今年もGの日記を宜しくお願いします。
朧気に覚えているのは時獄戦役の頃、崩れる瓦礫の中に悠然と佇むあの人の後ろ姿。白のコートを翻し、私の前に降り立ったあの人。
蒼のカリスマ、世界で一番凶悪で、恐ろしく、そして…………私の為に駆け付けてくれた人で、亡き父トレーズ=クシュリナーダの親友。
言葉を交わした事はない。姿も、正面から見据えたことは一度もない。でも、デキム=バートンに言われるがまま、父とは真逆の道を進もうとした私をあの人は止めてくれた。
言葉を交わしたかった。何かを話したかった。譬え言葉に詰まり、上手く話すことが出来なくとも、私はあの人と語らいたかった。私の話を…………聞いてほしかった。
蒼のカリスマ、シュウジ=シラカワ。父の親友で、たった一人で世界と戦い続けた孤高の魔人。時獄戦役で死亡したと聞いた時も私はあの人の生存を信じ続けていた。
いつか、もしまた出逢う事があったなら、今度はお話をしよう。父と、あの人の話を聞いてそれを羨みながらあの人の話を楽しもう。それを心待ちにする事が今の私が持てる数少ない楽しみの一つなのだから…………。
◇
「…………嘘、蒼のカリスマ……ですって?」
空っぽに開かれた玉座の間、目の前に現れた蒼い魔人を前にカリーヌは愕然としながらその名を口にする。
蒼のカリスマ。嘗て地球の全戦力の半分を蹂躙し、ブリタニア帝国の評価を地の底へ叩き込んだ男。奴の所為でブリタニアは国連での発言力を失い、その時から自分達の人生は狂い始めてきた。憎くて、憎くて、どんなに憎んでも自分達の胸の奥に灯った憎悪の炎は消えることはない。
しかし、時獄戦役が終わってサイデリアルが地球へ攻めてきた事で状況は変わった。地球を売り渡し、シュナイゼルを此方に引き込めば自分達の安全は保障され、サイデリアルという組織の内部でもそこそこの地位を約束すると彼等は言った。
漸く、惨めだったあの頃の自分と訣別する事ができる。貴族だった頃の様に、不自由なく日々を過ごす事が出来るのだ。安寧と安心、そして地位によって貪られる贅を再び味わえるのだ。
やっと、やっと得られる自分達の平穏。…………なのに、それなのに。
「なんで、何でアンタが出てくるのよ! どうして生きてるの!! だって、アンタは───」
カリーヌ=ネ=ブリタニアは死んだ筈の魔人に向けて慟哭にも似た叫び声を上げる。手にしていた鞭を放し、後ずさる彼女の表情には憎い怨敵に対する怒りではなく、驚愕と恐怖に歪んでいた。
「…………確かに、私は一度死んだ。サイデリアルが世界中に言い触らしたその情報自体は間違いじゃない」
マリーメイアに当たる所だった鞭の先端を掴み、カリーヌが手放した鞭を手元に捲き込んで纏めて引きちぎる。バラバラになった鞭の残骸を見て、短い悲鳴を上げるカリーヌ。
「ただ、私がその後息を吹き返した事を貴女達は知る由もなかった、ただそれだけの話です。…………まぁ、尤もサイデリアルが貴女達にそこまで情報を与えるとは思えませんがね」
「なによそれ、どういう意味よ!」
「おや、お気付きでない? 連中が貴女達と手を組むと本気で思っているのですか? サイデリアルにとって元ブリタニア皇女は同盟を組むに値すると? その気になれば地球を一方的に殲滅出来るほどの戦力を持つ組織がですよ? …………もし、本気でそう思っているのなら、貴女は少し自分の事を過大評価し過ぎていますね」
やれやれと呆れのため息を溢しているのが仮面越しでも伝わってくる。そんな魔人の態度が癪に障ったカリーヌは激情に顔を歪め、懐に収めていた拳銃を取り出し、蒼のカリスマに銃口を向ける。
「お前さえ、お前さえいなければ、私達は……!」
「何故私に怒りの感情をぶつけてくるのかいまいち理解できませんが……まぁいいでしょう。元より私も貴女方を許すつもりはない。言ったはずだ。マリーメイアちゃんに手を出してただで済むと思うなよ、ってな」
「っ!」
「良いぜ、引けよ、その引き金を。その瞬間俺の拳をアンタの顔面に叩き込んでやる。二度と鏡を見る必要が無いくらいにグチャグチャにしてやるよ」
引き金に掛けた指が震える。拳銃を手にし、外れる事も有り得ないこの至近距離で、しかしカリーヌは目の前に佇む仮面の男に完全に呑まれていた。あれほど迄に滾らせていた憎悪も、消える筈の無かった怒りの炎も蒼い魔人を前にして瞬く間に萎えていく。
「あ、ウァァァァッ!!」
錯乱か、それとも最後にブリタニア帝国の元皇女としての意地か、パニックに陥る思考の中でそれでもカリーヌは目の前の魔人に向けて銃口を突き付けたまま、遂に引き金を引き絞った。
その瞬間、彼女の末路は決定した。撃ち抜かれた銃弾は真っ直ぐに魔人の眉間に向かって突き進んでいく。同時に僅かに首を剃らす事でこれを避けてみせた蒼のカリスマは拳を握り締めてカリーヌの顔面へと振り抜いた。そこに遠慮の文字は無く、また容赦もない。
魔人の拳がカリーヌの顔面へと迫り、そしてめり込もうと─────。
「待ってくださいおじ様!」
しかし、その拳は元皇女を殺すには至らなかった。鼻先に触れる直前でピタリと止まった拳、行き場を失った力場は玉座の間を蹂躙し、床や外壁に亀裂を刻んでいく。
自分に向けられた拳、そこに込められた威力と殺意を漠然と理解したカリーヌは腰を抜かし、床に座り込む。そこに出来た水溜まりを見ない振りして蒼のカリスマは視線だけをマリーメイアへ向けた。
「どうして止める? コイツ等は自分の保身の為に地球を売り渡す様な連中だぞ? シュナイゼルや君を陥れ、辱しめ、踏み躙ってきた奴等だ。今ここで見逃した所でコイツ等はまた同じことを繰り返す。自分の欲求を満たす為だけにな」
「…………そう、ですね。確かにおじ様の言う通りです。ならば、彼女の前にまず私を殴って下さい」
「────はぁ!?」
「私は嘗て、自分の目的の為に多くの人の人生を狂わせてきました。デキム=バートンに良いように操られ、考える事を放棄してきました。私は、まだその贖罪が済んでおりません」
いや、それは違うだろうと蒼のカリスマ────否、シュウジは否定する。時獄戦役の頃、マリーメイアは確かに多くの人間を犠牲にしてきたかもしれない。
けれど、それはデキム=バートンが彼女に洗脳に近い教育を施したからだ。奴が己の為だけにマリーメイアを利用し、トレーズ=クシュリナーダの名を利用してきた末に起きた事。そしてそれは奴が手練手管に長けた策師だからこそ出来た事、まだ幼いマリーメイアにそれを責めるのは余りにも酷というものだ。
そもそも、それがカリーヌに手を上げない理由にはならない。仮にマリーメイアの言う通りだとしても、それは彼女の理屈なだけであってシュウジの行動を止める理由にはなり得ない。
しかし、シュウジは反論しなかった。マリーメイアの自分を見つめる瞳に嘗ての親友がいたからだ。まるで彼女を通してトレーズがここは任せろと言っているような気がしたからだった。
敵わないなぁ。内心でそう愚痴りながらもシュウジは仮面の奥で笑みを浮かべ…………。
「全く強情だなぁ、つくづくお父さん似だよ。君は」
「…………おじ様」
「今回、この場は君に預けよう。でも、今回だけだぞ」
「はい、ありがとうございます」
立ち上り、礼儀正しく頭を下げると、マリーメイアはカリーヌのもとへ歩み寄っていく。その様子を微笑ましく見守っていると…………。
ネバついた殺気が、玉座の間に充満した。
「ッ!!」
瞬間、その場から駆け出したシュウジがカリーヌとマリーメイアを抱えて跳躍すると、一瞬遅れて無数のナイフが彼女達のいた場所に突き刺さる。離れた所に着地するとジュウジュウと溶け出していく床を一瞥し、直ぐ様シュウジはナイフが飛んできた方向へ睨み付けた。
「…………誰だ」
「つれないなぁ、私の事を忘れてしまったのかい? それとも、一度死んだ所為でまだ記憶が戻っていないのかなぁ?」
玉座の間の角、その影から這い出るように現れたのはオレンジ色の髪をした男、男の羽織る白い外套はブリタニア帝国の最強の騎士であるナイトオブラウンズのモノだった。
「あなたは、ルキアーノ=ブラッドリー」
カリーヌと共にシュウジの腕の中にいるマリーメイアが呟く。ルキアーノ、その名前を微かだが記憶していたシュウジは二人を床に下ろした後、彼女達を庇うように前に出た。
「ナイトオブラウンズ、ブリタニアの吸血鬼か。そんな貴方が今更私に何の用です? …………復讐ですか?」
「復讐? いいや、違うね。私はただ、私の大事なモノを取り返すだけだ。そしてそれはお前の大事なモノを一つ残らず吸い殺すことで完遂される」
ブリタニアの吸血鬼が無数に手にしたナイフ、それには強力な毒が塗られているのか、濃い紫色に変色している。
「だからよぉ、蒼のカリスマ。俺の大事なモノを取り返す為に…………まずはその命、飛び散らせろォォッ!!」
投擲される無数のナイフ、マリーメイアを背にしているシュウジは避けの選択肢を捨て、真っ正面から立ち向かう事を選ぶのだった。
Q.今後、ボッチとマリーメイアの関係はどうなるの?
A.某堂島の龍とその娘(仮)みたいな関係に落ち着く予定
つまり、今後彼女に近付くロリコンにはもれなく黒い飴玉が送られる模様。現在最もその対象になる可能性の高い人間は元黒の騎士団の南さん。
次回、吸血鬼VSボッチ
次回もまた見てボッチノシ
…………しかし、スパロボVがまさかの3Dマップ復活とは。今から発売が楽しみですね。
出来ればZの時からそうして欲しかった。