベローネという男の姑息さを、顕示欲と自己保身に長けた男のずる賢い計算の高さを。

 

ギルター=ベローネは姑息だ。小心者で狡く、正に俗物の中の俗物。これ迄の幾度となく理不尽な目に合っても、その性根は改善される事はない。

 

故に気付いてしまった。もしこの男に付いていけば、遠からずあの男とぶつかる事になる、と。

 

そう、蒼のカリスマと恐れられる常識外れの怪物と、いつかは正面から戦う羽目になる、と。

 

正体不明の謎のイケメンと正体なんて分かりたくもない怪物、答えなんて最初から出ていたのだ。

 

幾分か気分が晴れた。自分を絶対の存在と疑わない存在を前に見事一本とって見せた。これまでの余裕の表情から不愉快に表情を歪ませるアドヴェントを目の当たりにして、ギルターは何だか晴れやかな気分になった。

 

『…………そうか、残念だよ』

 

そう言って右手を振り翳すアドヴェント、極大のエネルギーが暴れまわり、周囲一帯ごとギルターを消し飛ばそうとした───その時だ。

 

突如、基地の一部から爆発が轟き、そこから一つの人影が飛び出してくる。何事かと視線を向けるアドヴェントが目にしたのは、ここにはいない筈の嘗ての同志の姿があった。

 

『君は、サクリファイ!? 何故ここに?』

 

ボロボロの姿で地面に倒れ伏すサクリファイと呼ばれる女性にアドヴェントが驚愕に目を剥いた瞬間、ゾクリと全身を突き刺すような悪寒が彼を襲った。

 

何だ、この感覚は。理解できない感覚………いや、何処かで覚えのあるその感覚にアドヴェントが戸惑っていると。

 

「────どうやら、こっちの方も間一髪だったみたいだな」

 

『っ!?』

 

知っている。その声を自分は知っている。

 

崩落した壁から這い出るその人物にアドヴェントは動揺を隠せなかった。

 

生きていたのは知っている。小賢しくも自分の手から死ぬことで抜け出し、浅ましくも逃げ延びたことは知っている。

 

愚かしくも哀れな魔人、それがついこの間までのアドヴェントが抱く魔人の感想だった。

 

────だが。

 

「ヒビキ君、辛かったな。ギルター、いつも面倒ごとを押し付けて悪かった。だけど、もう大丈夫だ。────何故ならば」

 

目の前に佇む、あの怪物は───なんだ?

 

 

「私が来た」

 

 

 

───混迷する戦場に蒼の魔人が降り立った。

 

 




次回
アドヴェント「もしかして無駄無駄ですかァァーー!?」
ボッチ「YES!YES!YES!YES!YES!!」

それでは次回もまた見てボッチノシ

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