B.A.D. Beyond Another Darkness -Another Story-   作:Veruhu

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Section 15

 しかしそのとき一瞬であるが、僕の鼻に妙な異臭を感じた。その匂いはどこか生ゴミのような、それでいて何処か刺激的な匂いだ。僕はこれとよく似た匂いを、どこかで嗅いだことがあるような気がした。

 

 

「繭さん。今何か異臭を感じませんでしたか?」

 

 

 僕は前を歩く繭墨に、そう聞いた。だが彼女は僕の質問に答えようとはせず、ただ猫のような嫌な笑みを浮かべつつ歩いて行く。

 

 やがて僕たちは、洋館の大きな茶色の扉の前に辿り着く。その扉には、細部に渡って豪華絢爛な彫刻が彫られており、まるで御伽噺の世界に入るかのような錯覚を感じさせた。

 

 メイドがその絢爛な扉に手を掛けた。軽く体重を掛け扉を押すと、やがて少しずつ音を立てながら扉が開いていく。

 

 洋館への入口は開いた。それと同時に、扉の外から中へ向けて僅かな風が吹く。僕たちは、まるでその風に背中を押されるかのように、洋館の中へ足を踏み入れた。

 

 初めてこの洋館の床を踏む。2階まで長く続く赤い絨毯が、僕達を招くかのように、手前まで伸びてきている。その他の床は、黒や白のタイル張りで出来ていた。

 

 僕達の後ろで、洋館の内と外とをつなぐ、一門の重い扉が閉められた。大きな音がすると共に、吹き付けていた風は止み、辺りは一瞬で静寂に包まれる。外界からの光を失った室内は、一瞬暗闇に包まれたが、直ぐに目は慣れ照明の明るさを感じた。

 

 僕は天井を見上げる。天井には、いくつかのシャンデリアが付けられており、煌々と光を散りばめていた。僕が視線を元に戻したとき、有馬がほんの少し保たれていた静寂を破る。

 

 

「それでは、この(やかた)の簡単なご説明をさせて頂きたいと思います。この館は」

 

「いや結構だよ、それについては。それよりもまずは、君の寝室を見せて貰いたいものだね」

 

 

 繭墨は、有馬の言葉を断ち切った上でそう言った。有馬は初め驚いた顔をしていたが、すぐに表情を改めると口を開いた。

 

 

「畏まりました。では私の寝室からご案内致しましょう。こちらです」

 

 

 有馬は歩き始めた。僕たちはそれに続いて歩き始める。洋館に僕達4人の足音が響き渡った。その音は洋館の奥の方まで響き渡ると、反響してやがて消えていく。

 

 案内された場所は、二階左奥の部屋であった。有馬が部屋の扉を開けると、洋室らしい寝室が見えた。多少豪華なベッドにデスク、テレビなど必要最低限の家具を揃えてあるようだ。僕は繭墨に続いて、その部屋に入った。

 

 

「ここが私の寝室です。またここは同時にあの両腕に、毎晩苦しめられている部屋でもあります」


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