『G』の日記   作:アゴン

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二大怪物、陣代高校にて見える。


その126

 

────陣代高校、用務員室。普段は学校側が雇った用務員である大貫善治しか利用しない学校の一室、その有り様は生活に必要最低限の設備しか設けられない質素で簡素なモノ、しかしこの時、ただの用務員室である筈の部屋はどんな場所よりも危険な魔窟と化していた。

 

丸いテーブルに置かれた二つの湯呑み椀、そこに注がれた茶を訪問者であるガモンは冷ますように息を吹き掛けると、煽るように一気に飲み干した。

 

「ふぅ、良い茶葉じゃのぅ。体の内から暖まってくるわい」

 

「ここの生徒会長さんはやり手でのぅ。若い身でありながらこの学校の隅々まで気を遣ってくれる。老い耄れであるワシにまで気に掛けてくれるんじゃ、有難いことじゃて」

 

ガモンとは違い、一口ずつ味わいながら茶を呑む大貫。彼の口にする生徒会長という人物について思い出すガモンは、確かにアレはやり手だなと腕を組んで納得するように頷く。

 

銀髪でオールバックな生徒会長、学校の長というだけあって中々の風体を持つ彼の姿は、ガモンの眼を以てしても見事だと思わせた。あの堂々たる振る舞い、そして何者か解らぬ自分を学校の敷地内に通す懐の深さと思慮深さ、生まれた世が違っていれば歴史に名を刻んだ大物になれたかもしれない。それがガモンから見た林水敦信という人物の評価だった。

 

「…………それで?」

 

「む?」

 

「一体どんな腹づもりでワシの所に顔を出した? いつぞやの決着を付けに来たと言うのなら是非もない。…………相手になるぞ?」

 

瞬間、用務員室の壁や天井に亀裂が入り、大貫が手にした湯呑み椀が粉々に砕かれる。眼を見開き、口を大きく三日月状に裂けた大貫から放たれる狂気と殺意が、嵐となって部屋に暴れ狂う。窓に皹が入り、部屋全体がギシギシと悲鳴を上げる中、ガモンは苦笑いを浮かべた。

 

「決着って、あの時の件はもうケリが付いた筈じゃろ。いつまで引き摺っておるんじゃお前は」

 

「ほぅ、愛しのキャロルを食い殺しておきながらまだそんな戯言を言い張るとはの。流石は人越拳神、人為らざる者は言うことが違うの」

 

「お前にだけは言われたくないわい。つーか、愛しのキャロルって…………それ昔ワシが空腹で食べたゾウの事か? 動植物に映画女優の名前をつける癖、まだ治ってなかったんかい」

 

ゲンナリとするガモンは呆れた様にそう口にし、当時の事を振り返る。あの頃、自分達のいた世界が時空振動によって他の世界と融合する前時代の頃、当時まだ若かったガモンは修行と称して世界中を渡り歩き、紛争地域に自ら足を進め傭兵の真似事をしていた。

 

ある日運悪く食料を切らし、仕方ないと現地調達を目論んだガモンはその時タイミングよくアフリカゾウと遭遇。しかも突然変異した個体なのかその巨体は従来のアフリカゾウを大きく凌駕し、その強さと獰猛さは多種多様の生命体の脅威とされてきた。

 

しかしそんな事はお構い無しにガモンはアフリカゾウに喰い掛かる。一週間もの間動物性タンパク質を摂っていなかったガモンにとって、小山程の巨体を持つアフリカゾウは食料の山でしかなかった。

 

当然のごとく勝利したガモンは嬉々としてアフリカゾウを解体、捕食し、今日と明日を生きる糧を得た。

 

そんな時だ。当時巨大生物をペットにする趣味を持っていた大貫は肉の丸焼きになったアフリカゾウ(故キャロル)を目撃し、瞬時にその感情を爆発させ、怒りをそのままにガモンへと襲い掛かったのだ。

 

こうして生まれた二人の因縁、50年以上前から続くその関係は今も変わらず続いていた。…………因みに、当時二人がいた国は内戦で荒れており酷い有様だったが、二人の争いに捲き込まれ、両陣営が壊滅的ダメージを受けた事で内戦は終息し、長らく続いていた紛争地域の一つが終わりを告げた。

 

その後も二人は出逢う度に死闘を繰り広げ、当時滞在した紛争地域をも捲き込んでいき、その時の軍人達からは銃器や兵器をものともしない二人を悪魔や鬼と呼んで畏れ、紛争に捲き込まれていた地元住民からは力で戦争を終わらせる彼等を神の化身と崇め、奉り、一時期は宗教にまで発展した。

 

そんな出鱈目な経歴を持つ二人、年老いていながら未だその覇気は衰えておらず、互いに真剣な眼差しで睨み合っている。

 

一触即発の空気。しかしそんな緊迫した空気も長くは続かず、ガモンがやれやれと溢した溜息と共に四散していく。

 

「分かった分かった。その件は後日改めて決着を付けるから兎に角今はワシの話を訊け、話が進まんじゃろうが」

 

「…………むぅ」

 

危うくここへきた目的を忘れかけてしまったガモンは年老いた自分に軽く自己嫌悪しながら大貫に座る様に促す。大貫もガモンの目的を聞き入れる為に渋々と座りなおすと改めてガモンに何用かと訊ねた。

 

「…………単刀直入に言うぞ。大ちゃんや、最後にワシと組まないか?」

 

「………………はぁ?」

 

半世紀以上続く因縁、その相手からのいきなりの誘いに大貫はあんぐりと口を開き、呆けた顔を晒してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────蒼の地球、翠の地球と並ぶ燦々とした蒼く輝く水の惑星。その軌道衛星上にはサイデリアルが設けた艦隊が、これでもかという程の数で以て大規模な防衛線を築き上げてきた。

 

『全く、ギルターの間抜けめ、余計な仕事を増やしてくれたものだ』

 

その艦隊の一画、指揮官を任されたバルビエル=ザ=ニードルは、己の愛機であるアン・アーレスのコックピットで忌々しそうに己の部下の名前を呟く。

 

翠の地球で起こした不手際、唯でさえストラウスに借しがあるというのに、その上錯乱して味方を捲き込んで攻撃するという大失態。本来なら自らくびり殺してやりたい所だが、生憎まだ奴には役割がある。

 

どう転んでも降格は免れない失態だが、サイデリアルは通常の軍組織とは異なり基本的に他の部隊へ干渉し合う事はない。故に部隊内に起きた不祥事は、その部隊の長が然るべき処罰を下せば特に何か言われる事はない。

 

そして今回バルビエルが此処にいるのもその部下の尻拭いをする為である。本来なら下の者がやるべきこの場所での防衛指揮、それがサイデリアルの幹部である自分に回ってきた事に、バルビエルは面白くないといった様子で悪態を付いていた。

 

ギルターには後でじっくりと言葉で圧力を掛けてやる。バルビエルが己の役立たずな部下にどう追い詰めてやろうかと考えてきた時、それは訪れた。

 

鳴り響くアラーム音、何事かとバルビエルが通信を飛ばすと、サイデリアルの兵士が敵機が接近してきていると報告し、その様子の映像をアン・アーレスのモニターに回してくる。

 

全速力で向かってきているサイデリアルの指揮艦、それが報告にあった魔人が奪取したモノであると理解したバルビエルは全部隊に攻撃開始の合図を伝える。無限に広がる宇宙に無数の閃光がたった一隻の艦に向けて放たれた。

 

次々と閃光に貫かれる艦、その様子に違和感を感じたバルビエルは何かがおかしいと眉を寄せる。

 

たった一隻でこの艦隊に突っ込んでくるのは正気とは思えない。しかし別ルートから蒼の地球に降りようとする気配もない。

 

(まさか、ここで心中するつもりか? 噂の蒼のカリスマとやらも所詮はこの程度か)

 

例の魔神が使えないというだけでここまで短慮で愚かな遣り方を取るとは…………どうやら自分は魔人を買い被っていたらしい。

 

ならばお望み通りここで殺してやろうと、バルビエルは火の手が上がる艦に向けて止めの一撃を見舞う。

 

刃を鞭の様にしならせて繰り出す乱撃、その全てが魔人が乗る艦に直撃し、大規模な爆発がその宙域を覆った。

 

呆気ない。魔神の力が無ければこの程度なのか。バルビエルが呆れと落胆の溜息を溢した時────。

 

『────猛羅』

 

『────総拳突き!!』

 

爆炎の中から現れる無数の弾幕、それが何なのか理解するよりも早く、アン・アーレスは弾幕の中へ呑まれていった。

 

 




Q.最後に出てきた攻撃はMSからの攻撃?
A.はい。最後の総拳突きはMS、つまりトールギスでの攻撃になります。

Q.MSなのにそんな事できるの?
A.シュナイゼルが予め主人公の身体能力を把握し、その上で今回の機体に改修させたのですから寧ろ今回で漸く本来の性能を出し始めたと言います。

Q.ガモンとボッチ、どっちの方が強いの?
A.言うに及ばず、ガモンです。技一つとっても威力が全く異なっており、例えば主人公が頻繁に使用する猛羅総拳突きも大分威力が異なります。
因みに主人公曰く自身の猛羅総拳突きはビームガトリングレベル。対するガモンのソレはコロニーレーザーレベルだとか。

次回で連獄篇も終了(予定)

次回もまた見てボッチノシ


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