B.A.D. Beyond Another Darkness -Another Story-   作:Veruhu

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Section 3

 ドアの外には見知らぬ男が立っていた。スーツを着込み、髪はある程度整えられている。一般的な、サラリーマンや会社員を思わせた。

 

 僕は遂にこの事務所に、何かしらの販売業者でも訪ねてきたのかと怪訝に思いながら、扉を開けた。

 

「はい、お待たせしました。繭墨霊能探偵事務所に、何かご用でしょうか?」

 

 男は目を見開くと、僕を見た。男の様子に特におかしな点はない。

 

「はい。霊に関する相談をしていらっしゃると聞き及びまして、こちらに参りました」

 

 男はなかなかに礼儀正しい人間のようだ。僕はその姿を新鮮に思いながら、やはり来てしまったかと思った。

 

「なるほど。しかし今は……」

 

「小田桐君」

 

 僕は突然後ろのソファーに座る繭墨から呼ばれ、振り向いた。

 

 

「――――お通しするんだ(’ ’ ’ ’ ’ ’ ’)

 

 

 繭墨はそういうと唇を歪めた。

 

「しかし繭さん、貴方は……」

 

「僕を舐めて貰っては困るよ、小田桐君。僕は確かに、異界絡みの異能を失った。だけど、それだけじゃないか(’ ’ ’ ’ ’ ’ ’ ’ ’)。僕の血は鬼の血だ。その力は失っていないよ」

 

 繭墨は的確にしかし清々しくそう言った。

 

 確かに繭墨には鬼の血が流れている。そのお蔭で彼女は鬼の血に関係する異能を扱うことが出来るし、いわば不死身の体も持っていた。

 

 それこそ、"チョコレートしか食べなくても"生きていける体を。

 

 しかし僕はもうこれ以上、ここの平穏を脅かしては欲しくなかった。やっと皆で苦労して手に入れた平穏だ。

 

 僕は異界で死ぬつもりだったが、情けなくも自分の娘に助けられ、そして結局ここに戻ってきてしまっていた。それには沢山の仲間の尽力、協力、そして犠牲があった。

 

 戻ってきてしまった以上、僕はもうこれ以上、ここの平穏を壊したくはない。これ以上犠牲を出すのは懲り懲りだった。

 

 それにこの繭墨にもそろそろ少女らしく、綺麗に生きて行ってもらいたい。せっかく雨香が助けてくれた命だ。もうこれ以上汚して欲しくはない。

 

「……小田桐君。君の気持はうれしいよ。でも、"お通しするんだ"。……僕は君が言ったように非道な人間でしかないんだよ」

 

 繭墨はそう僕に重苦しく告げた。

 

 僕は絶望すると再度、男に向き直った。男が不思議そうな顔をする中、僕はため息をついた。

 

 最近はある程度我慢をしていたが、またたばこを吸いたいという気持ちに襲われる。だが僕はそれに耐えながら再度ため息を付く。そして覚悟を決めた僕は、掴んでいたドアをより一層大きく開いた。

 

 

「――――繭墨霊能探偵事務所にようこそ」

 

 

 男はうれしそうに笑みを浮かべる。そして僕の案内の下、事務所に入って行った。

 


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