魔法科高校の劣等生〜我が世界に来たれ魔術士〜 作:ラナ・テスタメント
波瀾万丈の入学式もクライマックス! ……自分で書いてて思ったんですが、なんだ波瀾万丈の入学式て。色んな意味で、有り得なさ過ぎる。
では、どぞー。
ビッグキースの中に降り立ち、達也が見たものはオーフェンが言う通り、コントロールルームに見えた。
色とりどりのパネルと、操作盤がそこかしこに配置されている。ぶっちゃけ、一世紀前にあたる昭和ロボアニメのやたら広いコクピットを、そこは連想させた。いや、達也も見た事は無いが。
(とにかく停止させなければ。これは……)
気を取り直し、まず正面の操作盤。やたらでかいスイッチを押して見る。すると、空中にモニターが展開し、キースのドアップが現れた。
《ようこそお出で下さいました!》
「…………」
ツッこまない。そう心に決め、達也は辛抱強く堪える。
モニターの中のキースは何故か優雅に正座で日本茶なんぞを啜っていたが。そうやって、しばらく待っていると。
《ちなみに音声認識ですので、ツッコミが無いとシステムは進みませんよ?》
「マジか?」
《ええ、マジです》
本当にその通りなのか、返事を返して来た。よほど高性能なAIでも積んでいるのか……達也は本日何度目になるか、数えたくなくなる頭痛を覚えながらも、律儀に尋ねる事にした。
「……じゃあ、このビッグキースの停止方法を教えてくれないか?」
《発音がなっておりませんな、ビッグっ! キースっ! です。はいどうぞ》
「……言えと?」
《りぴーとあふたーみー》
泣いてはダメだ。達也は自分に言い聞かせる。どれだけ理不尽だろうと、耐えねばならない時はある。幼少期の諸々を思い出せ。そう考えれば、出来ない事では無い。
「び、ビッグっ キースっ」
《声量が足りません、はいもう一度》
「ビッグっ! キースっ!」
《声に魂がのっておりませぬよ? もっと! もっと燃えるのですっ!》
「ビィィッグ! キィィィィ――――スっ!》
叫びは、コントロールルームに長く、長く響き渡った。もう、何年ぶりだろうと言うか生まれてはじめてかもしれない程の声を出した達也が感じたのは、一つの満足感だった。
声を大きく出すのも悪く無い。そう、それは間違いなく、悪くない。
ぱむぱむと、モニターの中でキースが拍手をする。
《で、何をそんなに叫んでおられるのですか? 恥ずかしい》
げしっ、と達也は即座に蹴りを操作盤に叩き込んだ。
無言でそれを繰り返し、荒くなった息のまま、据わった目で呟く。
「次は壊す……!」
《さて、では本題に入りましょう。本機ビッグキースを停止させたいとか》
「ああ」
ようやくかと一人ごちて、達也は頷く。いろいろ辛い事はあったが、これでようやくこの騒動も止められる――が。
《それは無理です》
「……何だと?」
《それは無理、と言いました。システム的に不可能です》
モニターの中のキースは繰り返す。まるで、本当に残念ですと言わんばかりだ。
このままでは、中に入った意味も無くなってしまう。達也は、何故かと聞こうとして。
《自分で自分を停止するコマンドなど、あるわけないでしょう》
きっぱりと正論を言われ、固まった。
しばし硬直して、開いた穴から空を見上げる。そこからは、オーフェンが魔法を連打しているのか、派手な音が鳴り響いていた。
空は抜けるように青い。その青さに切なさを覚え出した頃に、ようやく達也は現実逃避をやめた。
「そ、それもそうだな」
《でしょう? いやぁ、分かって貰えたようで何よりです》
はっはっはっはと、笑い、達也もまた笑う――笑うしか無かった。どうしろと言うのだ、ここから。そして。
《まぁ、停止コマンドはなくても停止させる方法はあるのですがね》
「先に言え……!」
再び操作盤を蹴りつけ、深いため息を吐くのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「我は放つ光の白刃っ!」
毎度お馴染みの光熱波が放たれる。それは、迷惑執事たるキースへと容赦なく突き進み、案の定躱された。
「はっはっはっは! まだまだですな! 黒魔術士殿!」
「くそ……相変わらず無駄にすばしっこいな、てめぇ!」
変換鎖状構成による連続魔術や擬似球電まで放っているのに、全て躱された。光速で転移する光熱波や擬似球電をどうやって回避しているのかは、まぁ毎度気にしても仕方ないとして。
「擬似空間転移攻撃も空間支配打撃も躱しやがって、この人外魔境執事が」
「ふ……黒魔術士殿も芸が多くなりましたが、所詮は小細工。基本がなっていないのですよ」
「ほぅ」
ちっち、と指を一本立てて言ってくるキースに、オーフェンはとりあえず頷いてやる。キースはもってまわった言い回しをもって続けた。
「前は黒魔術士殿の攻撃は直線的と言いましたが、今は逆に小手先の技にこだわり過ぎて、直接攻撃を多用し過ぎているのです。その手の攻撃は防御不可能な代わりに、構成から座標を読み取られると、途端に回避されやすくなるのですよ」
「……成る程」
一理ある――と、オーフェンは頷きつつも即座に構成を編み上げ、放つ!
「我は放つ光の白刃!」
呪文に応え、光熱波が真っ直ぐにキースへと突き進み――そこで、オーフェンは構成を変化。光熱波を分裂させ、全方位から叩き込む。
フェイントも織り交ぜた包囲攻撃だ。これは回避不能な筈である。だが、しかし!
キースは飛び上がると、襲い掛かる全ての光熱波を、どう言う原理かひょいひょいと避けきって見せた。着地し、オーフェンとしばし見合う。
「と、まぁこの通り誰にでも」
「出来てたまるか超次元突破理不尽型執事が! よーし、こうなったら遠慮無しだ。俺も全力でやってやる――」
「ほぅ、本気になられると」
オーフェンの宣言に、キースはキリっとした顔となる(表情は変わっていないのだが)。それを見て、オーフェンも心持ち気合いを入れようとして。
唐突に、キースがふっと遠くに視線をやり、かぶりを振った。
「やめましょう、黒魔術士殿。痛いのヤですし」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
直後、オーフェンの最大火力の光熱波が放たれ、キースは盛大に吹き飛ばされた。「また会いましょう! はぁっはっはっはっは――っ!」とか聞こえたのは幻聴の筈も無い。
オーフェンはため息を吐き、そして、はっと気付く。
「しまった……逃げられた」
未だ脱げビームを撃ちまくるビッグキースの頭頂部で、オーフェンは途方に暮れた表情となった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
七草真由美はドライアイスの弾丸を魔弾の射手で、小キースに連続で撃ち込みながら、ふぅと息を吐く。
オーフェンと達也がビッグキースに突入して、数分足らず。その間にも小キースは増え、被害(脱衣させられた)も増えて来た。
このままでは、自分達も遠からず脱がされそうである。自分の横には、司波深雪と生徒会役員の市原鈴音、中条あずさもいる。彼女達もCADが無いながらも、魔法を行使し、小キースの脱げビームを避け続けていた。そして自分達のエースはと言うと。
「うりゃっ!」
小キースを転ばし、踏み砕きつつ、もう一体の小キースを盛大に投げ飛ばしていた。スクルドだ。
彼女はオーフェン譲りの体術を駆使し(オーフェン曰く、教えたのは基礎だけで、むしろ姉の体術に似ているとか)、小キースの群れをちぎっては投げと八面六臂の活躍をしている。その顔は、見るからに生き生きとしていた。
「もぅ、スーちゃん。調子乗りすぎちゃダメよ」
「へーきへーき、こいつら弱っちいし」
そう言いながら、どこをどうやったのか小キースを掌打の一撃で吹っ飛ばす。あの小柄な体のどこにあれ程の膂力があるのか、横の深雪やあずさも目を丸くしていた。
「あの娘すごいですね……会長、お知り合いなんですか?」
「そっか、あーちゃんは初めてだったわね。オーフェンの妹のスクルドちゃんよ」
「オーフェンさんって言うと、あの?」
名前を聞くなり、あずさが身を固くして、真由美はくすりと微苦笑する。
人見知りな彼女は、特に目付きの悪いあのボディーガードを苦手としていた。
「正確には、スクルド・フィンランディ。本日入学した二科生です」
「て、リンちゃんは知ってるでしょ」
「けじめです。会長」
「でも、本当にすごいです。お兄様と良い勝負をなさるかもしれませんね」
相変わらずの無表情で言う鈴音に、相槌を打つように深雪が頷く。それは、深雪にとって掛値なしに称賛の言葉であった。まさか、同年代にあそこまで出来る娘がいようとは。
「でも二科生と言う事は……」
「うん。スーちゃんは魔法師としてはちょっとね」
紋無しの制服がそれを物語っている。もちろん、使えない訳ではないのだが――使えなかったら、そもそも入学出来ていない――ちょっと”特別過ぎて”、下手に使えないのが実情であった。
彼女達も互いに知らぬ事ではあるが、そう言った意味では達也とスクルドは似た存在とも言える。
「まぁ、スーちゃんは心配無用よ。それより現状はどう?」
「現在、保護者、新入生の殆どは避難完了しています。一部の新入生が無断で持ち込んだCADで戦っていますが、彼等の処置は一時的に置いておくとして、追加で現れている敵に対しては、十文字会頭と渡辺風紀委員長が指揮する部活連と風紀委員が対処にあたっています」
「そう。小キースが増えたと思ったけど、状況は良くなっているのね」
「はい、こちらはスクルドさんが頑張ってくれていますので、こうして話す余裕もありますが――」
と、そこで一同の頭上に影が射した。雲かとも思ったが、違う。それより確かなものが上にあると理解して、顔を上げる。
そこには、直接真由美達を狙って来た小キース数体が居た。頭を潰しに(脱衣させに)来たらしい。脱げビームを発射せんと、目に光が点っている。
(今なら迎撃出来る……!)
真由美はCADがあるし、鈴音、あずさ、深雪もそれぞれ傑出した魔法師だ。
この程度なら何とでもなる。しかし、真由美はハっと気付くと、視線を横に移した。
「ダメよ、スーちゃん――」
叫ぼうとして、それより早く、強く、言葉が走る。それは、その場にいる一同全員に聞こえた。
「砕きなさい。”バジリコック”」
彼女のものとは思えない、冷たい声。それと共に、深雪達の頭上を”巨大な手”が走り抜けた。
五指を大きく広げた手は、小キース達をまとめて握りしめ、砕く。そしてその全てを塵へと変え、消えた。
(今のは……なに?)
「ごめーん、マユミ。やっちゃった」
「もぅ、スーちゃんったら」
深雪達も真由美が見ている先、スクルドに視線を向ける。彼女は、たははと笑いながら手を差し延べていた。その手から、あれを出したのか。
「彼女は、何を……」
「スクルドさんは、BS魔法師の一種でして。今のは、その一つです」
「BS魔法師……!?」
BS魔法師――ボーン・スペシャライズド、BS能力者、或いは先天的特異能力者、先天的特異魔法技能者とも呼ばれる者達の事だ。
彼等彼女達は現代魔法では技術可が困難な魔法を行使し得るが、大抵普通の魔法行使に支障がある場合が多く、BSの一つ覚えと揶揄される事もある。
深雪とあずさが驚きの表情でスクルドを見ているのを横で眺めながら、真由美は鈴音に微笑する。フォローしてくれてありがとうと。
(本当は魔法でも無いしね)
魔法なんかでは無い、彼女の力は。一年前に、それを真由美と鈴音は知った。思い知らされたと言うべきか。
ともあれ、これで当座の危機は脱した。スクルドは再び小キースをどつきに向かい、自分達も彼女を援護する。後は。
(オーフェン、早めに決着つけてよね)
ビッグキースに突入した筈のボディーガードと後輩を思い浮かべて、真由美は魔弾の射手を再び展開した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「タツヤ」
「オーフェンさん」
意味消失で作った穴から、オーフェンはビッグキースの中に飛び込み、先に中に入った達也へ呼び掛ける。
彼は、モニターに移るキースからこちらへと視線を寄越して来た。
「悪い、キースの野郎逃がした」
「そうですか……彼は、あなたでも捕らえる事は難しいのですか?」
「奴とはもう結構な付き合いだがな――付き合いたくもなかったが。まぁ、まともに捕まえられた記憶はそうないな。そっちはどうだ?」
「ええ……難儀してます」
頷き、苦笑して達也は席を譲る。そこにいるキースが何らかのヘルプとなっているのか。
「停止手段は?」
「まだ見つかっていません。はぐらかされまして」
「……これに?」
「ええ、これに」
そうしてモニターを見て、二人は同時に嘆息する。
モニターに映るキースは何故かムーンウォークなぞをやっていた。何をどうすれば、こうなるのか全く不明なのだが。
「これが言う所によると、直接停止を行えるコマンドは無いとの事ですが、停止する手段はあると」
「そこらにスイッチやらキーボードあるようにも見えるが、使えないのか?」
「配置も何も訳分かりませんから。なので、これに停止手段を聞いている所です」
ふむと頷き、再びモニターへ。そこで今度はタップダンスをやっているキースに、今度はオーフェンから問いを放つ。
「おいこら。踊ってないで、さっさと停止する方法を教えやがれ」
《気の短いお方ですな。このダンスを最後まで見てからでも遅くはないでしょうに》
「早い遅いの問題じゃねぇからな。いいからさっさと教えろ」
《と、言われましても、停止コマンドなどありませんし》
「なら、どうやったら止まるんだ?」
《それを教えるためにも、このビッグキース108の機能の一つ、キースダンスを見てからと言う事で》
「いらんゆーに」
堂々巡り過ぎる。このダンスを見終わらない限り、停止方法は教えられないのか――と、達也はそこでふと思い付く。このビッグキース、108の機能とやらは、こちらで指示出来るのではないのか?
「……オーダー、108の機能からキースジェット展開」
《了解です! キィィィィスっ! ジェェェェット!》
シャキーンと、妙な効果音が背後から鳴る。多分、キースジェットとやらが背中から出たのだろう。
オーフェンと顔を見合わせる。これは……。
「おい、タツヤ。今のは?」
「さっき、これに停止手段を聞いている最中に、やたら108の機能を提示されました。今のは、その一つなんですが」
このキースは確かにこう言った。停止手段はあると。なら、108の機能の中に、それがあるのではないか。
「おい、キースもどき。108の機能とやら、全部教えろ」
「いえ必要ありません。さっき一度、名称は全部聞いてます」
「……全部覚えてるのか?」
「ええ――覚えたくありませんでしたが」
一度聞いただけで全て覚えたと言う達也の台詞に、オーフェンは純粋に驚きを示すが、達也はと言うと、何故か遠い目であさっての方を見ていた。
「名称のみでも、端的に機能を表しているものが多数なのですが、いくつか分からないものがありまして」
「どれだ?」
「キース・ビッグ・ファイナル。キース・モカモカ・スレイヤー。キース・ザ・ポチョムキン、です」
「モカモカとポチョムキンは外そう」
「……何でです?」
「何でもだ」
きっぱりと言いながらも、オーフェンは頭を抱えそうになる。
どれも意味不明っぷりは変わらないが、モカモカとポチョムキンは凄まじく嫌な予感しかしない。この二つはダメだ。トラウマが世界に現出し、神人を生み出しても驚かない。
となると、キース・ビッグ・ファイナルとやらしか無いのだが。
「……これもこれで嫌な予感がするな。爆発的な意味で」
「爆発的ですか」
「ああ」
キースの性格からして、自爆装置を積んでいる可能性が高い。何故そんなものをと聞かれたら、やはりキースだからとしか言いようが無い。
なら穏当な方法でと言うと、すぐ復帰したりしそうではある。例えばキースジェットとかだと、数分後に台風と大八車を引き連れて帰って来そうだ。
どうするかを、オーフェンと達也はしばし悩んでいると。
《ところで侵入者殿。ここで一つ報告が》
「ん? なんだ?」
《実はこのビッグキース、そろそろエネルギーが尽きる頃合いでして》
「エネルギーとかあったんだな……」
永久機関を積んでても不思議では無かったが、まだ多少は現実っぽかったらしい。何の動力機関なのかは精神の平穏の為に聞かない事にするとして。
「これは渡りに船ですね、オーフェンさん」
「そだな。なら、もう止まるのか」
《はい。なので最後の抵抗に、キース・ビッグ・ファイナルを起動します。しました》
「「……はぁ!?」」
何だ、します、しましたとは。いや、即座に起動したと言う事なのだろうが、こちらは堪ったものでは無い。慌てて、モニターへと二人して迫る。
「おい! そのなんたらファイナル止めろ!」
《無理です。自爆まで、後三分。ご機嫌よう、ご機嫌よう》
「三分って……!」
やはりと言うか何と言うか、案の定自爆らしい。
これだけのロボが爆発となると、被害も馬鹿になるまい。
「くそ、どうせキースの仕掛けだから死人は出さないだろうが、ろくな事になりそうもないな」
「それもそれで大概凄い事なんですがね……」
呻くように言うオーフェンに、達也もぐったりと頷く。最後の最後にやってくれた。どう考えても、自爆は防げそうにない――いや、オーフェンも達也も、それぞれビッグキースごと消去する方法は無いでも無いのだが、人目のある所で使える筈も無い。なら防げないのと同義であった。
三分では避難もままならないだろう。もはやこれまでか……。
「いや、ちょっと待って下さい」
「タツヤ?」
カウントするキースを見て、何か引っ掛かるものを感じ、タツヤは呟く。オーフェンが怪訝そうな顔をしているが、それに構わず、モニターを注視した。
その中では、キースがカウントし、横にビッグキースの現状況が映し出されている。”キース・ジェットを展開した”ビッグキースが!
「キース・ジェット噴射開始! この場から離脱しろ!」
「その手があったか!」
叫ぶように命令する達也に、意図を理解したのか、オーフェンも指を鳴らして頷いた。
後は、二つ以上の機能をビッグキースが出来るか否か。果して、モニターの中のキースは答えを出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
光熱波でビッグキースの内側をブチ貫き、オーフェンと達也は、重力制御でビッグキースから飛び降りた。
小キース全てを撃破したのか、在校生一同が二人を迎えてくれる。講堂の床に降り立つと、二人は皆と一緒にビッグキースを見上げる。今、まさに飛び立たんとする、はた迷惑なロボを。
キース・ジェットはいかな推進力があるのか、見る見る内にビッグキースを空高く押し上げていく。
「タツヤ、自爆するまで、後どれくらいだ?」
「ちょうど十秒です。カウントしますか?」
「いや、いい。ビッグキースの最後だ……」
入学式に参加した皆が、これを見ている。そう確信しながら、オーフェンは苦笑した。
今年もはちゃめちゃだった魔法科第一高校の入学式。それも、終わってみれば何と清々しいのだろうと。
やがて十秒が過ぎ、ビッグキースが夕暮れの空に華となって散る――大歓声が、皆から上がった。
「終わったか」
「はい、終わりました」
「ええ、ビッグキースの脅威は去りました――」
……そこまで聞いて、オーフェンは達也と共に一歩下がると、その場に居る全員に手配する。
全員が全員、心得たとばかりに、取りに行ったのだろうか、CADを構えた。達也も、妹の深雪から特化型CAD二丁を受け取っている。
もちろん、オーフェンも考えうる限りの最大威力の構成を編み上げた。
「しかし油断はなりません、黒魔術士殿。そして第一高校の皆々様。またいつの日にか、第二、第三のビッグキースが……!」
『『おのれが言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!?』』
そうして、入学式最後にして最大の大爆発が、第一高校の講堂に容赦なく炸裂したのであった。
なおこれは余談だが、見る影も無くなった講堂は、オーフェンの不眠不休の努力により直され(キースは逃げた)、翌日晴れて、深雪の答辞が行われたのであったとさ。
(入学編第五話に続く)
はい、入学編第四話でした。つい、いつものカッコの部分に、入学編完と書きそうになった俺を誰が責められようか……!
キース・モカモカ・スレイヤーと、キース・ザ・ポチョムキンは何なのかは聞いてはいけません、ええ。
次回からは、ようやく劣等生本編となります。導入長ぇよ。ではでは。
オーフェン専門用語解説。
変換鎖状構成。
オーフェンの弟子、マジクが編み出した特殊術。構成に余裕を持たせて編み上げ、放ち、術を発動しながら構成を編み変えると言う荒業。オーフェンからは、使い道ないと一蹴された構成だが、意外に使用されている。
擬似球電。
オーフェンのかつての切り札の一つ。呪文は「我は描く光刃の軌跡」。光球(擬似的な球電)を生み出し、目標へ光速で転移させる構成。これに触れた対象は、激しく燃え盛るので、問答無用に殺しかねない構成でもある。でもキースは避けた。
擬似空間転移。
オーフェンがかつて学び舎としていた牙の塔、チャイルドマン教室の最秘奥構成の一つ。自分の質量を擬似的にゼロとし、爆発的な加速(架空の光速と表現される)を掛ける事で、転移したがごとく瞬間的に移動する構成。超難度の構成で、制御に失敗すると、全身の細胞が沸騰する羽目になる。実質的には空間転移している訳では無く、実体を保ったまま移動しているので、遮蔽物があった場合、超速度でぶつかる事になる為、やはり即死は必死。だが、逆にこれを逆手に取り、物体を擬似空間転移で飛ばす事で、亜光速弾として使える。なお、やはり対象を容赦なく殺しかねない。やはりキースには避けられた。
空間支配打撃。
オーフェンの甥(血縁は無いが)、マヨール・マクレディが開発した、空間支配術による構成。空間爆砕の際にまず起こす歪みを、利用した術で、歪みを歪みのままにして制御する方法で、これを使って打撃のみを内臓に叩き込むのが、空間支配打撃。今回のものは、マヨールの構成をオーフェンが真似た。
マヨール曰く、空間支配を思うように出来れば、空間の選別や転移も可能となる万能術となるらしい。案の定、キースには避けられた。
これを魔法で再現し、常駐型重力制御と合わせて考えると……?
とりあえず、今回はこんな所で。ではでは、また次回ー。