『G』の日記   作:アゴン

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ボッチ「思い……出したっ!」


その125

 

 

蒼のカリスマ───シュウジ=シラカワが翠の地球でサイデリアルから強奪した指揮艦内、ネオ・ジオンの尖兵たるハマーンから逃げ切り、次はいよいよ蒼の地球への突撃だという時、シュウジは今や側近になりつつあるブロッケンと共に艦内にある一室、応接室と思われる場所にて一人の青年と対面していた。

 

ギュネイ=ガス。先ほどのハマーンの部隊と戦闘をした際に機体ごと鹵獲したネオ・ジオンの兵士、そんな彼を前にシュウジは仮面を取り、蒼のカリスマではなくシュウジとして彼の前に姿を現していた。

 

「…………成る程、ネオ・ジオンの内情は今はそんな事に」

 

「我輩が言うのも何だが、それではまるでサイデリアルの使いパシリの様ではないか」

 

「まるで、じゃなく。事実その通りさ。ネオ・ジオンはサイデリアルの使いパシリに成り下がり、総帥たるフル=フロンタルも奴等の傘下に入ることで身の安全を図ろうとしているのさ」

 

ギュネイから聞き出せた情報に吟味する様に思案するシュウジとは対照的に、ギュネイは自嘲の笑みを浮かべている。此方から訊ねた事とは言え、目に見えて落ち込むギュネイになんだかシュウジはいたたまれなくなった。

 

「そ、それにしても良く質問に答えてくれたね。君はネオ・ジオンの兵士なんだろ? 聞いておいてなんだが…………本当に良かったのか?」

 

「本当に今更だな。────まぁ、俺は俺なりに時獄戦役を通して色々考えていただけさ。あのZ-BLUE(お人好し集団)に感化されたのかもな。一応、俺強化人間だし、感受性が人より高いから影響されたのかもしれない」

 

「だから、俺達に全てを話したと?」

 

「あぁ、序でに言えばアンタに付いていく事にも決めたよ。あそこまでボロクソにやられたんだ。敗者として勝者に従うってのが道理だ。…………それに」

 

「それに?」

 

「正直今のネオ・ジオンのやり方には従えない。ハマーン様の下で働けていたから今まで我慢して来られたが……それも、もう限界だ。そこへ丁度アンタに負けてここへ連れてこられた。Z-BLUEに合流するのもなんか嫌だったし、ある意味タイミングが良かったと言えるのかもしれないな」

 

どこか吹っ切れた様子で笑い、天井を仰ぐギュネイ。ここへ通した時…………いや、コックピットから連れ出した時から静かだった彼の様子にシュウジ達は当初は戸惑ったが、どうやら自分の気持ちにある程度整理が付いたらしい。

 

時獄戦役の時にZ-BLUEと行動を共にした事がどうやら彼に少なくはない変革をもたらした様だ。以前の刺々しい印象とは違い、どこか落ち着いた様子のギュネイにシュウジも満足した様に笑みを浮かべる。

 

「というかさ、アンタってば死んだと噂されていた割にはピンピンしてるじゃないか。やっぱ噂はガセだったのか?」

 

仮面を取った事により素顔を晒しているシュウジに、今更ながらギュネイは怪しむ。が、別にシュウジが蒼のカリスマであることを疑問に思っている訳ではない。先の暗礁宙域で体験したあの恐ろしいほどの圧迫感、それは時獄戦役で遠巻きに見掛けたグランゾンの戦いぶりを通して見ても遜色の無いものだった。

 

ギュネイが疑問に思っている事はシュウジの死という話についてだ。何故グランゾンに乗っていないのかは甚だ疑問だが、時獄戦役の時、姿を隠して一時的に別の機体に乗っていた時があったという報告がある。

 

今回もカモフラージュ、知られたくはない相手から身を隠す為の工作なのではないかと思い、ギュネイは遠回しに質問を投げ掛ける。

 

「いや、ガセではないよ。確かに俺は一度時獄戦役の時に死んでいる。それは純然たる事実だ」

 

「…………マジ、なのか?」

 

即答で返ってくるシュウジの返事に、ギュネイは額から汗が流れるのを感じた。背後に控えるブロッケンに視線を向ければ、それを肯定する様に頷く。

 

「じゃ、じゃあアンタはなんだってその…………死んだりしたんだ? アンタが死ぬような事自体俺達にとって信じられない話なのだが」

 

「それが思い出せなくてさ。一度死んだ影響なのか記憶が曖昧でさ。…………全く思い出せないという訳じゃないんだ。強い衝撃を受けたり、時間を置けば思い出すこともあるんだ」

 

だが、自分が死んだ瞬間やその経緯、そもそも何故そんな事になったのかは思い出す事はなかった。日記を読めば分かるのではないかと思い決定的(・・・)であると思われる項を開こうとしても、本能がそれを拒絶しているのか、中々読もうと思えないのだ。

 

拒絶、というよりまだ必要ではないという感覚。まだその時ではないという様に、その項だけ読む気にはならなかったのだ。

 

「まぁでも、こんだけ考えても思い出せないんだ。案外しょーもない理由でやられたりしたんだろ。背後からブスリとヤられたり…………」

 

「いや、それはない」

 

「へ?」

 

「記憶を無くして自覚していないだろうが、腐ってもアンタは蒼のカリスマだ。世界を震撼させた世紀のテロリスト、そんなアンタがどこの馬の骨とも解らない奴の不意打ちくらいで殺せるなら、蒼の地球の戦力の半分を壊滅なんて出来る訳ないだろう」

 

時獄戦役の時、ギュネイは見た。燃え上がる熱海の街中、その中心でミケーネの神々を相手に真っ向から剣を打ち合う光景を。それはギュネイにとって偉業であり、また背筋が凍るほどの狂気を感じた。

 

蒼のカリスマ…………シュウジ=シラカワは強い。本人に自覚があるかは解らないが、その実力はどんなに低く見積もっても、パイロットの技量一つでもZ-BLUEの上位に食い込む程に。

 

インベーダーにもアンチスパイラルにも遅れを取らない程の力があるグランゾンとシュウジが、何処かで誰にも知られずにやられるなんて事は絶対にない。

グランゾンを倒す事ができるのは彼と同じ、蒼の地球圏最強の一角を担うZ-BLUE位にしか思えない。だが、アンチスパイラルとの決戦に向かう際にグランゾンも同行していた筈だと、想像できない状況にギュネイが頭を悩ませている一方、シュウジの方も思考に没頭していた。

 

確かにグランゾンは強い。それこそアンチスパイラルを退け、当時アロウズの最強の戦力を一方的に壊滅させる程度には…………。

 

ネオという切り札も得たことでグランゾンの力は更にイケイケになり、もう誰も手出しは出来ないと思われていた。

 

なら何故自分は死んだのか…………。

 

(ギュネイ君は自分とグランゾンが侵略者に負けることはないと断言している。仮にそれが本当だとするならば自分は誰に、そしてどうやって殺されたんだ? …………まさか、Z-BLUEに?)

 

それはない。だって自分はZ-BLUEと共にアンチスパイラルの本拠地、隔絶宇宙に向かったのだ。何故共に戦う相手に殺されなければならない。彼等は一部を除けば比較的話の通じる人達だ。それこそ此方からいきなり仕掛けて来ない限り敵対することは────。

 

「─────あっ」

 

カチリと、何かが填まる音が聞こえた。パズルのピースが填まった様に、機械仕掛けの時計に余っていたネジの使い処を見付けた様な…………そんな、閃き的な音が耳に響いた。

 

瞬間、シュウジの視界が真っ赤に染まる。心の内側から沸き上がる感情に心が塗り替えそうになる。ぼやける視界、その中に浮かんでくるのは血塗れになって倒れ付しているリモネシアの人達。

 

笑い声が聞こえてくる。耳に入ってくる“サルース”の声、賛美の声を挙げる集団の奥にいるのは…………自分の大切な人達に傷を付け、自分を彼等と戦わせた元凶の姿が口許を歪ませて─────

 

『あぁ、なんて喜ばしいのだろう』

 

そう言いながら奴は自分の眼前に手を向けて…………。

 

『君に神の…………至高神の祝福があらんことを』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ん?」

 

ふと気付けば周囲がやけに静かになった気がする。なんだと思い周囲を見渡せば、床に尻餅を付いたギュネイとブロッケンがいた。その表情は青褪めており、何だか腰を抜かしているようだ。

 

大丈夫かと手を差し出せば、ギュネイは戸惑いながらシュウジの手をとって立ち上がる。掌から伝わってくる汗の感じからして、どうやら彼は疲れている様だ。

 

「さて、そろそろ作戦開始区域に入る頃だ。ギュネイ君、疲れている所悪いけど頼らせて貰うよ」

 

そう言ってシュウジは応接室を後にする。それに続いてブロッケンも戸惑いながらも応接室を出てシュウジの後を置い、部屋にはギュネイ一人だけとなっていた。

 

ギュネイは思う。自分はもしかしたら余計な事をしたのかもしれない。自身の浅はかな言葉により目覚めさせてしまった魔人の感情、それは…………“怒り”。

 

怒りに満ちた魔人が今後どんな風にして世界に関わるのか。ギュネイは圧倒的な恐怖に支配されていながらも、僅かな好奇心に胸を高鳴らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────陣代高校。

 

サイデリアルにより蒼の地球の七割近くが占拠されつつある現在、現地球政府軍の奮闘によりどうにか平穏を保たれている日本…………その学園都市の一画にある陣代高校の生徒達は今日も日々の平和を満喫していた。

 

放課後の学校で至るところから聞こえてくる生徒達の声、和気藹藹とした雰囲気に包まれ、今日もどうにか平和が続いてくれた事に感謝しながら、陣代高校の用務員である大貫善治は、中庭にある池で自身の大切な鯉に餌を与えていた。

 

「ふふふ、今日もカトリーヌの鱗が輝いておるわい。元気そうで何よりじゃ」

 

大きな口を開けて餌を喰らい水中を泳ぐカトリーヌを見て、満足そうに頷く大貫。嘗てある二人の問題児により一時は命の危機にあったカトリーヌだが、以前ここで短期に働いていた用務員の計らいにより作られていたトラップのお陰で、どうにか生き延びる事が出来た。

 

当時、まだZ-BLUEに所属したばかりのヒビキは、そのトラップの精密さに嘗ての兄貴分の事を連想した。ちなみにこのトラップによって学校内の殆どの生徒達が被害に遭う騒動が起きたため、宗介と一成、そして何故かヒビキの三人が撤去する事になったのだが、それはまた別の話。

 

ともあれ、経緯は複雑なれど今は元気なカトリーヌを見て大貫は満足だった。これで思い残す事は殆どない、後はサイデリアルなる不届き者等が早いところ地球から出ていく事を願うばかりである。

 

「なーにを澄ました事を言っとるんじゃ。そんなに気になるのならお主が直接叩き出せば良いだけの話じゃろうが」

 

突然と背後から聞こえてくる声、それはこの学校では馴染みの無い声であり、同時に大貫にとって忘れたくても忘れられないモノ。

 

狂喜と歓喜、沸き上がる感情を抑え、瞳孔の開いた眼を背後に向け…………。

 

「───まさか、そちらから出向いてくるとは思わなかったわい。久し振りじゃのうガモちゃんや」

 

「その様子じゃあシュウジ君から話は聞いておる様じゃな。息災で何より…………尤も、殺して死ぬような男でもないか。─────のう、大ちゃん」

 

「可々々々…………」

 

待ちわびた来訪者、ある意味でカトリーヌよりも愛おしい好敵手(怨敵)との再会に大貫善治の口が三日月状に裂けるのだった。

 

 

 

 

 

 




A.今の主人公が弁当(仮)と出会すとどうなりますか?

Q.ボッチ「見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けた見付けたミ・ツ・ケ・タぁぁぁぁぁぁぁぁっ、!!」

みたいになります(笑)


そろそろ連獄篇も終盤。

次回もまた見てボッチノシ

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