B.A.D. Beyond Another Darkness -Another Story- 作:Veruhu
僕は定下を睨めつけた。定下は軽く萎縮したのか、頭を垂らす。
「……………………私からこれ以上申し上げることは出来ません。あざか様はいずれ寝室にお戻りになられるでしょうから、小田桐殿もそちらでお待ちください。私がご案内致します」
定下はそう言うと丁寧に、手で行く方向を軽く指し示した。僕は悩んだが、定下の口は堅い方だろう。無理に問いただすのは止めにして、素直に従うことにする。
僕は定下に連れられて歩き始めた。廊下に二人の足音が這うように鳴る。冷たく静謐な繭墨家の屋敷に、ただ一点として足音は響いていた。
今回の件で、繭墨家に対する疑念がさらに増したことになる。ただ紅い女の生きる
結局、繭墨あざかの存在意義はそこにあり、その為だけに育てられると言っても過言ではないだろう。
これまでにも繭墨や定下は、繭墨家に存在する数々の秘事を語ってくれた。その秘事の存在は、常に僕を悩ませ続けてきたが、ここに来てまた新たな疑念が噴出したことになる。
繭墨家、最大の禁忌。僕の繭墨家に対する信用は、ただただ薄れていくばかりだった。
定下は僕をある部屋に案内した。と言っても、その部屋が特別異常という訳でもなく、普通に畳と障子で隔てられた和室だった。しかし強いて異常と言うならば
「――――――――
そこには綺麗に敷かれた布団が二枚、川の字に密着させられて置かれていた。まるで夫婦の布団とでも言うかのように。
「それでは、あざか様は後何時間か後に此処に来られると思いますので、それまでここにてお待ち頂きますよう、お願い致します」
「え? …………あ、ちょっと!」
僕はそう呼び止め後を追うが、定下はそそくさと戻っていく。僕は定下と布団とを交互に見比べた後、溜息を吐き部屋に入った。僕の目の前には横に密着させられた布団が二枚、川の字に置かれている。繭墨に僕がやったと思われたら面倒だ。
「はぁ……………………」
僕はため息を吐くと移動して、右側に置かれた布団の端を両手で掴んだ。そして横に引っ張り、もう一方の布団から引き離す。二つの布団の間に、しっかりと間が出来上がった。
これで繭墨に余計な想像をされずに済むだろう。僕は安堵すると、右側の布団の上に座り込んだ。まるで先ほどまで日向に干されていたのではないか、というような柔らかい布団が、僕の身体を包む。
僕はその状態で腕を組み、目を瞑ると思いに
だが僕は不毛だと思い、その憤りを振り払った。繭墨がいつも勝手なのは今更考えるまでもなく、さらに、結局繭墨と共に歩こうという道を選んだのは僕自身だ。ならば責任は僕にもある。
僕はそう考えるとそのまま布団に寝転んだ。一時そうしていると、外から入って来た涼しい風が、僕の体に当たり始める。
もう
繭墨が多量のチョコレートを食べるのを止めてくれたら。繭墨が普通の料理を食べてくれるようになってくれたら。繭墨が普通の少女のようになってくれたら。繭墨が普通の娯楽を楽しめるようになってくれたら。
望みを数えればきりがないが、僕はそんな空想を脳内で描いているうちに、いつのまにか意識を睡魔に奪われてしまっていた。