B.A.D. Beyond Another Darkness -Another Story-   作:Veruhu

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Section 12

「………桐…………、小田………、小………君……」

 

 僕を揺り起こす、小さな女の声が聞こえた。僕は暗闇の中から少しずつ意識を取り戻す。視界にぼやけた女の顔が映った。女は無関心な表情で、僕の顔を覗き込んでいる。

 

 視界が少しずつ晴れていく。寝起きでピントが合わずぼやけていた僕の視界が、少しずつ鮮明さを取り戻し、東雲(しののめ)を迎えたように光を取り入れて行く。

 

 

 視界の晴れた僕の視線の先に、繭墨の恐ろしいほどに整った顔が映った。

 

 

 

―――――――繭墨……!?

 

 

 

「繭さんっ!!」

 

 僕は声を上げ飛び起きた。

 

 

――――ゴンッ!

 

 

「痛っ!」

「あぐぅっ…………」

 

 

 しかし突然頭に鈍痛が走り、鈍い音が骨を通じて鼓膜に響いた。

 

 勢いがありすぎて、僕の頭と繭墨の頭が衝突したのだ。僕は右腕で頭を抑え、繭墨は両腕で頭を抱えた。

 

 

「うーっ! 何をするんだい小田桐君!」

 

「す、すみません繭さんっ。大丈夫ですか……?」

 

「君はこの状態のボクが大丈夫そうに見えるのかいっ? だとしたら君の目はハエの目よりも酷いよ! ボクが一体何人に見えているのかなっ!」

 

「そこまで言わなくてもいいじゃないですか…………。それよりも繭さん、あなた今まで何をやってたんですかっ」

 

 

 僕がそう問いかけると、繭墨は面倒そうに首を振った。

 

 

「それは初めにも言っただろう? 呪いを掛けていたんだよ…………。自分自身にね」

 

「どうしてそんなことを…………」

 

「そのうち分かるよ。でもね? 小田桐君。これは繭墨家にとって、禁忌( ・ ・)でもあるのさ。異能者にとってこれほど不名誉なことはないけれどね。今のボクには、まったく仕方が無いことなんだよ」

 

 

 結局、禁忌……か。繭墨はここに至って、何をするつもりなんだ。いや、考えるだけでも無駄だろうか。

 

 

「ところで…………この二枚の布団を離したのは君かい?」

 

「あぁ………はい、そうですけど」

 

「まったく…………君は無粋な男だね。せっかくボクが頼んで引いてもらったというのに」

 

 

 繭墨は首を傾げ、猫のようにニヤリと笑った。

 

 

「繭さんの仕業だったんですか…………。僕は嫌ですよ。貴方と布団をくっつけて寝るなんて」

 

「そうかい? それは残念だよ」

 

 

 繭墨は肩をすくめた。彼女の身を包む紫の衣と、頭についたシュシュが軽やかに揺れる。そんな彼女の姿に僕は苛立ちを覚えたが、同時に何故か可憐さを感じていた。

 

 

「じゃあもう寝るとしようか。もうそろそろいい時間だろう?」

 

「えぇ、そうですね。早く眠って、今日のアホみたいな疲れを癒したいものです」

 

 

 僕は溜息をつくと、膝をつきながら背を伸ばし、部屋の明かりを消した。機械的な軽い音と共に、部屋は暗闇へと包みこまれ、外の僅かな月明かりが部屋の中を薄く照らした。

 

 

「それじゃ、おやすみ。小田桐君」

 

「えぇ、お休みなさい。繭さん」

 

 

 僕は繭墨とは反対の布団の中に潜ると、そう返した。その際、彼女が一瞬不敵に笑ったような気がしたが、彼女はすぐ反対に寝返りをうつ。僕は眉を顰め首を傾げつつ、床に就いた。


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