我が狙うは爆乳のみ、いくぞ
あ、メルトリリスさんもバッチこいです。
ただしガウェイン、テメーはダメだ。
『───何だと?』
そう言葉を漏らしたのは怒りに満ちた初老の男性、少女からドクトリンと呼ばれる男の疑問に満ちた声だった。
眼前に見える魔神、機体の所々に破損箇所が見られるが、それを補って余りある敵意が感じられている。何故、あの機体が動いている。困惑よりも先に未だ存在し続ける魔人に怒りを覚えたドクトリンは、己が司る感情のままに周囲のアシュタンガに命令を下す。
『───消せ』
最早あの男に掛ける言葉も時間もない。機体の状態から察するにどうやらあの機体は万全では無い様子。壊れかけの魔神になど目を向けるべき価値も無い、そう断じるドクトリンだが────。
両断され、爆散していくアシュタンガを前にその考えは覆される事になる。爆発するアシュタンガの奥から現れる日輪を背負う蒼い魔神、その手には禍々しくも強大な剣がその手に握り締められていた。
何故、抗う。ただ生きる為だけにここまで抗う魔神、その存在が、その有り様が、自分達に反抗するその姿勢が、自分達を否定するその在り方が何よりも許せず、度し難く、そして
『ふざけるな……たかがシンカの道に至れた程度で、我等の前に立つか、愚か、実に愚か。何という愚鈍! 貴様は最早存在そのものが罪としれい!』
『………………』
激怒、憤怒、憤慨、あらゆる怒りがドクトリンの内側から溢れ、それに呼応するかの様に黒い玉座の出力も上がっている。
『讃えよ! 我等が真徒達よ! 汝等の祈りで眼前の魔神に聖なる鉄鎚を下せ!』
“オォォォォォ…………!!”
ドクトリンが両手を挙げて掲げ、訴える。するとこの宇宙のありとあらゆる場所から声が聞こえてくる。それは天の遣いである彼等から必要とされる事への歓喜であり、その御遣いである敵に対する憤りであり、その愚かな敵に対する嘆きと哀れみが込められていた。
“サルース” そう一斉に口にする真徒達の大合唱は宇宙に響き渡り、その信仰とも呼べるエネルギーは黒い玉座へと一点に集束されていく。
『…………やっぱ、コイツらもあの野郎と同類か』
魔神の中にて忌々しそうに呟くシュウジは自身の中である確信を得る。コイツらはあの喜び野郎とその性質を同じとしている輩だ。此方を見ているようで見ておらず、対等に接しているようでそうではない。自分以外の生命を自分以下と断じる、あのいけすかない笑みを浮かべる男─────アドヴェントと。
決まりだ。奴もコイツ等も自分が始末しないと気が済まない連中だと、シュウジは決意する。耳障りな“サルース”の声に苛立ちを覚えながらもシュウジは手にした剣を携え、黒い玉座に向けて突貫する。
『学習能力の無い猿が!』
トールギスの時と同様、突っ込む事で此方の攻撃を邪魔しようとする魔神を、ドクトリンは怒りと侮蔑に満ちた声で蔑む。黒い玉座と魔神の間にある距離は広く、更にそこへアンゲロイと巨獣が間に入り、グランゾンへと押し寄せていく。
一振り、二振り、腕を振り、剣で薙ぎ払うごとに無数のアンゲロイが宇宙の塵へと消えていく。が、それ以上の数と暴力がグランゾンへ押し寄せる。軈て巨獣が一体、また一体とグランゾンに掴み掛り、周囲のアンゲロイ達を一掃する頃には、魔神はその力を以てしても身動き一つ取れない状態となっていた。
あぁ、無様。何という無様、これがあの男の因子を受け継ぐ男かと、無知、無恥、なんという醜悪さだ。
『所詮はこの程度か、…………さぁ、今度こそ消え失せろ! 醜く、そして愚かな下等生物よ!』
蓄積された膨大なエネルギー、放たれるその一撃は再び時空を震わせ、その宙域を蹂躙する。魔神の足止めに使われた巨獣達はグランゾンもろとも消滅、彼等の宇宙に静寂が現れた。
今度こそ、あの醜い魔神は葬られた。これでもう無駄なエネルギーを使わずに済む。周囲から再び聞こえてくる真徒達の喝采にドクトリンは漸く肩の力を抜き、溜め息を溢した。
『全く、サクリファイにも困ったモノだ。よもやあの様な存在までこのカオス・コスモスに呼び寄せようとは』
『まぁまぁ、始末したんだからそう目くじら立てないの。サクリファイだって、もしかしたら探す手間を省いてくれただけかもしれないじゃん』
『…………まぁいい、そういう事にしておいてやろう。テンプティ、貴様はこの後どうするつもりだ?』
『言ったじゃん。私はこの宇宙が終わるその時まで全力で楽しむだけだって。それが“楽しみのテンプティ”である私の役割なんだから』
ニカッと見た目相応の笑みを浮かべる少女にドクトリンは再び息を吐く。“怒り”である自分に対し、“楽しみ”を司る彼女はこの宇宙に存在する全てが自らが楽しむ為の材料でしかない。
如何なる喜劇も悲劇も惨劇も、彼女にとってその全てが楽しむ為であり、それだけが彼女の価値あるものと認識する判断素材でしかない。それは悪意か? と訊ねられても、彼女はそれを否定しないし肯定もしない。
何せ、彼女は“楽しみ”のテンプティ。それだけを是とし、それ以外に何の価値も見出だせない存在なのだから。
『じゃあ、最後の残り時間は自由に使わせて貰うね。ドクトリン』
『好きにするがいい』
もうじき全ての世界は消えてなくなる。その時が来るまで自分達で乗り越える準備を整えなくてはならない。何れは隔離し、封印している“哀しみ”と一万と二千年前に追放した
ドクトリンがテンプティに自由時間を与えるのはそのための最後の遊びであり、また喜びを司る彼を探索させるための手段でもあった。訪れる真の終末、それを乗り越えるには揃えるべき駒が幾つも必要になってくる。
『だが、
“ワームスマッシャー”
────刹那、無数の光の槍がドクトリンとテンプティの乗る黒い玉座に降り注がれ、周囲に展開していたアンゲロイ達を貫いていく。
突然の出来事に言葉を失う二人。それと同時に、今まで聞こえていた真徒達の“サルース”の声が聞こえなくなっている。
『な、にが────』
起こっている? そう口にするよりも早くドクトリンは頭上に佇むその存在に気が付く。馬鹿なと、目に見えて動揺し、驚愕するドクトリンの目に映るのは…………。
『成る程、奴と貴殿方の他にもまだ似たような輩がいるのですね。これは良い事を聞かせて頂きました。そのお返しと言っては何ですが────』
“あなた方には私達の力を思い知って頂くとしましょう”
闇に消えた筈の魔神が、燦々と輝きを放ちながらそこにいた。
『────貴様、何をした』
機体を通しての問い掛け、その言葉の中に並々ならぬ怒りが黒い玉座を通して感じられる。自分達を欺いた事、此方の情報を一方的に盗み聞きした事、そして───────消した筈の存在が今、現在進行形で自分達を見下ろしている事、その全てがドクトリンにとって許されざるモノだった。
超常たる存在であるドクトリンの怒り、それを受けて尚、シュウジは鼻で嗤った。
『態々此方の手を明かす必要ないのですが…………まぁ、いいでしょう。そこまで知りたいのならタネを明しましょう。──────遍在、と言えば分かりますか?』
『っ!』
遍在。その言葉を聞いて全て理解したドクトリンはその顔を憤怒に染め、奥歯をギシリと軋む程に噛み締める。
“遍在”とは遍く存在する事を意味しており、そこに法則性もなく、ありとあらゆる所に存在するという事。
つまり、今自分達が葬ったのは本当に存在した魔神であったが、同時に奴が生み出した偽物でもあった。
『尤も、その出来栄えはとても遍在と呼べる代物ではないのだけどね。どうも自分にはこの手の搦め手は苦手の様だ。博士が生み出す遍在は自身と遜色が全く無いと聞くし…………やれやれ、博士に近付くにはまだ色々と不足しているようだ。─────で?』
『──────』
『どんな気分だ? 下等生物と蔑み、見下していた相手に出し抜かれる気分は?』
罅の入った仮面の奥でニヤリと嗤う
『貴様、貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様─────キッサマァァァァァッ!!!』
『コイツ、生意気過ぎ!』
黒い玉座から溢れる怒り、隣のドクトリンに当てられたのか、テンプティと呼ばれる少女もその表情に笑みはなく、眼前に佇む魔神に明確な苛立ちと殺意を募らせる。
周囲に現れる無数のアンゲロイとアンチスパイラルの主力兵器達、中にはあの巨獣だけでなく、赤と青の二色に別れたキカ⚪ダー染みた巨人という見慣れない機体も現れている。
ここへ来て更なる未知の機体の出現、上下左右、縦横無尽に展開される敵の群れ、その真只中に居るグランゾン。窮地に次ぐ窮地、圧倒的戦力差を前にしかしシュウジはその口元に笑みを浮かべる。
『─────死ね』
ドクトリンの合図と共に放たれる光、星を、空間ごと薙ぎ払いながら迫り来る光の波。避けられる筈なのに、それでも動きを見せないグランゾン。
熱が星を溶かし、光が空間を抉る。迫り来る超級のエネルギーを前にシュウジは操縦桿から手を離し、自身の前にある機器を撫でた。
『────今まで、放っておいて悪かった、グランゾン。碌に整備も修理もしてやれなくて。でも、今日からまた一緒に戦える。暴れてやれる。相変わらず情けない主人で申し訳ないけど…………また、面倒見てくれるか?』
それは、これからまた一緒に戦える相棒への感謝と謝罪だった。今まで放っていた事への謝罪と、そして待っててくれた事に対する感謝、それらを受け入れたグランゾンは主に応える様にその双眼に輝きを放つ。
『んで、お前もやられっぱなしというのは性に合わないよな。───トールギス』
ワームホールから現れるのは、これ迄共に戦ってきた
────機械に魂は宿るのか? と問われれば、大多数の人間がそれは無いと応えるだろう。機械は所詮機械でしかなく、作られた者に逆らわず、口答えも出来ず、朽ち果てるまで使われるか、途中で捨てられる物でしかない。機械側にその拒否権は無く、生み出された者に従うしかない。
だが、シュウジはそうは思わない。機械にだって意志はあると信じて揺るがない。彼にはそう思えるだけの根拠があった。
グランゾンは今まで何度も自分に応えてくれた。トールギスも幾つもの窮地を自分と共に乗り越えてくれた。
グランゾンにはシュウ博士が、トールギスには
いや、言わせない。言わせて堪るか。グランゾンもトールギスも、そして自分もまだ諦めてはいない。諦める道理も理由も無い。
『────戦おう。他の誰でもない自分自身の願いの為に…………だから』
“俺に、力を貸してくれ”
獣の血
水の交わり
風の行き先
火の文明
集めるのは意志、束ねるのは命の力。
数多の可能性と道程を往き、今──────扉は開かれる。
“シラカワシステムの再起動と搭乗者の真化を確認。グランゾン、
『真化融合!!』
光が溢れ、奔流が溢れ、可能性が溢れ出す。何もかもが白になるその場所であの人の笑みが浮かんだ。
《漸く、ここまで来ましたか。少々遅かった気もしますが…………まぁ、良しとしておきましょう》
《ですが、ここからが本番です。貴方は何れ太極を越え、理の外側へ到達しなければなりません。嘗ての貴方の祖母がそうした様に……》
《そしてその時こそ白河修司、貴方に最後の選択が突き付けられる時です》
厳しく、突き放す様な言葉。しかしどこか悲しそうに笑う博士に俺は…………。
『───────』
そう、言葉にする事しか出来なかった。
◇
『…………バカな』
絞り出すように言葉を吐き出したのは怒りを司る者、ドクトリン。しかしその表情に怒りはなく、別の感情に支配されていた。
この感情は、一体何であったのだろうか。背筋が寒い、体が震える。自分達が今いる場所に到達してから全く感じ得なかった謎の感覚に、ドクトリンは自らを抑えるだけで精一杯だった。
テンプティも同様なのか、顔を青褪めて震える事しか出来ない。
アレは、一体なんだ?
アシュタンガを、アンゲロイを、無数の真徒達を滅ぼしたあの魔神はなんだ?
変異した日輪の魔神、その手の指先は爪の様に鋭く、その双眼は獣の如く鋭い。機械的でありながらどこか野生の獣を思わせるその風体────。
外装は鎧となり、より一層の一体感を醸し出している。細くなったのではない、圧縮され、より強固になったその姿はなんだ。
全体的に見れば小さくなっている筈なのに何故か膨れ上がって見える。それになにより…………何故自分達はあの魔神に恐れを抱いているのか。
『恐れ? 恐れだと!? バカな、至高に至った我等に怖れるものなど…………』
『────あぁ』
『っ!?』
『これが、グランゾンか。これがトールギスか。───漸く、漸くお前達の事、解った様な気がするよ』
それは正しく魔の神。天意に反逆し、天を滅ぼす破界の魔神。怒り、哀しみ、楽しみ、喜び、それしか知らない者達に“恐怖”を与える太極。
混沌とした宇宙に新たな魔神が産声を上げた。
と言うわけで今回はオリ主によるオリ機体登場の話でした。イメージは某ZEROな鉄の城に近い感じです。
色々と思うところはありますが、これも二次創作の醍醐味と見て許容してくれれば幸いです。
次回、ダークプリズン
それでは次回もまた見てボッチノシ?